ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘 作:あるてみす@二次創作
マンダロリアンは敵の船を鹵獲する。
帝国への意趣返しであり、戦闘民族としての慣習であり、効率の良さからでもある。鹵獲した宇宙船やスターファイターにはミソソーの紋章を描くのが通例になっており、それがあると一目で同胞だと解る。
ジャジーが乗り回しているスターファイターは、元を正せば共和国時代のイータ2アクティス級軽インターセプターで、スクラップ屋で格安で売られていたものを買い、修理した。本来の性能でも悪くないのだが、動かしているうちに物足りなくなってきて、スラスターやエンジン回り、レーザー砲を交換した。ついでにハイパードライブも搭載した。
賞金稼ぎとして生きるようになってからは寝床でもあり、相棒でもあり、勝手知ったる仲間とも言える。だが、二人で暮らすには狭すぎる。ボバ・フェットから請け負った仕事のおかげで多少は手持ちに余裕が出来たが、かといって新たな宇宙船を気軽に買えるわけでもない。
そこで、ジャジーは帝国軍と反乱軍が激戦を繰り広げた宙域に向かった。使えそうな部品はスクラップ屋が回収済みだろうが、もしかすると掘り出し物があるかもしれない、という貧乏根性からだ。
「ちなみにどういう船が欲しいの?」
スターファイターのコクピットにて、ジャジーの膝の間に座っているシュシュが首を傾げた。
「機動力と兵装、それから居住性。それ以外はまあ、どうにでもなる」
ジャジーは眼下に岩石惑星を臨みながら、速度を落として航行した。贅沢を言える身分ではないし、こんなことで手に入るとは思っていない。ちょっとした気分転換も兼ねている。
あれから、シュシュにとって何が最適解なのかを考えずにはいられなかった。海洋惑星といっても、この銀河には無数に存在する。海底に築かれた都市と文明に絞っても、かなりの数がある。それを一つ一つ確かめていき、シュシュの同族を探し、家族を探し出すとしても、余程の幸運がなければ辿り着けないだろう。
ジャジーはヒューマンだ。先祖代々マンダロア育ちで、他の種族の血が混じったという記録もない。だから、寿命はせいぜい百年前後で、マンダロリアンとしての最盛期はそれよりももっと短い。
だが、シュシュはどうなのか。ヒューマンよりも長らえるのか、それとも早熟で短命なのか、それすらも解らない。ジャジーの身勝手で連れ回した挙げ句、シュシュの故郷を見つける前に寿命を使い果たさせてしまったら、後悔してもしきれない。その逆も然りだ。シュシュの人生をジャジーのエゴで浪費させるのは、あまりにも傲慢だ。
どうすればいいのか。何が正しいのか。こんな時こそ、マンダロアの教義を思い返すべきだ。我らの道。正しき道。進むべき道。その先に至るべき場所。
そんなことを悩んでいるうちに、視界の先にスターデストロイヤーの残骸が現れた。惑星の軌道上に浮かび、衛星の一つと化して巡っている。帝国軍や反乱軍に回収される場合もあるが、基本的には放置される。戦場なんてそんなものだ。
「大きいねぇ」
シュシュが緑色の目を丸めると、ジャジーは減速し、スターデストロイヤーに接近した。無数のデブリが散らばっているので、それに激突しないようにシールドを張りながら徐々に距離を狭めていく。
「割とな。これよりもデカい戦艦もある」
「へー」
「俺が知る中で一番デカいのは、やっぱりデス・スターだよ。あれはイカレてる。惑星規模の戦艦なんて、作るだけでも気が遠くなりそうだ」
「へー!」
シュシュが感心したので、ジャジーは続けた。
「だが、その狂気の沙汰の代物は反乱軍のエースパイロットによってぶっ壊されたんだ。たった一機のXウィングが、戦況どころか銀河の運命までひっくり返しちまった。そんな奴もいるんだなぁ」
「しかも、そいつはジェダイの騎士だって噂だ」
「それって凄い?」
「凄いも何も、神話の住人さ」
ジャジーは更に減速し、スターデストロイヤーのカタパルトに接近した。TIE・ファイターの残骸が詰まっていたので、それを撃って壊してから侵入する。宇宙空間と船内を遮断するシールドも機能していないので、中身が死んだストーム・トルーパーが至るところに漂っていた。
その昔、マンダロリアンの中からジェダイとなった者がいたそうだ。ヴィズラ家の先祖だ。そんなに凄い奴がいたら大粛清も防げたんじゃないか、と誰しもが想像しただろうし、ジャジーも例外ではなかった。だが、そのジェダイはもういない。神話の住人は帝国の暴力に蹂躙され、地に落ちたのだから。
それでも道は続く。マンダロアへの道。マンダロリアンとしての道。人としての道。ジャジーはシュシュの丸っこい後頭部と、赤く長い髪に似た触手をそっと撫でてからカタパルトに着陸した。
死の静寂に満ちていた。
幸い、予備電源は生きていた。
R3にハッキングして操作してもらったおかげで、スターデストロイヤーはほんの少しだけ息を吹き返し、人工重力とエアロックを作り出せた。空気を充填するまでには多少の時間が掛かったし、区画は限られていたが、それでも動きやすくなった。
R3に端末にアクセスしてもらい、格納庫の内部について確認すると、いくつかの機体が放置されているようだった。これはよかった、とジャジーは思う一方、賞金稼ぎとしての経験が囁いてきた。
「こりゃなんかあるな」
「なんかって?」
シュシュに問われ、ジャジーは考え込む。
「物事が都合良く進む時は、必ずトラブルが起きるんだよ。調子がいいと反動もデカい」
「なんで?」
「そういうもんだからだ。シュシュもよく覚えておけ、幸運と不運は差し引きゼロだ。たまにプラスになることもあるが、後でマイナスが来る」
「でも、そうとは限らないんじゃ」
「ジャンク屋は貪欲だ。スターデストロイヤーの残骸なんて、フレームも残さずにバラシて売り物にする。だが、見ての通りだ。何かあるんだ」
ジャジーがヘルメットの内側でぼやくと、R3がピコピコと軽快に鳴って頭部を回転させる。
「心配しすぎだって? 最悪の事態は想定して動くのが基本だろうが。ドロイドだって、緊急時のプログラムの一つや二つ……」
そう言いかけたところで、足元が震えた。機体が何らかの原因で揺れている。予備電源を入れたからエンジンが再起動したのか、とジャジーは危惧しながらもブラスターを抜いた。
「R3、艦内の映像を全部調べろ。どこで何が起きているのかを把握しろ」
「あっ」
R3の解析が終わる前に、シュシュが顔を上げた。今度はなんだよ、とジャジーは問い質そうとしたが、シュシュにはジャジーにはない感覚がある。もしかすると、それが何者かの気配を察知している、のかもしれない。程なくしてR3は解析を終え、ホロを投影する。それは左舷前方の20ブロックの一部で、何らかの物体が動いているようだったが全体像が掴めない。
「なんだこれ」
ジャジーが訝りながらもホロを眺めていると、シュシュが頭を抱えた。
「ひゃあっ」
再び、衝撃が起きる。ジャジーはシュシュを気にしながらも、どう動くべきかを思案した。正体不明の異変から逃げるべきか、目の前にある帝国のシャトルを奪うことを最優先にするべきか、それとも立ち向かうべきか。スターファイターへの未練が過ぎるも、本来の目的を忘れてはならないし、欲を掻いて危機に陥ったら元も子もない。ジャジーに出来ることは限られているのだから。
「R3、艦内の防衛システムを使えるだけ使え。それから、格納庫までの通路の隔壁を全部開けろ。動かせそうな船があれば、それを奪う」
ジャジーが告げると、R3はビガビガとバイナリー言語で文句を言ってきたが、手近なコントロールパネルに接続して操作し始めた。
「シュシュ、何かがいるんだな?」
ジャジーがシュシュを抱えると、シュシュはジャジーにぎゅっとしがみついてきた。
「よく解らないけど、ずっとここにいたみたい。たまに誰かが来るけど、帝国の人達が痛いことをしてきたから、同じことをされるのが嫌で暴れていて……」
「つまり、生物兵器の類か」
道理でジャンク屋も寄り付かないわけだ。ジャジーは納得しつつ、駆け出した。格納庫へのルートを確認し、最短距離を進む。一通りの作業を終えたR3も走ってきた。ジェットパックを小刻みに作動させたジャンプを併用して速度を上げ、隔壁が開いた途端に飛び込む。
格納庫の入り口が見えてきたところで、壁が粉砕された。ケーブルとシャフトを食い千切っているのは牙の生えた触手めいた怪物で、通路を塞ぐほどの太さがある。ジャジーは肝が冷えたが、反射的にブラスターを撃つ。だが、敵の外皮が分厚いようでダメージはなく、こちらに迫ってきた。
グラヴ・チャージを触手の先端の口の中に投げ込むか、それとも逃げの一手に徹するか。ジャジーは僅かに悩みながらも、シュシュをジェットパックの上に座らせた。重心が怪しくなるが、シュシュを抱いたままでは両手が開かないからだ。
すると、背後からビギャアと激しい電子音の悲鳴が響いた。何事かと振り返ると、別の牙の生えた触手がR3に食らい付いていた。
「おいっ!」
ジャジーはR3に追い縋ろうとするも、格納庫の手前の触手が追ってきた。これでは挟み撃ちにされる。手持ちの武器では足りない。だが、武器庫は遠い。どうする。ジャジーは悩みながらもR3を掴み、触手に飲み込まれる寸前で引っこ抜いた。
「んっ!」
ジャジーの後ろで、シュシュがフードを上げて自分の触手を解放した。目の前の怪物に比べれば綿毛のように細くて短い触手を懸命に伸ばし、牙の生えた触手に触れさせる。
沈黙の後、牙の生えた触手は大人しくなり、するすると引っ込んでいった。ジャジーがシュシュを見上げると、シュシュはジャジーのヘルメットにしがみついてきた。
「私達は帝国じゃない、って伝えたら解ってくれた」
「そうか……。意外と素直な奴なんだな」
ジャジーがブラスターを下げると、シュシュはぺったりと赤い触手をヘルメットに貼り付けてきた。
「でも、凄く怒っていた。だから、もっと大きくなったら帝国に復讐するんだって」
「放っておこう。俺達には関係のない話だ」
「うん。怖いし……」
シュシュは怪物の怒りに臆し、ジャジーの背中にまでくっついてきた。ジェットパックとアーマーの隙間にも触手が入り込んできたので、当分は離れそうになかった。外装がちょっと傷付いただけのR3を伴い、格納庫に入り、センチネル級シャトルを拝借した。スターファイターはトラクタービームで牽引した。
スターデストロイヤーの残骸から離脱し、次の目的地の航路を定めながら、ジャジーは席に座っているシュシュに目をやった。シュシュも大きくなったらああなるのか、いや、あれは別の種族だ、とジャジーは懸念を抱きながらもハイパードライブを行った。
シャトルの乗り心地は悪くなかった。
ミッドリムの衛星基地に到着した。
違法改造された宇宙船が跋扈している場所で、ジャンクに溢れていて、部品には困らないし、腕の立つメカニックもいるし、ジャワにも悩まされずに済む。小柄な種族だが、彼らは群れを成して機械の部品を盗んでいくのが厄介なのだ。
長年愛用したスターファイターを手放す前に、改造を加えたエンジンやレーザー砲を取り外し、ミソソーの紋章を描いた外装も剥がした。他人から見ればただの塗装に過ぎないが、マンダロリアンにとっては重んじるべきものだからだ。
それから、センチネル級シャトルを調べた。トランスポンダーや識別番号などはそのままにしなくてはならなかったし、帝国式の運行システムや計器類は若干癖があるので、どのパネルとスイッチが何のためにあるのかを把握しなければならないので、やることも覚えることも多かった。
「忙しい?」
シュシュはボトルを抱え、水を飲みながら、作業に耽っているジャジーの背中を見上げてきた。
「今はな。これが終わったら、次は機体を改造する。このままだと、TIE・ファイターがケツにくっついてきたら一撃で撃ち落とされちまう」
ジャジーが手を振ると、シュシュは呟いた。
「私に手伝えることはある?」
「どんなベッドがいいか、希望を聞かせてくれ。俺はアーマーを脱がずに寝るから、床が硬かろうが柔らかかろうがどうでもいいんだが、シュシュは別だろ?」
ジャジーが振り返ると、シュシュはだらりと触手を垂らした。
「たまには脱いで水浴びしてね?」
「たまには、だけどな」
ジャジーは小さく肩を竦めてから、作業を再開した。完全個室型のスパや人目に付かない水場であれば、ヘルメットとベスカーアーマーを脱いで身を清められるのだが、普段はそうもいかない。それでも、アンダーウェアや下着は頻繁に換えているし、洗濯も出来る時にはしているのだが。もう少し気にした方がいいのか、とジャジーはヘルメットの下で口角を曲げた。
マンダロリアンとしても、人としても。