ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘 作:あるてみす@二次創作
どの星にも場末の酒場はある。
コアワールドで栄華を極めたコルサントでさえも、煌びやかで不自由のない暮らしをしているのは上層都市の住人だけで、中層、下層、更にその下ともなればゴミ溜めだ。犯罪が跋扈し、目先の金とスパイスに狂った者達が蠢いている。
このショッピングモールがある衛星もその例からは漏れず、上層のショッピングモールから離れ、中層の問屋街と倉庫街を通り、下層に至ると密輸業者と違法な物資の売人が溜まっていた。となれば、仕事には困らない。どこのアウターリムでも同じだ。
ジャジーがシュシュを連れて酒場に足を踏み入れると、客の目が一斉に向いた。マンダロリアンが珍しいからだ。一目見てそうだと解る姿であり、身に着けているベスカーが裏社会では高値で取引される合金だからだ。それも今に始まったことではないが。
「よお、景気はどうだ」
ジャジーはカウンターに立つローディアンのバーテンに声を掛けると、ローディアンはグラスを拭いていた手を止めた。
「マンダロリアン? 何の用だ」
「俺は賞金稼ぎだからな、仕事を探しに」
ジャジーはカウンターに上半身を委ねたが、背後を気にすることを忘れなかった。シュシュはジャジーの隣に立ったが、明らかに気後れしていた。場の雰囲気に呑まれているからだ。荒くれ者ばかりだし、彼らの攻撃的な思念は感覚が過敏なシュシュからすれば毒なのだろう。
ジャジーはヘルメット越しに店内を見渡すと、右側のテーブルを囲む男達がこちらを注視していた。ヒューマン、トワイレック、ノートランという取り合わせだったが、彼らの手元には布に包まれた金属があるのが窺えた。
「シュシュ」
ジャジーが三人の男達を示すと、シュシュはジャジーに聞き返す。
「あの人達がどうかしたの?」
「帝国が大粛清の後にマンダロアから奪ったものは何だと思う?」
「ベスカー、だよね」
「正解」
ジャジーはシュシュの背を軽く叩いてから、三人の男達に歩み寄っていく。ホルスターに提げたブラスターに手を添えることを忘れずに。
「それ、見せてくれないか」
「急に割り込んできて馬鹿なことを言うな、マンドー。どうしても欲しければ、お前のアーマーと交換だ」
ノートランの男が言い返すが、ジャジーは三人が囲んでいたテーブルからインゴットを取った。手のひらに収まるサイズで、長方形で波紋が浮かんでいて、右下の隅には帝国の紋章が刻まれている。
「なるほど」
ジャジーはインゴットを手の中で揺すり、重みを確かめた。それをベスカー製のガントレットに擦り付けると、インゴットの角が潰れてメッキが剥がれ、中身が露出する。黒っぽい粗悪な金属だった。
「残念、こいつは偽物だ」
ジャジーが角が潰れたインゴットをテーブルに戻すと、トワイレックの男が目を剥く。
「それじゃ、残りも偽物なのか?」
「ちょっと待ってろ、確かめてやる」
ジャジーは三人の酒のグラスを引き寄せた。半分ほど中身が残っているグラスを二つ並べ、無作為に選んだインゴットを同時に投下する。すると、右側のグラスの中身は少し増え、左側のグラスの中身はその倍近く増えた。
「比重が重いから、こっちは本物のベスカーだ。といっても、帝国が精製したから不純物が多い上に焼き入れをしていないから、強度はかなり下がるが」
「よくも偽物を売りやがったな!」
ヒューマンの男がノートランの男に掴み掛かり、テーブルが倒れてグラスが割れ、インゴットが散乱する。それをトワイレックの男が拾い集め、その場を離れようとするが、ジャジーはそのトワイレックの男の肩を掴む。
「そいつをどこで手に入れた?」
「ガモーリアンからだ」
「そうか、解った。ガモーリアンにも伝えておくよ、お前達が偽物を掴まされたと怒っていたと」
ジャジーが小さく首を竦めると、ヒューマンの男はジャジーを窺ってきた。
「そこまでしてくれなくていいんだが。あんたは通りかかっただけだろう?」
「本物のベスカーが欲しいんだろう? それなら、真っ当に取引するべきじゃないか」
ジャジーは酒場の入り口に目をやると、緑色の肌で豚のような外見の人型種族、ガモーリアン達が喚きながら入ってきた。途端に三人が血相を変えて逃げ出そうとしたが、ジャジーは手を出さずに身を引いた。どうやら、この三人はガモーリアンが得た報酬を掠め取り、逃げていたらしいが、山分けする段階で揉めていたようだ。そこに遭遇したのがジャジーというわけだ。
ガモーリアン達は斧を振り上げて三人の男達を追い回し、他の客を薙ぎ倒し、テーブルを吹っ飛ばしながら暴れ回った。しばらくは攻防が続いたが、三人の男達はガモーリアンに強かに殴られ、酒場の外へと放り出された。
「忘れ物だ」
ジャジーは床に散乱したベスカーのインゴットを集め、布に包んでガモーリアンに渡すと、ガモーリアンはフゴフゴと鼻を鳴らして言葉を発した。ガモーリアンの独特の言語で、帝国の軍用品を横流ししていた売人に偽物を掴まされて大損した、その上盗まれて迷惑していた、ベスカーにはもう関わりたくないから持っていけ、とのことだった。
「じゃ、遠慮なく頂くよ」
ジャジーはガモーリアンにクレジットを握らせてから、ベスカーのインゴットを手に収めた。
「行くぞ、シュシュ」
ジャジーが促すと、シュシュはカウンターを離れてジャジーの傍にやってきた。
「仕事は?」
「事情が変わった。こいつの出所を探す」
ジャジーはベスカーのインゴットを、腰のベルトに付けたポーチに入れた。シュシュは三人の男達を引き摺っていくガモーリアンを一瞥してから、ジャジーに続いた。
ベスカーの密売は見過ごせない。
密売人について情報を探った。
比較的新しい帝国軍の軍用品を身に着けている人物を呼び止め、誰から買ったのかを聞き出せばよかったので、それほど難しいことでもなかった。その過程で、ジャジーはシュシュに帝国製と旧共和国製の品物の見分け方について教えた。知っておいて損はないからだ。
そこで得た情報を元にして、密売人が現れる場所に向かった。ヒューマンの男で、帝国製のブラスターを腰に提げているのが目印だそうだ。
「ブラスターなんてどれも似たようなものじゃないの?」
シュシュが首を傾げると、ジャジーは首を横に振る。
「全然違う。見慣れれば一目で解る」
「どこが?」
訝しげなシュシュに、ジャジーは銀河で流通している各メーカーのブラスターの性能と特徴、カスタムによる機能の拡張、射撃精度、エネルギー効率、貫通力などについて説明してやりたくなったが、それは後回しにした。マンダロリアンはアーマーと共に武器も重んじているので、その過程で武器に詳しくなるため、おのずと熱が入ってしまう。
公私混同するなんて俺もまだまだ未熟だ、とジャジーは自戒しながら、ドロイドの部品が山積みになったスクラップ屋の前に通りかかった。その先にある路地に、帝国製のブラスターを提げたヒューマンの男がいた。密売人だ。
「いいものを扱っているそうじゃないか」
ジャジーが声を掛けると、密売人は目を上げる。
「珍しいな、マンダロリアンか」
「さっきも同じことを言われたよ。で、酒場でこいつを見つけてな」
ジャジーが偽物のベスカーのインゴットを取り出して見せると、密売人の視線が揺れた。ジャジーを通り越し、シュシュを捉えた。
「それが?」
「本物は言い値で買う。在庫を全部見せろ」
ジャジーが偽物のベスカーのインゴットを密売人に握らせると、密売人はそれをジャケットのポケットに突っ込んだ。
「付いてこい」
ジャジーはシュシュを促すと、シュシュは不安そうではあったが背筋を伸ばしていた。狭い裏路地を進みながら、ジャジーは密売人の男を観察する。
密売人の男の歩き方と身のこなしからして、本来は兵士だろう。今のところは尾行はないが、奥に進むにつれて建物の陰からこちらを窺う目が増えていくので、逃げ場のない場所まで誘い込む気でいるようだ。シュシュも後ろが気になるようだが、ジャジーが前を指すと振り向かずに歩調を保った。
「ここだ」
密売人の男が足を止め、古びた民家を示した。ジャジーはシュシュを立ち止まらせ、熱反応を検知すると、民家の中には複数の人影が身を潜めていた。姿勢からして、皆、ブラスターを手にしている。
「受け取れ、これが代金だ!」
ジャジーは密売人の男の襟首を掴み、ヘルメットで強烈なヘッドバットを食らわせる。その一撃で密売人の男の意識が遠のき、よろめくと、ジャジーは密売人の男を蹴り飛ばして民家に突っ込ませた。
ドアが吹っ飛ぶと同時に中から銃撃されるも、ジャジーは火炎放射でドアの両脇に控えていた人物を牽制し、突然の炎に怯んだ隙を見逃さずにブラスターで撃ち抜く。
「あっ」
民家の外でシュシュが声を上げた。先程から二人を尾行していた者達が姿を現し、こちらもブラスターを向けてきたが、シュシュはグローブを外した。彼らが引き金を引く前に触手で絡め取り、腕ごと捻る。ごぎっ、と嫌な音がして関節が逆に曲がる。
「こっちにもいるね」
シュシュは振り返り、反対方向から現れた人物にも触手を巻き付け、引っ張った。こちらは腕ではなく首だったので、ぐぎっ、と妙な方向に曲がる。
「お前の戦い方、そういう感じ?」
室内の敵を片付けてからジャジーが零すと、シュシュは砂埃にまみれた触手を引っ込める。
「だって、まだブラスターの撃ち方を習っていないから」
シュシュが事も無げに言い放つ。ダンク・ファリック、とジャジーは胸の内で零してから、シュシュを室内に入れてから応戦した。グラップリング・ラインを近付いてきた人物に引っ掛けて倒し、ブラスターで仕留め、物陰に潜んでいる輩を撃ち、屋根の上から狙っていた者も撃ち落とすと、慌てて逃げ出す足音が聞こえてきたが、そちらは見逃した。
ベスカーを回収する方が先だ。
民家の地下室には意外なものがあった。
帝国の紋章が入ったベスカーのインゴットの本物と偽物と、複数のマンダロリアンのヘルメットとアーマーだった。塗装の剥げ具合と使い込まれ方からして、ベテランの戦士が使っていたものだろう。だが、隙を突かれて仕留められ、ヘルメットを脱がされてアーマーも奪われてしまった。
「ジャジー、それは」
シュシュがヘルメットとアーマーを見下ろすと、ジャジーは手近な布でそれを包んだ。
「アーマラーの元に運ぶ」
「そうすると、どうなるの?」
「本来の持ち主の氏族が受け継ぐか、溶かされて新たなアーマーに生まれ変わるかのどちらかだ」
「使っていた人は?」
「さあな、俺には解らない。せいぜい、デス・ウォッチかザ・ウォッチのどちらかだった、という程度だ」
「そんな……」
シュシュが触手を窄めると、ジャジーは呟いた。
「生きていればチェーンコードで確かめようがあるんだが、そうでなければどうしようもない。だから、せめてアーマーだけでも連れて帰るんだ」
「私にも持たせて」
シュシュの申し出に、ジャジーは今し方手に入れた本物のベスカーのインゴットを差し出した。
「それなら、こっちを預かっていてくれ。どっちもマンダロリアンにとっては大事なものだ」
「はい」
シュシュは力強く返事をした。ジャジーは密売人の男とその仲間の死体を跨ぎ、裏路地を後にしながら、あの偽物自体がマンダロリアンを炙り出すための罠だったのだろうと察した。帝国はマンダロアを滅ぼしてベスカーを奪うだけでは飽き足らず、マンダロリアンから全てを奪い去ろうというのか。
「ジャジー」
シュシュはベスカーのインゴットをしっかりと握り締め、ジャジーの隣に立った。
「ブラスターの撃ち方、教えて」
「その前にダートだ。マーカー弾で練習するんだ。いきなり実銃を持ったって、ケガをするだけだ」
ジャジーは複数人のベスカーアーマーを担ぎ上げると歩を進めた。シュシュはジャジーが担いでいる荷物を支えてくれたが、大した手助けにはならなかった。それでも、シュシュが誰にも知られずに果てた戦士達を慈しんでいるのは伝わってきた。
やはり、ベスカーは重たい。