ある少年がそう言った。
少年の目に曇りはなかった。
『...世界を救う、か。』
だが、龍の目はそうではなかった。
『いいか、少年。英雄になるっていうことはな...』
『自分が地球上で最も嫌う存在に、成り下がるってことだ。』
龍は静かにそう言った。
その目に宿るのは、自嘲、悲哀。
その龍の背中に、もはやかつての威厳はなかった。
─────────────────────
「...。」
その龍は、己の右手を眺めながら、火山の縁に腰掛けていた。
龍は昔のことを思い出していたのだ。
かつてこの世界に存在した、自分の相棒と交わした言葉を。
異世界から迷い込んだ彼に、世界を救うための力を授けた。
彼を英雄に仕立てあげるために。
少年は、確かに世界を救った。
だがその末路は、どんな悪役よりも悲惨なものだった。
英雄になりたいという願いと裏腹に、大勢を殺した。
救世のために、必要な殺しだった。
だが、大勢の人に恨まれた。
憎まれた。
だが、彼の心はくすんでいき、そして
最後は命と引替えに、世界を救った。
英雄になるということは、世界の生贄になるということに他ならない。
この龍の心には、あの少年を[[rb:英雄 > ・・]]にしてしまった後悔が、ずっと付きまとっていた。
『...安心しろ。今度こそは、止める。』
『お前の妹は、英雄にはさせない。』
『......札斬 レイ。お前だけは、絶対に。』
空から、一筋の流星が降り注いだ。
その星は、この世界を変える希望の星。
そして、そのために犠牲になる、生贄である。
龍は、その大翼を広げた。
巨大な赤い翼。
燃え盛る巨大な右腕。
そう。
その龍の名こそ
デュエマを象徴する英雄。
『ボルシャック・ドラゴン』。
ボルシャック・ドラゴンは飛翔した。
この世界の、くすんだ大地を目掛けて。
─────────────────────
[b:デュエル・マスターズ・[[rb:F > フォージ]]
〜ボルシャックの贖罪〜
第1話
火文明を継ぐ者]
─────────────────────
『デュエル・マスターズ』
それは、1万種類以上のカードの中からデッキを組み
クリーチャー、呪文。様々なカードで戦略を練り
読み合いを制し、相手のシールドを超えてトドメを刺す!
最後まで何が起こるか分からない、この世界で最もアツいカードゲーム!
「行くぞ!『ボルシャック・ドリーム・ドラゴン』で攻撃!!」
そして今、ここに世界で最もアツいプレイヤーがいた!
彼女の名前は『札斬(サツキ) レイ』!
彼女こそ、この物語の主人公である!!
「さあ行くぜ!ボルドリの攻撃に合わせて、『革命チェンジ』!!」
レイの使うデッキは『リースボルシャック』!
ボルシャック・ドリーム・ドラゴンから『ボルシャック・バクテラス』へのチェンジは、このデッキの最強ムーブ!
「バクテラスの効果で、『超竜 ヴァルキリアス』を出す!さらに、ヴァルキリアス自身も、ドラゴンを出す能力を持っている!」
バクテラスから現れたヴァルキリアスが、さらにドラゴンを呼ぶ。
ここで相手の逆転の芽を潰す強力なドラゴンを踏み倒し、最後の追い討ちをかけるのがこのデッキの定番。
...だが、レイは違った!
「私がマナゾーンから出すのは...『ボルシャック・ドラゴン』だ!!」
そのカードを出した瞬間、会場にどよめきが走る。
ボルシャック・ドラゴン。
それは、デュエルマスターズの誕生とともに生まれ、現在までずっと、「デュエマの象徴」として名を馳せたドラゴン。
だが逆に言えば、進化が進んだ現代のデュエルマスターズにおいて、最初期のカードはあまりにも弱すぎる。
そんな本来なら使う理由のないカードを、レイはあえて使ったのだ。
なぜならレイには、ボルシャックへの愛があったから!
「お前にトドメを刺すのは...このボルシャック・ドラゴンだァァ!!!!」
マナゾーンから現れた、デュエマを象徴する太古のドラゴン。
そのカードが今、ダイレクトアタックを決めた!!
ボルシャック・ドラゴンが、大会の決勝でトドメを刺した。
現代ではまず見られないその光景に、会場は一気に熱に包まれる。
その場にいる誰もが、レイに大きな拍手を送った。
まさに大熱狂だ。
...だが、そんな熱狂の中で、1人だけ暗い面持ちの人物がいた。
それは、他でもないレイ自身だ。
「...兄ちゃん。勝ったよ。ボルシャック・ドラゴンで。」
レイの右手に握られていたのは、相手にトドメを刺した『ボルシャック・ドラゴン / 決闘者・チャージャー』のカード。
このカードは、レイの兄がずっと大切にしていたカードだった。
レイの兄は、パックから引いたボルシャック・ドラゴンのイラストに惚れ込み、時代遅れと分かっていながら、ずっとこのカードを切り札として使い続けていたのだ。
だがそんな兄は、もうこの世にはいない。
行方不明になったあと、遺体で発見されたのだ。
兄が死んだあとも、レイは一時もデュエマを手放さなかった。
そして、兄のボルシャックを愛する気持ちを受け継ぎ、こうして大会の場でボルシャックを使った。
でも、ついにそれを達成しても、心に虚しいものが残るだけ。
ただ、兄のいない事実を思い出させるだけだった。
「...兄ちゃんは、もういないんだよな。」
暗い気持ちじゃない。
むしろ、優勝自体はとても嬉しい。
でも、なんとなく晴れない。
数時間後。
レイは優勝賞品を受け取り、パッとしない心持ちで家へと歩き始めていた...。
だが交差点に差し掛かった時、異変が起こった。
「...えっ、」
レイの体が、突然地面に埋まり始めた。
「えっ、えっ!?」
そして、体はみるみる沈んでいき...
次の瞬間、
レイは雲ひとつない空の上にいた。
「.......えっ」
「えええええええええええええーーーーッ!?!?」
─────────────────────
「そそそ、空...!?」
突然地面にめり込んだ。
かと思いきや、空にいた。
わけが分からない。
夢でも見ているのだろうか。
いいや、肌に触れる風、落下の感覚、その全てがあまりにもリアルすぎる。
これは現実。頭がショートしそうだ。
「ど、どどどっ、どうしよう...このまま落ちれば死ぬ....!」
ショートしそうな頭の中でも、レイは冷静だった。
この高さから落下したら、地面に着く頃にはぺちゃんこだ。
(どっか...水場とか...せめて...!)
せめて、少しでも衝撃を和らげてくれそうな場所を探そう。
生き残るために、そう思い至り、真下を見た。
...その時、視界に広がったのは、見たことの無い場所だった。
「....!?」
目下に広がったのは、ファンタジー世界としか思えない広大な大陸。
5つの色で分かたれた、5色の美しい大陸だ。
島の中央には、巨大な火山と、それを取り囲む鉄製の家々が並ぶ赤の領域。
そのすぐ側の海辺には、火山に対抗するかのように巨大な建造物を伸ばす青の領域。
そしてそのふたつの間を縫うようにして、巨大なガーデンが広がる緑の領域。
全体が霧で覆われ、最奥に建つ巨大な屋敷を辛うじて視認できる黒の領域。
統一された色彩のモノクロの都市の中心で、巨大な城塞が浮遊する白の領域。
「これってまさか...デュエマの...五文明...?」
この5色からまっさきに思い浮かんだのは、デュエマの5文明。
それに、それぞれの大地のランドマークも、漫画とかアニメとかで見たことがあるものばかりだ。
まさか、ここはクリーチャーワールドの上空なのか...?
「...って、そんなこと考えてる暇はねぇ!!!」
その景色の美しさに思わず意識を奪われそうになる。
だがそんな暇は無い。
地上はもう目の前まで迫っていた。
(くそっ、死にたくねぇ...死にたくねぇ...!!!)
もはや為す術はない。
地面に落ちて死ぬ未来が、目前に迫った。
走馬灯が流れそうになるのを、必死でかき消した。
(ここで死ねるか...。)
(私はまだ...)
(なんにも成し遂げてない...!!!!)
死にたくないと、強く願った、その時。
レイの右手が、光輝いた。
「...なっ...!?」
右手が光った瞬間、レイは直感する。
気づいた時には、その右手を、ポケットのデッキケースへ動かしていた。
なぜそんな行動をしようと思ったのか、まるで分からない。
だが、その右手は、本能的に『ボルシャック・ドラゴン』のカードを握り、そして....。
「助けてくれ...!『兄ちゃん』...!!」
そう叫んだ瞬間、燃え盛る炎の翼が、レイを包んだ。
「......!!」
そしてその直後、レイは地面へと激突した。
─────────────────────
「...うっ...」
「いってて.....」
衝撃音が響いた直後、レイはその身体をゆっくりと起きあげる。
多少体は痛むものの、明らかに軽傷だ。
軽く転んだのと同じくらいの痛みで、空から地上まで落ちたとは到底思えない。
「...本当に...助けてくれたのか...?」
にわかには信じられない。
ボルシャック・ドラゴンのカードに触れた瞬間、炎の翼が自分を守った。
まるでデュエマの漫画かアニメのような展開だ。
だが、実際そのおかげで、自分は助かっている。
困惑を隠せず、その場で固まるレイ。
そんなレイに、声をかける者が現れた。
「...クリーチャーの召喚を応用し、落下の衝撃を和らげるとは...。さすがは[[rb:救世主様 > ・・・・]]。その手腕、恐れ入りました。」
レイの前に突如現れたのは、丸メガネをかけ、スーツを身にまとい、至極丁寧な所作で頭を下げた青年。
その所作は、漫画とかでよく見る『執事』を連想させる。
だが一方で、革ジャンを羽織っていたり、髪型が寝癖そのままのようにボッサボサだったりと、外見からは執事感がまるで無い。
「だ、だ、誰!!!?」
落下直後に話しかけられ、レイは思わずビビって後ずさりする。
執事のような男は、そんなレイを宥めるように、冷静に話し続ける。
「驚かせてしまったこと、お詫びいたします。ですが私はあなたの敵ではありません。」
男は、片手を胸に当て、再び深々と頭を下げながら名乗り始めた。
「[[rb:私 > わたくし]]の名前は『ランス』。火文明のマスター補佐官を務めている者です。以後お見知り置きを。」
「...マスター? 火文明?」
火文明のマスター。
デュエル・マスターズの漫画を全て読んでいるレイにとって、その単語には心当たりしかない。
この人間は今たしかに、「火文明のマスター」と発した。
大地が文明分けされた大陸。
切札ジョーの時代を思わせるマスターという単語。
「こ、この世界って、まさか...!?」
デュエマを遊んでいる人間ならば、クリーチャーワールドへの憧れを抱くのは当然のこと。
断片的な情報から、今自分は、アニメのようなとても奇妙な世界にいるのかもしれないと推測する。
胸に期待を抱きながら、ランスと名乗った男を問い詰めようとする...。
しかし、言い終わる前に、
レイはバタリと倒れた。
「...えっ、あの、大丈夫ですか!?あの!?」
突然倒れたレイを見て、ランスは慌てふためく。
「...え、ちょ ..!だ、だれか!!!だれかーッ!!!!!!救世主様が死ぬーーーーッ!!!!!!!!」
パニックを起こしながらも、ランスはレイを抱えあげ、全速力でダッシュを始める。
こうしてレイは、気を失っている間に、火文明の中心部へと足を踏み入れることとなった。
火文明の火山の頂上。
『火山城塞 ヴァル』へと。
─────────────────────
医務室。
広大な要塞の一室で、レイはランスから手当を受けていた。
「...はい、ただのマナの過剰利用による一時的な気絶です。心配して損しました。クソッタレ。」
ついさっきまで息切れで床に倒れ込んでいたランスは、レイの隣で遠い目をしながら悪態を着いた。
「な、なんかごめんな...こういうの初めてで...。」
「...まさか救世主様ともあろうものがクリーチャー召喚が初めてだとか思わなかったんですよ。スミマセンネ。」
露骨に機嫌が悪くなってるランス。
だがレイは、ランスの機嫌はどうでもよかった。
『救世主』というワードがどうにも引っかかっていたのだ。
思い返せば、ランスは自分を常に『救世主』と呼んでいる。
なんで自分が救世主と呼ばれているのか、まるで分からない。
自分はこの世界に迷い込み、右も左も分からないただの一般人だ。
「...あの、ランス...って名前だったよな。救世主ってのはいったいなんなんだ...?」
レイは単刀直入に問いかける。
しかしランスは、答えなかった。
代わりにレイの手を取り、医務室から廊下へと飛び出した。
「...すみませんが、実は今、この世界に危機が迫ってます。時間が無いのです。早速ではありますが、貴女には火文明最高会議に出席していただきたい。」
レイと目を合わせようともせず、早歩きで廊下を進み続けながらランスは喋る。
「そこで全て説明します。ですから今は、急ぎましょう。」
「...え、あ、お、おう。」
レイも思わず頷いてしまう。
ランスが心の底から焦っているのが、その表情から透けて見えたからだ。
レイは生まれつき、人の感情を読み取るのが得意だった。
人の顔を見れば、その人の抱えている大体の感情が分かる。
何かを隠していたり嘘をついていたら、それもすぐ分かってしまう。
この潜在的な能力で、レイは今まで、何度も苦労することがあった。
そして今も、ランスの激しい焦りを察してしまったことで、口を噤むしかなくなってしまったのだ。
(...さっきの悪態ついてる時間で移動できたんじゃないかな。)
そういう野暮な質問は、胸の奥に閉まっておいた。
─────────────────────
少し歩いたあと、2人は、『最高議会室』と書かれた部屋の前にたどり着いていた。
ランスは勢いよくその扉を開け、同時に会場に宣言した。
「お待たせしてすみません。救世主様をお連れして参りました。」
『来たのか..!?』
『ついに...』
『散々待たせやがって!』
『貴女が救世主様!?』
ランスの宣言と同時に、複数人のどよめきが響く。
四角い長方形の机に、8人の人...
いや、違う。
8体のクリーチャーたちが腰掛けていた。
「...く、クリーチャーだ...!?」
席に腰掛けていた8名はどれも、レイがカードのイラストで見た事のあるようなクリーチャーたち。
クリーチャーが当たり前のように目の前にいる困惑と、クリーチャーをこの目に写すことができた感動。
2つの感情が重なり合い、イントネーションがおかしくなりながらも、レイは感嘆の声を上げた。
しかし、数秒後にはその感動が引っ込むほど、その場の空気は真面目に、そして重苦しく変化した。
「...静かに!!」
ランスが叫んだ瞬間、ざわめきは一斉に止み、空気は一気に会議の空気へと切り替わる。
「...どうぞ。ここがあなたの席です。」
「えっ、ここ...?」
長方形の机の先端に位置する、どう考えてもほかの椅子より豪華な椅子。
社会的マナーに疎いレイでもはっきりわかる。
ここは一番偉い人が座る席だ。
「あ、ありがとな。」
歓迎の空気を感じながら、レイはその椅子に腰掛けた。
「...え、えっと!私の名前はレイだ!よろしく!」
『いい名前だ!』
『素敵だッピ!!』
『よろしくなレイ!!』
挨拶が済むと、ランスは両手を背中で組み、ゆっくりと喋り始めた。
「...では、救世主様もいらしたところです。現状を改めて確認いたしましょう。」
ランスの合図とともに、天井から巨大な幕が降りる。
幕に貼られているのは、どうやらこの世界の地図のようだ。
地図を指さしながら、ランスは語る。
「ご存知の通り、光文明は闇文明に対し幾度となく宣戦布告を繰り返していました。クリーチャー軍隊による戦闘はここ1ヶ月でも30回以上に登ります。」
地図上には赤い点が無数に打たれている。
もしや、これは全て、戦闘が起きた箇所を指しているのだろうか。
「光文明は現在圧倒的に優勢。このまま行けば、恐らく光文明は闇文明のマスターに『決闘』を申し込み、闇文明のマスターを排除しようと動くでしょう。」
「け、決闘...?」
レイが思わず疑問の声をあげると、ランスは即座に答えた。
「『決闘』とは、クリーチャーを使役する人間同士が、クリーチャーをカードで操り戦う決戦の儀です。」
「...カード!つまりデュエマってことか!」
クリーチャーをカードで使役するということは、つまりはデュエマをするということだろう。
レイはそう分析し、パァっと笑顔になる。
デュエマなら自分もできる。
というか、クリーチャーが実体化するデュエマなんて、やりたいに決まってる。
レイが目を輝かせている間にも、ランスはしゃべり続ける。
「...実際に決戦が起きてしまえば、たとえどちらが勝利しても、崩れかけていた5文明の均衡は完全に崩れ、火文明をも巻き込む大きな戦争が始まることは避けられません。」
「...!戦争...!」
レイは息を飲む。
上がっていたテンションは一気に落ち着く。
クリーチャー同士の戦争。
人間より遥かに巨大なクリーチャー同士が、国単位で争った場合、どうなるのかは想像に容易い。
「...なら、どうにかしてその戦いを止めないと!戦争なんて悲しいだけだ!」
レイは勢いのあまり席から立ち上がる。
「...おっしゃる通りです。」
レイの言葉に、ランスは頷いた。
「決闘だけは避けるため、我々は、両文明どちらとも仲を取り合いながら、なんとかして対策を進めて参りました。」
席に座っていたクリーチャーたちが、うんうんと頷く。
「...しかし、誠に残念ですが、我々の交渉は功を奏していません。」
席に座っていたクリーチャーたちが、一斉に頭を抱える。
「ですが、今日からそれも変わります。ついに、救世主様が現れる日を迎えることができたのですから。」
救世主。
その言葉に反応し、クリーチャーたちは拍手をしたり、歓声をあげたりした。
「救世主様。我らの平穏のためにも、どうか知恵をお貸しください。」
その場にいる全員の視線が、一斉にレイへと向けられる。
何かいい感じの考えを求めている、深い期待の眼差しだ。
「...えっ、私...?」
一方のレイは、困惑でしかない。
救世主と呼ばれて知恵を求められているが、そもそも救世主というのがなんなのかもレイは分かっていない。
「.....あの〜、そもそも救世主って...なに?私救世主になった覚え無くって...」
レイは心底気まずそうに、そう言った。
「...えっ」
『は?』
『んっ...?』
『ピッ?』
『えっ!?』
会場から一斉に、困惑の声が上がる。
「......え、ええと、救世主というのは...。」
困惑の空気を払拭すべく、ランスは会議室の奥から一冊の本を取ってきた。
「...ゴホン。救世主というのは、この予言の書で語られていたものであり...」
ランスが取り出した古びた本には、こう書かれていた。
『超獣歴XX年。X月のこと。世界に混沌が満ち、運命は滅びを辿り始める。しかし同時に、救世主が空から流星として現れ、世界を救済へ導くだろう。』
「これはまさに今日の日付です。あなた...空から落ちてきましたよね!予言の通りに!まさに!今日!!」
ランスはすごい剣幕でレイに問い詰める。
「つまり...あなたは我々を救うため、空からやってきてくださった...ということですよね...?」
確かに、自分が落ちてきた姿は流星のように見えたかもしれない。
でも...
「た、確かに気づいたら空にいて落ちてたけど!!!私は救世主じゃないんだ!!!ごめんな!!!」
レイはキッパリと否定した。
「私の方も迷い込んで困惑してて!!!私には世界を救う力とか知恵とかも無いし!!!申し訳ないけどそう言われても困る!!!」
「...えっ、え、え、ちょ、マジですか?マジで?」
その返答を聞いたランスは、目を丸くしてぱちくりとする。
まさに信じられないといった様子だ。
「じゃぁテメェわざわざ予言の日に落ちてくんじゃねぇよ紛らわしいんじゃボケェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛!!!!」
そしてあろうことか、声を荒らげ、レイの肩をつかみめっちゃ揺すり始めた。
さっきまでの丁寧な執事のような所作はどこへ行ったのか。
「あばばばばばば!!うるせぇーーーーーッッ!!!!!!そっちこそ私が落ちる日を勝手に予言の日にしてんじゃねぇよ!!!!」
思いっきりゆすられたので、レイは思わず反撃に出る。
素早い拳が飛び出した。
「...ギャッ」
こう見えてレイはなんと、空手の黒帯である。
「...クッ、ぶちましたね...この私をぶちましたね...」
顔に手痛い一撃を食らっても、ランスは頑張って起き上がった。
「でも親父に1000回ぶたれましたからね、私は。...だからこの程度では...倒れない...」
「うるせーな!女の子を雑に扱うからこうなるんだとっとと倒れろ!」
揺さぶられるのがシンプルに嫌いなレイは、ランスへの怒りが収まっていなかった。
周囲のクリーチャーたちは、その光景を困惑して眺めたり、むしろ盛り上げようとしたり、様々な反応をしていた。
『け、喧嘩はやめるッピ!』
『いや〜、やっぱ火文明は会議なんかより喧嘩が似合うぜ!』
『レイが勝つに1票!』
会議室が混沌に包まれた...その時。
『た、大変だ!!!!ランス!!!!』
会議室の扉が、突然ぶっ飛んだ。
弾き飛ばされた扉は、粉々に砕け散り、その破片が壁紙をビリッと破壊した。
「今月で6回目だ」という声がどこかから聞こえてくる。
レイとランスの2人は、同時にビクッと身体を震わせ扉の方を見る。
四足歩行の赤いドラゴンが、息を切らしながらそこに立っていた。
「...グラップ...!な、なんですか...何があったのですか...?」
「...始まっちまった...光と闇の決戦が...!!」
「...!!」
『!!』
『ピッ!?』
『!!』
その場に激震が走る。
「...始まって...しまった...?」
ランスは、目を見開いていた。
─────────────────────
そのわずか数分後、そのドラゴンの背中に乗り、レイとランスは戦場へ向かっていた。
光文明のマスターと、闇文明のマスターの戦いが行われている、その場所へ。
「...ここだ。」
目的の場所に着き、レイとランスはドラゴンの背中を降りる。
するとそこには...。
「...!」
無数のクリーチャー同士が入り乱れる、戦場があった。
そして、荒野の両端に、それぞれ指揮を執っているように見える人物がいる。
黒髪の青年。闇文明のマスター『アデル』。
そしてもう1人、アデルより高い位置から戦場を高圧的に見下すブロンドの髪の少女。光文明のマスター、『ローズ』だ。
「『精霊龍王 スタルリード』でシールドを攻撃。」
「その攻撃は『暗黒鎧 ヴェイター』でブロック...!!」
それぞれが指示を出し合い、互いのクリーチャーが激しくぶつかり合う。
クリーチャー同士の戦い。アニメでしか見ることのなかったその光景が、目の前にある。
それだけで、レイは計り知れない感動を感じていた。
「す、すげぇ...。」
思わず、感嘆の声がこぼれた。
「...」
だが、その明るい目線に気づいたのか、ランスが冷たく言い放つ。
「決戦は、デュエルマスターズの殺し合いです。」
「えっ、殺し...合い....?」
「...勝った方が、負けた方を殺すのです。」
レイは思い出す。
デュエマによる殺し合いは、漫画やアニメではよくある題材だ。
そうだ。ここがクリーチャーワールドなら...殺し合いにデュエマが使われてもおかしくはない...。
その瞬間、ガラスの割れるような轟音が響く。
どうやら、アデルのシールドが、ローズのクリーチャーにブレイクされたようだ。
「...くっ!!」
シールドの破片が彼の肌を掠める。
見るからに硬そうなシールドを、軽々と壊すクリーチャーの一撃。
それが『ダイレクトアタック』で人間に当たったら...。
「...で、でも!わざわざ殺す必要は無いだろ!?勝ったって、ダイレクトアタックしなければ...!」
我々も知るとおり、デュエマは、最高に楽しい遊び。
それが殺し合いの手段など、考えられない。
だが、ランスは相変わらず冷酷に告げる。
「.....はっきりと言います。あなたの世界でどうだったかは知りませんが、この世界では、デュエルマスターズは殺し合いの手段です。」
ランスの鋭い目線が、レイを貫く。
「そもそもデュエルマスターズとは、そのために生み出されたのですよ。」
「...」
「.....そもそも、か。」
ここは、レイが元いた世界とは違う。
この世界におけるデュエルマスターズは、誕生の瞬間から、遊びなどではなかった。
だから、命を奪わないなど、この世界ではありえない。
その現実が胸に突き刺さる。
「...」
「...いや、でも」
だが、その現実を前にして折れるほど、レイは素直ではなかった。
「それでも...デュエマってのは、そんなくだらない殺し合いに使うもんじゃねぇ!!!!!」
そう言って、レイは一気に走り出した。
「え、ちょっと!何する気ですか!!」
ランスが後を追ってくることも気にしない。
レイには、曲げられない信念があった。
デュエマは最高に楽しい遊びだ。
でも、ただの遊びにとどまらない。
デュエマをすることで、どんな相手とも通じ合える。
デュエマは、人と人を繋ぐ遊びだ。
少なくとも、レイにとってのデュエマはそうだ。
レイも過去に、色々な仲間ができた。
デュエマがきっかけで、沢山の仲間が....!
「ちょっと待ったァァァァァァ!!!!」
レイは、戦場のど真ん中に突っ込んだ。
この世界では、デュエマは殺し合いの手段?
...違う。間違ってる!
「デュエマってのは...楽しむもんだろうがァァァァァァ!!」
大声で叫んだ。
戦っている2人に届くように。
どちらのマスターも、目を丸くした。
試合は、思わず中断された。
「...」
しばらくの沈黙の後、光文明のマスター、ローズが、口を開いた。
「神聖な決闘に割り込むなど...貴様は何を考えている...!」
心の底から理解できないという意思が伝わってくる。
「...決まってる。このくだらない殺し合いを止めさせに来たんだよ!」
レイは強気に叫ぶ。
だが、
「...くだらない、そう言ったか?」
「...っ....!?」
ローズと目が合った瞬間、背筋に冷たいものが走った。
そのローズの目から、あまりにも色濃く、鋭い殺気が放たれた。
殺気だけじゃない。
様々な、数え切れないどす黒い感情が、視線を通じて伝わる。
この少女は、自分と年はあまり変わらないように見える。
いや、自分の方が年上の可能性も高い。
なのに...なんで、こんなにどす黒い感情を...。
硬直するレイ。
そこに、遅れて追いかけてきたランスが追い付く。
「...レイ様。すぐに撤退しましょう。」
ランスは撤退を勧めるが、レイは引く気は無かった。
「いや、この戦いを止めるまで、帰る気は...!」
そんなレイの言葉を、ランスは強引に遮った。
「そういう話をしているのでは無いのです...!」
「...えっ?」
ランスは、こちらを見下ろすローズへと目を向けた。
「彼女は...『デュエルマスターの証』を持つ決闘者。」
「この世界で、七人しか存在しない、最強の一角です。」
「...えっ?」
勝舞編で見たことがある。
デュエルマスターの証。
世界に7つしか存在しない、与えられるべき者に与えられる刻印。
それに似たようなものが、この世界にも存在するのか。
そして、あの少女が証の持ち主ということは、この世界でも上澄みの実力を持つ者ということ...。
戦場に冷たい風が走った。
ローズの目は、レイを静かに縫い止めていた。