ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘   作:あるてみす@二次創作

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2.ブルーミルクとフラットケーキ

 わたしは、どこからきたのか。

 その答えを出すための記憶がない。触手が発達しきる前に誰かに拾われて、窮屈な金属製の容器にぎゅうぎゅうと詰められて運ばれたからだ。

 喉が渇いてお腹が空いて、ぴいぴいと鳴いたけど、育ててくれる親は傍にいなかった。困り果てた末、容器の蓋の隙間から触手を伸ばして、外が見えないまま這いずって、汚い水を吸った。

 容器の外で声がして、ちゃりちゃりと何かを渡す音が聞こえた後、手から手に譲られた。それからしばらくすると容器の蓋が開けられて、透明な筒にどちゃっと放り込まれた。

 そこで、初めて外の世界を目にした。知らない生き物が聞いたことのない言語で会話していて、びりびりとした刺激が届いた。彼らの精神を感じ取っているのだと気付いたのは、それからしばらく後だった。

 彼らはギャングだった。見知らぬ惑星から拾われてきた未知の生物を、スパイスの代わりに味わって快楽を得ていた。方法は簡単だ、赤い糸の塊のような生物の触手をぶちんと千切り、飲み込む。すると、精神感応によって心身に過剰な刺激が駆け抜ける。

 実際には、未知の生物が痛みと喪失による拒絶反応を発しただけであって、快楽を伴うものではなかったが、常に刺激を求めているギャングにはうってつけの代物だった。

 もちろん痛いし、苦しいし、気まぐれに注がれる酒や食べかけの肉片を捕食しても、失った触手を再生するためには到底足りなかった。けれど、逃げ出せるだけの余力もなく、耐え続けていた。

 ある日、ギャング同士で内輪揉めを始めて、触手の塊が入ったグラスがテーブルから転がり落ちた。ブラスターを抜いて殺し合いを始めたギャングの目を盗み、なんとか逃げ出して路地裏に潜り込んだ。だが、今度はロズキャットに咬まれ、思わず悲鳴を上げた。

 そこで見つけてくれたのが。

 

 

 宇宙要塞を捉えた。

 爆撃によって左側が大破していたが、右側は無事だった。機械系統が生きているのも右側だけらしく、ライトが灯っていて、シャッターやシールドが機能しているのも右側だけだ。だからといって、左側の警備が手薄というわけではなく、監視用のドロイドらしき反応がいくつも見つかった。

「さてどうする、R3」

 レーダーに引っ掛からない宙域にてスターファイターを巡らせながら、ジャジーは長年の相棒であるアストロメク・ドロイドに呼びかけた。半球状の頭部はオレンジで円筒形の胴体は白、性能は一般的。

 ピガピガピー、とバイナリー言語で応じながら、R3は事前に入手した宇宙要塞の見取り図のホロを見せてくれた。これを手に入れるまでには、帝国のドロイドと一悶着あったのだが、それは別の話だ。

 対空砲火のための砲門、スターファイターのカタパルト、格納庫、火薬庫、ストーム・トルーパーの営倉、士官のための居住区、それから動力炉。

「ふうむ」

 ジャジーはヘルメットの顎を押さえた。俺が海賊ならどうするかな、と思考を巡らせる。砲門には部下を配置しておいて、敵襲に備える。格納庫には盗んできたスターファイターを停めておく。火薬庫には、まだ使えそうな火器を搔き集めておく。けれど、守りを固めた分、内部の警備が手薄になる。宇宙要塞の周辺宙域には何もないからだ。

「となると、方法は簡単だ」

 ジャジーは操縦桿を軽く叩いてから、接近する。途端に警告音が鳴り響き、照準が据えられる。

「上手く逃げてくれよ、R3」

 スターファイターを囮にして引っ掻き回し、目的を果たす。ジャジーはヘルメットを操作して顎の下と首周りを塞ぎ、与圧してから、機体が宇宙要塞に最接近するのを待った。

 弾幕と呼ぶにはまばらな砲撃を掻い潜り、無茶言うなよ、とバイナリー言語でビギャビギャ叫んでいるR3を無視して、ジャジーはコクピットから飛び出した。すかさず足でキャノピーを閉めてからジェットパックを作動させ、左側の破損した通路に転がり込む。

「おっと」

 当然ながら監視ドロイドが迫ってきたが、ブラスターで難なく撃ち落とす。無重力の通路を進んでいき、ドアを開けて中に入り、空気と重力が保たれている空間に入った。

 通路の先では、敵襲だ、と喚きながらニクトの海賊達がブラスターを手にして走っていくのが見えた。ジャジーは手近な部屋に入って身を隠し、ヘルメットのライトを付けて室内を見渡すと、ストーム・トルーパーの武器がいくつか転がっていた。

 ブラスター・ライフルと手榴弾とナイフを拝借してから、ジャジーは通路の外に出た。ジェットパックを小刻みに作動させて徒歩よりも早く移動し、海賊達で塞がっている通路に手榴弾を転がす。

 爆発の後にブラスターを撃たれ、噴煙を切り裂いて銃撃される。その中の一発がベスカーアーマーに弾かれたが、ジャジーは仰け反るだけで踏み止まった。

「んで、この次は……」

 ジャジーは熱反応をスキャンし、噴煙の向こう側にいる海賊達を一人ずつ撃ち抜いていく。後方から増援が駆け付けたが、それもまた撃ち抜く。

 噴煙が晴れてから、ジャジーは海賊達の残骸を飛び越えた。次に向かったのはカタパルトと格納庫だった。通信越しにR3がギャピギャピ喚き散らしているのが、うるさくてたまらないからでもある。

 海賊のスターファイターは一基残らず出撃した後で、正体不明の侵入者を迎撃するために警備ドロイドや海賊の残りがうろついていた。ジャジーはグラップリング・ラインで手近な箱を引っ張り、警備ドロイドに激突させると、思わぬことに驚いた警備ドロイドが暴走して乱射し始めた。

 その警備ドロイドの弾が被弾した警備ドロイドが更に暴れ出し、大騒ぎになると海賊達が血相を変えて物陰に逃げ込んだ。それをいいことに、ジャジーはジェットパックを作動させて天井付近を飛び、海賊達を上から撃っていく。もちろん警備ドロイドも。

 それから砲門の砲手席に手榴弾を投げ込もうとしたが、品切れだった。それなら仕方ない、とジャジーは警備ドロイドの残骸を砲手席に放り込み、それをブラスター・ライフルで撃ち抜いて爆発させる。

「で、残りは……」

 ジャジーはエネルギー切れを起こしたブラスター・ライフルを投げ捨て、振り返ると、十人程度の海賊達がこちらに銃口を向けていた。ニクトの言語で罵倒されたが、聞かなかったことにする。

 すかさずジャジーは火炎放射し、海賊達を牽制してから距離を詰める。ベスカーアーマーの硬さに物を言わせて殴り、ヘッドバットし、グラップリング・ラインで首を絞めて振り回す。中には逃げ出そうとする奴もいたが、二度目の火炎放射で燃やしてやる。

 これだけ倒せば動きやすくなる。ジャジーは火薬庫に向かい、手近な時限爆弾を見つけると、未使用のミサイルや魚雷などが詰まったコンテナにセットする。

「いいぞR3、迎えに来い!」

 ジャジーは通信越しに相棒を呼ぶと、先程よりも軽快な電子音が返ってきた。ジャジーがシールドを解除して宇宙空間に飛び出すと同時にスターファイターが滑り込んできて、コクピットに収まり、即座に最加速して離脱した。

 程なくして、宇宙要塞は爆散した。

 

 

 報酬はそこそこだった。

 今回の出費と差し引きしたら一応はプラスだ、だけど大した余裕にはならないな、と思いつつ、ジャジーは帝国のクレジットが入った袋を握り締めた。レートが違うので、出来れば新共和国のクレジットで支払ってもらいたいが、依頼者側にも都合があるので仕方ない。アウターリムも持ちつ持たれつだ。

 ジャジーは酒場を離れて買い物を済ませ、駐機場に戻ると、スターファイターのコクピットのキャノピーに赤い糸玉がぺったりと貼り付いていた。

「お前、動けるようになったのか」

 ジャジーがキャノピーを開け、赤い糸玉を剥がすと、不意に頭の中に声が響いた。

「おなかすいた」

「何を食うんだ?」

 ジャジーが問い返すと、赤い糸玉はうにょうにょと蠢いた。

「なんでも」

「だが、長いこと食っていなかったのなら水分を取る方が先だろ?」

 それなら、とジャジーは買ってきた食糧を探った。金属製のカップにブルーミルクを注いでやり、赤い糸玉に近付けると、赤い糸玉はするすると細い触手を伸ばしてカップに入れた。そして、少しずつブルーミルクを吸い上げていった。

「お前、名前はあるのか?」

 ジャジーはヘルメットを少し上げ、フラットケーキを齧った。

「わからない」

 赤い糸玉の心の声が弱まると、ジャジーは悩んだ。

「だったら、どう呼べばいい?」

「わたしは、じぶんがどこからきたのかわからない」

「覚えていることは?」

「あなたにひろわれるまでは、ギャングにいいようにされていた。しょくしゅをちぎられて……」

「だったら、思い出せるまで待つさ。それと、お前についても調べてみる。家族がいるのであれば、連れ戻してやる。だが、身寄りもなければ故郷も思い出せないのであれば、その時は」

 ジャジーはフラットケーキを千切り、ブルーミルクに浮かばせた。赤い糸玉はふやけたフラットケーキに触手を添え、ぢゅるっと吸い込んだ。

「教義に従い、マンダロリアンの一員として迎え入れる。我らの道」

 ジャジーが頷くと、赤い糸玉はちょっと不思議そうに体を傾けた。表情があれば、きょとんとしている、といったところだろう。その仕草には愛嬌があり、ジャジーはヘルメットの下で頬を緩めながら、フラットケーキを千切ってブルーミルクに浮かばせた。

「改めて自己紹介だ。俺はジャジー・ジズ・ブー、見ての通りのマンダロリアンだ」

 ジャジーは右肩のアーマーにはツルハシ、左肩のアーマーにはミソソーの紋章が刻まれていることを示すが、赤い糸玉はその意味が解らないようだった。

「まんだろりあん」

「それについて話すと長くなるが」

「おはなし、きかせて」

「いいとも」

 ジャジーは気を良くして、赤い糸玉と食事を続けながらマンダロリアンについて語った。マンダロアを祖とするベスカーアーマーを纏った戦士達、マンダロアの現状、そしてザ・ウォッチの教義。

 赤い糸玉は興味深そうに聞いてくれた。

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