モノクの技に物凄く頭を悩ませました。
ワニ子は、大地を揺るがすような勢いで猛然と突っ走る。
「あんまり張り切りすぎるなよ、ワニ子」
俺が声をかけると、ワニ子は「グルルッ」と頼もしく返事をしたものの、スピードはさらに一段と上がった。浮遊感ですっぽ抜けそうな体を必死に抑え込む。
だが、実際にこれだけのスピードを出してくれるのはめちゃくちゃ助かる。
あのままスタージュンを足止めできていたなら問題なかったが、予想外のショートカットのせいで、結局はスタージュンの到着スピードも原作と大して変わらないか、むしろ向こうの方が早くリーガルマンモスの近くに到達しているかもしれない。
(俺だけが完全に出遅れている……)
流石のスタージュンも、あんな方法で目的地側へ飛ばされれば、今頃俺のことを不憫に思っていることだろう。いや、流石に同情しててくれ、マジで。
着けるものなら、一刻も早く着きたい。
急がないと、あいつをぶっ飛ばせない。
「もうデビルアスレチックか……」
第一ビオトープの険しい地形を抜ければ、すぐにリーガルウォールエリアに出るはずだ。デビルアスレチックまではまだ少し時間がかかる思っていたが、予想より遥かに早くその手前まで到着した。
ここまでのスピードで到着できたのには、明確な理由があった。
さっきいた湯脈地帯でも見かけたが、この辺り一帯、一部の光景が異様だった。野生の生物たちが、次々と無残な姿で狩り尽くされている。しかも、どの個体も一様に『目玉をくり抜かれた』痛ましい姿で放置されていた。
サニーと小松が向かったはずの『いにしえの沼地』周辺だけでなかった。やつもこっち側から侵入していたのか。
いにしえの沼地に向かう道すがら、目につく生物を片っ端からいたぶって殺して回っていたというわけか。そうか。
——くそ野郎が……ッ!
サニーが作中で猛烈に感情を剥き出しにしてキレていたのも、これで痛いほどよくわかる。
どこぞのクソ支部長、セドル……! 本体は安全な場所に隠れているくせに、GTロボを使ってわざわざ無意味に生物たちを苦しめ、目玉をくり抜き集めるなんていう悪趣味を興じているクソ野郎。
あいつだけは、しっかりぶん殴らないと気が済まない。その為にも、サニーがやつを片付けてしまう前に、一刻も早く追いつかないと……!
◇
オブサウルスがリーガルウォール沿いに走る。
「そろそろのはずだけど……よし、見えた! リーガルママ……!」
眼前にそびえ立つ、山のように巨大なリーガルマンモスの巨体。すでに起き上がっている。
(ってことは、トリコたちはもう体内に入ってるな……! なら……!)
俺はワニ子の背から辺りを見渡し、目を皿のようにして探した。
……あれか?
一部がボコっと大きく凹んだクレートが目に入った。
きっといるはずだ。あのクレートの中に……!
——ドヤ顔フルコースさんが!!
「いたっ! 大丈夫ですか!?」
俺はワニ子を急停止させ飛び降りると、クレート内へと駆け寄った。
中を覗き込むと、そこには倒れ伏す巨大なGTロボの残骸と、血を流し、力なく横たわる四天王・ココの姿があった。
俺は息を呑み、急いでその場に膝をつく。
「きみは……、トリコたちの言っていた容姿に当てはまるな。……モノク君か……」
ココが、うっすらと開いた瞳で俺の方に視線だけを向け、静かに呟く。
その気だるげでどこか達観した様子に、不意に脳内で例のネタが過ってしまい、俺は思わず言ってしまいそうになった。
(いや、ここで「お前はトリコ?」ってボケたら絶対ダメだ…! 我慢しろ俺……!)
「四天王ココさんですよね? 動けますか?」
「あぁ……早く、トリコたちの援護に……。さっき、とんでもない電磁波を放つGTロボが、リーガルマンモスの腹部から侵入していった。やつはヤバい……。トリコ達の所へ、助けに……行かないと……ぐっ……!」
ココは血だらけの体を奮い立たせようと起き上がろうとしたが、激痛に耐えきれず、再びガクリと崩れ落ちた。
「無理しないでください! トリコたちなら大丈夫です。ココさんはじっとしていてください!」
「すまない……どうやら、しばらくはまともに動けそうにない……」
「気にしないで! そうだ…これを、隙間に垂らして…。これ食べて早く回復してください!」
俺は慌てて腰の袋から食材を取り出し、醤油を隙間に垂らしてココの枕元にドサッと置く。
『フンヌッフンヌッフンヌッフンヌッ——!!』
激しく殻をパカパカさせ、絶叫をあげる『憤怒貝』だった。
「こ、これは一体……何だい……?」
「憤怒貝です! めちゃくちゃ美味いですよ!」
「な、なぜ……今この緊迫した状況で、その奇怪な貝を取り出したんだい……?」
「トリコたちが他の食材をあらかた食っちゃったんで、これしか余ってないんです! すいません、僕も急ぐんで! それじゃ!」
「あ、モノク君……!」
『フンヌッフンヌッフンヌッフンヌッフンヌッ——!!』
耳元で野太い絶叫を上げ続ける憤怒貝を枕元に山盛りにされたまま、動けないココは静かに目を伏せ、苦渋に満ちた声音でポツリと言った。
「……生死の境をさまよう毒の戦いの次は……『フンヌッフンヌッ——』この喧しい貝の音色を聴きながらの特等席か。『フンヌッフンヌッ——』……悪くないが、『フンヌッフンヌッ——』もう少し静かな最期がよかったな……フッ、これも毒に冒された報いというわけか……『フンヌッフンヌッ——』」
モノクを一切責めることなく、むしろ自虐混じりに環境を受け入れるその姿は、痛々しいほどにスタイリッシュだった。
◇
「リーガルママ! 僕だよ僕! モノク!」
背中からリーガルウォールの崖下へと落ちたリーガルマンモス——リーガルママは、少し放心状態となっていたが、俺の声を聞いてゆっくりとこちらに顔を向けた。
大きな瞳が俺を捉え、微かに安堵の色が浮かぶ。
「チビは無事だよ! ここ、変なやつらが多くて危ないでしょ? だからしばらく保護してもらってる!」
リーガルママの不安を取り除くために、俺は喉から声を張り上げた。チビが無事だと分かると、さらにホッとしたように小さく鼻を鳴らした。
「とりあえず、僕も中に入りたいんだ! 吸ってくれるーー!?」
リーガルママが目で力強く頷き、巨大な鼻先を俺に向け、空気を一気に吸い上げた。
「おぉぉっ!」
ダイソンも真っ青の凄まじい吸引力。俺の体はフワッと宙に浮き、そのまま真っ暗な鼻腔のトンネルへと吸い込まれていく。
鼻を伝い、喉の奥を滑り落ちるジェットコースター。やがて、胃の付近にある広大な空間——リーガルマンモスの体内通路の床へと、俺はストレートに着地した。
そして、到着したその瞬間に。
「『20万本——ヘアパンチ——ッ!!』」
空間全体を揺るがすサニーの叫びと、とてつもない打撃音が響き渡った。
まずい、もう戦いの終わり際だ。俺は痛む体を引きずり、音のした方へと駆け出した。
「サニー!」
「……モノク! 無事だったか!!」
陥没した地面の前で息を乱すサニーが、俺の方に顔を向けた。
そしてサニーの眼前には、倒れ伏す一体のGTロボ——セドルの姿があった。
「おせぇから、もう俺が倒しちまったぜ?」
サニーが髪を靡かせてドヤ顔を決めるが、ガシャリ、と嫌な音が鳴った。
GTロボが、不気味な駆動音を立てながらゆっくりと起き上がる。
「だ、れを……倒したって……?」
「おいおい、20万本ヘアパンチでも完全にぶっ壊れねぇとは、ちょっとショックかもっ」
サニーが眉を顰める。
「この野郎……今度は、オイラが攻撃する番だ……!!」
「やだね、お前はここで——」
「サニー」
追撃しようとするサニーの言葉を、俺は静かに遮った。
「こいつは……俺にぶっ飛ばさせてくれないか」
「は? 何言ってやがんだ。ここまで戦ったのは俺だぜ? つか、ボロボロじゃねぇかお前! このまま俺が美しく決め切るのが——」
不満げに断ろうと言葉を繋いでいたサニーが、ふと俺の顔を見て、言葉を失った。
「……」
「あー……そうかよ。わかったよ。てめー、そんな
俺の目の中に沈む真っ暗な怒りを感じ取ったのか、サニーはふっと息を吐くと、その場に座り込んで「知〜らね」とそっぽを向いた。
「ありがとう、サニー。……おい、交代だクソ野郎。俺に勝ったら、見逃してやる」
「あぁ? 交代……? なんだお前……って、お前、スタージュン様にボコボコにされてたやつじゃねぇかぁ!」
情報共有済みか。好都合だな。
「てめぇがオイラとやれんのかよ!? んなボロボロの身体で!!」
「うるせぇ。てめぇにとっちゃ好条件だろ」
俺のボロボロの身体と、本部の情報をすり合わせたセドルは、完全に俺を舐めきっていた。
「オイラが勝ったら、退却していいんだな?? 逃げじゃねぇ、退却だ!!」
「どっちも一緒だろうが……あぁ、俺を倒したら自由にしていい」
セドルの目が、不気味に歪む。
(まじかこいつ、こんなボロボロの身体でオイラに勝つつもりか?? 途中で共有が停止されたらしいが、ジョージョーが送ったスタージュン様の視覚データでは、こいつはGTロボに傷一つつけれてねぇ。GTロボの合金の装甲を貫けるほどのパワーを持ってねぇんだ……! 楽勝だ、こんなやつ! その生意気な怒りの目をくり抜いて、極上のコレクションにしてやるッ……!)
「——ただし、圧覚超過を解除しろ」
「なっ——」
俺の言葉に、セドルが怯んだ。
ロボットが受ける痛みを、操縦者へとダイレクトにフィードバックするシステム。
「できねぇのか? そうか、そんなロボ使ってるぐらいだ。所詮、痛みが怖くて生身じゃ行動できないような臆病者なんだろう?」
「あああぁ!? なんだとてめぇ!! ハッタリかましてんじゃねぇええよ!! てめぇのパワーが装甲に及ばねぇことぐらいわかってんだよ!!! くそが!! 『ジョージョー! 圧覚超過を解除しろッ!! ——いいからやれッ!!』」
どうやら裏でジョージョーとやらに止められたようだが、短気なセドルは制止を押し通してくれたようだ。バカで助かる。本当にありがたい。
「ほらよ!!? 解除したぜ!? どっからでもかかってこいよ!! どうせパワーが足りてねぇんだからよぉ——」
「『トングロック・プレス』」
トングが、GTロボの四肢を強引に押さえつける。
「くそ……!! スタージュン様を拘束した技か!」
「あぁ。もう終わりだよ、お前は」
俺は右腕を引き絞る。
肩から指先にかけて、すべての筋肉を異常なまでに捻り上げる。ギチギチと筋肉の繊維が悲鳴を上げ、皮膚の下でバネが極限まで圧縮されていくような感覚。
狙いは、GTロボの首元。
「『——10転……! ボルトパンチ——ッ!!』」
圧縮されたエネルギーを解放し、渾身のストレートを放つ。
「ぐあぁっ!!」
重い衝撃音が響き、セドルが軽く後方へ吹っ飛んだ。
……が、
「いってぇ……!! だが、耐えられない程じゃねぇ!! やっぱりなッ!! てめーの技はGTロボの装甲を貫けないッ!!」
セドルが立ち上がり、勝利を確信して高らかに叫ぶ。
俺は冷たい目で見下ろしながら、静かに口を開いた。
「……『ボルト』って知ってるか?」
「あぁ?」
「てめぇの機体にも使われてるはずだ。部品と部品を締め付けて固定するためのネジのような…鉄骨や土台、様々な建築素材に使われ、用途によっては専用の器具を使い、より強力に、高速に回転させ締め上げる……!」
「それがなんだってん——」
「『ボルトパンチ』。釘が深く打ち込む力なら、ボルトは強く回転する力。俺のボルトパンチは、ボルトを締め上げるように『回転する力』を加える。10回転だ——てめぇの首に、その回転を加えておいた」
その瞬間。
「なに!? ふざけん——」
自身の首元を触ろうとしたセドルの腕が止まる。
止める手立てなど、ない。
——ギギギギギギギギッ!!!!
打撃から数秒遅れて、撃ち込まれた強烈な『回転のエネルギー』が発動した。
GTロボの極太の首が、見えない巨大なスパナで捻り上げられるように、不自然な方向へと強引に回転し始める。
「『ジョージョー!!! 圧覚超過っ、ぐ、お、あがっ』」
圧覚超過をオフにしろ。そう叫びたかったのだろうが、それを言い切る前に、装甲が限界を超えてひしゃげる凄まじい金属音が響き渡った。
「いだいいだいいだいっ!!」
セドルはどうにか回転に抗おうと自身の首を両手で押さえつけるが、無駄だ。今の俺の限界値、10回転だ。
「ねじ切れろッ! クソロボット!!」
極限まで捻り上げられた装甲が弾け飛び、セドルの無様な断末魔と共に、GTロボの首から上が丸ごとボキンとねじ切れ、宙を舞った。
◇
「セ、セドル様ーー!」
セドルに駆け寄るジョージョーだったが、セドルは泡を吹いて気絶していた。
「くっ…、これ以上GTロボを失うわけには……。幸い破損したのは頭部のみ……回収信号を出し、逃走させなくては——」
ジョージョーの判断は迅速で、機転の利いたものだったが。今回に限り、それが仇となってしまう。回収信号は出されているが、圧覚超過は解除されていない…。
◇
頭部がもげて地面に転がるGTロボから視線を外し、俺は後ろで座り込んでいるサニーの方へと振り返った。
「ありがとうサニー。すっきりしたよ」
「モノクてめー、なんつー…えげつねぇ技持ってやがるっ! やっぱ俺ん時、がっつり手抜いてたんじゃねぇか!!」
「い、いまそれ言うー……? 空気違くない? 絶対」
「空気なんてしらないしー、読まないしー」
首をブンブンと振って抗議するサニー。
そんな俺たちの背後で、首の無くなったGTロボがムクッと不気味に起き上がった。
「あ、頭を破壊しても意味ないのか。コアが心臓部分にあるから、それを破壊しなきゃ……」
そう考えているうちに、GTロボが踵を返し、猛スピードで遠くへ走り去ろうとする。
——が、ある一定の距離まで走った瞬間、ギギギ……と、その動作が急激に鈍くなった。
距離にして、25メートル。
「おそらく、機体回収用の逃走信号だろうが……無駄だ。俺のヘアパンチの時に、コアの回りは俺の髪でがっちりホールドしてる」
「あ、最初から逃がす気なかったんだ」
「たりめーだ! お前が負けるとは1ミリも思っちゃいなかったが、負けたとしても見逃す約束したのはてめーだけだ。俺はしてねーしっ!」
「……まぁ、それもそうか!」
逃走しようとしていたGTロボの胸部が内部から爆発し、ボンッと音を立てて黒煙を吐き出し、今度こそ完全に動きを止めた。
セドルは生きたまま首をねじ切られ、気絶中に心臓を潰される痛みを味わった。——セドル、再起不能。
「つかお前、キレると一人称と口調変わんのな?」
「え、何が?」
サニーからの唐突な指摘に、俺はきょとんとして首を傾げた。
「は? え? おま、自認してないの?」
「……?」
「やばすぎ、お前……」
少し引いたような目で見つめてくるサニーを前に、俺はただ首を捻るしかなかった。
「とりあえず、俺はもう一歩も動けねぇ……俺はここでトリコの帰りを待つが……モノクはどうする?」
「さっき、全力のボルトパンチを放ったから……僕も完全に限界だよ……」
無理な力を込めた右腕は、パンパンに腫れ上がって感覚すらなくなっていた。立っているのがやっとだ。
「んじゃ、ここで休憩決定だな! ふぅー、休もうぜ」
サニーはあっけらかんと言い放ち、その場にどっかりと腰を下ろそうとした。
だが、その瞬間。
リーガルマンモスの体内全体を揺るがすような、凄まじい突風が奥から吹き荒れてきた。
「おぉおっ!?」
「うぉぉおっ!?」
突然の暴風に、俺とサニーは間抜けなリアクションをあげた。
風圧で体が宙に浮く。いや、これは風じゃない。リーガルママが息を大きく吸い込み、そして——。
「くしゃみかよぉぉぉぉっ!!」
猛烈な排気と共に、俺とサニーは巨大な鼻の穴から勢いよく体外へと放り出された。
眼下に広がるのは、遥か彼方の荒野。こんな上空から落ちたら、ボロボロの体ではひとたまりもない。
「キッスッ!!」
その時、地上から爽やかな呼び声が響いた。
ほぼ同時に、視界を覆うほどの黒い影が上空を旋回し、フワリと優しく俺たちを掬い上げた。
大空の番長、エンペラークロウ。四天王ココの相棒である『キッス』だ。
そのまま俺たちは、ココの元へと静かに下ろされた。
「サニー、モノク君、無事か!?」
「あぁ。なんとか、こっちのロボットは一体片付けたぜ」
「そうか。僕もなんとか倒したが、毒を使いすぎた……」
ココは顔面を蒼白にさせ、息も絶え絶えだった。憤怒貝だけでは毒の使いすぎは回復できないか。
「だったら、ここで休んでようぜ?」
「だが、まだ中でトリコ達が——くっ」
ココは立ち上がって反論しようとしたが、激しい痛みに顔を歪め、再び膝をつく。
「お前は昔から心配性すぎなんだよ」
サニーが呆れたようにため息をついた。
「俺達は既に役目は終えた。ジュエルミートゲットをトリコに託した時点で、そう考えるべきだ。むしろ、助けに行くのは、トリコに対して侮辱だと思わねぇ?」
「……誰かが死ぬ……としてもか?」
「トリコが負けるって言うのか?」
「なっ……」
「信じるんだ。……それが
うん、俺は完全に空気だな。
流石にこの四天王達の熱い信頼関係の間に割って入って、ペラペラと会話することはできない。
(あ、ちなみにトリコ、死にかけるけど、
なんて、この感動的な空気をぶち壊すような盛大なネタバレをかましたらどうなるだろうか。……うん、絶対にやめておこう。
「……わかったよ、サニー。ここで待とう」
やがて、ココが小さく笑ってサニーの言葉に納得した。
そこでココは視線を俺に向け、少し姿勢を正した。
「そうだ。まだちゃんとした自己紹介がまだだったね。僕はココだ。よろしく、モノク君」
「どうもココさん。モノクです。よろしくお願いします。あ、あと『君』はいらないですよ。モノクで大丈夫です」
俺がそう言うと、ココはふっと優しげな笑みを浮かべた。
「わかったよ、モノク。なら僕も、『さん』は要らないかな。……あと、敬語もよしてくれ」
「あー……了解。ココ」
俺たちはガシッと固い握手を交わした。
だが、その直後。ココは握った手を離さないまま、スーッと瞳の温度を下げ、マジな目で俺を真っ直ぐに見据えた。
「あと……さっきの貝。僕の前に出すのは、当分よしてくれ」
「……」
冗談抜きの、本気のトーンだった。
あんまり口に合わなかっただろうか……味には自信あったんだけどな……
「え、あ、ごめん」
「いや……わかれば良いんだ……」
深く疲労した顔で遠い目をするココ。
そんな俺達のやり取りを、サニーが不思議そうに眺めていたが、ふと何かを思い出したように眉を吊り上げた。
「……つか、なんでココには初対面敬語使ってんだ? 俺にはそっこーで呼び捨てタメ口だったよな、お前?」
「え、サニーにはタメ口でしょ……?」
「どゆ意味だッ!! ——いつつっ!」
「怒んないでよっ! ——いたたっ!」
俺の失礼な本音に怒鳴ったサニーと、反射的に仰け反った俺。
結果として、二人して全身のダメージに激痛を走らせ、同時にうずくまる羽目になった。
「二人とも……もう少し自身の身体を労わるべきだ」
呆れ果てたココの嘆息が、荒野の風に溶けていく。
——そんな和やかでボロボロな空気の中、俺たちはトリコの帰りを待つのだった。
ミキサーパンチとは違うからねボルトパンチだからね。