過労死したから美食屋なろう   作:ボーイッシュ大好きっ子

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アイスヘルを楽しみにしていた方がいらっしゃったら申し訳ないですが、アイスヘルにモノクは同行しません。モノクを入れる余地があまりなくて話が浮かびませんでした。

今後の構想なんですが、全てトリコに同行するわけではなく、サニー、ココ、ゼブラの修行食材に同行して、そっちを掘り下げるのも面白いかなぁと考えています。その方向で話を練っていますが、未だに「オゾン草」と「メテオガーリック」に同行するかしないかが決めきれていません。

ベジタブルスカイはめちゃくちゃ好きなんですが、トリコと小松がコンビを組むための大切なエピソードなのでモノクが同行するのはおかしいかなーと思いますし、メテオガーリックはアイスヘル同様モノクが入る余地があまり無くて…

なので、オゾン草とメテオガーリックに同行するかしないかアンケートに回答していただけると助かります。
前書き長くてすみません。





センチュリースープ & オゾン草 & 星屑
8話


 

 

 まだ日が昇りきらない、ひんやりとした早朝の第一ビオトープ。

 背後からは、山のように巨大なリーガルママと、その横で丸まっているチビの規則正しい寝息が聞こえてくる。

 出発前に、俺は日課となっている菜園と養殖場の見回りに出た。

 

 まずは大きめの鉢植えが並ぶエリア。

 最初は小さな小鉢で一つ一つ試行錯誤していたが、今ではこの大きめの鉢植えにタマネギの微塵切りをたっぷりと敷き詰めることで、鉢一つで7、8個は収穫できる量産体制に入っている。

 そこから少し太めの茎が伸びてきているが……なんとなく、寝心地が悪いのかな、と訴えかけられているように感じた。食材から文句や要求がある時は、決まってこうした微かな違和感が伝わってくるのだ。

 俺は無言でしゃがみ込み、土の代わりのタマネギを優しく撫でて平らにならしてやった。

 

 

 次は湯脈地帯の周辺へ。

 温泉の成分が直接混じり込まない、絶妙なラインの土壌。俺は赤いとうがらしの中に、育ち切らなかった小ぶりなにんじんがピッタリとハマったものを手に取る。

 

(…ボーンシザース)

 

 先端部分を綺麗に切り揃え、その先端側が土から少しだけ顔を出すように等間隔で植え込んでいく。

……うん、何も感じない。土の温かさはちょうどいいようだ。

 

 

 少し歩き、林の入り口にあるいくつかの切り株の前で足を止める。

切り株に設けたコルクのような木の栓を、キュポッと外して切り株の中を覗き込んだ。

 たっぷりと注いでおいた琥珀色の液体が、半分ほどに減っている。

 

(うん、結構吸ってるな。そろそろ生えてくるか)

 

俺は満足して栓を戻した。

 

 

 続いて、果樹のエリア。

 俺は腰の袋から、小指サイズの赤い宝石を取り出した。

 枝になっている、まだ青く小さなリンゴ。その中心に、ルビーを一つ一つ無言でねじ込み埋め込んでいく。

 果実一個に対して、宝石が一個必要になる。こればかりは効率的な生産体制を作るのは難しいだろうなぁ……。

 

(でも、サニーに大量に作れってお願いされてるしな)

 

 ため息を飲み込み、根気よく作業を続ける。

 

 

 次は、土から芳醇な肉出汁の香りが漂う畑。

 水やりはせず、捕獲した肉食獣の肉と骨を煮込んだ『肉汁やり』を行っている場所だ。

 俺は土から生えている大きな白菜の前にしゃがみ込み、最後の仕上げに取り掛かる。

 葉が剥けないように細心の注意を払いながら、全体を包み込むように丁寧に揉みほぐしていく。適度にほぐれたのを確認すると、丈夫なツルでぐるぐるとローストビーフのようにキツく縛り上げた。あとは待つだけ、放置だ。

 

 

 最後に、拠点近くの大きな池。

 俺は水面に顔だけをつけて、水中を覗き込んだ。

 底の方では、5体のマッスルクラブがせっせとスクワットをして筋トレに励んでいる。そして、その熱気の中心には大量の二枚貝が並べられていた。

 

(うん。マッスルクラブも良い汗かいてるな)

 

 

 ひと通りの見回りと世話を終え、顔を上げて水を拭う。

 振り返ると、いつの間にかリーガルママとチビが目を覚まし、こちらを静かに見下ろしていた。

 

「……ちょっと行ってくるね。呼ばれたから」

『パォッ』

 

 短く、落ち着いた返事が返ってくる。

 昔のように、どこへ行くにもべったりと付いてくるような過保護さはもうない。

 今後のことを考えれば、俺もそろそろ親離れしなきゃいけないし、子離れしてもらわなきゃならない。

 互いのささやかな変化を感じながら、俺は小さく手を振り、呼び出し先へと向かうべく第一ビオトープを出発した。

 

 

◇

 

 

 ドアノブを捻り、特にノックもせず部屋に入る。

 中に入ると、広大な部屋の奥から豪快な声が響いた。

 

「おー、よく来たの」

 

 出迎えてくれたのは、見事な金髪にサングラスをかけた筋骨隆々な男——IGO会長、一龍だった。

 

「こんな朝から呼ぶなんてひどいけどね」

「ふぉっふぉっ、年寄りは早起きなんじゃ。……おぬしも大変らしいの。テレビをつけると、どのチャンネルもお前さんしか映っとらん。つまらんの」

「つまらんとはなんだ、つまらんとは」

「新食材の生産、販売を全ての人間に許可……あれは流石にやりすぎだのぉ。マンサムが頭を抱えてやけ酒しておったぞ」

「あんなに育成が簡単なのに、一部で独占されて供給が間に合わなかったら嫌でしょ。食べ物はみんなで食べなきゃ」

 

 俺がそう答えると、一龍はどこか懐かしむように目を細めた。

 

「トリコみたいな考え方じゃな」

 

 一龍は嬉しそうに顎髭を撫で、それから少しだけ声のトーンを落として続けた。

 

「しかし、マンサムには『適当にやったらできた』と説明しておったそうじゃが……。確かに、『育成法』さえわかれば、誰でも量産できる食材のようじゃ。しかし、あの複雑な手順や環境条件を、ただの適当や偶然で導き出したとは思えんな。偶然でできるのは精々オニオントマトぐらいじゃろ。あれは小学生の自由研究レベルじゃったからな」

「……それ、持ち上げてるの? 貶してるの? どっち? 別に、全部できないかなーって軽い感じで——」

「お前さん」

 

 言葉を遮るように、一龍のサングラスの奥の瞳がスッと細められた。

 その瞬間、部屋の空気が微かに、だが決定的に重くなる。

 

「——『食材の声』が、聞こえておるな?」

「……」

 

 誤魔化しは通用しない。この世界における食の頂点に立つ男には、俺の底などとうに見透かされているらしかった。

 俺は少しだけ肩をすくめ、小さく息を吐いた。

 

「あぁ。まぁ、なんとなく『わかる』程度だけどね」

「そうか。やはり聞こえておるか」

「なんとなくだよ。ホントになんとなく。嫌そうだなとか良さそうだなとか、雰囲気でしかわからないけど」

 

 俺が俯きながら答えると、一龍は太い指で顎髭を撫でながら、感心したように深く頷いた。

 

「ふむ、しかし食材の調理時ではなく、食材の創造の為の力か。『あの方』しか知らぬから分からぬが、料理人のみだと勝手に思っておった」

「あー、フローゼ様?」

「おぬしなんでも知っておるの。逆に話しやすいわい。フローゼ様は食材の声を完璧に聞けておった。おぬしも今後もっと細かく聞けるようになるかもしれんの」

 

 どうだろう。神の料理人と呼ばれたフローゼ様は、流石に次元が違いすぎるだろうし、自分の成長のモデルケースとして参考にするにはあまり当てにはならない気がする。俺のこの中途半端な能力が、そこまで都合よく進化するとは到底思えなかった。

 

「まぁ、ひとまずは修行かな」

「うむ、美味いもんいっぱい食って、さっさとグルメ細胞を使いこなせるようにならないと、四天王に置いてかれるぞ?」

 

 一龍は意地悪くニヤリと笑い、俺がまだグルメ細胞の力を十全に引き出せていないことを、わざと強調するように言ってくる。

 

「会長だって使ってないくせに。ドンスライム、たまには使ってあげたら?」

 

 俺がさらりと放った悪魔の名に、一龍は一瞬だけ目を丸くして固まったが、すぐにガハハと豪快に笑い飛ばした。

 

「いいんじゃよ、こいつはワシの話し相手ぐらいがちょうどいい」

 

 一龍は自身の腹のあたりをポンポンと軽く叩くと、ふっと纏う空気を変え、声音を真剣なものに落とした。

 

「それにな、モノク。ワシは確固たる信念を持ってグルメ細胞を使っておらん。ずっとじゃ。特に信念もなく自分を縛ったところで、大した高みへは登れんぞモノク。くれぐれも、ワシがカッコいいからと言って真似するようなマネは——」

「しないしない、絶対しない。グルメ細胞は何がなんでも使いたいんだ。トリコたちみたいに『うおぉおおおっ』て力入れて、背中にバーンって悪魔を出したいよ。絶対やりたいと思ってる」

 

 俺は食い気味に全力で否定し、子供の頃の夢である「背中にグルメ細胞の悪魔を顕現させる」という熱い野望を熱弁した。

 

「ほっほっほ」

 

 一龍は腹を抱えて愉快そうに笑った。

 

「そうかそうか、そのぐらいの想いがあるのなら、そう遠くない日に使えるようになるじゃろう。しかしモノク、お前さんどこか達観してるようで、急に子どものようになるの。小学生か?」

「うるさいな」

 

 しょうがないだろう。少年漫画の世界だぞ? こんなワクワクする世界に転生してしまったら、誰だって心は少年に戻るに決まっている。

 

「それで、これからどうするか決まっておるのか?」

 

 一龍の言う『これから』というのは、今日の午後とかそういう次元の話じゃなく、俺が今後どう生きていくかということだろう。

 

「やっと色々落ち着いたし、ついに美食屋としての第一歩を踏み出そうとしてるところだよ」

「もう二、三歩は踏み出してそうじゃが、まぁいい。お前さんが記者会見やら、リーガルマンモスの連れ出し許可の手続きに時間を取られている間に、サニーにココ、トリコも色々捕獲しておるぞ」

「いやぁ……記者会見はヨハネスさんがささっと切り上げてくれたから助かったけどね。……チビの手続きが中々難航したよ」

 

 俺は当時の書類の山を思い出して、やれやれと肩をすくめた。

 

「当たり前じゃろ!! あんな巨体を連れ歩く許可など、すんなり下りるわけないわい! 色々条件を出されたじゃろ?」

「うん。街と集落の三キロ圏内には入れるなとか、移動する場合は事前に連絡を入れろとかね」

「まぁ無難じゃな。毎度毎度、三キロも離れた位置に待機させるのもちと可哀想じゃが、こればかりは仕方ないじゃろ」

「そうだね。それでもチビは付いて来たいって言うし、我慢してもらうよ」

「うむ。お前さんも何かチビのために捕獲しに行ったらどうじゃ。最近トリコはパートナーアニマルのバトルウルフのために『BBコーン』を捕獲しに行ってたの。——そして、そこで美食會と接触したそうじゃ」

 

 BBコーン。つまり、グリンパーチと遭遇したということか。トリコなら無事に切り抜けられたはずだが…

 

「どうなった?」

「決着が着く前に去っていったと報告を受けとる。あやつら、どんどん動きが活発になっておるわ」

 

 一龍はそこで言葉を区切り、「まぁ、こんな話はよい」と軽く手を振って話題を戻した。

 

「それよりもモノク、生活する金はどうするんじゃ。まさか自給自足で生活するわけじゃなかろうな?」

 

 うーん…そうだよなぁ、やっぱりいるよなぁ、金。

 ある程度の身の回りの物とチビの莫大な食事代は、特例としてIGOがある程度工面してくれたが、無限じゃない。これから遠出するにも何かと資金は必要になる。

 

「新食材の権利、ぜーんぶタダで配ったから、稼ぐツテもないじゃろう?」

「いや、まぁ……」

「そんな困ってるお前さんに、ワシから依頼をしようと思ってな。もちろん金は出すぞ?」

 

(依頼? 修行食材のことだろうか? でもあれはもう少し後だし、それはトリコ達四天王の為のはず…。別件だろうか)

 

 一龍の提案に、モノクは少しだけ姿勢を正した。

 

「お金が出るならありがたいけど……どんな依頼?」

「うむ。お前さんにはこれから、百年に一度現れると言われる幻のスープ……せぇんちゅりぃぃすぅぅ——」

「やだ」

「即答か!! お前さん、生活する金が必要なんじゃろがい!」

「お金は欲しいけど! やだ! アイスヘルじゃん、寒い!」

 

 食い気味に断る俺に、一龍が身を乗り出してツッコミを入れてくる。

 

(アイスヘルかぁ…)

 

 あそこは、トミーロッドとトリコの作中屈指の激闘が繰り広げられる場所だ。原作通りなら、トリコはあの戦いで左腕を失うことになるのだが。

 もし、俺が同行することによって、最悪の方向に話が変わってしまったらまずい。片腕だけでは済まないかもしれない。原作通りに進むよう、同行はなるべく避けたいんだ。

 

「それに、どうせ行ったってスープ飲めるの1人だけだし」

「ほう?」

 

 一龍の片眉がピクリと動いた。

 原作の知識として、グルメショーウインドウの崩壊と最後の一滴の行方は知っている。

 

「やはり、グルメショーウインドウはもうだめなのか?」

「だめだろうね。無理やり捻り出して1人分かな」

 

 実際は、3人分ぐらいの量は残っているはずだが、美食會に盗られるから実質、絞り出して出せる1人分しかない。

 

「お前さんがもうダメだと言うのなら、そうなんじゃろう。しかしそうか……もうだめか……。切ないもんじゃのう……」

 

 一龍は俺の言うことを疑いもせず、しみじみと感傷に浸った。

 

(こんだけペラペラ原作知識話してるのに、一切理由を聞いてこないこの人も凄いよな。気になるだろ普通。まぁ、だからこそ…この人の前では気にせず話せるんだけど)

 

「実は再生屋の与作という男にも再生の依頼は出とるんじゃが、あやつのことじゃから、ちゃんとやるかどうか怪しいもんでな。お前さんにも頼みたかったんじゃが」

「あー、大丈夫でしょ。たぶん」

 

(実際にアイスヘルに行くのは鉄平だけど……)

 

「うむ……お前さんもああいう極寒の環境に順応できるようにならねばいけんのじゃぞ? 一度は経験しておいたほうが……いや、まぁよいわい。今回は大人しくトリコたちと与作に任せるとしよう」

 

 一龍は少しだけ呆れたようにため息をついた。

 

(うん、それがいいと思う。トリコと鉄平だけど)

 

「なら、別の仕事を頼むとしよう。お前さんには『ある場所』へ行ってもらいたい」

 

 (仕事…嫌な響きだなぁ…今このタイミングで、アイスヘルではない別の場所? どこだ?)

 

「実は旧友に仕事を頼んだんじゃが、ちと大変な仕事でな。それ以外の他の仕事は娘に任せて、そやつは家を当分留守にすることになったんじゃ。そやつも腕が立つからの、娘のため食材やら仕事の材料やらは家を発つまでに大量に集めといたそうじゃ」

「へえ、娘思いだね」

「親バカとも言うの。ずっと、娘は天才とごにょごにょ言っとるし」

 

(天才かぁ、親バカ確定っぽい。ん? ごにょごにょ……?)

 

「しかしワシの依頼に取り掛かる前日に、あれを忘れたとか、足りなかったかもしれんとかごにょごにょ言い出しての。まぁ一応ワシが依頼を出した手前、むげにもできん。IGOから事前に連絡は入れてあるから、おぬし行ってきてちょ」

 

「このタイミングで行くことになるんだ……そこ」

 

『ごにょごにょ』としか聞こえない極端に小さな声、大仕事を任された旧友、そして留守を預かる天才の娘。

思わず天を仰いで呟いた俺を見て、

 

「なんじゃ、今の話だけでどこ行くか分かったのか? さすがじゃ! 午後に向かうと伝えてあるじょ! じゃ、よろしく!」

 

 一龍はニカッと豪快に笑い、パンッと手を叩いて強引に話を終わらせようとした。

 有無を言わさず決定事項として送り出されそうになり、俺は慌てて身を乗り出す。

 

「ちょ、ちょっと待って! 一応念のため聞くよ! その場所って……」

 

 両手をパタパタと振って制止し、食い下がるように問い返すと、

 

「お、そうじゃな。伝わってなかったら怖いしの。おぬしに限って、そんなことはなさそうじゃが。場所は——」

 

 一龍は太い指で顎髭を撫でながら、ニヤリと笑ってその名を口にした。

 

 

◇

 

 

バタン、と重厚な扉が閉まる音が会長室に響いた。

 部屋から出ていくモノクの背中を見送った一龍は、フゥと息を吐きながら、巨大な特注のソファーにドカッと腰を落とした。

 

「あやつめ、一丁前なことを言いおって……」

 

 天井を見上げながら、つい先ほどの別れ際のやり取りを思い返す。

 

『わかった。じゃあ午後から行ってくるよ』

『助かるわい、気をつけてな』

『会長もだよ?』

 

 部屋を出ようとしたところで不意に振り返り、モノクはそう言ったのだ。

 

『なにがじゃ……?』

『色々動いてるんでしょ? 歳なんだから、あんまり無理しないでよ?』

 

 その言葉に、一龍は思わず少しだけ目を見開いてしまった。

 ワシらが世界の裏側で何を見据え、何と戦おうとしているのか。モノクがどこまで知っているのかは分からないが、その瞳には嘘偽りのない、純粋な気遣いだけが浮かんでいた。

 

『ほっほっほ、こんなか弱いお年寄りが無理などできるか』

『胸筋ピクピクさせながら言うなよ……んじゃ、また報告しに来るよ』

 

 呆れたように笑いながら去っていった青年の姿を思い出し、一龍はふっと口角を上げた。

 

「まったく、ワシの心配する前に自分の心配せぇ……」

 

 そう毒づいてはみたものの、悪い気はしなかった。

 強大な力を持つが故に、頼られ、あるいは警戒されることはあっても——あんな風に、本気で心配しとる表情を向けられたのなんて、いったい何百年ぶりじゃろうか。

 記憶の奥底から、優しくて、どこまでも温かい声が蘇る。

 

『——一龍、四獣はかなり手強いわよ。あんまり無理しないで。無事帰ってくるのよ……』

『大丈夫ですよフローゼ様。オレはちゃんと帰ってきますって』

 

 それは、まだ自分が若く、血気盛んだった頃の記憶。

 神の料理人と呼ばれた彼女は、いつだって自分たちを満たし、そして誰よりも案じてくれていた。

 

(一瞬、あやつの表情がフローゼ様と重のうたわ……)

 

 もちろん、見た目も性格も全く違う。それでも、誰かを心から案じるあの真っ直ぐな瞳の奥に、かつての大切な人の面影を見てしまったのは、自分が本当に歳を取ったせいかもしれない。

 

「ふぉっふぉっ……年寄り扱いも、たまには悪くないの」

 

 呆れ混じりに独り言ちて、一龍はテーブルの上に乗っている紙袋へと手を伸ばした。

 モノクが「お土産」と言って置いていった紙袋。その中から、真っ赤に熟した艶やかな『オニオントマト』を一つ取り出す。

 ガブリ、と一口。

 シャキッ!という小気味良い音と共に、瑞々しいトマトの甘味と、玉ねぎの心地よい刺激が口いっぱいに弾けた。

 

「……うまいのぉ……」

 

 それはただの美味しい食材というだけではない。作る者の優しさと、食べる者への気遣いがぎゅっと詰まったような、ひだまりのように温かい味がした。

 

 誰もいない静かな会長室で、一龍は目を細め、世界で一番幸せそうな笑みを浮かべながら、その味をゆっくりと噛み締めていた。

 

 

 




皆さんの感想、ニヤニヤしながら見てます。

アンケート2つ同時が無理だったので、次話でメテオガーリックのアンケート取ります。

オゾン草

  • 同行する
  • 同行しない
  • 誰かと別日に行く
  • 1人で行って高速二噛み習得する
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