ありふれた職業の世界で転生したら、転生特典が虚飾の魔女だった 作:社畜さん
死んで転生した。
何を言っているのか分からないと思うが、本当のことだ。前世では普通の田舎に住んでいる普通のサラリーマン。しかしある日熊に出会って食い殺されて死んだ。
死んだが、その先に神様に出会った。
神様曰く、前世での行いで天国地獄異世界転生が選べるらしい。異世界転生とは、小説や漫画などの二次元を指すらしく、今一番人気の死後の進路だそうだ。いや進路ってなんだよ進路って。
ただ異世界転生は神様とその他女神たちが厳正に審査して合格を貰った人間だけが選べる超絶倍率の高い進路らしく、誰でも選べるわけではないらしい。就活かよと思ったがだから進路なのかと納得した。
ちなみに前世での僕は合格して異世界転生することになった。それに異世界転生合格者には神様から準備金として特典を貰って転生することになるらしく、僕も特典を貰って転生することになった。ただ特典に関してはくじ引きで完全ランダム性だった。
それが、後に大変な大問題を抱えることになることを、あの時の僕は知らなかった。
月曜日。
それは学生にとっては学業の始まる最初の平日であり、一番憂鬱な曜日。これから五日間も休日なしで勉学とスポーツに励み、知識や体力を学ぶ。それが学生の本分なので仕方がないが、それでも前日は日曜日で休日と言うこともあり、思春期や遊びたがりな子供には、なおのこと憂鬱だろう。
「はあぁ……」
しかし同じ学生であろうとも僕は違う。月曜日に憂鬱になることも、金曜日に一喜一憂することもない。だって毎日が憂鬱なんだから。
「どうしましたハジメ?そんな溜息なんてついて」
「……君のせいでね」
「あら酷い」
クスクスと笑っている一人の少女。長く透き通る白金の髪。白く透き通るを通り越して白い、まるで一度も陽に触れていないのではないかと思うほどに白く綺麗な肌。きっと道行く誰しもが振り返り震えるほどの美貌を持つ少女が、隣を歩いていた……僕と手を繋ぎながら。
「私はただ、ハジメが寝ている間にベッドにもぐりこんで、抱き枕としてハジメに抱き着いて寝ていただけですのに」
「裸で抱き着いてたよね」
「ハジメには私の全てを見ていただきたいので……もしかして欲情してくれましたか?であれば今ここで」
「ロリコンじゃないし欲情してないから!?その布から手を放して!」
顔を赤らめながらもどこか笑っているパンドラが自身の身に纏っている布……服ではない。間違っても服ではないし服と認めたくない。白い布だけでスカートもズボンも履こうとせず、靴どころか靴下すら履こうとしない。
「パンツもブラも着けてませんよ」
「だから問題なんでしょうが!?」
とりあえずそんな布に手をかけようとしている彼女を必死に食い止める。学校の廊下でそんなことしてしまえば命が終わる。物理的ではなく精神的に。ロリコンの変態として死んでしまう。
「ハジメは不思議ですね」
「えっ、というか手を放してよ」
「ハジメの手は放しませんよ?」
「いやその布から手を放してほしいんだって」
あらはしたない、と言って手を離した。でも繋いでいる手は離さなかった少女は、ただ微笑みながらこちらを見つめている。何を考えているのか全く分からないその顔に、ドキッとしたのは秘密だ。
「私の虚飾の権能は知っているでしょう。その力を使えば世界を思い通りに出来ますよ。例えば宝くじを当選させて大金持ちになったり、国の支配者になったり、気になる異性を惚れさせたり、何でも言うことを聞く従順な下僕を手に入れたり、学校中の同級生から教師でハーレムを作っても、私で全裸露出ペットプレイ、連続処〇か――」
「何口にしてんのパンドラー!?」
途中からヤバいことを口に出したパンドラの頭に拳骨を下ろした。幼女虐待?その幼女が卑猥な言葉を口にしたので止めただけです。あと少なくとも同い年だ。
「痛いですよハジメ。頭なでなでを希望します。さあさあ」
「…………」
「ふふっ」
痛みなんて感じるどころか死んでもけろっとしてるのを知っているが、これ以上何かしたらこっちの実がもたないと思い頭を撫でる。つやつやさらさらなパンドラの髪はまるで絹のような触り心地で撫でているこっちが気持ちいいとさえ感じてしまう。
「やっぱりハジメの頭なでなでは気持ちいいですね。癖になりそうです。どうです仕事で私の頭を撫でるというのは。一度に百万くらいなら出しますよ」
「百万円なんていらないから。言ってくれれば頭くらいいつでも撫でるから」
「いえドルです」
「ドルです!?」
彼女の名前はパンドラ。リゼロで登場するキャラクターであり、悲劇の大本であり、虚飾の権能という全ての事象を好き放題に好き勝手に書き換えることの出来る能力を持つ、僕の転生特典。それがパンドラ。虚飾の権能を持つ最強であり最恐な存在である。
「ハジメのことが大好きな最強サイカワなパンドラです……まだ処女です」
誰も聞いてないから!
◇
ありふれた職業で世界最強。という小説がある。それは主人公でありオタクな普通の学生南雲ハジメがクラスメイトと共に異世界に転移し、元の世界に戻るために命がけで戦う物語。主人公はクラスメイトの裏切りにより迷宮の奈落の底に落とされ、そこで片腕を失い、死の恐怖に怯え精神が崩壊して自我が変異するし、魔物の肉を食って死にかけるが、そこでチート級の力を手に入れる。そして封印されていた吸血鬼のヒロインと共に迷宮を攻略し、魔法を手に入れ様々な出会いを経て、神を殺し地球に帰還するという物語。
そんな主人公である南雲ハジメに転生したと知り、最初は驚きと共に未来への不安へと襲われた。何しろハジメというキャラは不憫なところもあるし、生きていたのも偶然の要素が強いからだ。
まず初めに虐め。ハジメはオタクであることを隠すこともなく普通にしていたが、そんなハジメに好意を持っていたのが学校の女神であり男子生徒憧れの存在でヒロインの一人。そんなヒロインがオタクに好意を寄せているのが許せなくて、ハジメは虐めにあっていた。
次に迷宮に落ちる時と落ちた後。落ちた時は頭や体を打ち付けて死んでしまうかもしれないし、落ちた後は左手ではなく首や体を狙われていたら間違いなく即死していた。水に落ちたことも、左腕だけで済んだことも運がよかっただけ、そう思っている。
次に天之河光輝というキャラ。正義感が強く運動もできて勉強もできる。まるで絵にかいたような完璧で、おまけにイケメンの好青年。学校カーストの上位者であり、虐めの原因であるヒロインに好意を寄せ、主人公に突っかかってくる、異世界では勇者になる存在。そして自分の考えや思っていることが絶対に正しいと感じ、行動する厄介な存在。なまじ知識や力があるせいで、間違いを認めようとしない。afterでは改善されているが、それ以前では、あまり近づきたくも関わりたくもない、そんな存在でもある。
美人でハーレムがある?そもそもそれ以前にあまり女性に近づきたくはない。あまり言いたくないので今は割愛させてもらうが、諸事情があって女性が苦手なので転生してもあまり嬉しくなかったのが実情だ。
でも悲観はしていない。
そもそも原作通り異世界に行くのは天之河であり、他の生徒は巻き込まれただけ。つまり異世界物に珍しく主人公が異世界転移したのではなく、異世界転移に巻き込まれただけ。つまり彼と距離さえあれば問題なく回避できるので、一緒の高校に通わなければ異世界トータスに転移することはない。学校の制服だってうろ覚えだが覚えていたので、学力さえあれば後の回避は比較的に簡単。
ありふれた職業はFinとなる、はずだったのに。
「…………」
「どうしましたか?」
「いや、なんでもない……」
それを、その計画を、転生特典のパンドラに潰されて、いや書き換えられたのが本当に理不尽だ。今着ている制服は原作と同じ制服であり、この学校ももちろん原作と同じ学校。そしてクラスメイトも一緒なので当然二大女神や腹黒眼鏡に天之河もいる。
いや、いるにはいるのだが、ちょっと原作改変というか虚飾の権能というか原作崩壊というか。そう思いつつこちらを見つめているパンドラをしり目に教室の扉を開けた。
「あっ、ハジメ君。おはよう!」
「お、おはよう白崎さん……」
「もうっ。名前で呼んでって言ってるのに」
教室に入ってすぐ、美少女の暴力が襲ってきた。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で、アイドルでもやれば絶対人気になること間違いなし。某推しの子に出てくる某アイドルよりも究極で完璧ではないだろうか。
彼女の名前は白崎香織。この学園の二大女神の一角であり、外伝なんかではストーカーしてるヤバい要素もある女性だが、今はそんな片鱗は一つも見えない。
ここは別に原作とは離れていない。原作でもハジメは彼女に好意を寄せられ、一番に話しかけてくるからだ。違うのは周りの様子。
「あっ、白崎さんがアタックしてる」
「ちっ、ハジメのやつ羨ましいぜ……いや羨ましいのか?」
「どうだろうな。あの体質さえなければ嫉妬でどうにかなりそうだけど」
「俺は応援してるぞ。じゃないと賭けに負ける」
原作では白崎さんがハジメに話しかければ殺気にも似た眼光に晒されるのだが、周りの目にはそんなことなく、むしろ同情的というか、わくわくしているような、なんとも言えない感じだ。
「おはようハジメ」
「お、おはよう八重樫さん……」
「私も雫って呼んでいいのよ?それより香織。ちょっと近づきすぎよ」
「そうかな?」
「そうよ」
次に近づいてきたのも美少女。ポニーテールにした長い黒髪、切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象。百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気。風紀委員みたいな感じを受ける。
彼女の名前は八重樫雫。学園二大女神の一人であり、実家は八重樫流という表向きは剣術道場を営んでおり、彼女自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。
ただその大半が同性の女性であり、後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で〝お姉さま〟と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。
外伝でも本編でも、親友の暴走に巻き込まれていた所もある彼女は、白崎さんが僕に近いと言って引き離そうとして、僕に近づいた。
「それよりハジメ。いつになったら名前で呼んでくれるのかしら?」
「そ、それはおいおい……」
「そういってもう何年たったかしらね?」
「い、いやそれは……」
八重樫さんは見るからに不満です。と顔に書いてあるほどわかりやすく不満そうにこちらを見てくる。彼女の目と仕草に目が奪われそうになるが、彼女との距離が短くなるにつれて体が震えてしまう。
「今度は八重樫さんだ」
「自然に懐に入ったぞ」
「流石八重樫さん。付き合いの長さがなせる技よ」
「俺は八重樫さんに賭けたんだ。頑張ってほしいよ」
周りが何か言っているが今度は耳に入らない。今の僕の耳には周りの音が遠くに聞こえて、自分の心臓の鼓動がうるさくてそれどころではない。小さくしかししっかりと体が震えヒア汗が背中に感じられる。少しずつ改善されているようだが、まだまだ無理なようだ。それに彼女も気が付いているらしい。こちらの様子を見て、悲しそうに表情を変えた。
「……やっぱりまだ無理のようね」
「うん……本当にごめん」
「いいわよ別に。でも、早めに克服させて見せるからね」
こちらの様子を見た八重樫さんは少し悲しそうにしつつも挑戦的な笑みで笑う。その笑顔にうるさかった心臓の鼓動が一瞬止まりそうになり。
「ねえハジメ君。雫ちゃん」
「「あっ?」」
別の意味で止まった。地獄の底から聞こえてきそうなほど低い声で呼ばれて、壊れたブリキ人形のように振り返って見れば、そこには怖いほど清々しい笑みで、背後に般若のイマジナリーが見えている白崎さんの姿が。
「私のこと放っておいていちゃいちゃしすぎじゃないかな?かな?」
「か、香織?」
「し、白崎さん」
「二人とも……ちょっとお話ししようかな?かな?」
笑う白崎さんの背後で、般若も笑ったような気がした、とこの光景を見ていた全員が証言した。
いきなりオリジナル要素登場。
その詳細は次の話しで。