問題児? いいえ、神殺しです。   作:怜哉

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第6話 『いつか見た夢について』

 

 

 

『────強く、健やかに、優しいヒトに育ってね』

 

 

 目の前で血みどろになりながら、少女が朗らかに笑顔を向ける。

 

 穏やかだった海は荒れ、静寂だった浜辺に炎が昇る。

 生命が失われたその場所で、彼は最愛であった少女を見上げた。

 

 なぜ泣いているの? なぜそんなに悲しそうな目をするの?

 

 少女の涙を拭うために手を動かそうとするが、彼にはもう、動かす腕は存在しない。腕どころか、頭部以外は何一つとして存在しなかった。

 

 慈しむように、少女は少年だったモノの髪を優しく撫でる。

 炎が勢いを増してなお、少女は少年だったモノを離さない。

 

『最期にこんな呪いをかけてしまってごめんなさい。でも、これもいつものワガママだから、赦してね? 可愛い可愛い、女神様のワガママよ』

 

 泣きながら、笑いながら、慈しみながら、恨みながら、少女は最期の力で祝福(呪い)を呟く。

 

『仇を取ってくれたら、私とっても嬉しいわ。ふふ。復讐なんて、何も生まないって知っているのに。でも、それが必要なことだから』

 

 聖母のような笑顔で、歪んだ目を少年に注ぐ。

 勢いを増した炎が少女を包み、夕日を映す水面のように艶やかな髪は炎に呑まれ、麦畑のように奇麗だった肌は爛れ落ち、それでも少女は少年から目を離さない。

 

『《魔王》を殺して。殺して、壊(ころ)して、消(ころ)し尽くして』

 

 生温い血をべっとりと少年の頬に塗りたくり、薄く微笑む。

 

『ずっとずっと、愛しているわ。私の─────』

 

 

 言い切ることもできず、少女の首が落ちる。

 夕陽よりも強い光が照らす中、二つの頭は、寄り添うように転がっていた。

 

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

「《魔王必滅》」

 

 ローリーがそう呟くと同時に、太陽が完全に沈みきった。

 世界を闇が支配する夜の時間の訪れ。仄かな星々の光が薄暗く地を照らす。

 その中で、夜を喚んだ王は金色の眼光を《敵》に向けていた。

 

「...星の運行? 主権持ち...いや、違うな。これは─────」

「───......ヒャハ」

 

 不可解な出来事に頭を回していた白夜叉が、意識を再びローリーに戻す。

 ここ数十分で聞き飽きた軽薄な笑い声。だが、その中に先程まではなかった、されどどこか覚えのある異質さを感じ取り、構えを取る。

 

「ヒャッハハハハハハハ!!!」

 

 暗闇の中、鋭い眼光と三日月のような笑みを浮かべるローリーが、狂ったように高々しくけたたましく嗤う。

 

「魔王だろ!? 敵だろう!? 殺す、殺す、殺す! 殺して壊(ころ)して鏖(ころ)して滅(ころ)し尽くすッ! 全力だぁ? ンなもん出して当然だろうがよ!! 全部全部、消し去ってこその《俺》だろうが!!! ヒャッハハハハハハ!!!!」

 

 金色の瞳が細くなり、焦点の合っていない虚ろで歪んだ目を白夜叉へ向けた。

 その目を、白夜叉は知っている。憎悪にも似た...否、憎悪そのもののようなあの目を。

 

「...『魔王アレルギーの“呪い”』。確か、そう言っていたな? なるほどなるほど、確かにそれは“呪い”の類やもしれん」

 

 白夜叉の顔から、初めて余裕が消える。

 焦りではない。白夜叉の胸中にあるのは、相も変わらず高揚感。

 ただ、先程までとはローリーの質が違うと判断した。故に、白夜叉は慢心を一度手放す。

 

 ローリー・コリンズは強敵である。そう認識したのだ。

 

「来い、ローリー。元とはいえ私も魔王。《箱庭》の魔王の力を見せてやろう」

 

 そう言い、白夜叉が来るであろう攻撃に備え始めた時。

 

「なっ────」

 

 白夜叉の視界がブレた。

 同時に、脇腹に痛みが走る。攻撃された、と認識した時にはもう遅い。次いで二撃、三撃と白夜叉の胴体に衝撃が伝わる。

 

「ヒャハッ!!!」

 

 殴り、蹴り、白夜叉を宙に浮かせたところで、魔法陣が無数に展開された。

 夜の闇の中でさえ「黒い」と認識できるような漆黒の槍が白夜叉を襲う。

 

「チッ!」

 

 舌打ちと共に脚を回して槍を砕くが、全てに対応はできなかった。

 二本、槍が白夜叉の肌を割く。薄皮が切れる程度のものではあったが、攻撃としてはそれで十分だった。

 

「毒か...!」

 

 白夜叉の体が痺れ、一瞬動きが止まる。

 すぐに解毒するも、ローリーの蹴り降ろしが白夜叉の頭部を捉えて地面へと叩き付けられた。

 

「ヒャッハハハハハ!!!」

 

 嗤い声が木霊し、地面にめり込むように着地した白夜叉に浴びせられる。

 白夜叉に目立った外傷は無いが、そこでもまた一瞬動きが止まった。それを見逃すローリーではない。

 再び空に百を超える魔法陣が展開され、先程と同じ漆黒の槍が雨のように降り注ぐ。白夜叉の着物を割き、肌を傷付け、毒が体内を蝕んでいく。

 だが、そう何度も同じ攻撃を受ける白夜叉ではない。

 

「小癪な真似を!」

 

 白夜叉が炎を奮う。槍は焼け、次いでローリーを飲み込まんと天に昇るが、その途中で失速、消滅した。

 

「火なんざァ俺の《夜》の下で満足に使えるもんかよバカが!!!」

 

 叫ぶローリーを忌々しげに睨み上げる白夜叉は、やけに湿度が上がっていることに気が付いた。

 見れば、暗闇で分かりづらかったが、周りには霧が立ち込め始めている。

 

 炎はあまり使い物にならない。

 そう判断して次の手を打とうとした白夜叉を、今度は洪水が襲った。

 どこから現れたか分からない濁流が白夜叉を飲み込み、水底に沈める。

 

「カッ!!」

 

 大河のような水量を気合一閃で弾き飛ばした白夜叉は地面を踏み込み、ローリーへ迫った。

 避けようとするローリーよりも速く、今度は白夜叉の拳がローリーを捉える。

 

「ぐっ...!」

 

 苦悶に顔を歪ませるも、ローリーはその場に耐えて拳を奮った。

 殴打の横行。殴り、殴られ、冷たい風で冷えた肌を生暖かい血が伝う。

 短い間で百、二百と攻防が続いた後、耐え切れずローリーが後方に殴り飛ばされた。

 

「痛ってぇなクソが!」

 

 咆哮と共に、稲妻が走る。

 雨のように降り注ぐ雷が大地を抉り、そのうち数発が白夜叉を襲った。

 

「効かんよ。私にはな」

 

 腕の一振りで雷を払う白夜叉が、ローリーから視線を外して下を見た。

 そこにいるのは《ノーネーム》の面々。ヒビの入った防御壁に守られている、この決闘には関係の無い者たちだ。

 

「...小僧。貴様、仲間を巻き込んでいるという自覚があるか?」

「あ?」

 

 追撃用の魔術を行使しようとしていたローリーが白夜叉の問いに反応する。

 

「あー...そうか、そうだなぁ。まぁ死んだら死んだでそこまでだろ?」

 

 どうでも良さげに、下を一瞥もせずにそう言い放つ。その顔は憎悪に満ちた、魔王の名に相応しい笑みが浮かんでいた。

 

「ンなこたぁどうでもいい。俺以外に気ぃ割いてんじゃねぇよ!」

 

 言い終わる前にローリーは拳を握る。

 幾重もの魔術と共に白夜叉へ襲いかかり────そして叩き落とされた。

 

「ど(・)う(・)で(・)も(・)い(・)い(・)、か。なるほどなるほど...あい分かった」

 

 金色の双眼が夜に浮かび上がる。

 遊びの一切が無い、見下した瞳。

 

「貴様、私の本気を求めていたな? 良いだろう。ここから先は《階層守護者》として、本気の私を見せてやる」

「ヒャッハハハハハハ!!!! 魔王が! この世のクズが守護者を名乗るかよ!!」

 

 地に這いつくばりながら、ローリーは獣のように白夜叉を睨み上げた。こちらもまた遊びなど無い、渾沌に微睡む濁った瞳で。

 

 先に動いたのは白夜叉だった。

 この戦いにおいて初めての白夜叉先攻。扇を扇ぎ、暴風を発生させる。大木でさえ揺るがすソレを受けたローリーは魔術で防御壁を作り、光の槍を放つ。

 槍は白夜叉に握り潰されたが、続いて石柱が地面から白夜叉に向かって伸びた。それを回避した白夜叉に、ローリーの蹴りが入る。

 

「軽いわ!」

 

 胴で蹴りを受けた白夜叉がカウンターで拳を放つ。

 だが、手応えが無い。攻撃されたローリーは揺らめき、霧のように消え去った。

 

「幻覚...!?」

 

 虚を突かれた白夜叉の顔面に再びローリーの蹴りが激突する。再び地へと落とされた白夜叉を見下し、ローリーは聖句を唱え始めた。

 

「《天の痛哭、大地の嘆き。愚者を裁く怒りの鉄槌。沈め沈め、世界よ沈め。大罪に生かされる命もまた罪と知れ》!」

 

 暴風が吹き、暗雲が天を覆う。大雨が地面を鳴らし、雷が降り注いだ。

 台風など生温い、まるで世界を一掃するかのような災害が白夜叉を襲う。

 

「チッ、猪口才な!」

 

 雨と風で視界が悪くなる中、無数に襲ってくる雷を防ぎつつ、白夜叉は力を溜める。

 たっぷり五秒。溜めた力を乗せ、天を突くように拳を振り上げた。

 大木ですら薙ぎ倒す暴風を超越した豪風が吹き荒れ、立ち込めていた暗雲ごと災害を消し飛ばす。

 

 雲の向こうにあった光が大地を照らし、白夜叉の瞳を軽く焼いた。

 

「むぅ...暗いと暗いで見えにくいが、突然明るくなるのもまた...」

 

 と、そこで気付く。明るい。そう、明るいのだ。

 元々自分が用意したゲーム盤なのだから、沈まぬ太陽のおかげで四六時中明るいことは不思議ではない。

 だが、今は違う。ローリーの力によって、太陽は沈んだ。このゲーム盤は今、夜のはずなのだ。

 

「まさか─────」

 

 嫌な予感がし天を見上げた白夜叉を、一際眩い閃光が包み込んだ。

 

 

 

 ✿ ❀ ✿ ❀ ✿

 

 

 

 

 オセアニアの神、タウヒリより簒奪した第一権能《怒れる嵐》を発動させると同時に、ローリーは暗雲の上へと移動していた。

 

「ヒャハッ」

 

 女神により刻まれた呪いを無理やり発動させたために半暴走状態となっているローリーだが、戦闘に注がれる思考は冷静そのもの。神々の怒りである天災程度では白夜叉を仕留められないことくらいは分かっている。

 もって数分。だが、それだけの時間があれば、とっておきの一撃を用意することはできる。

 

「《一条の光が闇夜を照らす。我が矢は必中の一撃、天より放つ黄金の焔》」

 

 ゆっくりと、一言一句に特大の呪力を込めて聖句を唱える。

 すると、暗雲と宵闇の狭間に黄金の弓が顕現した。三メートルはあろうかという巨大な弓だ。

 そこに、白銀に輝く光の矢を番(つが)える。呪力を込め、圧縮し、更に込め、まだ圧縮し。そう簡単に砕かれないよう、質量を極限まで上げていく。凝縮された呪力が暴れ、奔流となって溢れそうになるところを強引に押さえつけ、無理矢理に矢の形を保たせる。

 

 圧縮が終われば、次はその矢を放つ準備だ。

 呪力を使い黄金の弓を引く。限界までしなり、神々しく輝く金弓がギリギリと啼いた。

 轟ッ、と風が吹く。ローリーが発動させた権能、オセアニアの神タウヒリより簒奪した《怒れる嵐》によるものでは無い。

 眼下の暗雲が割れ、地上が顔を出した。米粒程の大きさに見える白夜叉も、ローリーの眼をすれば大きな的。そも、この権能に見える見えないなどは些事である。

 

「必中、一射」

 

 小さな呟きと共に、光の奔流は地へと放たれた。

 光速には至らず、されど回避は不能。天より落ちる一筋の光は、標的を必ず射抜く。

 

「────.........ヒャハッ、化け物め」

 

 そう、必ず射抜く。そういう能力、絶対の権能なのだ。

 にも関わらず、眼下の白夜叉の体に風穴は見当たらず、熱に浮かれたように好戦的な目をローリーへと向けていた。

 左腕は損傷したようだが、それだけ。命を狩るつもりで放った一矢を平然と止められて、ローリーは苛立ちと高揚を同時に覚える。

 第二射の用意を始める。先程の第一射と比べ準備にかける時間が少なく、威力も低い。それでも《必中》の効果は消えてはおらず、天の光は再度太陽へと落ちていく。

 白夜叉も黙って受けるだけではない。一度地上に降りたかと思えば、その足でしっかりと大地を踏み込み、光矢へと右の拳を振り抜いた。

 暫しの拮抗、そして光の霧散。弾けた光が低く地上を照らす。

 続いて第三射...と用意する間も無く、地を蹴った白夜叉が弾丸のようにローリーへ接近した。

 

「痛かったぞ、小童。ほれ、これは仕返しだ」

 

 回避を試みるローリーの横腹へ、白夜叉の回し蹴りがヒットする。先程までとは桁が違う威力に、ローリーの目が一瞬白目を向いた。

 骨の折れる鈍い音と、堪え切れず肺から吐き出た苦悶の息。黄金の弓ごと砕かれ、地面へとまるで隕石のような速度で叩き付けられる。

 

「ちっくしょ......ギェッ───────」

 

 クレーターの中心でなんとか立ち上がろうと藻掻くローリーに、隕石よりも速く落ちてきた白夜叉の膝がめり込み、ローリーの体が上下二つに裂け散った。

 大穴の真ん中に、まるで花の様な赤い血が弾け飛ぶ。

 絶命。確認するまでもない、生物としての終わり。

 袴に付いた汚れも払わず、白い衣装を彩る朱を眺めて、少女は呟く。

 

「.........終わった。嗚呼、終わってしまったか。残念だ。本当に、本当に残念だ。もっともっと楽しめそうであったのに、久方ぶりに血が騒いだというのに─────この程度か」

 

 ボロボロになった左腕を見て、ため息のように言葉をもらす。

 先程ローリーが天から放った、天弓の第一射。アレを防ぐために犠牲にした腕は、未だ回復しようとしない。同じものをもう三、四発もまともに受ければ、白夜叉でさえ危なかった。故に、出してしまった本気。故に、簡単に摘んでしまった命。

 踵を返す。動かなくなった肉片を背に、どこか憂いを帯びた足取りで進み、程なくして宣言されるであろう自身の勝利を胸に──────

 

「─────なァに勝ち誇ってやがる」

 

 聞こえるはずの無い声。たった今、自分が刈り取った命の灯火。

 不敵な声音に、白夜叉の動きが一瞬止まる。その一瞬が命取り。

 白夜叉の足元が輝いたかと思えば、即座に光の鎖が何重にもなって白夜叉を拘束した。

 

「なっ、」

「ヒャハッ、今のは致命的な油断だぜぇ? 白夜叉ぁ」

 

 ゆらりと、肉片が立ち上がった。

 否、そこに立つのは肉片に非ず。傷など一つも見当たらない、無傷の魔王がニタニタと嗤って立っていた。

 

「ったくよぉ、まさか純粋な暴力だけで俺の体が砕けるたぁ思ってなかったぜ。やっぱバケモンだな、テメェ」

 

 一歩を踏み出す。その足取りはゆっくりではあるものの確かであり、ローリーが生きていることを証明するかのように足音が鳴り響く。

 

「けどま、化け物には油断が付きもんだ。しかも相手を殺した直後なんてなぁ、そりゃあ油断もするよなぁ?」

 

 一歩、また一歩。ゆっくりと白夜叉に近寄るローリーの元に、どこからか光の粒子が集まり始めた。

 白夜叉が目だけで粒子の流れてくる先を見ると、出処が黒ウサギ達のいる場所であることが分かる。

 

「戦ってた時は油断つっても、そんな拘束を大人しく受ける程じゃなかった。俺を殺して、勝ちを確信したか? ハッ。この俺が、殺された程度で止まるとでも思ったか?」

 

 光の粒子は形を成し、一振りの剣となってローリーの手に収まる。神秘的なまでに煌々と輝くソレは、白夜叉をして全身の毛が逆立つ程の異様な存在感を放っていた。

 

「......蘇生か。そんな芸当までできるとはな」

「ま、ある程度の準備や条件は必要だけどな」

「なるほど。おんしが決闘の前に描いていたアレは、そっちの役割もあったか」

「あ? なんだ、気付いてたのかよ。一応の保険だったが...ズル、とは言わねぇよな?」

「もちろんだとも。そも、そんなものルールに抵触すらせんよ」

 

 この間も白夜叉は拘束からの脱出を試みるが、むしろ拘束を破ろうとすればするほど、光の鎖は強く深く肌に食い込む。気を抜けば骨など簡単に折れるだろう。抜けられないとは言わないが、簡単なことではない。

 

「それにしても蘇生までしでかすとは...天晴れだ、ローリー。おんしは強い。この私を楽しませた数少ない強者であると認めよう」

 

 抵抗を止め、笑顔を見せる。そこに諦念は無く、見下しなども一切ない、純粋な賞賛。それがローリーの矜恃を逆撫でする。

 

「あ? 何言ってんだテメェ。この状況、分かってんのか?」

「もちろんだとも。むしろ、状況が分かっていないのはおんしじゃよ」

 

 意味が分からない、と気を荒立たせたローリーが光の剣を上段に構える。すでに白夜叉との距離は一メートルも無い。上げられた剣が振り下ろされれば、白夜叉の首を飛ばせる距離だ。

 

「つーか強さって点なら、ぶっちゃけ俺はお前の足元にも及ばない」

「謙遜はよせ。この私をここまで追い詰める者などそうはいない。誇っても良いのだぞ?」

「手加減されまくっといて何が誇れるってんだ。俺がお前に勝つのは強いからじゃねぇ。俺が《勝者》だからだ」

 

 剣を握る手に力が籠る。

 ローリーが用意したとっておきの奥の手。相応の条件と、強者との殺し合いではほぼ不可能な準備時間を要する代わりに、蘇生すら許さない必殺を誇る剣。ローリーが持つ最大最高の一撃だ。

 

「終わりだ、白夜叉。楽しかったぜ?」

「ああ、終わりだとも。楽しかったよ」

 

 必殺の剣が迫る。この距離であれば、外すなどということも無い。白夜叉の首筋に吸い込まれるように、剣は空気を裂きながら進み─────

 

「───そ、そこまでっ! そこまででございます! 勝者、白夜叉様! ゲームは終了でございます!!」

「────────あ?」

 

 あと数mm。少し手元が狂っただけでも白夜叉の白い肌を刃が切り裂き、鮮やかな朱が咲くというところで、ローリーの動きがピタリと止まる。

 彼の動きを止めた声。それは、突如二人の近くへと現れた審判(黒ウサギ)による勝者の確定、そしてゲーム終了の宣言だった。

 

「────カカッ。そういうことだ。残念だったな? 《勝者》になれず」

 

 黒ウサギの宣言に戸惑ったローリーとは異なり、白夜叉は最初からこの事態は分かっていたと呵々と笑う。

 意味が分からず、剣はそのままに黒ウサギを睨み付けた。

 

「......どォいうことだ。説明しろ、黒ウサギ。俺が負けた? ふざけんな、俺は生きてる。降参だってしてねぇ」

「ヒャゥッ!?」

 

 何やら土に汚れた黒ウサギに、ローリーは苛立ちの目を向ける。あまりの迫力に身が竦む黒ウサギだが、そこはさすがに《審判権限》の保持者であり《箱庭の貴族》。震える体に鞭を打ち、怯えながらも堂々と声を発する。

 

「ろ、ローリーさんは一度死亡しました。それは間違いないと、ご自身でも認められますか?」

「......ああ。けど今はこうやって生き返って、」

「それではダメなのです。このゲームのホストマスター側勝利条件は『プレイヤーの殺害、もしくはプレイヤーが降参した場合』となっています。例え蘇ろうと、一度『死亡した』という事実は変わりません。よって、この決闘は白夜叉様の勝利となるのでございますよ」

 

 恐怖を前にして、それでも己の矜恃に従いピンと背筋を伸ばす黒ウサギ。彼女の放った言葉の意味を、ローリーは静かに咀嚼する。

 そして、

 

「───────.....................チッ」

 

 小さな舌打ちと共に、必殺の剣が霧散した。

 

 

 

 

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