ボルシャックの贖罪   作:アンダルシア

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いつも、夢を見る。


ガラスのケースに閉じ込められる夢。




無数の足音が、視線が、


私の前を通り過ぎていく。




そのどれもが、私を見て


「美しい」とだけ呟いて、



ただ、通り過ぎていく。





助けを求めて


手を伸ばしても




誰も、手を返さない。






でも、人影の中に、



あなたの背中を見つけて、




最後に、1度だけ、手を伸ばす。






必死で、全力で、手を伸ばす。







あなたは、こちらを振り向いて、



そして...








そのまま、立ち去っていく。





永遠に終わりのない、闇の中で、





私はいつも、目を覚ますのだ。





─────────────────────

──────────────────

─────────────



「...っ!!!」




目が覚めた。


その悪夢に、起こされるようにして。


辺りを見渡す。


そこが何の変哲もない、火文明の寝室であることに安堵する。




昔から、自分のではない夢を見ることが、たまにあった。


それはいつも悪夢で、見ているうちに、これが自分ではない誰かの夢だと、なんとなく分かるのだ。



「.....誰の、夢だったんだろう。」



人間世界からこのクリーチャーワールドに迷い込んで、しばらく経った。


慣れなかったこの一室も、今ではすっかり自分の部屋だと認識している。




もしかしたらこの悪夢も、この世界の誰かが見たものなのだろうか。



この世界のどこかに、いるのだろうか...。






窓の外を見れば、朝焼けが輝いていた。



(...もう、二度寝する時間でもないな。)



寝汗の酷い布を脱ぎ捨て、新しい装いへと着替えていく。








今日は、火文明のマスターとして重要な1日。



闇文明の本拠地へ、足を運ぶ日だ。




お気に入りのパーカーを羽織り、デッキを手に取る。




類稀な美しい容姿を持ちながら、その人生のほとんどを『デュエマ』につぎ込んできた少女。



彼女の名前は、『札斬 レイ』。



レイは、1度大きく息を吸って、吐く。



そして、目を見開き...自らの部屋を後にした。




─────────────────────

テキストデュエル・マスターズ・F(フォージ)

第5話
闇のマスターと和解せよ!メアリー・ジェニーの館!

─────────────────────



闇文明編
第5話 闇のマスターと和解せよ!メアリー・ジェニーの館!


 

 

 

 

 

「...ここが、闇文明の本拠地...!?」

 

 

 

 

朝焼けは朝日に変わり、雲ひとつない晴天が広がっていた。

 

 

 

だが、闇文明の大地は、そんな青空など知らないかのように、深い霧に覆われている。

 

 

 

 

そんな闇文明の最奥に、

 

 

ひっそりと、しかし雄大に建てられた屋敷があった。

 

 

 

闇文明の本拠地、『人形屋敷』。

 

 

 

 

レイは、その玄関に立ち、その内装に圧倒されていた。

 

 

 

 

青いロウソクが廊下を照らし、深い霧がその灯りを反射する。

 

 

黒光りする家具と巨大な階段が、ほのかにその光を反射する幻想的な光景。

 

 

 

まるでゲームに出てくる洋館のようなその景色に、レイは魅了されていた。

 

 

 

 

だが、そんな彼女に背後から忍び寄る影がひとつ。

 

 

 

「...よく来たな。わらわの屋敷へ。」

 

 

 

 

 

「...ッ!?!?!?ウワーッ!?!?!?!?!?!?」

 

 

 

 

気配も足音もまるで無かった。

 

 

 

後ろに人影があることを、レイはまるで感知できていなかった。

 

 

レイは驚きの叫びを上げると共に、地面へと思いっきり転倒する。

 

 

 

 

「キャッハハ!あら、そんなに怖かったの?」

 

レイを脅かした少女。

 

黒いドレスを身に纏うその少女は、地面に倒れたレイに手を差し伸べる。

 

 

「わらわの名前はメアリー・ジェニー。わらわの招待に応じてくれたこと、感謝しよう。」

 

 

 

その名前に、レイは心当たりがあった。

 

 

 

「メアリー・ジェニー...!」

 

 

そもそもレイがこうして屋敷に足を運んだのは、とある招待状がきっかけだった。

 

 

 

 

その招待状の差し人は、『メアリー・ジェニー』という名前の人物。

 

つまりこの女性こそが、自分をここへ招待したその人なのだ。

 

 

「あ、えっと、こっちこそ...招待してくれてありがとう...。」

 

 

 

レイは差し出された手を取る。

 

 

だが、その仕草はとてもぎこちない。

 

 

 

 

「...あら。まだ怖がってるの?」

 

 

メアリー・ジェニーは、おもちゃで遊ぶかのような態度で、レイの顔を強く引き寄せた。

 

 

互いの顔が、数センチのところまで急接近する。

 

 

「...っ、!」

 

 

目を逸らしたレイを見て、メアリー・ジェニーは面白そうに笑った。

 

 

「キャッハハ!!安心して!もう脅かしたりはしないから...。」

 

こうして満足したのか、メアリー・ジェニーはレイの服に付いた埃を払い、屋敷の奥へ歩み始めた。

 

「貴女には、うちのマスターに会って欲しいの。着いてきて。」

 

 

そう言って、そのままメアリー・ジェニーは、廊下の暗闇に消えていった。

 

 

 

 

取り残されたレイは...

 

 

顔を赤くしながら、深く息を吸っていた。

 

 

 

(...や、やばい! めっちゃ可愛い...!)

 

 

心臓の鼓動は普段より早く、変な汗も流れている。

 

 

レイの仕草がぎこちなかったのは、怖がっているからではない。

 

 

 

メアリーのあまりにも美麗な容姿を前にして、レイは冷静さを失っていたのだ。

 

 

 

 

スラリと高い背丈。

 

 

甘い香りが漂う滑らかな長髪。

 

 

綺麗な赤い瞳。

 

 

手もすごくスベスベだった。

 

 

それに、仕草もすごくお嬢様っぽく品が溢れてて...。

 

 

 

 

(...ああもう!!!!!悪いクセが出てる!!!!)

 

 

 

昔から、綺麗な同性が目に入ると、頭の中がそれで埋め尽くされる。

 

 

悪い癖だ。

 

 

 

その思考を何とか振り払い、平常心にもどる。

 

 

 

レイは廊下の奥に消えたメアリーを追いかけ、小走りで進んで行った。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「ここが応接室よ。」

 

 

案内されたのは、廊下の奥にある一室。

 

 

アンティークな机と、赤いクッションが置かれた洋風のソファー。

 

 

そして天井からはシャンデリア。

 

 

 

 

部屋のどこに目を向けても、おとぎ話に登場するお屋敷のような光景が広がる。

 

 

レイにとって、それはまさに憧れの景色であった。

 

 

 

 

 

「す、すっげ...こんなところに住んでるのか!?」

 

 

 

 

目から星が飛んできそうなほど目を輝かせるレイ。

 

 

それを見て、メアリー・ジェニーは面白そうに目を細めた。

 

 

 

「そんなに気に入ったなら住んじゃえば?部屋も余ってるし。」

 

冗談を飛ばしつつ、相変わらず品のある動作で、メアリーはソファに腰掛けた。

 

 

 

それに続いてレイもソファに腰掛けるが、そこで再びレイは驚愕する。

 

 

 

 

「えっ...ソファふかふか!?!?」

 

 

ソファが、ふかふかだった。

 

 

火文明の石のようなソファとは大違いだ。

 

 

ずるい。羨ましい。

 

 

 

 

心の中ではしゃぐレイを眺めながら、やはりメアリーは微笑んでいた。

 

愛おしいものを見るような目。

 

 

...だが、どこか不気味さも孕んでいる。

 

 

 

 

「それじゃあ私は彼を呼んでくるから。好きにくつろいでて。」

 

 

 

「おう!ありがとうな!」

 

 

 

 

ソファに身を預けながら、レイはその背中を見送った。

 

 

 

 

...メアリーが去ったのを確認すると、レイは背筋を伸ばした。

 

その表情は、先程までのはしゃぎっぷりからはまるで真逆。

 

 

鋭く、真剣な冷たさを帯びていた。

 

 

 

 

レイはずっと、違和感を感じていたのだ。

 

 

 

メアリー・ジェニーの態度に。

 

 

 

 

(私を見るあの目...。あれは『期待』の目だ。あの人は私に何かを期待している。何を期待してるのかは大体想像が着くし、これは普通だ。)

 

(でも同時に...それとは違うネガティブな感情が含まれてた。そっちの方が問題だ。)

 

 

 

レイは生まれつき、人の感情を読み取ることに長けていた。

 

 

相手の表情、仕草、言動。

 

 

それらを見るだけで、相手の考えていることや、秘めている思い。

 

 

嘘をついているのか、真実を話しているのか。

 

 

 

大抵の事は全て読み解けてしまう。

 

 

 

 

だが、そんな特異な潜在能力を持つレイでも、メアリーのあの様子は不可解だった。

 

 

 

 

(今までも、ああいう目を向けられたことはある。あれは『嫉妬』。嫉妬の目に似てる...。でも...)

 

 

メアリーが隠していたあの感情は、嫉妬の色によく似ていた。

 

 

 

だが、初対面の自分に対し、彼女が嫉妬を抱く理由が分からない。

 

 

 

嫉妬に似た別の感情なのか...あるいは....

 

 

 

 

 

 

レイが考え込んでいた、その時。

 

 

 

 

扉をノックする音が響いた。

 

 

 

 

 

 

「...!」

 

 

 

 

 

ドアを開けて、部屋に入ってきた青年。

 

 

ボサボサな黒髪。

 

 

背は高いけどちょっとだけ猫背なその風貌。

 

 

闇文明のマスター、『アデル』だ。

 

 

 

 

「...君は!!」

 

 

この世界に来て間もないレイだったが、この青年と顔を合わせるのは初めてではない。

 

 

 

初めて顔を合わせたのは、つい先日。

 

 

ローズとの決戦の時だ。

 

 

まだあまり言葉を交わしたことはないが、既にレイは、彼に心を開いていた。

 

 

 

それ故に、まるで友達のようなテンションで、レイはアデルへと駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

...だが、アデルの方は、

 

 

 

 

心を開いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

「...ごめん。申し訳ないけど、帰って欲しい。」

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

「...えっ?」

 

 

 

アデルから出た第一声。

 

 

 

それは、「帰って欲しい」だった。

 

 

 

 

まだ彼と自分はほぼ初対面。

 

 

 

嫌われるようなことはしたつもりがない。

 

 

 

困惑を隠せないレイだが、その理由をすぐに理解することになる。

 

 

 

 

「...レイ。君に助けてもらったことは、本当に感謝してる。なんとお礼を言えばいいか分からない。」

 

申し訳なさ、怒り。2つの感情の混じった声で、アデルは口を開いていた。

 

「でも、...君は、ローズを逃がした。闇文明にとっての敵を見逃したこと、マスターとしては...どうしても看過できない。」

 

 

 

 

 

「...、そ、それは...!」

 

 

レイはあの時、ローズに勝利した。

 

 

勝者は敗者を、『ダイレクトアタック』という形で倒し、命を奪うのがこの世界の掟。

 

 

だがレイは、ローズにトドメを刺そうとはしなかった。

 

 

なぜなら....

 

 

 

「私は、確かにローズを殺さなかった。でもそれは..ローズは悪いヤツじゃないって...信じてたからだ!例え敵同士でも、分かり合う手段はあるはずだ!」

 

 

どんな相手でも、殺し合う必要なんかない。

 

 

分かり合う手段は、きっとあるはず。

 

 

レイは強く信じていた。

 

だからこそ、絶対にローズにトドメを刺そうとはしなかった。

 

 

 

「もちろん、ローズは憎い相手だ。でも...私は、どんな相手でも、命を奪ったりはしない。」

 

 

 

だが、

 

 

 

 

現実は、レイの思うほど単純ではなかった。

 

 

 

 

 

 

「...君の気持ちはすごくわかる。でも、そんな甘い話じゃないんだよ。」

 

 

 

アデルは右手を握りしめていた。

爪が突き刺さるほど、強く。

 

 

 

 

「ローズは、闇文明の民を大勢殺した。執拗に攻撃して、罪のないクリーチャー達を...殺し尽くしたんだ。」

 

アデルは、レイに向き直った。

 

その目に浮かんでいたのは、明らかな、憎悪の感情。

 

 

「仲間の命を大勢奪った奴を...僕は、許したりはできない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........。」

 

 

 

 

 

「ころ、した.........。」

 

 

 

 

 

思い知らされた。

 

 

自分は、何も分かっていないということ。

 

 

自分は今まで、平和な世界に身を置いていたせいで、分からなかった。

 

戦いが起きているということは、当然犠牲も生まれている。

 

 

奪われた命が、ある。

 

 

 

そんな中で、相手を許すということが、どれほど難しいか。

 

考えたことすら、無かった。

 

 

 

 

(そうだ。)

 

 

 

(考えれば、当然だ。)

 

 

 

 

(ここで起きてるのは、命の奪い合い。)

 

 

 

 

 

(そんな中で、宿敵を見逃す奴がいたら、)

 

 

 

 

 

 

(受け入れないのも、当然だ...。)

 

 

 

 

 

部屋は、沈黙に包まれた。

 

 

 

部屋に漂う霧が、より一層濃く感じられる。

 

 

 

 

耳に入るのは、秒針の音だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

...

 

 

...しばらくの沈黙の後。

 

 

 

 

重い空気の中、レイは口を開いた。

 

 

 

「...辛かったよな。今まで、ずっと...。」

 

 

「...ずっと一人で、戦ってたんだもんな。」

 

 

 

 

 

それを聞いて、アデルの目が、一瞬だけ見開いた。

 

 

レイが投げかけたのは、まるで予想もしていなかった、言葉だった。

 

 

 

 

 

「...いや、戦うのは...闇文明のマスターとして、当然のことだ。」

 

「むしろ僕は...全然、マスターとしての責務を果たせていない。」

 

 

 

悔しそうに顔を落としたアデルを見て、レイは気づいた。

 

 

このアデルの、本心に。

 

 

 

 

 

 

「...アデル。お前は、もしローズに勝ったら...。ローズを、殺すのか?」

 

 

 

 

3秒ほど、アデルは口を噤んだ。

 

そして、斜め下を見ながら、答えた。

 

 

「......殺す。マスターとして、当然のことだ。」

 

 

 

その返答を聞いたレイは、アデルの目を、真っ直ぐに見た。

 

「...それはマスターとしての答えだ。お前自身の、答えじゃない。」

 

 

 

その、レイの貫くような視線を前にして、

 

 

アデルの目線も、レイへと向き直る。

 

 

 

「.......僕自身の、答え...。」

 

 

その目には、まだ迷いがあった。

 

 

だが、そんな迷いを弾き飛ばすように、レイはアデルの両手を手に取った。

 

 

 

 

「...殺したくない。分かり合いたい。そうだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「........。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その真っ直ぐな瞳を前にして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや、本心を隠すことなど、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...誰も、殺したくない。」

 

 

「誰も傷つけたくない。」

 

 

 

「ローズも、ローズ以外も、敵も味方も関係ない!!」

 

 

「誰の血も、誰一人の血も...流したくないんだ...!!!」

 

 

 

気づけば、瞳から涙が溢れていた。

 

 

闇文明のマスターとして、ずっと胸に秘めてきた思い。

 

 

マスターがこんなことを口にしても、闇文明の民達が、納得するはずがない。

 

 

そもそも、民たちをまともに守れていない自分が、そんなことを口にする権利はない。

 

 

 

だから、ずっと、閉ざしていた。

 

 

 

一度も、口に出すことなく。

 

 

ずっと。

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

レイの目は、太陽のような温かみを帯びていた。

 

 

 

 

「...アデル。一緒に成し遂げよう。」

 

 

「私の気持ちも、同じだ。誰一人として、傷ついて欲しくない。大切な人を失う悲しみは、私にもわかるつもりだ。」

 

 

 

レイは、アデルの両手をしっかりと握りしめながら、アデル目をまっすぐと見続けていた。

 

 

そして、アデルの涙が収まった後。

 

 

その顔は、一気に笑顔へと切り替わった。

 

 

 

「挑戦しよう!私と君なら、世界平和だって夢じゃない!!絶対に、実現できるよ!!」

 

 

 

アデルの手を握りしめた両手を、レイは大きく上下にブンブンした。

 

 

 

その顔からは、隠しきれない喜びが溢れていた。

 

 

この世界でも、平和を望む仲間に出会えたこと。

 

 

争いを無くすために、手を組める相手に出会えたこと。

 

 

それが、何よりも嬉しかった。

 

 

 

 

 

「...世界、平和。」

 

 

レイの笑顔につられるように、気づけば、アデルの表情も緩んでいた。

 

 

 

世界を平和にできるだなんて、その言葉にはなんの根拠も

確証もない。

 

 

 

でも、それでも...

 

 

この人となら...

 

 

レイとなら、

 

 

 

 

実現できる。

 

 

 

 

そんな、不思議な感覚で溢れていた。

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

話し合いが終わって、しばらくが経った。

 

 

 

 

闇文明の霧は、夕焼けを反射して、キラキラと輝いる。

 

 

 

 

帰宅の時間を迎えたレイを、アデルは玄関まで見送っていた。

 

 

 

 

 

「...今日ありがとう。本当に、出会えてよかったよ。」

 

アデルの表情は、柔らかかった。

 

 

 

 

「こちらこそ、呼んでくれてサンキューな!!また遊びに来るよ!!!」

 

 

レイは笑顔で手を振り、歩き出した。

 

 

 

 

 

「えっ、呼んでくれてって....」

 

その表現が引っかかった。

 

自分は、レイをここに呼んだ記憶はない。

 

 

「...まさか、メアリーが勝手に....!!!」

 

 

 

 

火文明のマスターが突然、何の連絡もなくここを訪ねてきたことに、うっすらと違和感を感じてはいた。

 

....だが、メアリーが勝手にレイを呼んだと考えれば、色々と合点がいく。

 

メアリーの性格的に、こういうことをやりかねない。

 

 

 

 

 

「...後で、叱っとかなきゃ。」

 

 

 

 

笑顔でレイの背中を見送りつつ、アデルは内心で苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「...あ、そうだ。」

 

姿が見えなくなる前に、レイは、1度だけアデルを振り返った。

 

 

「.....アデル。私に、何を隠してるんだ?」

 

 

 

 

 

 

「....!!」

 

 

見抜かれていた。

 

今日の会話の中で、話せていないことが、ひとつだけあったこと。

 

 

 

アデルには、いいや...闇文明には、

 

 

レイに話すことの出来ない、大きな秘密が、あったのだ。

 

 

 

 

「......正直に言えば、隠してることはある。でも...」

 

「必ず、後で話すよ。絶対に。」

 

 

 

 

今すぐに、話すことはできない。

 

でも、いつかは絶対に話さなくちゃいけない。

 

 

 

 

「...大丈夫!私たちまだまだ初対面だし!」

 

それが大きな秘密であることは、レイにもわかっていた。

 

だからレイは、あえて問い詰めるようなことはしなかった。

 

 

いずれ、時が来た時に、その秘密を知れたらいいと。

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

─────────────────

 

 

 

 

 

アデルと別れ、レイは軽快に帰路を歩んでいた。

 

 

闇文明と火文明はすぐ隣にあり、歩いて帰れる距離にある。

 

 

 

 

レイの歩幅は、今日の喜びを噛み締めるように、軽快なリズムを奏でていた。

 

 

 

火文明のマスターとしての、他文明のマスターとのファーストコンタクト。

 

 

こうしてアデルと和解できたことは、初任務として充分すぎる成果だった。

 

 

 

 

 

歩幅はいつかスキップに変わり、闇文明の少し薄暗い大地を、軽々進んでいく。

 

 

 

 

 

...しかし、刹那。

 

 

 

背筋が凍りついた。

 

 

 

 

「───────────っ、....!」

 

 

 

 

一気に、恐怖が満ちる。

 

 

 

過去の記憶が、フラッシュバックする。

 

 

 

 

人生の中で、1度だけ、レイは『殺意』の感情を、向けられたことがあった。

 

 

路地裏で、通り魔と出くわしたあの日のこと。

 

 

 

冷たく、熱く、狂気に満ち、凍りつくようなその感覚。

 

 

 

ローズに向けられた殺気とは違う。

 

 

もっと衝動的で、激しく、暴れるような感覚を、

 

 

あの日以来、一度も、忘れたことがない。

 

 

 

 

 

その、殺意の感覚が、今、まさに、自分の、後ろにいる。

 

 

 

 

「っ...だっ、誰!?」

 

 

 

 

 

震える声で叫びながら、振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

....だが、

 

 

 

 

その姿を確認するよりも、先に、

 

 

 

 

 

意識が、暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

──────────────────

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

「...っ、、....こっ、ここ........は...?」

 

 

意識が浮上した。

 

 

冷たい床の感覚が、肌に突き刺さる。

 

 

 

 

 

状況を理解しようと、必死で目を開けた。

 

 

 

そこは見知らぬ場所。

 

 

空間は広い。

 

3メートルはある巨大なシャンデリアですら、全てを照らしきれない広大な空間。

 

 

 

レイは、重い体を起こし、立ち上がる。

 

 

 

 

 

...次の瞬間その耳に入ってきたのは。

 

 

 

聞き覚えのある、声だった。

 

 

 

 

「...あら?ようやく目が覚めた?」

 

 

 

 

 

 

「────────!!」

 

 

 

 

忘れるはずがない。

 

 

 

 

つい数時間前。

 

 

屋敷で自分の言葉出迎えた、あの品のある女性の声。

 

 

 

 

 

「...メアリー、ジェニー...!?」

 

 

 

目に映ったのは、メアリー・ジェニーその人の姿。

 

 

自分をここに攫ったのは、彼女だとでも言うのだろうか。

 

 

 

 

 

そんなレイの困惑をよそに、突然、赤い糸がレイの周囲へと飛来する。

 

 

その糸は、レイの右腕、左腕、

 

 

両脚そして...首。

 

 

 

レイの体の関節全てに、素早く巻きついた。

 

 

 

 

「ルールは簡単。シールドを1枚失う度に、それに連動して、あなたの四肢もひとつ飛ぶ。」

 

 

 

メアリージェニーは立ち上がり、ゆっくりと、レイの元へと、距離を縮めていく。

 

 

 

「さあ、はじめましょうか。最高に楽しい『スプラッタデュエル』を!!」

 

 

 

メアリーは、レイの顎を、強引に持ち上げた。

 

 

 

その顔は、昼間とは似ても似つかない、純然な狂気で満ちていた。

 

 

 

 

 

「...スプラッタ、デュエル...。」

 

 

 

 

 

 

史上最高に恐ろしい決闘が、始まろうとしていた。

 

 

 

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