ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘 作:あるてみす@二次創作
再び、あの宙域に飛んだ。
ハイパードライブを脱したセンチネル級シャトルの目の前に現れたのは、半壊したスターデストロイヤーだった。あの日、ジャジーとシュシュが訪れた時と様子は変わっておらず、宇宙空間を漂っている。怪物も変わらずに眠っている。
「シュシュ、あいつの考えが読めるか?」
ジャジーはシャトルを接近させながら問うと、シュシュは目を細める。
「なんとなく。最初に会った時はぼんやりしていたけど、今はまとまりがある」
「俺達の接近に気付いているか?」
「今し方。私が精神に触れたから」
「攻撃してくる気配は?」
「うーん……。こっちの出方次第、かなぁ」
シュシュの答えが曖昧だったので、ジャジーは考えを巡らせた。前回の接触はどちらにとっても不測の事態であり、怪物の正体も解らなかったので、意思のないモンスターだとしか思えなかった。しかし、断片的ではあるが、その背景を知ったことで印象が変わった。怪物もまた、故郷も家族も得られず、孤独に宇宙を彷徨っている者だったのだ。
前回と同じカタパルトから艦内に進入し、着艦した後にシールドを展開してエアロックを形成する。空気が充填されたのを確認してから、ジャジーはシャトルの外に出ようとしたが、突如、R3がピギャピギャとバイナリー言語で喚いた。
なんだよいきなり、とジャジーは僅かに困惑しながらも素早く周囲を窺うと、レーダーに急接近する機影が映っていた。帝国の追っ手か、とジャジーは戦闘態勢に移行するべくシャトルから飛び出した。
スターデストロイヤーの至近距離に出現したのは、見慣れないスターファイターだった。帝国でも反乱軍でもなさそうなので、独立星系で製造されたものだろう。そのスターファイターはブラスター・キャノンで迎撃されるも擦り抜け、強引にカタパルトに突っ込んできた。
「うわっ!」
すかさずジャジーはシュシュを抱え、コンテナの背後に転がり込む。着艦姿勢など取らずに入ってきたスターファイターは、カタパルトの壁と床に機体を擦り付けて火花を散らし、徐々に減速した。
自動的にシールドが張り直され、再び空気が充填される中、着陸脚を半端に出したスターファイターが制止した。がたん、と機体が傾いたが、パイロットが出てくる気配はない。しばらくしてから出てきたのは、R2シリーズのアストロメク・ドロイドだけだった。
どうしてここに、とジャジーは訝りながらもブラスターの銃口を向けた。アストロメク・ドロイドは半球状の頭部を半回転させると、バイナリー言語ではなく銀河標準語で喚いた。
「すぐに退避しろ、すぐにだ!」
ということは、中身はヴィヴィだ。ジャジーは拍子抜けしたものの、その目的が解らない以上、こちらも警戒を緩めるわけにはいかない。
「ヴィヴィ、なぜ俺達の居場所が解った?」
「R3から連絡があったからだ」
「そのスターファイターは?」
「任務の最中に適当に盗んできたんだ」
「ここに用事があるのか?」
「そこまで答える必要はない。お前達を連れ戻しに来たんだ、それだけのことだ」
ヴィヴィは苛立ちを滲ませながらも、ジャジーの元に近付いてきた。シュシュがシャトルの中から顔を出すと、ヴィヴィはカメラを上向けた。
「R3から聞いてはいたが、実際に見ると驚かされるよ。急激に成長したんだな」
「ヴィヴィ、バトルドロイドじゃないの?」
シュシュが不思議がると、ヴィヴィはアストロメク・ドロイドのボディを動かしてみせる。
「戦闘で破損した。だから、手近なドロイドに潜り込んだ。いずれは他のドロイドに乗り換えるが」
「ヴィヴィ。シュシュを連れ戻しに来たのか? それとも、俺を仕留めに来たのか? でなければ、こいつが目当てか?」
ジャジーがスターデストロイヤーを示すと、ヴィヴィは逡巡した後に答えた。
「全部だ」
「まずは話を聞かせろ。シュシュの同族を撃ちたくない。だが、内容次第ではお前を宇宙に放り出す」
ジャジーがヴィヴィに歩み寄ると、ヴィヴィはバーナーを出して点火する。
「それはお互い様だ、若造。お前が引き金を引くよりも、俺がドロイドを操る方が早い」
両者の間に緊張が張り詰めたが、艦体が軋んで咆哮が響いてきた。あの怪物のものだ。あれが暴れ出したら、目的を果たすどころではない。
「穏便にいこうか」
ジャジーの提案に、ヴィヴィはバーナーを引っ込めた。
「今はそうするしかなさそうだ」
二人の様子を見、シュシュは安堵しながらも怪物を気にしていた。ジャジーはシュシュとR3をシャトルから連れ出すと、場所を変えた。
カタパルトでは居心地が悪い。
ロッカールームに移動した。
かつてはTIE・ファイターのパイロットが利用していたので、ロッカーにはヘルメットやパイロットスーツが残されていた。ジャジーはドアを背にして立ち、ベルトに両手を掛けたが、ブラスターを抜けるように気を張っていた。シュシュはロッカールームを物珍しそうに見回し、R3はヴィヴィにバイナリー言語でピコピコと話しかけていた。
「あまりにも無謀だ、マンダロリアンは戦闘民族だと聞いていたが限度がある!」
途端にヴィヴィが怒鳴ってきたので、ジャジーはR3を睨んだ。
「俺よりも先に説明するなよ。というか、バイナリー言語が喋れるのか」
「当たり前だ、ドロイドとして生きてきたんだから。だが、だからこそ言う。ジャジー、お前は、本当に、馬鹿だ!」
一語ずつ区切りながら、ヴィヴィはジャジーに突っ掛かってきた。物理的に。
「だが、他にやりようがあるか? こいつの無念を晴らす、帝国の下らん実験を完全に潰す。シュシュが帝国に睨まれないようにするためには、このスターデストロイヤーで帝国の基地とラボを壊していくのが最適解なんだよ」
ジャジーが言い切ると、ヴィヴィは排気を漏らした。
「それが馬鹿だと言うんだ。最初はいいかもしれないが、すぐに手詰まりになる。大体、この艦は破損しているし、消耗しているから、ハイパードライブで飛べるのはせいぜい二回だ。弾薬のエネルギーも乏しい。その状態で帝国の基地やラボを攻撃したところで、撃墜されるのが目に見えている。そもそも、お前には関係ないだろう? 我々の問題なんだ」
「いや、俺の選んだ道だ」
「マンダロリアンの我らの道か? ああ、ご立派な教義だね。だが、それはお前達の考えであって、それを押し付けられても困る。ナートミーはこう言うよ、身の丈に合わない貝を被ろうとするな、と」
「ナートミー? それがお前達の種族の名か」
ジャジーが反応すると、ヴィヴィは語気を弱めた。
「ああ、そうだ。久々にその名を口にしたよ。だが、それも終わったんだ。ジャジー、あんたは悪い奴じゃない。シュシュのためを思うなら、なぜ敢えて戦おうとする? 帝国が憎いのは解るが、だとしても度が過ぎている。それ以前に、全部終わっているんだ。ハッケージは滅んだ、ナートミーもだ。今更暴れたところで、帝国に一矢報いるどころか徒労に終わる」
「マンダロアはまだ滅んでいないし、マンダロリアンも残っている」
「それはお前達のことであって、俺達のことじゃない。なぜだ? 一体、何がそうさせるんだ?」
「俺がマンダロリアンだからだ」
ジャジーは迷いなく言い切った。突き詰めれば、それ以上の理由はない。帝国によって滅ぼされたからといって、何もかも無に帰したわけではない。シュシュとヴィヴィが生き残っていて、ハッケージという海洋惑星のナートミーという種族の記録がほんの少しでも残っていれば、何もなかったことにはならない。
「シュシュは俺の家族だ」
ジャジーはシュシュに向く。ヘルメットには、赤い触手を束ねてヒューマンを模した少女が映る。
「はい」
シュシュは頷き、ヴィヴィに向き直る。
「私、ずっと悩んでいた。どうすればいいのか、どんなふうに生きるべきなのか。一人ぼっちで寂しかったけど、ジャジーに見つけてもらった。だけど、いつまでも甘えてはいられない。自分の力で生きていけるようにならないと、私は今までの自分に戻っちゃう」
シュシュはグローブを填めて手の形にした触手を、ぐっと握り締める。
「だから、乗り越えなきゃいけないことがあるなら、ジャジーと一緒に頑張る。その後で儀式を受けて、マンダロリアンの仲間になる」
「……本気か?」
ヴィヴィが呆気に取られるも、シュシュは譲らなかった。
「私の仲間はもういない。でも、家族にはなれる」
アストロメク・ドロイドの中で、触手の塊の男が狼狽えているのは表情を見なくても察せた。あの時、ヴィヴィがシュシュを突っぱねなければ、シュシュの判断は変わっていたはずだからだ。たった二人の生き残りとして身を寄せ合い、やがて家族となり、ひっそりと長らえることも出来た。だが、ヴィヴィはそうしなかった。
「シュシュがまだ若いから遠慮したんだろ?」
ジャジーの指摘に、ヴィヴィは小さく零した。
「そうだ。それの何がいけない」
恐らく、ナートミーは寿命が長い種族なのだろう。正確な年齢は解らないが、言動からしてヴィヴィは壮年に差し掛かっている。それに対し、シュシュはまだ幼く、ヒューマンで言うなら二次性徴すら訪れていない少女だ。ヴィヴィは一人だけ残った異性の同族に対し、父親として接するべきか、将来の伴侶として接するべきか迷った末、どちらも選べなかった。
「ヴィヴィ。あんたはいい男だよ」
ジャジーが肩を竦めると、ヴィヴィはジャジーの内心を感じ取ったのか言い返した。
「慰めるな、余計に情けなくなる!」
「えーと……」
シュシュは反応に困っていたが、スターデストロイヤーが唸りを上げて動き始めた。R3が騒ぎ始めたので、ジャジーは相棒を押しやった。
「ヴィヴィ。こいつを生み出したラボがどこにあるのか、調べが付いているんだろ?」
「サブ・ブリッジに移動するぞ。ハイパードライブの正確な座標を入力する」
そう言って、ヴィヴィは廊下に出た。R3がその後に続き、シュシュはジャジーを覗き込んできた。
「ジャジー、今、嬉しい顔をしているでしょ?」
「覗くなよ」
ジャジーがヘルメットを押さえると、シュシュはにんまりする。
「見てないもーん」
シュシュは踊るような足取りで、二体のアストロメク・ドロイドを追っていった。そんなに態度に出ていたかな、実際嬉しいんだが、とジャジーはヘルメットの位置を直した。
家族。良い響きだ。
サブ・ブリッジは通電していた。
大半の機能が生きていて、ハイパードライブも使用可能だと判明した。だが、ヴィヴィの言った通り、ハイパードライブに必要なエネルギーが二回分しか残っていなかったし、通常の宇宙空間に出現した際に損傷した艦体が崩壊する危険性も高かった。スターデストロイヤーという檻から解放された怪物がどうなるのか、想像に難くない。
「サガム星系のフジーサ、そこに帝国軍のラボがある。ハッケージとナートミーに関するデータと、実験用の検体が保存されている」
ヴィヴィがホロで星図を表示させると、ジャジーは首を傾げた。
「フジーサ? そこは観光惑星だろ?」
「クローン戦争の影響で観光業が衰退し、帝国領になってからはいいようにされている」
「衛星のエノスには行ったが気付かなかった」
「一時期、ドロイド・ゴートラがエノスを拠点にしていたからな。その時、帝国残党を追い出して基地を破壊したんだ」
「そのわりには遊園地は綺麗だったが」
「それはエノスのドロイド達が修理したからだ。銀河が平和になれば、また客が来ると信じているんだ」
「前向きだな」
「ドロイドは素直なんだよ、俺達よりもずっと」
ヴィヴィはハイパードライブの航路計算を終えてから、ジャジーを見上げた。
「ドロイドとして動き回って、帝国軍に潜り込んで調べたはいいが、どうすることも出来なかった。誰かの力を借りようにも、相手が見つからなかった。ずっと一人で生きてきたから、良い奴だと感じながらもすぐに気を許すわけにはいかなかった」
「だろうな」
「ジャジー。俺達の代わりに戦ってくれ」
ヴィヴィの力強い言葉に、ジャジーは頷いた。
「我らの道」
単純な復讐でもなければ、帝国残党への宣戦布告でもなければ、反逆の狼煙でもない。新たな家族が健やかに生きるための一歩であり、家族の同胞の無念を晴らすためだ。
そして、俺がマンダロリアンだからだ。