過労死したから美食屋なろう   作:ボーイッシュ大好きっ子

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ココの「お前はトリコ?」ネタ知ってる方居ますかね。結構じわじわきて好きなんですが。


7話

 

 キッスが運んできてくれた食材を、俺たち三人はその場に座り込んでモガモガと頬張った。

 極上の新食材や高級品というわけではない。市場でも買えるような果実や野菜ばかりだったが、疲労しきった体にはこの上なく染み渡る。

 

「良い食材持ってきてくれたな、キッス。美しい食材も多い」

「サニーにも気をつかってくれたんだろう。四天王(いち)の偏食家だからね」

 

 微笑みながらキッスの嘴を撫でるココに、俺は思わず相槌を打つ。

 

「やっぱ偏食なんだ」

「偏食じゃねぇし!」

 

 サニーがすかさず噛み付いてきたが、その手にはしっかりと見た目の美しい『マスカットアップル』が握られていた。サニーはそれを一口かじり、優雅に息を吐く。

 

「……うん。皮の透き通るような美しさと、この気品ある上品な酸味。シンプルだが、俺の細胞を優しく満たしてくれる美しさだ」

「そうだね。この『アーモンドキャベツ』も、葉の裏に蓄えられた良質な油分が疲労をスッと流してくれる……。滋味深く、体に優しい味だ」

 

 二人とも、その特徴を的確に捉え、流れるように簡潔な食レポを口にした。

 

(すげぇ……プロの美食屋って、その辺の果物でもこんなにスラスラと言葉が出てくるのか)

 

 俺は感心しながら、手元にあった適当な木の実を口に放り込んだ。

 よし、俺も脳内で食レポにチャレンジしてみよう。

 

(……噛んだ瞬間、瑞々しい果汁がブワッと溢れて……まるで、大自然の恵みが……)

 

 ——と、頭の中でウンウン唸りながら無言でモグモグしていると、サニーの鋭いジト目がこちらに向けられた。

 

「おいモノク。美食屋たるもの、(つく)しい言葉を紡ぐのが食材に対する礼儀ってもんだぞ。黙って食うな」

「それにはボクも同意するよ。……美しい言葉かどうかまでは縛らないけどね」

 

 ココまで同調してくる。

 

「いや、僕は美食屋ではないんだけど……」

「うっせ! お前は美食屋なれ!」

「ほら、やってみなよ」

 

 逃げ道を塞がれ、二人の四天王から食レポの圧をかけられる。

 仕方ない。俺は小さく咳払いをし、意識しながら、手の中の木の実を掲げた。

 

「こ、この果汁……! 一口噛んだ瞬間、閉じ込められていた大自然のエネルギーが、俺の口の中でナイアガラの滝のように——あー……待って、わかんなくなってきた」

 

 途中で自分の語彙力のなさと恥ずかしさに耐えきれず、俺は顔を覆って中断した。

 

「んだそれ! お前、トリコ意識しすぎじゃねぇ!?」

「そ、そんなことないよ!」

 

 サニーに図星を突かれ、俺はカッと顔を熱くして必死に否定した。しかし、ココも苦笑しながら追い打ちをかけてくる。

 

「フフ……今のはボクも、トリコに寄せすぎだなと思ったよ」

「うぅっ……」

「もっと自分なりでいんだよ、そゆのは!」

 

 サニーが呆れたように笑い飛ばし、あーだこーだと俺の適当な食レポ講座が始まった。

 そんな他愛もないやり取りで、俺たちはひとまずの落ち着きを取り戻していた。

 ふと、巨大な壁——リーガルママの顔を見上げた時だ。

 

「……なんか、目が虚ろだな。リーガルママ」

 

 巨大な瞳がぼんやりと焦点を含んでおらず、微かな呼吸音だけが響いている。

 俺の呟きに、ココが少し申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「一応、安全に『宝石肉(ジュエルミート)』を取り出すために、麻酔毒を使用している……。すまないね、君の育ての親だとは聞いていたが、やむなしだ」

「え、そうだったの? いや、むしろ痛みを和らげるためのものでしょ? ありがたいよ……親が苦しんでる姿は見たくないからね」

「そう言ってもらえると救われるよ」

 

 ココはホッと息をつき、リーガルママの山のような巨体と、俺の小さな身体を交互に見比べた。

 

「……しかし、この巨体にどうやって育てられたんだ? いくらなんでも、物理的に難しいと思うが……」

 

 ココがもっともな疑問を口にした、その時だった。

 ズズズッ……と、大地を揺らすような地鳴りと共に、リーガルママの巨大な鼻がゆっくりと動き始めた。

 

「いよいよ毒が切れたか。少し離れたほうがいい」

 

 ココの警告に、俺とサニーは慌てて後ろへ飛び退いた。

 完全に覚醒したリーガルマンモスが、雄叫びを上げるためにゆっくりとその巨体を起こし始める。その圧倒的な振動を感じながら、サニーが血相を変えて叫んだ。

 

「おい! トリコたちはどーなってるよココ? リンは? 小松(まつ)は!?」

「おやおや」

 

 焦りまくるサニーに対し、ココはクスッと優雅に微笑み、先ほどの言葉をそっくりそのままお返しした。

 

「信じることが美しいんだろ?」

 

「ホント、お前はつくづく(うつく)しい男だよサニー。心配いらない、みんな無事さ。今『出て来る』」

 

 ココが自身の電磁波の視覚で見えているのだろう。ふっと優しく微笑んだ。

 その言葉の直後だった。

 リーガルマンモスが、ブルブルと山のような巨体を震わせ、太い首を大きく上へと反らせた。

 

 くしゃみのような、えづきのような、大地を揺るがす規格外の轟音。ママの巨大な口がカパァッと開かれ、凄まじい突風が吹き荒れる。

 

「サニー! クッション頼むーーッ!」

 

 空高く吐き出された無数の食材や体内生物たちの滝。その中に、見慣れた三人の姿があった。

 

「トリコ!! 小松(まつ)!! リン!!」

「そして、『あれ』が……」

 

 サニーが叫び、ココが眩しそうに目を細める。

 上空を舞うトリコの右手に、しっかりと握られていたもの。それは、真昼の太陽の光すらも霞ませるほどに神々しく、内側から七色の光を放つ圧倒的な肉の塊だった。

 

宝石肉(ジュエルミート)!!」

宝石肉(ジュエルミート)だ!! すげぇええええ!!」

 

 原作でも屈指の美しさと美味さを誇る伝説の食材。無事回収できている嬉しさと、それを生で、この距離で目の当たりにした俺は、たまらず興奮して声を張り上げてしまった。

 そして、俺以上にその輝きに魅了され、完全に理性をぶっ飛ばしている男が隣にいた。

 

「うひょーっ! 最高に優しくキャッチしてやる!!」

 

 サニーの目が、完全にハートマークになっていた。

 あまりの美しさに心を奪われたサニーは、自身の髪を空へ向けて一気に放つ。

 

『ヘアネット!』

 

 ピンク色の髪が空中でしなやかな網を展開し、落下してくるものたちを受け止める——はずだった。

 だが、サニーの展開したヘアネットは、光り輝く『宝石肉』と、ついでに小松やリンのことはフワリと極上の柔らかさで包み込んだものの……トリコの真下にだけ、ぽっかりと大きな網の『隙間』が空いていたのだ。

 

「おわっ!?」

 

 見事にネットをすり抜けたトリコが、頭から地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。

 

「『トングロック』!!」

 

 俺は慌ててトングを伸ばし、顔面から激突する数センチのところで、強引にトリコの巨体を空中でキャッチした。

 ズザザザッ! と土埃を上げたものの、なんとか無事に地面へと下ろす。

 

「お前なァ!!」

 

 地に足がついた瞬間、トリコが鬼の形相でサニーに向かって怒鳴り声を上げた。

「優しくキャッチするって、『宝石肉(ジュエルミート)』のことかよ!! モノクが居なかったら顔面から落ちてたじゃねぇかァ!!」

 

「ん? ()り前だろ。モノクがキャッチしてくれたんだから結果オーライだ」

「結果オーライじゃねぇ!!」

 

 悪びれもせず宝石肉を頬擦りせんばかりに見つめるサニー。

 

「す……すげぇ……これが宝石肉(ジュエルミート)……!」

 

 完全に語尾にハートマークがついたような、とろけるような声で呟くサニー。

 だが、その至福の時間を遮るように、ヘアネットの上から小松が悲痛な声を上げた。

 

「サニーさん! リンさんが!!」

「え?」

 

 ハッとして視線を上げたサニーの顔色が変わる。

 

「リーン!!!」

 

 そこには、GTロボによって深手を負わされ、血まみれで意識を失っている妹の姿があった。

 

「おせーよ、気づくの。手当て頼むぞ」

 

 トリコは特に焦る様子もなく、当然のようにサニーに丸投げした。それは薄情さからくるものではない。サニーの能力に対する、絶対的な『信頼』からくる態度だった。

 

「言われなくともっ! 『触覚手術(ヘアオペレーション)』!!」

 

 サニーが自身の極細の髪の毛をメスや縫合糸の代わりとして展開し、瞬く間にリンの止血と細胞の縫合処置を施していく。

 

(いや本当に、サニーの触覚は便利すぎる……)

 

 その背後から。

 ズン……ズン……と、大地を揺らす重い足音が響いてきた。

 振り返ると、緑色の巨体——オブサウルスの背中に乗ったテリーが、誇らしげな顔で現れたのだ。

 

「テリーっ! 無事だったか、テリー!!」

 

 トリコが満面の笑みで呼びかけると、テリーは「ウァウ!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「てか、なんだこいつキモー!!」

 

 テリーの足元にいる巨大な双頭のワニを見て、サニーが盛大に顔をしかめる。

 

「ワニ子……」

 

 どうやら俺をここまで送り届けたあと、森の中でテリーと接触し、野生の勘で圧倒的な強者であるテリーを新たな『主人』として乗り換えたようだった。ちょっと寂しいような気もするが、無事に原作通りの展開に収まってくれたので良しとしよう。

 そして今度は、上空からバタバタバタッという複数のヘリコプターのローター音が響いてきた。

 

「来た! 医療チームだ!!」

 

 小松が空を見上げて表情を明るくする。IGOのマークが入った大型ヘリだ。

 さらに、ドドドッと風を巻き起こす別のヘリの下には、見慣れたシルエットが駆けていた。

 

「子リーガルまで!!」

 

 トリコが驚きの声を上げる。

 

「チビ!! おかえり!! リーガルママ!! チビだよ!」

 

 俺が上空に向かって手を振ると、吊り下げられたチビが「パオォォ!」と元気な声で応えた。IGOの施設で無事に体内からジュエルミートを摘出してもらい、スッキリと身軽になったようだ。

 地上で待っていたリーガルママも、我が子の姿を認めて嬉しそうに長い鼻を持ち上げる。

 ゆっくりと地上に下ろされたチビと、迎え入れたママ。

 二匹のマンモスが巨体を寄せ合い、「ぱおぱお」と鼻を絡ませて感動の再会を果たしていた。その温かい光景に、その場にいた全員の顔が自然と綻んだ。

 長い長い、過酷な戦いが終わった。

 それぞれの再会と安堵を噛み締めながら、俺たちは怪我人たちと共にIGOの医療ヘリへと乗り込む。

 そしていよいよ。

 極上の『宝石肉(ジュエルミート)』の実食が始まるのだった……!

 

 

 

 

 無事、リンの手当ても終わり、彼女がパチリと目を覚ます。

全員がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、サニーはもう1秒たりとも待ち切れなかったようで、すぐさま宝石肉(ジュエルミート)の実食の準備へと移った。

 

「——お待たせいたしました。宝石肉(ジュエルミート)盛りでございます」

 

 恭しく巨大な大皿をテーブルの中央へと運んでくる。

 

「うっひゃあー来たァあ!!」

「キャー、ステキ!」

「こ……これが……宝石肉(ジュエルミート)……」

「なんて輝きだ……」

 

 トリコ、リン、小松、ココが次々と感嘆の声を漏らす。

 

「う……う……っ」

 

 見れば、サニーはあまりの美しさに感動してボロボロと大粒の涙を流していた。

 

「本物の宝石肉(ジュエルミート)だ……」

 

 かくいう俺も、視界が滲んで泣きそうになっていた。

 『トリコ』という作品において、この宝石肉(ジュエルミート)の魅力はあまりにも飛び抜けている。と思う。前世で当時漫画を読んでいて、マジでヨダレが出るほど美味そうだと憧れ続けた食材だ。こんなとんでもない食材を物語の序盤で登場させるのだから、そりゃあ人気漫画になるべくしてなった作品だろう。

 その実物を、今まさに目の前にしている。俺は圧倒的な感動に酔いしれていた。

 

 大皿に盛られた、光り輝く霜降り肉。

 ただシンプルに切り分けられて盛ってあるだけだというのに、肉の匂いがダイレクトに鼻腔の奥まで届いて脳髄を揺さぶってくる。

 

「月の明かりが霞んで見えるな」

 

 ココが夜空を見上げて呟いた。

 ここは第一ビオトープ研究所の屋上なのだが、一際この屋上だけが異常な光を放っている。

 

「まるでここだけ昼間のようだ。あれだけ巨大なリーガルマンモスの体内を、こいつが一つで照らしてたんだから当然か」

「トリコ!! お前の肌がやけにキラめいてんのも……」

 

 サニーが目を細めて指摘すると、トリコはニカッと白い歯を見せて笑った。

「ああ、俺は一足先にマンモスの体内で実食済みだ」

「やっぱりかっ!」

 

 原作通り、体内で食して細胞を進化させ、スタージュンを倒してくれたのだ。トリコには感謝しかない。俺の心からの感謝をよそに、トリコはさらに言葉を続けた。

 

「さっきトイレ行ったら、ウ◯コまでキラめいてたぞ」

「マジかよ! てかやめろ!! 気持ち悪ぃ!!」

「トリコさん! 食事前ですよ!!」

 

 サニーと小松からの猛烈なツッコミ。

 さすがトリコ。品がない。ココも「やれやれ、相変わらず品がないな……」と呆れたような表情をしている。俺も内心で激しく同意した。

 

「とにかく、食べようじゃないか!!」

 

 トリコの豪快な声を皮切りに、全員が姿勢を正して手を合わせる。

 

(うわ、すげぇ。この伝説の食卓に俺が居られてるの、感動すぎるかも……)

 

「「「「「「宝石肉(ジュエルミート)! いただきます!!」」」」」」

 

 前世でブラック企業に勤めていた時は、「お前は周りの人間が一口目を食べるまで絶対に手をつけるな」と教え込まれ、どれだけ腹が空いていてもがっつかずに待つのが染み付いていた。

 だが、今はもう待っていられない。我慢できない。

 ずっと、ずっと食べてみたかったんだ……! 本物の宝石肉(ジュエルミート)……!!

 

 俺はナイフとフォークを手に取り、少し大きめに肉を切り分ける。

 サクッ……。

 少しナイフを通しただけで、閉じ込められていた肉汁がブワッと打ち上がり、俺の唇に跳ねた。

 

(……なんだ……!?)

 

 たった一滴。肉汁が唇に触れただけだというのに、脳みそが痺れるほど尋常じゃない旨味が弾けた!

 肉汁に「早く食え」と強烈に催促され、俺はたまらず切り分けた肉をバクリと口の中へ放り込んだ。

 

(……っ!!!)

(なんなんだこれは……ヒレか!? いや、もっと……)

 

 自分への数少ないご褒美として、奮発して食べた数えるほどしかない高級肉。だが、その記憶にあるどの肉よりも圧倒的に芳醇で、柔らかい。

 ひとたび咀嚼すれば、口いっぱいに上質な脂がジュワァァァッと広がっていくのに、脂っこさやしつこさを全く感じない……!

 肉本来の暴力的なまでの旨みが、どストレートに味覚を殴りつけてくる……!

 

「わーっ、超光ってる!!」

 

 感動の渦に沈みかけていた俺の思考は、小松の驚きの声によって遮られた。

 

「ん?」

 

 ふと周りを見ると、トリコが超発光……というか、小松シェフも、リンも、ココも光っている。

 ていうか、俺もだ。サニーは…光りすぎてるな。

 自分の手を見て、肌の奥からチカチカと光が漏れ出しているのをハッキリと認識する。

 

(すげぇ、自分の体が中から発光する体験ができるとは……。でもなんか、ちょっと気持ち悪いなこれ……)

 

 俺がまじまじと自分の発光する腕を見つめている間にも、みんなの感想が飛び交う。

 

肝臓(レバー)だ! レバ刺しの食感! でも匂いやクセは全くない! しっとりとクリーミーな味わいだ!」

 

 トリコが目を輝かせながら咀嚼する。

 

「んー! バラ肉の濃厚な味! お肉と脂の層が何重にも重なって、口の中で解けるような感じ! 最高かもこれ!!」

 

 リンが両手を頬に当て、うっとりととろけそうな顔で叫ぶ。

 

「おっ、来たぞ、サーロインだ。口の中で一瞬で溶けた。かなりの脂肪分だが、なめらかでとても喉越しがいいな」

 

 ココが上品に口元を拭いながら、驚きと共に静かに微笑む。

 

「味と食感! そして部位の……カーニバルだな! まるで!!」

 

 極上の肉のカーニバルを堪能し、ふぅ、と一息ついたトリコが、グラスに注がれたワインをごくっと飲み干した。

 そして、満天の星が瞬く夜空を見上げ、満足げに息をもらす。

 

「ふぅー……こりゃあ……『決まり』だな……」

 

 その何気ない独り言に、隣で肉を咀嚼していたサニーがピクリと反応した。

 

「——今なんつった、トリコ?」

「ん、おっ!? サニー凄ェ輝きだなお前!!」

 

 トリコの声で、皆が肉から顔を上げ、ようやくサニーのとてつもない輝きに気がついた。

 

「サニーさんすごい! 一番輝いてますよ!」

「お兄ちゃんすご……」

「眩し……」

 

 あまりの眩しさに、小松、リン、俺が目を細める。

 

(そういえば、宝石肉(ジュエルミート)ってサニーのグルメ細胞に一番適合したんだったか。それにしても発光量バグってないかこれ……)

 

 俺が内心で眩しさに目を瞬かせていると、サニーは自身の輝きを意に介さず、ジロリとトリコを睨みつけた。

 

「なぁトリコ……今何つったんだよ?」

「何つったって、何が?」

「何か……『決まり』だとか言ってなかったか?」

「ああ。これだけの肉だ……入れてもいいかなと思ってな……」

「入れてもいいって……何にだ?」

 

 サニーも絶対にわかっているはずなのに、わざわざ聞いている。自身のフルコースの狙いと被るからこその、強烈な牽制だ。しかし、トリコは笑って悪びれずに言い放った。

 

「——俺のフルコースの『肉料理』にさ」

「わぁーーっ! トリコさん!!」

「賛成ーっ!」

 

 小松とリンが手放しで喜び、立ち上がって拍手する。

 そのまま、トリコのフルコースメニューの『肉料理』の枠に、黄金の宝石肉(ジュエルミート)がガチッとハマろうとした、その瞬間。

 

「ちょ待てーい!!」

 

 サニーがものすごい勢いで割って入り、手でバツ印を作って遮った。

 

「何すんだサニー、コラぁ!!」

「——何すんだじゃねーだろトリコ!! はやまっちゃいけねーぜ!!」

「はやまってねーよ、別に!!」

「てか、俺のこの輝きを見ろ!!」

 

 そう言って、サニーは自身に親指を突き立て、圧倒的な発光量を見せつけてきた。

 

「あぁ……うん……すげぇな……だから?」

 

 一際輝くサニーを見ても、トリコは全くピンときていない様子で首を傾げる。

 

「わかんねぇか? ——宝石肉(ジュエルミート)はまさに、俺を選んだくさくね?」

「くさくね? ってどーゆー意味だよ?」

「だからァ!」

 

 伝わらないトリコに呆れながら、サニーがため息をつく。

 そのやり取りを見ていたリンとココは、ようやくサニーの意図に気がついたようだ。

 

「まさかお兄ちゃん……」

「サニー、お前……」

宝石肉(ジュエルミート)は、俺の『メインディッシュ』に決定する!!」

 

 今度は、サニーのフルコースメニューの『メイン』の枠に宝石肉(ジュエルミート)がハマろうとして……。

 

「待てコラーって!!」

 

 すかさずトリコが止める。

 

「何すんだトリコてめぇ! コラァ!」

「うるせぇ! 何でお前のメインになんだよ!!」

「俺の方がピカピカしてっからだろうが!」

「ピカピカはカンケーねーだろ!!」

「てかそもそも、俺のおかげで宝石肉捕れたっぽくね!? 俺が倒したGTロボが一番強かったっぽいしな!」

「なワケあるか! お前寝ぼけてっと、10連くらわすぞコラ!!」

「来いや、はね返してやんよ!! で、こっちのモノクが『10転』くらわしてやるよ!!」

「なんでモノクがそっちなんだよ! モノクはこっちだろうが!! てか10転てなんだ!?」

 

(……いや、くらわせないよ。勝手にタッグ組むなよ)

 

 俺は面倒くさいので静かに視線を逸らした。

 

「あ、あのー……」

 

 見かねた小松が、おずおずと手を挙げて提案する。

 

「お二人のフルコースに、それぞれ宝石肉(ジュエルミート)を入れたらいいんじゃ……」

「「ならぬっ!!」」

 

 二人して、物凄い剣幕で同時に拒絶した。

 

「何か嫌だし、食材被るの!!」

 

「何ですかその理由はー! いいじゃないですか別にー!」

「ならん! ここはプライドにかけて俺の肉料理に!!」

「いや俺のメインだ!!」

「いやっ!」

「いーやっ!」

 

 お互いに一歩も譲らず、ガクガクと小突っぱり合いながらの長い言葉の攻防が続く。

 

「……もういいや。ボクらは食事をしよう」

「そうですね……ココさん」

 

 ココと小松がため息をつき、完全にあちらの二人を放置して肉の切り分けに戻った。

 俺たち三人は、彼らの喧嘩をBGMにしながら、絶品の宝石肉を黙々と堪能し始める。

 

「おーい、そんな言い合いしてる間に、肉なくなっちゃうかもよ?」

 

 俺がフォークに刺した宝石肉を揺らしながらからかうと、言い争っていた二人が「ハッ!」とこちらを振り向いた。

 

「「ぐぬぬぬぬ……!!」」

 

 ようやく埒が明かないと悟ったらしい。

 最終的に彼らが辿り着いた決着方法は、まさかの『ジャンケン』だった。

 

「最初はグー! ジャンケン……ぽんっ!!」

 

 トリコが出したのは『チョキ』

 サニーが出したのは『グー』

 

「あーーーーーーっ!! 負けたぁぁぁあああ!!」

 

 天を仰いで本気で悔しがるトリコ。

 こうして、伝説の食材『宝石肉(ジュエルミート)』は、激しい争奪戦の末、サニーのフルコースのメインディッシュに正式に決定したのだった。

 

 そして、宴はまだ終わらない。

 この極上の輝きと笑顔に包まれた夜の果てに——美食の魅力に完全に心を奪われた一人の新たな『美食屋』が誕生する。

 

 

 

 

 トリコは「俺の肉料理……」と未練がましく悔しがりながらも、「でもうめェッ! うめェッ!」と涙目で肉を頬張り続けている。

 一方のサニーは、自身のフルコースのメインディッシュに見事決定したことで、それはもう見せつけるように、めちゃくちゃ優雅に宝石肉(ジュエルミート)を味わっていた。

 俺も無言でひたすら食い続ける。これだけサシの入った極上の霜降り肉だというのに、胃もたれとか全くする気配がないんだもん。無限に食える。

 そして、しばらく経ち。

 

「そういや、小松はどこ行った?」

 

 サニーがふと、小松シェフがこの場にいないことに気づいた。

 

「ウ◯コじゃねぇ? キラキラの」

「気持ち悪ぃからやめろって言ってんだろそれ!!」

 

 トリコのデリカシー皆無な発言にサニーが青筋を立てた、まさにその時。

 ガチャリ、と屋上の扉が開いた。

 そこに立っていたのは、いつの間にか純白のシェフの服装に身を包んだ小松シェフだった。銀色のドーム状の蓋が被せられた大皿が乗ったワゴンを引いている。

 

「おぉ! 小松! なんだ! もしや調理したのか!?」

 

 トリコが期待に胸を大きく膨らませて立ち上がった。

 

(なんだ? こんな展開あったっけ?)

 

 俺は首を傾げた。たしか原作のこの頃は、小松シェフはまだ宝石肉(ジュエルミート)の直接の調理には携わっていなかった気がする。なんだ……?

 

「は、はいぃ……実は無理を言って、少しだけ調理させていただいたんですぅ……。皆さんに一つずつ分けられる程の量ですが……僕みたいなやつに、あ、ありがたいことに……」

 

 俺の介入のせいか原作と少し展開が変わっているようだ。

 

「何作ったんだ!? 見せてくれ!」

「は、はいぃ!! モノクさんに喜んでいただけるかどうか……こちらです!」

「え? 僕?」

 

 小松シェフが銀色の蓋をパカッと開けた。

 途端に、屋上をさらに眩く照らす黄金の光と、香ばしくも暴力的なまでに食欲をそそる油の香りが解き放たれる。

 その大皿に乗っていたのは——から…あげ……?

 

「おぉ! 美しい! 宝石肉(ジュエルミート)の、黄金の唐揚げか!!」

 

 サニーが目を輝かせる。

 

「は、はい! モノクさんが『唐揚げ』がお好きだということで! 唐揚げは基本鶏肉ですが…… 宝石肉(ジュエルミート)なら、肉の種類なんて些細な問題かと……!」

 

 ま、じか……。

 ブラックカーペットに向かう道中、俺が言った「唐揚げが好き」という言葉。それを覚えていて、わざわざ作ってくれたのか。しかも、この伝説の宝石肉(ジュエルミート)で……。

 

「う、うまそーっ! 良かったな! モノク!」

 

 トリコがバンバンと俺の背中を力強く叩く。

 

「いや、え、まじで? 僕なんかのために……ありがとう、小松シェフ」

「気にしないでください! ささ! 冷める前に早く食べてください!」

 

 ニコニコと笑う小松シェフ。

 ……すげぇな、この人。四天王全員からモテモテな理由が嫌というほどよく分かる。こりゃ惚れるわ。胃袋も心も同時に掴みにきている。

 ふと視線を感じて顔を上げると、トリコ、サニー、ココ、リン……全員がじっと俺のことを見つめていた。

 

「え、なになに?」

「お前が最初に食えよ! モノク!」

「え?」

 

「小松が、お前のために作ったんだ! 最初に食うべきだろう。早くしてくれぇ! 我慢がつらいぃ!」

 

 トリコが滝のようにヨダレを流し、今にも飛びつきそうなのを必死に堪えながら、すごく辛そうな顔で急かしてくる。

 

「わ、わかったよ! ありがとう小松シェフ! いただきます!」

 

 俺は黄金に輝くひと塊をフォークで刺し、大きく口を開けた。

 

「おい! モノク! 美しい感想…頼むぜ?」

 

 ——口に入れる、まさにそのコンマ数秒の瞬間。サニーがここぞとばかりに食レポの無茶振りをねじ込んできた。

 

 絶対に断れないタイミングを狙って言ってきやがったな! こうなったらやるしかないじゃないか……!

 俺は覚悟を決め、宝石肉の唐揚げにガブリと噛み付いた。

 

 ——サクッ。

 

「……カリカリの黄金の衣を破った瞬間、中に閉じ込められてた宝石の肉汁が一気に溢れ出してくる……!」

 

 俺は目を大きく見開き、身振り手振りを交えながら叫んだ。

 

「それにこれ、ただ肉汁が溢れるだけじゃない! 噛むたびに、口の中で光の粒が……パチッ、パチパチッて、まるで『線香花火』みたいに弾けて消えていくんだ! 弾けるたびに、濃厚なのに全然重くない、光みたいな旨味が脳みそまで突き抜けていく……!」

 

(——なんだこれ)

 

 言葉とは裏腹に、俺の内心はひどく静かな感動に包まれていた。

 あんなに光り輝いてるのに。暴力的なまでの美味さなのに。どうしてこんなに、優しい味がするんだ。

 小松シェフの、食べる人を想う優しい味付けのおかげか。……それとも、リーガルママの生命力か。

 

(前世で、母さんが作ってくれた唐揚げの味に……どこか似ている気がする。もう二度と食べられないと思ってた味に……)

 

 鼻の奥がツンと痛くなった。

 その唐揚げの味によって、再び前世の記憶が鮮明に脳裏をよぎる。

 

『アンタ無理してない? 電話も全然出ないし、仕事……辞めた方がいいんじゃない? 辞めて実家帰ってきたっていい——』

『あぁごめん母さん、職場から電話だ……じゃあ切るね』

『ちょ、ちょっと! 今週末よ! 唐揚げ作って待ってるか——』

 

 プツッ。最後まで聞かずに通話を切り、会社からの着信に出る。

 

『ワンコールで出ろって言ってるよな!? 何やってんだ早く会社来い!!』

『え、でも今日休み——』

 

 ツーツーと、無機質な音が鳴る。

 そしてこの日の深夜、俺は会社で倒れ——この世界に転生した。

 

(母さん……)

 

 週末、実家に顔を出す予定だったのに、行けなかった。

 二十歳を越えた俺をいつまでも子供扱いして、心配性な人だった……。

 会えなくてごめん、母さん。唐揚げ、食べられなくてごめん……。

 

 ツーッ……と。

 噛み締めるモノクの頬を、一筋の涙が伝い落ちた。

 

「あー! またモノクが泣いた!」

「気をつけろよ小松(まつ)! モノクはピュアなんだ! だが、(つく)しいぜその涙!」

 

 トリコとサニーが嬉々として茶化してくる。

 

「バカにしてるようにしか聞こえないよ、それ!!」

 

 俺は照れ隠しにツッコミを入れながら、手の甲でゴシゴシと涙を拭った。

 

「くそ、涙が止まんないっ……ありがとう小松シェフ……! うまい、うまいよっ!」

「そ、そんなに喜んでもらえて、僕も嬉しいですよぉ……!」

 

 俺の言葉に、小松シェフまでボロボロと泣き始めた。

 

「今度は小松が泣いたァ!」

「ピュアが二人もいるし、ここ」

「ハハ、良い空間だね」

 

 トリコが大笑いし、リンが呆れ、ココが優しく微笑む。

 

「よし、俺たちも食うか!」

「「「「いただきます!!」」」」

 

 トリコの声を合図に、全員が黄金の唐揚げへと一斉に手を伸ばした。

 

「んーーっ!! 衣サックサクでお肉ジュワ~! 唐揚げってちょっと重いイメージあったけど、これ全然いける!」

 

 リンが目を輝かせながら、あっという間に平らげる。

 

「ガハハ! こりゃたまんねェ!! 衣の中に閉じ込められてた宝石肉(ジュエルミート)の香りが、噛んだ瞬間に一気に爆発しやがる! 噛めば噛むほど湧き出る肉汁のスコールだ! あーくそっ、今すぐ白飯と山盛りのキャベツが欲しくなるぜ!」

 

 トリコは豪快に咀嚼し、口の周りをテカテカにさせながら歓喜の声を上げた。

 

「ふっ……。ただ揚げただけかと思えば、この計算し尽くされた薄衣……肉の(つく)しさを一切損なわず、むしろ『衣』という額縁で肉の輝きをさらに際立たせている。サクッとした食感と滑らかな肉質のコントラスト……完璧な(つく)しさだ、小松(まつ)!」

 

 サニーは目を閉じてうっとりと味わい、シェフの腕前を手放しで称賛した。

 そして、ココ。彼はナイフとフォークで切り分けた断面を静かに見つめ、知的な瞳を細めた。

 

「……驚いたな。宝石肉(ジュエルミート)の持つ強烈な細胞のエネルギーが、『揚げる』という工程でさらに活性化している。衣の中で熱と油が完璧な対流を起こし、肉の旨味のスペクトルを限界まで引き上げているんだ。……重層的で、どこまでも深く広がっていく味のハーモニーだ。素晴らしいよ、小松くん」

 

 小松シェフの技術と、肉の成分の相互作用を的確に見抜く、ココらしい食レポだ。

 

「ひゃあぁ……皆さん、ありがとうございますぅ……!」

 

 四天王たちの絶賛を浴びて、小松シェフは照れくさそうに顔を真っ赤にして身をよじらせた。

 夜空の下、極上の食材と最高の料理、そして笑い声が交差する。

 

 そして、俺はこの唐揚げを食べた瞬間、ある覚悟が決まった。

 ふーっと息を吐き、口を開く。

 

「サニー、僕……美食屋になるよ!」

「ふっ、ついに決まったかモノク」

 

 サニーが優雅にグラスを傾けながら、口角を上げる。

 

「あぁ。この唐揚げを食べて、僕も美食屋になりたいと心の底から思ってしまった。そして、サニー……それに小松シェフ。二人に許可を貰いたい」

「許可……? ですか……?」

「モノク……まさかお前……!」

 

 小松シェフがよくわからずきょとんとする中で、サニーは生粋の美食屋として、俺の真剣な表情を見てその真意に気づいたようだ。

 俺は立ち上がり、全員に向けてはっきりと宣言した。

 

宝石肉(ジュエルミート)の黄金唐揚げ。——僕のフルコースの肉料理にしたい——!!」

 

「なにィ!」

「ええええェ!!」

 

 トリコと小松が目を丸くして驚愕の声を上げる。

「いいいい良いんですか!? モノクさん、僕なんかの、『料理』ですよ……?」

「小松、お前わかってねぇな!」

 

 慌てふためく小松の肩を、トリコがガシッと掴んで笑った。

 

「基本的に、美食屋のフルコースってのは『食材』を入れるもんだ。特定の『料理』をフルコースのメニューに入れるってことは……食材そのものの価値以上に、その料理を作った『料理人』を評価し、一生その味を愛し続けるってことだ! 良かったな、小松!!」

「ひゃあああ……光栄すぎますぅ……!!」

「あ、で、でも……サニーさんが……」

 

 感極まる小松だったが、ふと我に返り、隣で優雅に座っているサニーをチラリと見た。

 無理もない。先ほどまで「被るのが嫌だ」と豪語してトリコと揉めに揉め、ジャンケンでようやくメインディッシュの座を勝ち取ったばかりのサニーだ。

 

「あぁ、俺の時と同じようにジャンケン——」

「いいぜ」

 

 トリコがまたジャンケンかと言いかけたところで、サニーがあっさりと、本当に普通に許可を出した。

 

「え、いいの?」

「なにィ!? 待てサニー! 俺からジャンケンで奪ったじゃねぇか! モノクと被るのは良いのか!?」

「被ってねぇし。俺のは宝石肉(ジュエルミート)という『食材』で、こいつのは宝石肉(ジュエルミート)の黄金唐揚げ。立派な『料理』だろ」

 

 良いのかそれで、とトリコが突っ込みかけるが、サニーはフッと美しい笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「それにトリコ。仮に……仮にだが!!! お前が俺にジャンケンで勝ってフルコースに入れてたとして。今誕生したばかりの(つく)しい美食屋が『フルコースに入れたい』と目を輝かせてるのに、お前は断るのか?」

 

 その言葉に、トリコは虚を突かれたような顔をした後、フッと優しく笑った。

 

「——いや。俺も許す」

「だろ? てことで、モノクいいぜ。お前のフルコースに入れるのを、この俺が許可する」

「あ、ありがとう! サニー!」

 

 サニー……なんて美しい男なんだ。こんなにも優しくて器のデカい人だとは。

 そして、俺の頭の中で俺の人生のフルコースメニューに、記念すべき一つ目のピースがガチッとハマった。

=========================

【モノクのフルコースメニュー】

■オードブル:

■スープ:

■魚料理:

■肉料理:『宝石肉(ジュエルミート)の黄金唐揚げ』[捕獲レベル48]

■メインディッシュ:

■サラダ:

■デザート:

■ドリンク:

=========================

 

「つーか、モノク。お前、美食屋じゃなかったの?」

 

 ふと、トリコが不思議そうな顔で聞いてきた。

 

「で、ですよね!? 僕もてっきり美食屋だと……」

「あたしもバリバリの美食屋だと思ってたし」

「あんだけホイホイ新食材作り出しといて、美食屋じゃねーって無理あるだろ」

 

 俺を指差しながら呆れるトリコたちに、俺はぶんぶんと首を振った。

 

「美食屋じゃなかったよ! 美食屋としての覚悟も、レベルも全然足りてなかった! ……僕なんかが美食屋を名乗ったら、本物の美食屋のみんなに失礼でしょ!!」

 

 前世で原作を読んでいて、彼らの過酷な冒険や信念を知っていたからこそ、俺は簡単に「美食屋」なんて名乗れなかったのだ。中途半端な気持ちで足を踏み入れていい領域じゃないと。

 

「失礼なんて、そんなことねぇ」

 

 トリコが、力強く言い放った。

 

「お前の食材に対する想いも、レベルも……俺たちとなんら変わりねーと思うぜ?」

「そうだよ、モノク君。君の細胞も、意志も、すでに立派な美食屋だ」

 

 ココが微笑み、サニーやリン、小松も深く頷く。

 

「それは今日、一緒に行動してれば誰でもわかる。覚悟が足りてねぇ? お前、スタージュンを足止めするために相当無茶したようじゃねぇか」

「スタージュン……って、あのGTロボ!?」

「あ、あの人と戦ったんですか!? モノクさん!」

 

 リンと小松が驚愕の声を上げる。

 

「あぁ。奴が言っていた。宝石肉(ジュエルミート)を食う前の俺に……『モノクの方が俺より勝機がある』と」

「マジかっ!!」

「そこまでのレベルなのか……君は」

 

 ココが驚きに目を見張る。「いや、違うんだ! ――」と俺が否定するよりも早く、トリコがドンッと胸を叩いて続けた。

 

「あぁ、ありゃ相当買ってたぜお前のこと。宝石肉(ジュエルミート)を食わなきゃ、俺は奴に全く歯が立たなかった。そんなの相手に単身で無茶できるお前が、覚悟がねぇだと? ねぇわけねぇ、ありまくりだ! お前は最初っから美食屋だったんだよ!! もっと自分を高く評価しろよモノク!! お前はすげーやつだ!!」

「トリコ……」

 

 トリコの……大好きな主人公のその熱い言葉に、俺の心は強烈な衝撃を受けた。

 

 こんなに、人に真っ直ぐ認めてもらえたのは初めてだった。

 美食屋になると宣言するのも、サニーにフルコースの許可を貰うのも、原作を知っている俺からすれば、めちゃくちゃ勇気を振り絞った行動だったのだ。

 フルコースも、美食屋としての覚悟も、どちらも彼らに認めてもらえた。その事実に、俺の目はまたしても抗いようもなく潤んでいく。

 

「あ! また泣いてるし!」

「トリコさん気をつけてくださいよ! モノクさんはピュアなんですからっ」

「本当、よく泣くなーモノク」

 

 リンにはやし立てられ、小松シェフまでもがニコニコとイジってくる。トリコは両手を腰に当てて「まったく」といった感じで大笑いしている。

 

「誰のせいで泣いてると思ってるんだ……!! しかも、小松シェフまでイジってくるなんて!!」

「あはは、すみませんすみません。いつも泣いてるな〜と」

「まだ言うか!!」

 

 俺の泣きながらのツッコミに、夜空の下、屋上には大きな笑い声が響き渡った。

 ひとしきり笑い合った後、トリコがワイングラスを高く掲げた。

 

「——それじゃあ、宝石肉(ジュエルミート)の捕獲と!!」

「——新たな(つく)しい美食屋モノクの誕生に!!」

 

 サニーがグラスを合わせ、ココ、小松、リン、そして俺も満面の笑みでグラスを掲げる。

 

「「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」」

 

 澄み切ったグラスの音色が、第一ビオトープの夜空にいつまでも心地よく響き続けていた。

 

 

 

 

 後日。IGO本部、会長室。

 眼下に広大な人間界の景色を見下ろす最上階の部屋に、IGO開発局長であり第一ビオトープ所長であるマンサムが足を踏み入れた。

 

「おー、よく来たの。ま、どこでも座ってくれ」

 

 巨大なデスクの奥で、IGO会長・一龍が書類から顔を上げずにのんびりとした声をかける。

 その言葉を聞いた瞬間、マンサムは大真面目な顔で叫んだ。

 

「今ハンサムって言った!?」

「全く言っとらんわい!!」

 

 一龍がすかさずツッコミを入れ、呆れたようにため息をつく。

 いつものお決まりのやり取りで場の空気が少し緩んだ後、マンサムは勧められたソファにどっかりと腰を下ろした。

 

「それで会長。呼び出しの理由は」

「あぁ、宝石肉(ジュエルミート)の捕獲ご苦労じゃった。美食會の手にも渡らず、完璧じゃったな」

「はい。四天王と……モノクの功績が大きいかと」

 

 マンサムの報告に、一龍は満足げにうなずきながら顎髭を撫でた。

 

「少し聞いたわい。奴もかなり無茶したらしいの。美食會の若造相手に、よく立ち回ったもんじゃ」

「……ですが、会長。よくモノクを今回の作戦に加えましたね」

 

 マンサムの表情が、少しだけ険しいものに変わる。

 

「第一ビオトープの件で腕が立つのは証明されていましたが、IGO職員の中には、彼の出自の不明さや異常な知識量から、『美食會との繋がり』を危惧する者も多いのですよ」

「はぁ、ホント組織ってめんどくさいのぉ……」

 

 一龍は心底面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「そんなの、あやつが飯を食ってる表情を見れば一発でわかるわい。あんなにも美味そうに、幸せそうに食うやつに悪い奴はおらん! ワシから職員には良く言うておく。……光才老か? それともラモンか?」

「……どちらもです」

 

 マンサムが渋い顔で答えると、一龍は「はぁぁ……全く……」とさらに深いため息をつき、手元の書類をペシッと弾いた。

 

 その時、ふとマンサムの視線が、一龍の机の上に無造作に置かれている複数のメモ書きに止まった。

 そこには、世界に点在する過酷な環境と、それに紐づく多数の特殊な食材の名前が記されている。

 

「会長……それは……?」

「ん? これか? あやつらのために食材の捕獲を依頼しようと思ってな。色々考えながらピックアップしとるんじゃ」

「なるほど。来るべき時に向けて、四天王のパワーアップを計るのですね」

 

 マンサムは深く納得したように頷いた。

 

「会長がグルメ界に行かれれば、この人間界を支えるのは自ずと四天王になる……。現在服役中のゼブラの分もあるのですか?」

「あるぞ、ほれ」

 

 そう言って、一龍は机の上のメモ紙をバサッとマンサムに手渡した。

 マンサムは受け取ったメモを一枚一枚、真剣な眼差しで捲っていく。

 

「ほう……どれも中々骨の折れる食材ばかりですな。今の四天王でも、一筋縄では行かないでしょう。……ん?」

 

 マンサムの手が、ふと止まった。

 トリコ、ココ、サニー、ゼブラ。四天王それぞれに宛てられた依頼書。

 しかし、マンサムの手元には、まだもう一枚の紙が残されていたのだ。

 

「5枚……? 会長、この5枚目はもしや……!」

「あぁ」

 

 一龍は窓の外の果てしない空を見つめながら、ニカッと豪快に笑った。

 

「これからの時代を支えるのは四天王だけじゃないかもしれんなぁ……」

 




食レポシーンが減る理由がわかりますね。同じようなセリフしか書けなくなります…
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