悪夢 作:samiho
その日の僕は、仕事のプロジェクトルームにいた。
見覚えのあるようなないような、しかし夢の中の僕にとっては間違いなく「いつもの職場」である空間だ。仕事仲間が突然「手術に行きます」と宣告してくる。事情を知らずに固まっていると、同期がそっと教えてくれた。体調が悪くて、よく吐くようになってしまったらしい。心配ではあるが、夢はこの伏線を回収する気が一切ないので、この話はここで終わる。彼の手術の成否は、永遠に不明である。お大事に。
僕はソフトウェアのパッチを当てるため部屋を出ようとした。夢の中でまで仕事をしている。偉い。誰か褒めてほしい。
すると、誰かに絡まれた。手を掴まれる。
その瞬間、僕は理解した。——このまま引っ張れば、こいつを転倒させられるぞ。
引っ張った。相手は頭から転倒した。相手に悪意はあったと思う。ただ、認めよう。あの瞬間、僕にも確かに悪意があった。夢の中の僕は、現実の僕より少しだけ好戦的である。
部屋を出ると、そこは実家だった。プロジェクトルームの扉の先が実家。距離にして数百キロはあるはずだが、扉一枚で繋がってしまった。おかしい。だが夢の中の僕は一切の違和感を持たず、当然のように実家の階段に腰を下ろした。そして、さっきの相手を待ちながら、階段にスマホをセットする。カメラ、録画開始。
夢の中の僕は、次に何が起こるか分かっているかのように準備がいい。夢だから当然かもしれないが、それを言ったら負けである。
果たして、そいつはバットを持って襲いかかってきた。
普通なら恐怖する場面である。しかし僕の内心はこうだった。
——よし、カメラに撮れたぞ。しめしめ。
先に手を出したのはお前だ(僕が転倒させた件は棚に上げる)。バットという凶器を持ち出したのもお前だ。そしてその一部始終は、すべて録画されている。過剰防衛?知らない言葉だ。
相手は僕のスマホに気づいたのか、自分のスマホを投げつけるなど何やかんやの抵抗をしてきた。攻防の中でガラスが割れ——なぜか階段が、僕側と相手側に分断された。どこのガラスがどう割れたら階段が分断されるのか、物理法則は一切不明だが、とにかく通行不可である。夢の建築基準法はザルだ。
僕は冷静に自分のスマホを回収し、ついでに相手のスマホも回収した。証拠は多いほうがいい。相手の犯行の記録が入っているかもしれないし。
階段を降り、外に出て、警察に電話をかける。
——というところで、目が覚めた。
通報の結果は分からない。犯人がその後どうなったのかも分からない。だが僕は確信している。あの裁判、勝てた。