ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘 作:あるてみす@二次創作
大きな戦争の末、帝国は倒れた。
それがもう少し早ければ大粛清は起きなかったはずだ、とジャジーは思わずにはいられなかったが、巨大な権力と陰謀が渦巻く銀河規模の国家であれば、中枢が倒れても末端は生き延びているだろう、とも割と冷静に捉えてしまう。実際、帝国残党はそこかしこで目にするし、ベスカーの偽物の一件のように関わらずにはいられない場合も多々ある。
腹を括ってもう少し踏み込むべきか、リスクを考慮してきっぱりと縁を切るべきか、それとも別の方法で、とジャジーは考えずにはいられなかった。
「はぁ……」
センチネル級シャトルの操縦席に座ったジャジーは、ヘルメットの内側でため息を漏らし、上体を逸らした。そうすると、ヘルメットの重みがいくらか和らぐが、外れないように押さえることは忘れない。
帝国に奪われたベスカーを取り戻し、アーマーを回収するのもマンダロリアンの歩むべき道だ。しかし、それは多くの危険が伴う。帝国残党に睨まれれば、逃げ延びることすら難しい。シュシュを守り、育てながら旅を続けるには、帝国からはなるべく距離を置くべきだ。だが、ベスカーを単なる頑丈な合金として扱われ、教義も唱えられない輩がアーマーを身に着けるのは許し難い。決して。
「どうすりゃいいんだ……」
ジャジーはヘルメットを押さえた。こんな時、仲間達ならどうするのだろうか。いくつものヘルメットに覆われた顔が脳裏を過ぎるが、差し当たって思い付くのは変わり者のディン・ジャリンだった。
コンコーディアで訓練を受けた際、何度か顔を合わせた覚えはあるが、ディン・ジャリンは他の子供達とは違って養い親に連れられて旅をしていた。そのせいもあり、ディン・ジャリンは同年代の子供達とはあまり馴染めずにいた。当時から体格が一回り大きかったパズ・ヴィズラは、それが気に喰わなかったようで、やたらとディン・ジャリンに突っ掛かっていた。大人になってもその調子で、顔を合わせるたびに衝突していた。ガツンガツンと物理的に。
「でも、あいつ、今はどこにいるんだ?」
ジャジーはモニターの星図に目をやった。ディン・ジャリンであれば相談出来そうだが、独り立ちして以来、賞金稼ぎとして活躍しているため、どこかに定住していない。同業なので、仕事を依頼してきた相手から銀色のベスカーアーマーのマンドーの噂を耳にすることもあるが、その程度でしかない。
ついでに言えば、ジャジーはディン・ジャリンと仲が良かったわけではない。嫌いだったわけではない。ただ、接点がなかっただけだ。ディン・ジャリンは勉強熱心で飲み込みが良いが、それに慢心せず、訓練を根気良く続けて着実な強さを身に着けていくので、子供ながらに立派な奴だと思っていた。だが、迂闊なことをすればパズ・ヴィズラに睨まれかねないので、及び腰になっていたのも事実である。
「まあ、いいか……」
お互い、生きていればどこかで会える。その時にちょっと話をしてみよう。ジャジーは気持ちを切り替えてから、ドロイド・ポートに接続しているR3をがつんと小突いた。
「R3、起きろ」
ピキピキッとちょっと苛立った様子でバイナリー言語を発したR3に、ジャジーは命じた。
「このシャトルの余分なデータを削除しろ。でないと、ハイパードライブの航路計算が遅くなる」
ピポピッとR3は軽快な電子音で返した。それなら簡単、とでも言いたげに。しばらく時間が掛かるだろうから、その間にシャワーでも浴びよう。
「シュシュ」
ジャジーはコクピットから居住区に入ると、シュシュはテーブルで文字の勉強をしていた。フードを外しているので、頭部の赤い触手が広がり、うねうねと波打っている。
「シャワーを浴びてくる。しばらくは近付くな」
ジャジーが念を押すと、シュシュは言い返した。
「見ないよ。興味ないもん」
「それならそれでいい」
ジャジーは小さく肩を竦めてから、シャワールームに入った。ヘルメットを外し、ベスカーアーマーを一つずつ外していく。武器と弾薬が詰まったポーチ、ライフルの予備の弾丸を差してあるベルト、ベルトに付けたグラヴ・チャージ、両腕のガントレット、手甲の付いたグローブ、ホルスターとブラスター、プロテクター、腿当て、ニーパッド、エルボーパッド、脛当て、両足のブーツに仕込んだナイフ、腰の後ろに巻いたマント、アンダーウェア、それからブーツ、靴下、下着。
普段は更にジェットパックを追加し、場合によってはブラスター・ライフルなどの武器も持ち歩くので、重量は更に増える。常にウェイトを付けて動き、戦っているため、おのずと筋肉が付く。とはいえ、ベスカーアーマーに守られていない部分に付いた古傷も目立つので、あまり見栄えのいいものではないが。
ジャジーはシャワーを出し、生温い水を浴びながら、久々に目にした自分の顔に辟易した。大して顔も良くないのに、金髪と青い目なのが煩わしい。半端に伸びた髪を切り、髭を剃り、ヘルメットからはみ出す襟足を短くする。
全身を洗い流し、乾かしてから、着替えを身に着けていく。ベスカーアーマーの重みがないと、足元がふわふわして落ち着かない。ジャジーはブーツを履き直し、ナイフを仕込み、胸当てと肩当てを付け、グローブを先に付けてからガントレットを填めた。ヘルメットを被ってからホルスターを提げていると、シャワールームのドアが乱暴に叩かれた。
「なんだよ」
ジャジーが仕方なくドアを開けると、R3がギャピギャピと喚きながら頭部を回転させていた。その背後から、そっとこちらを窺っているのはシュシュの触手だった。ジャジーはR3を引っ叩いてから、シュシュの触手を掴んだ。
「俺の顔には興味がないんじゃなかったのか?」
「ちょっと気になっただけ」
シュシュが触手を引っ込めると、R3がガツガツとジャジーにぶつかってきたので、ジャジーは再度R3を引っ叩いた。
「お前は落ち着け、何を見つけたんだ」
どうせ大したことじゃないだろう、こいつは感情表現がやかましいから、とジャジーはアストロメク・ドロイドに若干呆れた。R3は反乱軍のスターファイターが撃墜されて放置されていた現場で、半壊した状態で転がっていたのを拾ってきたものだ。だから、どこかが故障しているのかもしれないが、修理に出すと金が掛かるのでそのままにしている。
優先順位の問題だ。
ノイズだらけのホロが浮かんでいた。
R3が騒いでいたのは、帝国残党の内部での暗号通信を解析し、復元出来たからだった。そんなものを今更知ってどうなる、俺の仕事には関係ないだろ、とジャジーは言いたかったが、R3が必死に食い下がってくるので無視出来なかった。なので、ジャジーはコクピットでそれを見ることにした。
映像は破損していたが、音声は聞き取れる程度には修復されていた。シュシュはあまり興味がないようだったが、コクピットにやってきた。
『……大変残念なお知らせがあります。例の被験体にはフォースセンシティブはありませんでした。ミディクロリアンも検出されません。どうやら、我々が求めているものとは異なる能力を持った種族だったようです』
『はい、ご命令通りに被験体を廃棄処分いたします。未開惑星の宙域を哨戒するスターデストロイヤーに搭載し、然るべき場所で……』
『グラビティ・スマッシャーの試験運用の際に発生した事故の原因も追って調べていますが、試験運用に立ち会った技術者と兵士が軽クルーザーごと消滅しているため、原因追及が困難を極め……』
『実験とその結果を全て廃棄し、凍結せよと仰られるのですね。はい、そのようにいたします』
『仰せのままに、モフ・ギデオン』
その名を耳にした途端、ジャジーは肝が冷えた。動揺の波が収まってから、ジャジーはR3に問う。
「この暗号通信は、あのスターデストロイヤーから発信されていたのか?」
あの、生物兵器と思しき怪物が巣くっていたスターデストロイヤーだ。ジャジーの意図を察し、R3は星図のホロも投影する。そこに記されていたのは、やはりあのスターデストロイヤーが浮かんでいた宙域だ。
「グラビティ・スマッシャーは何なんだ?」
ジャジーが更に問うと、R3はピガピガと言いながら頭部を傾ける。
「調べようにも情報が足りない、ってことかな」
シュシュが察すると、ジャジーは考え込んだ。
「それは……」
どう考えても危ない。モフ・ギデオンが関わっている怪しげな実験について調べるなんて、サーラックの穴に自ら飛び込むようなものだ。しかし、もう少し知りたいという気持ちも嘘ではなかった。具体的には言い表しづらいが、予感めいたものがある。
今更、引き返せない。
帝国残党のアジトを見つけた。
ジャジーはストーム・トルーパーを片付けてから、その中の一人のチェーンコードを借り、帝国の端末にアクセスした。穏便とは言い難いが、他の方法が思い付かなかったのだから仕方ない。
シュシュはドアを見張り、ストーム・トルーパーの援軍が来ないかどうかを気にしながらも、ジャジーがデータを抜き出す様子をちらちらと窺っていた。
「これか……?」
ジャジーはグラビティ・スマッシャーらしき秘密兵器の機密情報を見つけたが、そこから先にアクセスするには情報士官の権限が必要だった。コード・シリンダーをスコンプ・リンクに接続したが、やはりダウンロード出来ない。どうする、もうちょっと粘るか、それとも他の帝国残党を見つけて、とジャジーが逡巡していると、シュシュが反応した。
「ジャジー!」
その声に、ジャジーはすぐさまブラスターを抜いた。部屋に入ってこようとしたストーム・トルーパーを立て続けに撃ち抜くと、誰かが逃げる足音が聞こえた。逃がすと厄介だ。
「シュシュ!」
ジャジーが命じるよりも早く、シュシュは部屋から飛び出した。グローブを外して触手を素早く伸ばし、逃亡を図った人物を絡め取り、締め上げる。帝国軍の軍服姿で、階級は少佐。ヒューマンの男だ。
「よう、少佐どの」
ジャジーは触手で拘束された男に近付いた。
「あんたがどこの部門かは知らないが、ちょっと試させてくれ」
ジャジーは帝国軍少佐の襟首を掴むと、シュシュに拘束させたまま端末の前まで引っ張っていった。そして、先程の機密情報にアクセスするために顔と網膜を認証させ、チェーンコードも読み取らせた。幸いなことに、この男は情報部門の士官だったようで、すんなりと機密情報が開示された。
「礼を言うよ、少佐どの」
ジャジーはコード・シリンダーに必要なデータをダウンロードしてから、ブラスターを撃った。シュシュが触手を引っ込めた後、ジャジーはコード・シリンダーをポーチに収めた。
「帰るぞ」
「ここはどうするの?」
シュシュに問われ、ジャジーは弾薬の山を示した。何らかの目的のために集められた武器が揃っていて、手榴弾の類も混ざっている。ジャジーはグラヴ・チャージを弾薬の山に放り込んでから、シュシュを連れて足早に去った。
爆音の後に火の手が上がり、騒がしくなった裏路地から抜け出す。決して振り返らず、躊躇いも捨て、退路も絶った。ジャジーは今一度決意する。これこそ、俺が選んだ道なのだと。
我らの道。