「この世界で...七人しか存在しない、最強の一角です...。」
最強の一角。
その言葉が、レイの背筋を冷たく撫でた。
光文明のマスター、『ローズ』。
彼女は、デュエルマスターの証を持つ決闘者だった。
「...デュエル...マスター...!」
勝負編の漫画で読んだことがある。
『デュエルマスターの証』。
世界に7つしかないその証は、その証にふさわしい実力を持つ者だけに与えられ、持ち主に超人的な力を与えるという...。
もちろん、この世界における証が、レイの知っている漫画のそれと同じとは限らない。
だがどちらにせよ、目の前にいる少女から感じる殺気は普通じゃない。
この世界に来て間もないレイですら、彼女が只者では無いことははっきりとわかった。
「レイ様...。ここは引くべきです。彼女相手では分が悪すぎる。」
ランスは冷静にレイの前へ立つ。
おそらく、この場を丸く収める交渉をしようとしているのだろう。
だが、レイはランスの言葉を聞き入れなかった。
「...いいや、私は、引く気はない。」
そして再びランスの前へと歩みでる。
「ば、バカ!死にたいのですか...!?いくらなんでも彼女と戦って勝てるわけが...!」
ランスは必死でレイを諭そうとする。
だが、レイの覚悟は既に決まっていた。
「じゃあ私がここで引いたら、あいつはどうなる。」
レイが割り込む寸前までローズと戦っていた闇文明のマスター。
彼は試合の途中で憔悴しきってしまったようで、地面にへたり込んでいた。
このまま試合が続いていたら、今頃彼は、ローズのダイレクトアタックで死んでいただろう。
「私が負けたら、たしかに私は死ぬかもしれない...。でも、放っておいたら、代わりにあいつが死んじまう...。そんなの見過ごせない!」
「...いや、それは...」
ランスも思わず、口を噤む。
確かにレイの言う通りだった。
ランスが静かになったのを見越し、レイは改めて、ローズに向き直った。
「...なあ、お前、ローズって名前だったよな。」
その呼びかけに対し、ローズは相変わらず、表情ひとつ変えずに応じた。
「...なんだ。」
ローズの目から放たれる凄まじい殺気。威圧感。
その気配だけで、思わず体が硬直してしまいそうになる。
だがレイはそれをはね飛ばし、逆にローズを睨み返した。
「このままお前が勝ったら、お前は...闇文明のマスターを殺すんだろ?」
「...当たり前だ。」
ローズは、間髪入れずそう答えた。
「勝った方が負けた方を殺す。それが『決闘』だ。」
それが当然のことだ、と。ローズは答えた。
実際レイも、ランスからそう聞いている。
この世界における『決闘』とは、殺し合いの手段であり、遊びではない...。
だがレイには、それが許せなかった。
「...そんなん、間違ってる。」
レイは、静かに拳を握りしめた。
そして、大きく息を吸い、叫んだ。
「ローズ!私はお前に決闘を挑む!!私が勝ったら、くだらない殺し合いなんかすぐにやめろ!」
「...!!」
ローズの覇気が、一瞬だけ、跳ね飛ばされた。
レイの叫びによって。
「私に...決闘を?」
ローズは、信じられないものを見るような目でレイを見ていた。
名実ともに最強の自分は、今まで一度も負けたことがない。
そんな最強の自分に決闘を挑む者は、今まで一人もいなかった。
この世界の誰もが、『ローズと戦ったら負ける』と、心のどこかで思っているからだ。
...だが、そんな自分に対し、勝負を挑む者が現れた。
「...貴様。よほど死にたいみたいだな。」
人の決闘に割り込んだ無礼者。
その気配からして、決闘の腕も未熟。
自分がこの程度の存在に遅れを取るはずがない。
でも、同時に
その少女の気配から、とてつもなく嫌な予感も感じていた。
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デュエル・マスターズ・F(フォージ)
〜ボルシャックの贖罪〜
第2話
「天命」のデュエルマスター
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決闘の準備はすぐに整った。
レイは現実世界から持ち込んだデッキをポケットから取り出し、台上へと置いた。
だがデッキを置いたその瞬間、なんと、カードがひとりでに動き出した。
「...うわっ!?」
動き出したカードは、台の上で自然と見られた配置へと並んでいく。
5枚の手札へ。
5枚のシールドへ。
そして...シールドが完成した瞬間、レイの頭上に、5枚の分厚い板が出現した。
「...し、シールド!?」
半透明の青い板。
その姿は、昔アニメで見たシールドそのもの。
「...す、すげぇ...!!!全部自動で...!シールドまで!」
レイはテンションが上がるあまり、思わずその場で飛び跳ねていた。
デュエマに触れたことある人間なら、興奮しない方が無理というもの。
...しかし、ここは戦場。
ローズが冷ややかに宣告する。
「...はしゃぐのも良いけど、忘れるな。私が勝ったら、私は容赦なくお前を殺す。」
ローズはその殺気とは裏腹に、さざ波のような静かな手つきで手札を手に取った。
「もちろん分かってる。でも...勝つのは私だ!」
レイも勢いよく手札を手に取った。
こうしてお互いに準備は整った...が。
「...あ、ちょっとタンマ。」
レイは用事を思い出したように、ゲーム台を離れていった。
そして、地面にへたり込んでいた闇文明のマスターの元へ向かったのだ。
「...君は。」
顔をあげ、レイを見つめる闇文明のマスター。
だが、すぐに再び顔を落としてしまう。
「.....すまない。僕が、上手くやれなかったせいで...。」
レイに試合を肩代わりさせてしまった罪悪感から、謝罪の言葉がこぼれる。
だがレイは、そんな言葉は意に介さず、闇文明のマスターの両手を握りしめた。
「安心しろ。私に任せておけ。」
そして、彼に対しウィンクを飛ばした。
「...えっ、」
闇文明のマスター、アデル。
彼は、ただレイを見つめていた。
そんなアデルを1度だけ振り返り、レイはデュエル台へと戻っていく。
「待たせて悪かったな。」
「さあ...デュエマスタートだ!!!!」
最強のマスターと、命知らずのルーキー。
史上最もアツかりし下克上が、幕を開けた!!
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こうして幕を開けたアツかりしデュエル!
「...先行は譲ってやる。」
余裕に溢れた声で、ローズはレイへと先行を明け渡した。
「へっ、そうかよ!なら遠慮なくもらうぜ!」
デュエル開始とともに、レイは自らの手札を手に取った。
レイのデッキは『リース・ボルシャック』。
このデッキは、ついさっき、現実世界で大会優勝を果たしたばかりのデッキだ。
ローズの実力は未知数だが、相棒とも言えるこのデッキが負けるはずがない!
...レイは、そう思っていた。
異変が起きたのは、その直後。
「...いっ...た...!?」
手札を見た瞬間、レイの脳に痛みが走り、レイは思わず地面に膝を着いてしまう。
「...レイ様!?」
ランスが驚き駆け寄ってくるが、レイは静止する。
「......いいや、大丈夫...。ちょっと痛んだだけだ。」
頭痛が引いてすぐにレイは立ち上がる。
しかしその時に気がつく。
「...!」
自分の手札に、『知らないカード』が混ざっていたのだ。
「.....なんだ...このカード。」
『ボルシャック・ドリーム・ドラゴン』、『ボルシャック・バクテラス』。
どちらもまるで見たことの無いカード。
もちろん、「見たことがない」というのは明らかにおかしい。
レイは数時間前にこのデッキで大会を勝ち抜いたばかり。
このカードたちを、知らないはずがない。
(...な、なんで...思い出せない...?)
激しい違和感。カードに関する記憶が、自分の中から抜け落ちてしまったのだろうか。
「...レイ様。今のあなたと同じ状況に陥った人間を、私は以前見たことがあります。」
ランスがレイに耳打ちする。どうやら心当たりがあるらしい。
「...えっ、以前に...?」
「かつて...この世界には居ないクリーチャーのカードを使おうとした人間がいました。するとそのカードは色を失い、そのカードに関する記憶も本人から抜け落ちてしまった...。今のあなたと、まるで同じです。」
再びカードへ目を向けた時、その2枚のカードは、色を失い、灰色のカードへと変化していた。
「...!!」
レイの表情に陰りが見え始める。
以前にもこの世界に外の人間が迷い込んだのか、という疑問も浮かんだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
記憶がなくてもわかる。
灰色になってしまった2枚は、どちらもエース級のカード。
それらを失った今、このデッキは果たして、機能するのだろうか...。
「...いや、でも...そんなのは関係ない!」
レイはドリーム・ドラゴンをマナに落とし、ターンを終了する。
「私はきっと、勝てる!」
弱音を吐いている暇はない。
レイの目は、全く輝きを失っていなかった。
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試合は一気に進み、レイの先行4ターン目を迎えていた!
「私は、『メンデルス・ゾーン』を発動!!」
ドラゴンデッキの最強初動、メンデルス・ゾーン。
このカードは、幸い使える状態だった。
「これで...次のターンに私は7マナ!」
動きの遅い光単色のデッキに対し、マナの数では圧倒的な有利を作った。
しかし問題がある。
その増えたマナから、どのカードを使うべきなのかが分からない。
(灰色になったカードだけじゃない。やっぱり、全体的に記憶が抜け落ちているような...そんな気がする。)
自分のデッキにどんなカードが入っていたのか、それすらも軽く曖昧になる。
余裕を保っていたレイの顔にも、徐々に焦りが見え始めた。
「くっ...命がかかった試合なのに...!」
レイが必死に思考を巡らせるが、その間にも、無慈悲にもターンは進む。
「...私のターン。ドロー。」
ローズの後攻4ターン目。
ローズは2ターン目に2コストのクリーチャーを出し、3ターン目はチャージャーを打っていた。
その無駄の無いマナカーブにより、ローズはレイよりも圧倒的に早く動いていた。
「私は『ドラゴンズ・サイン』を発動!その効果で、『龍覇 ヘブンス・ロージア』をバトルゾーンへ!」
『龍覇 ヘブンス・ロージア』のカードがバトルゾーンへ出た瞬間、ローズの横に立っていた青年が、大きく跳躍し、戦場へと降り立った。
「...あいつ、クリーチャーだったのか!?」
レイは、自分に『ランス』という側近がいるように、ローズの側に立つあの青年も、ローズの側近かなにかだと思っていた。
だが、今こうして、クリーチャーとしてバトルゾーンへ現れたのだ。
「この子の名前はローゼン。私の弟であり...『ロージア』として戦う相棒でもある!」
ローゼンと呼ばれたその青年は、右手を天へと掲げた。
すると、次の瞬間には、その右手に槍が握られていた。
「...!槍...!?」
突然現れた槍。
驚くレイに、ランスが説明する。
「あれは『ドラグハート』。超次元から呼び出すことのできる、英雄の物語が刻まれた武器です。」
あの槍はただの槍じゃない。
まとっているオーラの強さを、レイも感じ取っていた。
「...解説サンキュー。放っておいたら結構厄介なことになりそうだな...。」
ターンは再びレイに巡るが、レイの手札には、今のところ有効なカードがない。
自分のデッキなのに、どのカードを使えば状況を有利にできるのか、そもそもそんなカードが入っているのか、まるで分からない。
レイは思わず弱気になる。
これで勝てるのだろうか、と。
「...」
「いいや、」
「こんな時だからこそ...!!」
しかしすぐに持ち直す。
「このデッキは...私のデッキ。たとえ記憶がなくても...私のデッキであることに変わりはない!」
今は亡きレイの兄。
彼はボルシャックが大好きだった。
そんなボルシャックを受け継いだレイも、ずっとボルシャックを使ってきた。
このデッキもボルシャック。
中のカードは変わっても、子供の頃からずっと大事にしてきた思い出のデッキ。
「...このデッキは、絶対私に応えてくれる...!」
希望に満ちた目で、レイはカードをドローした。
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「ドローッ!!!!!」
勢いよくカードを引いた、その手に握られていたのは...!
「...!! お前...来てくれたのか...!?」
レイが引いたのは、『ボルシャック・ドラゴン / 決闘者チャージャー』。
このカードは、レイの兄がかつて切り札にしていた、兄の形見とも言えるカード。
このカードは、相手のロージアを破壊できる訳でもない。
大きな打点になる訳でもない。
でも...きっとこのタイミングで来てくれたことには、大きな意味がある!
「このカードで...私は勝利を掴む!『ボルシャック・ドラゴン』召喚!!!!」
そのカードを台に置いた瞬間、戦場に炎の竜巻が現れた。
戦場全体を巻き込むほどの、大きく激しい竜巻。
「...!?」
その竜巻に、ローズも思わず後ずさりする。
そして、その竜巻を内側から吹き飛ばし、中から現れたのは...!
『『『...グオオオオオオオオオッ!!!!』』』
巨大な翼、両肩の砲台。
そして何より、その熱く燃え盛る右腕!
その姿はまさに、デュエマを象徴する龍。
『ボルシャック・ドラゴン』だ。
バトルゾーンに出たボルシャックドラゴンは、大きな雄叫びをあげ、敵に向き合う。
その背中を見ただけで、このデュエルに絶対に勝利できるような、そんな奇妙な確信が湧いてくる。
それほどの力強さを持ったドラゴンだった。
「...お前が、」
「ボルシャック・ドラゴン...。」
レイの心に、不思議な感情が流れ込む。
小さい頃から、ボルシャックドラゴンのイラストはよく眺めてた。
アニメでもその姿を何度も見た。
しかし、そのボルシャックドラゴンが実際に目の前に現れるなんて経験をしたことは、今までなかった。
思わず感動してしまいそうになるのを抑え込む。
今は戦いの最中。
想いに耽っている暇はない。
「私はこれで、ターン終了!」
ボルシャックにスピードアタッカーは無い。
レイはそのまま、ターンをローズへ明け渡した。
「...ターン終了か。とんだ期待はずれだな。」
堂々と登場したドラゴンが、攻撃しても来なかったことにローズは驚いているようだった。
「安心しろ!次のターンから、望み通りお前をボルシャックでボコボコにしてやるからよ!」
笑顔で拳を突き出すレイ。
だが、一方のローズの顔には、深い苛立ちが滲んでいるようだった。
「...お前は本当に、決闘というものを舐めすぎている。」
ローズは静かにカードを引き、1枚のカードを宣言した。
「決闘は常に一瞬一瞬が命取り。少しでも油断すれば、次の瞬間には命はない。」
数々の戦場をくぐり抜けてきたローズの言葉には、確かな重みがあった。
「...私は、『ヘブンズ・ゲート』を発動する!」
そのカードを使った瞬間、ローズの背後に天門のシグナルが現れる。
そして、その中から現れる巨大なクリーチャーの影。
「...っ!」
レイの体に雷が走る。
それは、恐怖。
今すぐこの場から逃げろという、本能の警鐘。
「...なんだ、何が、起きて。」
ヘブンズ・ゲートから現れたクリーチャーが、その力で、さらに次の存在を呼び寄せていた。
鐘の音が、響く。
世界が、光に染め上げられていく。
轟音が響く。
気配が近づく。
そのゲートの裏に潜む恐ろしい存在が、その姿を表しつつあった。
「お前に次のターンは来ない。このターンで、お前は死ぬ。」
ローズの手札には、1枚のカードが握られている。
そのカードがバトルゾーンに現れた瞬間。
世界が、『ゼニス』に染まった。
「私は、『天命』の証を持つマスター。」
「その名のもとに...貴様を蹂躙する。」