ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘 作:あるてみす@二次創作
銀河は広大だ。
だが、手が届く範囲は限られているし、出来ることも数えるほどしかないし、名を残せる奴なんて余程の傑物か怪物、或いは異能を自在に操る騎士達。そして、長きに渡って戦い続けていた騎士達を陥れ、ありとあらゆる国家と民族を蹂躙し、従属しない者達の住まう星を焦土に変えた帝国。
広い目で見れば、マンダロアもその一つでしかないだろう。しかし、それで終わりではない。いや、終わらせてはならない。
我らの道を途絶えさせてはならない。
ジャジー・ジズ・ブーもその一人だ。
マンダロリアンの教義を守り、ヘルメットとベスカーアーマーの内側に故郷と家族を失った痛みを隠し、糊口を凌ぐために賞金首を討ち続けている。
不本意だが、他の生きる手段が見つからないのも事実であり、アウターリムで長らえるためには必要なことでもあった。マンダロアも宗教上の理由で内戦が絶えなかったが、アウターリムの治安の悪さはそれとは訳が違う。悪人、犯罪者、殺し屋、海賊、詐欺師、密輸業者、スパイスのバイヤー、いくらでもいる。
だから、仕事には事欠かない。故に、今日もまたジャジーはブラスターを握り、宇宙港のコンテナの陰に身を潜めていた。
今回の標的は、商船の売り上げを持ち逃げし、別の星に逃げ出そうとしている輩だった。男のトワイレック、肌の色は紫。特徴さえ解れば、後はどうにでもなる。問題は、その売り上げを横から掻っ攫おうと企んでいる悪党共だ。
「全く……」
ジャジーはヘルメットの熱センサーを作動させ、コンテナ置き場をぐるりと見渡した。一定の距離を保って標的を追っているのは四人。種族は不明だが、体格からして人型だ。
「グラヴ・チャージは使わせるなよ? あれは高いんだよ」
ヘルメットの内側で消える程度の声色で軽口を叩いてから、ジャジーは腰を低くして駆け出した。コンテナの間を縫って移動し、まずは一人を撃つ。その銃声と異変を察知して別の奴が撃ってきたが、コンテナの端に退避してから撃ち返す。ブラスターの閃光が空気を切り裂き、焦げた匂いを散らす。
荒っぽい足音が頭上に迫り、見上げるとコンテナの上を走ってきた奴が銃口を向けてきた。すかさずナイフを投擲して喉を正確に貫き、死体が転がり落ちてきたところで最後の一人をグラップリング・ラインで絡め取り、引き寄せてから撃つ。
そして、売り上げ金の入ったバッグを抱えて震えているトワイレックの男に歩み寄る。
「よお」
生きて連れてこい、とは言われていない。命乞いだか言い訳だかを聞いた気がしたが、それを理解するよりもブラスターの引き金を引く方が早かった。
ただの仕事として。
マンダロリアンは身を潜めている。
帝国の目から逃れるために、耐え忍ぶために、奪われた武器やベスカー合金を取り戻すために。慣れはするが、体の芯まで受け入れたわけではない。マンダロアでの日々を覚えているからだ。
商船を仕切る運輸業者に取り戻した金を渡し、報酬を得てから、ジャジーはその場を去った。酒場に立ち寄って次の仕事を探そうか、同胞の隠れ家に戻って生き残りの仲間達と現状について話し合うか、帝国の船を略奪する算段を立てるか。
「いや、その前に……」
ジャジーはヘルメットの内側で独り言を零した。敵が誰であれ、戦闘は消耗する。今回はブラスターのエネルギーだけで済んだが、ジェットパックの燃料やホイッスリング・バードの弾、ナイフの切れ味、自分自身の食糧、それからスターファイターのメンテナンス費、燃料費、駐機料金、情報を買うための金。
考えるだけでうんざりするが、賞金稼ぎとして身を立てているからには逃れられないことだ。出来ればザ・ウォッチと合流して負担を軽くしたいが、大人数で集まれば嫌でも目立つ。だから、こうして単独行動を取っているわけで。
スターファイターの操縦席を寝床にするのは窮屈だが、誰かに乗り逃げされないためには仕方ない。せめて軽い食事でも調達しよう、とジャジーは歓楽街の入り口にある店に向かったが、不意に声が聞こえた。
「たすけて」
今にも消え入りそうな少女の声。ジャジーは反射的に振り向いたが、夜中の歓楽街に子供なんているはずもない。気のせいか、と思おうとしたが、それが孤児であれば見過ごせない。
ジャジーは腰の右側のホルスターに提げたブラスターに手を添えながら、慎重に周囲を窺った。おねがい、きづいて、こっちにきて、と声は続いている。だが、見当たらない。
すると、ロズキャットらしき毛玉が路地裏から転がり出てきた。ジャジーはそれを避けてから、もしかすると、とその路地裏を覗き込んだ。ヘルメットのライトを付けて照らしていくと、ゴミ溜めの中、ぐにょぐにょと不定形な物体が蠢いていた。
言うならば、赤い糸玉だった。しかし、熱反応はあり、生物である可能性が高い。ジャジーはブラスターに添えていた手を下ろし、片膝を突く。
「これは……」
赤い糸玉が数本千切れていて、びちびちと跳ね回っていた。どうやら、さっきのロズキャットに齧られてしまったらしい。こいつにもバクタ・スプレーは効くかな、と思いつつ、ジャジーは腰に付けたポーチを開けた。
「待ってろ、治してやるから」
ジャジーはバクタ・スプレーの僅かな残りを、赤い糸玉に振りかけてやった。体液が漏れていた傷口が塞がると、痛みも紛れたのか動きが落ち着いてきた。
「とりあえず連れて帰るさ。お前が何者であれ」
ジャジーは赤い糸玉を手に収めると、踵を返した。今夜の腹の足しは、スターファイターに隠してある携行食糧でなんとかなるだろう。熱いポグ・スープが恋しくなるが、それはまた今度だ。
赤い糸玉は、ジャジーの手に絡み付いてきた。
赤い糸玉は言葉を発さなかった。
その代わり、頭の中に声が響いてくる。これはもしやフォースによるものか、とジャジーは懸念したものの、それにしては周囲への影響が乏しかった。
フォースセンシティブを持つ者、すなわちジェダイの適性を持つ知覚種族は、常人には与り知らない方法で通じ合う。それにより、互いの居場所を知り、ジェダイとなるべく導く者が現れる、らしい。
らしい、というのは帝国の策略によってジェダイ聖堂が滅ぼされ、無類の強さを誇ったジェダイの騎士達も虐殺されてしまったからだ。故に、今となってはジェダイは過去のものとなり、仮に彼らが生き延びていたとしても所在は解らない。遠い昔にはマンダロリアンと敵対していた間柄だが、今となっては似た境遇に陥っているのは皮肉なものだ。
「とりあえず、何を食わせればいいんだ……?」
スターファイターをハイパースペースに突入させた後、ジャジーは金属製のカップに収まっている赤い糸玉を眺めた。野営の際に煮炊きをするためのもので、大抵はポグ・スープを作る。ティインギラーは辛すぎて苦手だが。
海洋惑星の出身なのか、それとも湿地帯の多い緑化惑星か、それとも、とジャジーは考え込んだものの、それほど詳しくないので意味はなかった。いっそのことコルサントで専門家に尋ねてみようか、とも思ったが、さすがに遠すぎる。
そうこうしているうちにハイパースペースを脱し、通常の宇宙空間に戻った。正面に見えるのは、次の仕事先である放棄された宇宙要塞だった。
帝国軍と反乱軍の激しい戦闘の末、残骸だけが残されたのだが、そこに海賊が住み着くようになった。それだけでも厄介なのに、近隣の惑星を荒らし回るようになったため、商船や民間の旅客船の航行が妨げられるようになってしまった。
「で、俺の出番と」
とはいえ買い被りすぎじゃないかね、俺と他のマンドーを間違えてんじゃねぇのか、とジャジーは内心で悪態を吐いたが、引き受けてしまったからにはやり遂げなければならない。
それがマンダロリアンだ。