ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘   作:あるてみす@二次創作

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13.無垢なる怪物

 名もなき怪物。

 ナートミーの遺伝子に手を加え、巨大化させ、ミディクロミアンの適性を調べるために幾度となく生体実験を施された。ヴィヴィが手に入れた実験のログを軽く閲覧しただけでも、惨たらしく冷酷だ。

 スターデストロイヤーの内部は、成長し続けた怪物によってぎっちりと塞がれていた。彼自身、自分がどんな姿になっているのかは理解出来ていないだろう。シュシュが通路を埋め尽くす触手に触れると、怪物の触手は大人しく引っ込んでくれた。それを繰り返していき、ブリッジに到着した。

「ありがとう、私達を受け入れてくれて」

 シュシュがブリッジの壁を突き破っている怪物の触手を撫でると、雷鳴のような呻きが響いてきた。ロズキャットが喉を鳴らしているかのような音で、不快感はなかった。

 ハイパースペースから脱するまでの間、シュシュは怪物の触手に寄り添い、語り合っていた。そこで交わされる思念は穏やかなもので、シュシュも怪物も落ち着いていた。ジャジーとR3とヴィヴィは、そんな二人を遠巻きに見守っていた。

「……ヴィヴィ」

 シュシュは緑色の目を上げ、アストロメク・ドロイドに身を収めている同胞に向いた。

「この子がナートミーの歴史を知りたいんだって。私も知りたい。ハッケージがどういう星だったのか、ナートミーはどんな雰囲気の種族だったのか、海底に築かれた都市に何があったのか……。覚えている限りでいいの」

「解った。だが、口頭だと長くなるし、情報量が不足する。コード・シリンダーを寄越してくれ、その中に入れておく」

 ヴィヴィがアームを出して手招きすると、ジャジーはコード・シリンダーを渡した。

「帝国製だが、企画は合うか?」

「問題ない」

 ヴィヴィはコード・シリンダーをコネクタに接続すると、静かになった。データ入力に集中しているようなので、邪魔をしてはいけない。ジャジーはブリッジの床に這いまわる触手に手を伸ばしかけたが、引っ込めると、シュシュが目を細めた。

「撫でてあげて」

「噛まないか?」

 ジャジーが案じると、シュシュは微笑んだ。

「私がジャジーに撫でてもらっていたのを知って、ちょっと羨ましくなっちゃったんだって。彼は体は大きいけど、中身は私と同じぐらいかも。ボバのランコアみたいだよ。見た目で判断しちゃいけない」

「そうだな。お前も孤児だ」

 ジャジーは身を屈め、触手に手を添える。丁寧に、ゆっくりと撫でてやる。

「マンダロアに連れていけたらよかったんだが」

 ぐるう、と再び唸り声が聞こえてきた。シュシュは身を伏せ、太い触手に横たわる。

「そうだね、ちょっと大きすぎるもんね。それに、ベスカーがあると感覚が鈍くなるし」

「えっ」

 ジャジーが虚を突かれると、ヴィヴィが言った。

「なんだ、知らなかったのか? 俺達の精神感応能力は金属を挟むと効果が目減りするんだが、ベスカーは特に顕著なんだ。成分の特性なんだろうが、詳しいことはよく解らん」

「でも、何も解らないわけじゃないよ。思念の量がセーブされるから、負担が減ってやりやすくなるし」

 シュシュが補足すると、ジャジーはヘルメットに触れた。

「そういうものなのか」

 ベスカーにそんな効果があるとは思いもよらなかった。何事も相性があるんだな、とジャジーはやり過ごしてから、ハイパースペースの航路を確認した。通常の宇宙空間に戻るまでは後少しだ。フジーサに降下し、帝国軍のラボを見つけ次第、襲撃を仕掛ける。

 ブラスターのエネルギーの残量、グラヴ・チャージ、ナイフ、ブラスター・ライフルの予備の弾丸、火炎放射器の燃料、グラップリング・ラインのモーター、ジェットパックの燃料、レンジファインダーの精度、そしてヘルメット。

 ジャジーは装備と武器のチェックを終えてから、武器庫から搔き集めた弾薬と武器をずらりと並べた。いずれも帝国製なので命中率は怪しいが、使えるものは使わなくては。格納庫でウォーカーことAT-STとスピーダーバイクも見つけたので、それも活用しよう。ベスカーアーマーの強度があればこそ、思い切り暴れられる。そこには多少なりとも快楽が伴うが、安易な暴力に溺れるほど浅はかではない。

 戦いは最後の手段なのだから。

 

 

 帝国軍のラボを発見した。

 かつては観光客で賑わっていたであろう砂浜には似付かわしくない、灰色の建造物がどっしりと構えていたので一目瞭然だった。センチネル級シャトルで地表付近まで降下し、遠方から観察したが、ストーム・トルーパーやTIE・ファイターの姿はなく、監視ドロイドの熱反応もない。とはいえ、油断は禁物だ。

 ジャジーは詰めるだけの武器をスピーダーバイクに詰み、後ろにシュシュを座らせた。ヴィヴィはブラスターと燃料を補充したAT-STに乗った。R3にはセンチネル級シャトルを任せ、ラボから離れた位置で待機してもらった。

「俺は右から、ヴィヴィは左からだ」

 ジャジーが指示を出すと、ヴィヴィはAT-STを起動させて立ち上がらせた。

「了解した」

「ラボの構造を把握したら教えてくれ。動力部を破壊して全部吹っ飛ばす」

「それなんだが」

 ヴィヴィはAT-STの長い足を曲げ、ジャジーを見下ろしてきた。

「お前達と別れてから、俺なりにマンダロリアンの戦いについて調べてみたんだ。賞金稼ぎの会話を盗み聞きしたり、犯罪者の噂を聞き付けたり、帝国軍の脱走兵の話を又聞きしてみたり、と。標的が帝国の秘密基地や犯罪者の拠点という違いはあったが、大体は全てを爆破して終わらせるようだ。それもマンダロリアンの流儀なのか?」

「やることやったら吹っ飛ばすのが常識だろ」

 ジャジーが事も無げに言い返すと、シュシュは首を傾げた。

「そうかなぁ……?」

「敵の戦力を削いで追っ手も防ぐためには、そうするのが手っ取り早いんだよ。それともなんだ、雑な爆破オチだと言いたいのか?」

 ジャジーが言い返すと、ヴィヴィはAT-STを立たせた。

「そうは言っていない。ただ、なんというか……生粋の戦闘民族だな」

 ヴィヴィの呆れと諦観を滲ませた声色に、ジャジーはヘルメットの下で口角を曲げた。慎重に戦っていたら死ぬんだよ、一対多数だとおのずとそうなるんだ、それでも俺はグラヴ・チャージを乱発しないからマシな方なんだよ、と内心で言い返しながらも、スピーダーバイクを発進させた。

 真っ白な砂浜をスピーダーバイクで駆けていると、脳裏を過ぎるのはタトゥイーンの砂漠での出来事だった。潮の香りが混じる砂粒はタトゥイーンの砂粒よりも白く、ベスカーアーマーを掠めていく感触も心なしか軽い。シュシュはジャジーの腰にしがみつき、絶え間なく打ち寄せる波と美しい海に目を向けた。

「これが海なんだね」

「ハッケージの海とは違うだろうが、海は海だ」

 ジャジーが返すと、シュシュは緑色の目を大きく見開いて海を見つめる。

「泳いでみたいかも」

「それはまた今度だ」

「はあい」

 ジャジーが諫めると、シュシュは素直に返事をするも不本意そうだった。青空に散らばる薄い雲の先には、衛星軌道上に留まっているスターデストロイヤーの巨大な艦影を臨めた。その中にいる怪物が、ジャジー達の動きを注視しているのを感じる。精神をざらりと撫でられるような感覚に、ジャジーは身震いしかけたが耐えた。

 ラボを囲んでいる塀と四方に設置された見張り台に近付いていくと、突如、ブラスター砲が起動した。赤い光弾が続けて発射され、砂が吹き飛ぶ中、ジャジーは速度を上げて回避する。

「シュシュ、ちょっと持ってろ」

 ジャジーはブラスター・ライフルを構え、シュシュにハンドルを任せた。シュシュは戸惑いながらも、言われた通りにハンドルを握る。

「えっ、あ、どうするのこれ?」

「真っ直ぐに進め」

 ジャジーは高速で移動するスピーダーバイクの上から狙いを定め、レンジファインダーにブラスター砲の射手を捉えた。敵もこちらに気付いたが、ジャジーがブラスター・ライフルの引き金を引く方が早かった。射手のストーム・トルーパーのヘルメットが砕け、仰け反ると、ジャジーはブラスター・ライフルを背中に担いでから座席に座り直し、ハンドルを握る。

「えらいぞ、シュシュ!」

 砂浜と草原の境目に突っ込む寸前で方向転換し、更に速度を上げていく。残りの見張り台からも迎撃されるが、そのうちの半分は反対方向に向いたので避けやすくなった。ヴィヴィに狙いを変えたからだ。

 ジャジーはスピーダーバイクを塀に向かわせ、激突する寸前で真上に向けた。壁に沿って斜めに走り抜けたスピーダーバイクは、塀の上にある電気柵も乗り越え、射手が倒れた見張り台に突っ込んだ。

「さあて!」

 ジャジーはブラスター砲の砲座に座ると、それをぐるりと回転させてラボの敷地内に向けた。異変を察知したストーム・トルーパーが次々に現れるが、見張り台からの砲撃を浴びせられて吹っ飛んでいく。残りの見張り台からの砲撃を受けるも、ジャジーはブラスター砲を撃つ合間にブラスター・ライフルを構え、射手のストーム・トルーパーを撃ち落とす。

「器用だね」

 シュシュが感心すると、ジャジーはスピーダーバイクに乗り直す。

「慣れれば出来る」

 見張り台に沿って降下し、動かなくなったストーム・トルーパーが散乱する敷地内を突っ切っていく。AT-STとヴィヴィも健在で、ガシャンガシャンと足音を響かせながら登ってきた。中央にある大きな建物に入り、その中で待機していたストーム・トルーパーを排除しながら突き進んでいった。

「ラボの見取り図を出せるか」

 手近な部屋に入り、ジャジーはブラスター・ライフルを壁に付けてストーム・トルーパーを迎撃しながら、ヴィヴィに尋ねた。ヴィヴィは部屋の中にあった端末に接続し、ホロを投影する。

「これだ。地上の施設はストーム・トルーパーの詰め所で、ラボの本体は地下にある」

「地下通路の入り口は?」

「隔壁に塞がれている。今、ロックを解除して……」

 と、ヴィヴィが言いかけたが止まった。シュシュが上を向き、小さく声を漏らした後、轟音と衝撃がラボを激しく揺さぶった。ジャジーがヘルメットの下で面食らっていると、ヴィヴィが呟いた。

「あいつがプロトン魚雷を撃ったんだ。スターデストロイヤーの火力であれば、隔壁を壊すのは造作もない。だが、エレベーターも吹っ飛んだ」

「安心しろ、ジェットパックがある」

 ジャジーはそう言ってから、手榴弾を投げ、通路に迫ってきたストーム・トルーパーを吹っ飛ばした。シュシュは呆然としながら鼓膜を押さえる。

「耳がびりびりする……」

「シュシュ、動けるか」

 ジャジーが手を差し伸べると、シュシュはその手をしっかりと掴む。

「はい!」

 ジャジーはシュシュを抱え、部屋から飛び出す。ヴィヴィも飛行用ジェットを噴出し、後に続く。ドアを蹴り破って外に出ると、地下施設への入り口がぽっかりと大穴を開けていた。黒煙が上がり、溶けた隔壁と建材の破片が散乱している。ジャジーは躊躇いもなく大穴に身を投じ、ヴィヴィも同時に落下する。

 真っ赤に熱している着弾地点からの上昇気流に煽られないように気を付けながら、複数の階層を通り過ぎていき、至るところで倒れている帝国軍の科学者やストーム・トルーパーを横目に、ジェットパックを噴出して落下速度を弱め、一番下の階層に転がり込む。

「シュシュ、被検体はどこにある?」

 ジャジーがブラスターを構えると、シュシュは通路の左側を指した。

「こっち!」

 その先には研究室があり、ジャジーはドアのロックを撃ち抜いて壊した。動かなくなったドアを力任せにこじ開けるが、銃口が突き出した。

「おっと」

 ジャジーは上体を逸らして避けたが、ブラスターの光弾がヘルメットを掠める。それだけでも結構な衝撃があったが、ジャジーは意識を保ち、ドアの隙間から火炎放射を放った。凄まじい悲鳴が上がり、炎に巻かれた人物がどたばたと暴れる様子が垣間見えた。改めてジャジーはドアをこじ開け、研究室の中に踏み込むと、ずらりと培養ポッドが並んでいた。

 薄緑の液体の中には、触手の塊が浮いていた。初めて出会った頃のシュシュに似ているが、生気が感じられない。焼け死んでいない方の帝国軍の科学者は研究室の隅で青ざめ、震えていたが、ジャジーはそちらにも発砲する。

「シュシュ」

 ジャジーが名を呼ぶと、シュシュは拳を固める。

「……この子達は、まだ目覚めてもいない。だから、目覚める前に終わらせてあげて」

「せめて、外の世界で葬ってやろう」

 ヴィヴィは培養ポッドを制御している端末に接続すると、培養ポッドの中から液体が抜け始めた。ジャジーはブラスターを下ろすと、シュシュを抱き寄せてやった。シュシュは肩を震わせ、赤い触手を波打たせて途方もない悲しみに打ちひしがれた。ジャジーはシュシュを支えながら、ゆっくりと深呼吸した。

 名もなき触手達を外に連れ出し、草の生い茂る地面を掘って埋めてやった。それから動力炉を臨界点に至らせ、全てを吹き飛ばした。

 そして、怪物の元に戻った。

 

 

 亜高速飛行でコスカー星系を目指した。

 かつてはハッケージが存在していた星系は、サガム星系からは遠かったが、ハイパードライブをもう一度しか使えないとなると、こうするしかない。

 図らずも長い旅路となり、奇妙な日々が始まった。ジャジーとシュシュ、R3、ヴィヴィ、そして巨大な触手の怪物と生活を共にするようになったからだ。

 その日々の中で、巨大な怪物とも少しずつ解り合えるようになった。シュシュの言った通り、彼はまだ幼く、不安と恐怖に苛まれるが故に狂暴にならざるを得なくなっていた。

 誰しも恐怖には勝てない。不安から逃れることも出来ない。ジャジーはこれまでのマンダロリアンとしての経験を踏まえ、怪物に話してやると、彼は熱心に耳を傾けてくれた。それどころか、ジャジーの話を聞きたがった。マンダロアのことも、コンコーディアでの訓練のことも、賞金稼ぎのことも。

『父さん』

 ホロを通じて、怪物は言葉を発した。

『僕はシュシュのようにもなれないし、ヴィヴィのように器用に出来ない。今までにしてきたこともある。だから、故郷の星の宙域まで行けたら、この銀河から去るよ。ずっと遠く、アウターリムよりも先の、誰も知らない宇宙を泳いでいく』

 怪物にならざるを得なかった少年が静かに語る。

『でも、もう寂しくない。誰も憎らしくない。だって、僕には父さんがいるんだ』

「そう言ってくれて嬉しいよ」

 ジャジーが太い触手を撫でると、スターデストロイヤーの船首が小惑星帯に向いた。それはハッケージの残骸であり、帝国の愚かさの帰結だった。

「お前は自由だ。どこへでも行ってこい」

 ジャジーが手を離すと、怪物は言った。

『これが僕の道だよ』

 ジャジーとシュシュ、R3とヴィヴィはセンチネル級シャトルに乗り込み、スターデストロイヤーから離脱した。艦体からはみ出すほど成長した触手をゆったりと振り、センチネル級シャトルが遠ざかるのを見送ってから、スターデストロイヤーはハイパースペースに突入した。

 それぞれの道を歩むために。

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