最強TS美少女が、食事を美味しくいただくことに命を賭ける話 作:いーてぃんぐーっと
美味しいものが好きだった。
舌を震わせるような絶品に、頬が蕩けるような極上の味に、私は常に酔いしれたい。
ただそれは、決して高価な食材が全てというわけではないのである。
労働の後の飯は最高だ。
乾いた喉に麦茶は究極の組み合わせ。
人は、己の環境と立場に合わせて、最高の食事を変化させていくもの。
旬の食材を使えば、料理は華やかになるだろう。
特定の土地に出向かなければ食べられない食事は、旅の一生の思い出になる。
私はそういう、食事という行為そのものを愛していたのだ。
――それは、異世界に転生しても変わらない。
前世とは隔絶した才能と美貌に恵まれようが、それをどれだけ褒め称えられようが関係なかった。
私はただ、眼の前の美味しいものにありつきたい。
異世界は生きていくだけでも大変な世界だ。
そんな過酷な世界で、命を賭けて手に入れた食材は、どれほど輝いて見えるだろう。
好奇心が、刺激されてならなかった。
まぁ、先述した才能のせいで、私が命を賭けるとなれば――
それは結構、周囲を騒がせてしまうものなのだが、こればかりはどうしようもなかった。
■
森の中を駆けていた。
鬱蒼と生い茂る木々と草木をかき分けて、ただ”匂い”だけを追いかける。
私は比較的鼻が効く方だ。
森の中だと、それがなおのこと顕著である。
種族特性というのもあるが、単純にその方がより食材を味わえるのだ。
多分、才能がそういう風に私を成長させたのだろう。
「――あまり嫌な匂いはさせていないと助かるのですが」
ぽつりとこぼしつつ、邪魔な草木をナイフで刈り取り、その隙間を縫うように進んでいく。
やがてたどり着いたのは、足の踏み場もない森の奥にしては、少し開けた場所だった。
中央に、そいつはいる。
「……ガーメットボア」
全長は縦に三メートルほどの、巨大な猪。
とてもではないが、人が相手にするとなると危険すぎる存在だ。
しかしこの世界は異世界、誰かがこういった魔物を狩らないと多大な被害が出る。
現に、数日前から近くの村を襲撃し、被害が出ているのだから。
ガーメットボアは美食家だから、食事をえり好みするため人は喰わない。
それでも、人々にとってこいつは敵だ。
ただ同時に――
「――美味しそうですね」
こいつは、大変美味な食材でもある。
取って帰って売り払えば、村が被った被害を帳消しにして余りあるのだ。
まぁ、今回は冒険者である私に依頼をだしたから、その依頼料でトントンといったところだが。
何にしても、やるべきことは変わらない。
私は両手にナイフを構えると、足に魔力を込めて――宙に躍り出る。
「行きます」
ちょうど、ガーメットボアを上から見下ろす形。
向こうは何かが自分に接近したことは気づくだろう、しかし位置を見失っている。
完全に頭上を取っているのだ、気づけと言うのは無理な話。
私はそのまま落下を始め、勢いよく――
ガーメットボアの頸を、切り落とした。
一撃必殺、鮮血が舞う。
バックステップで返り血を避け、ナイフを振るい血を払う。
やがてくるりとナイフを回してから納刀すると、後には頸を飛ばされたがーメットボアの死体だけが残る。
まぁ、こんなものかな。
命を賭けるといっても、今の私が負ける相手なんてそうそういない。
今回だってほとんど一方的に勝負をつけた。
ただそれでも、命のやり取りをする以上、自分の死を覚悟しないというのは誠実さが足りていないだろう。
その真面目さを食事以外のことにも分けろ、と知り合いは言うが――残念ながら、そういったことに私はあまり関心がないのであった。
■
「――というわけで、こちらがガーメットボアになります。持ち運ぶのが大変なので、処理は先にやっておきました」
「おお……流石は”食道楽”のイト様……何から何まで……感謝いたします」
「いつの間にか、仲間内でのあだ名が二つ名になっていますね、私……まぁいいですけど」
依頼を終えて村に戻ると、村人一同にそれはもう感謝された。
まぁ、偶然近くの山に群生しているというパオリブのハーブというレア食材を求めて私が通りかかっていなかったら、村はもっと壊滅的な被害を被っていたはずだ。
感謝する気持ちも、わからなくはない。
「あの……それで依頼料に関してなのですが……」
「解っています。依頼料に関してはガーメットボアで支払う、でしたよね。それで構いませんよ」
「ありがとうございます……!」
そして、彼らにとっての問題はまだまだ終わらない。
お金はない、村の畑は被害を負った、怪我人だって出ている。
こんな状況で、ガーメットボアなんていう普通ならそこそこの依頼料が必要になる魔物討伐を冒険者に依頼するなんてあまりにも無茶だ。
無論、討伐したボアは自由にしていいという内容で依頼を出せば、大抵の冒険者は食いつくだろう。
しかしボア一体の討伐料金をボア一体で賄うと、金額的に村が損するという問題もある。
高すぎるのだ、依頼料に対してボアの買取料金が。
かといって、一部は自分たちにまわしてほしいと言っても、冒険者はいい顔をしないだろう。
そこで。
「――では、こちらをどうぞ」
「えっ……!?」
ガーメットボア討伐の依頼料をガーメットボアの買取料金から差し引き、残った差額分の値段だ。
これで、ガーメットボアをまるごと買い取ろうというわけである。
「最初にいいましたが、ガーメットボアは私がいただいていきます。こちらはその差額分です」
「そ、そんな……受け取れません! ただでさえ急な依頼でご迷惑をおかけしてるのに!」
「構いませんよ。だってその方が気兼ねなく美味しいご飯をいただけますから」
私がガーメットボアを全部持っていくのは、この世界だとそこまで問題のある行動ではない。
差額に料金を出すほうが、お人好しすぎると呆れられるくらいだ。
でも、差額は出す。
だって私がそうしたいから。
「そういうわけで、受け取ってください」
「ああ……ああ……ありがとうございます! ありがとうございます!」
ここに来るまでに用意しておいた、買取用の高価が入った袋を、大事そうに村人は抱える。
多分だけど、私がこうしていなかったら彼らは冬の食材が足りていなかった。
全滅に至ることはないだろうが、多分……一人か二人は、冬を越せない。
田舎の村ではよくあること、だけど。
まぁ、あまり見ていて気分はよくないな。
そういう事をしていると、治安の悪い世界では悪意を惹き寄せがちなのだが、それでも私はこうしたいと思ってしまうのだ。
加えて私は、ふと思い立って彼らに提案する。
「ああ、そうだ。せっかくですし――ちょっと食べてみませんか?」
「え……?」
「ガーメットボア。――これから、焼いて食べようと思うんですよ」
その言葉に、村人は今度は”理解できない”という視線を私に向けた。
まぁ、流石にそれはお人好しすぎますよね。
――が、構わずやります。
村の一角を借りて解体を行って、皮などは別に分ける。
取れた肉をスライスして、ステーキ状にすれば準備万端。
フライパンに投入すると、続いて出すのは――
「これをかけるのがいいんですよ」
甘口のソース。
自分で作った専用ステーキソースで、専用の保存瓶に入れているから旅の間も持ち歩けるのだ。
旅の最中は魔物を狩って、肉を食べることが多い。
そういう時に、これはとても役立つ代物である。
肉を焼き始めたタイミングで投入することで、肉に味をつける。
他にも何か入れるものはないかと考えて、私は今回の旅の目的であるパオリブのハーブを取り出した。
パオリブ山でしか取れないハーブで、豚肉と合わせると非常に香りが合う。
ささっとコレも投入し、後は焼くだけ。
出来上がったステーキをフライパンから取り出すと、今度はサイコロ状にカットしていく。
これを村人たちに振る舞えばいいだろう。
確か村人の数はそこまで多くないから、ステーキ1枚分で十分だ。
もう一枚自分のために焼いておきつつ、早速村人に振る舞おう。
――その後、村人たちにそこまでしてもらうわけには行かないと固辞されまくったが、何とか食事してもらうことに成功。
自分の分のお肉を美味しく食べつつ、彼らが食事に目を輝かせるのを見て、私は満足げに笑うのだった。
■
――”美食家”のイトと呼ばれる冒険者がいる。
容姿端麗で、冒険者としては非常に優秀。
背丈は小柄で、手足は細い。
美しいプラチナブロンドは人目を引き、理知的ながらも愛嬌のある顔立ちは多くのものを魅了する。
衣服は、チューブトップのような胸当ての上にジャケット、下は短いホットパンツを身に着けている。
森人族であるため、年齢は見た目相応ではない。
だがそれ以上に、彼女の生き方はどこか年齢以上の信念を感じさせるものだ。
美味しいものに命を賭ける。
人によっては、バカげてるとすら言える信条だ。
しかし、彼女は食事のためならどんなことでも真剣に取り組み、成果を出す。
何より、彼女が食事をしている姿を見ると、不思議と周囲も活力が湧いてくるのだ。
現に先日ガーメットボアを討伐してもらった村の村人は、以来精力的に村を発展させるべく行動しているという。
それまでは、日常をただ漠然としたまま送れればいいと考えていたのに。
それもきっと、イトの食べさせた料理があまりに美味しかったから。
何より、それを食べるイトが――あまりにも輝いて見えたからだろう。
これは、そんな食に命を賭ける少女が、時に人々の人生を変えながら、我が道を行く物語。
食べる美少女かわいい系のお話。