ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘   作:あるてみす@二次創作

6 / 9
6.ドロイドを追え

 シュシュは水棲種族だと判明した。

 となれば、センチネル級シャトルの居住区はそれに合わせた改造を施さなくてはならない。水の使用量と貯蔵量が格段に増えると、その分だけ機体のウェイトが増して燃費が悪くなるが、それは仕方ない。異なる生態を持つ種族同士で共存するには、それ相応の設備が不可欠だからだ。

 倉庫の区画の一部を改造し、貯水タンクを設置した。濾過装置、酸素供給装置、温度調節装置、配管、そしてシールド遮断式のアクアリウム。シールドと半獣力装置を用いて水と空気を隔てられるシステムなので、いざという時にシュシュを引っ張り出しやすいし、水槽のパネルという部品を増やさずに済む。丈夫なものであればあるほど分厚く、重量も嵩むので、ドッグファイトも想定した機体にはさすがに重すぎるからだ。

 しかし、そのアクアリウムが高価だった。ジャジーの手持ちのクレジットでは間に合わず、衛星基地での強盗騒ぎやジャンク屋同士の諍いに一枚噛むことで糊口を凌いだが、新しい仕事を探さなくてはセンチネル級シャトルの燃料費も捻出出来ない。

 差し当たって思い付くのは、タトゥイーンだった。治安が悪ければ悪いほど、賞金稼ぎの仕事は絶えないからだ。ジャジーは物資の詰み込みを終え、シャトルに入ると、シュシュを座席に座らせた。

「タトゥイーンに戻る」

「他の星じゃダメ?」

 シュシュが縮こまると、ジャジーはシュシュが着ているローブの襟元を整えてやった。

「この服も新しくしただろ?」

「ちょっとヒヤッとして気持ちいい」

「見た目は普通の布だが、速乾性で冷却素材で出来ている。だから、この前よりは楽に過ごせるはずだ。水も多めに持ち歩く。それならいいだろ?」

「それなら、まあ……」

 シュシュは緑色の目を瞬かせた。コクピットにあるドロイド・ポートに接続したR3が航路を設定したので、ジャジーはエンジンを作動させる。計器を手早くチェックしてから反重力装置で機体を浮かせ、垂直上昇した後に出口に向かった。何度か試運転をしたおかげで、このシャトルの細かな癖が解ってきた。まだ手に馴染んでいない操縦桿を握り、ジャジーは宇宙空間へと飛び出した。

 そして、ハイパースペースに突入した。

 

 

 再びタトゥイーンを訪れた。

 モス・アイズリーの宇宙港は相変わらずで、定期運航している民間船が停泊していた。ジャジーが管制官に対して名前と目的を告げると、すんなりと通してもらえたので、ボバ・フェットが話を通しておいたのだろう。やりやすくなるが、それ故にこちらも義理を通さなくてはならない。

 約束通り、シュシュには水の詰まったボトルを持たせてやり、ジャジーはモス・アイズリーの街を歩いた。パイク・シンジケートの残党狩りも終わり、それによってボバ・フェットの威厳が増しているので人々は穏やかに暮らしている。しかし、やけにドロイドが目に付く。しかも、B1バトル・ドロイドばかりだ。

 ドロイド・ゴートラだ、とジャジーは察した。元々は分離主義勢力の軍隊だったが、クローン戦争後に自由と権利を主張するドロイド達によって構成された組織だ。犯罪シンジケートの手先として動いていたが、近頃では独立したとの噂を耳にしている。この分だと、その噂は真実だったらしい。

「うげ」

 思わず、ジャジーはヘルメットの下で声を潰した。がしゃがしゃと重たい足音を響かせながら歩いてきたのは、一際大きな体格のB2スーパー・バトル・ドロイドだったからだ。分厚い外装に覆われた上半身と頭部が埋もれたフォルムは独特で、そこにいるだけで威圧感がある。

 出来ればやり合いたくないが、それも仕事の内容次第か、とジャジーは内心で零しながらも、B2スーパー・バトル・ドロイドと擦れ違った。耳障りな駆動音とバイナリー言語の合間に、やけに生物的な音が聞こえた。反射的にジャジーは振り返ったが、B2スーパー・バトル・ドロイドは同型のドロイド達と合流し、判別が付けられなくなった。

 あれはまさか。

 

 

 案の定だった。

 ジャジーとシュシュがかつてのハットの宮殿を訪れ、玉座に座すボバ・フェットと対峙すると、ドロイド・ゴートラに対する懸念を示された。タトゥイーンのハット・カルテルの支配圏はボバ・フェットが完全に掌握し、パイク・シンジケートによるスパイス密輸ルートすらも退けたとはいえ、ボバ・フェットの玉座を狙う勢力は後を絶たない。ドロイド・ゴートラもその一つであるのは明らかだ。

「俺が良く知るマンドーに声を掛けようかとも思ったんだが、近頃、あいつは新共和国と付き合いを深くしているようでな。袖にされた」

 ボバ・フェットがヘルメットの下でかすかに笑みを零すと、ジャジーは意外に思った。

「ディン・ジャリンが? あいつは仕事を選ばない性分だったはずだが」

「人は変わるものだよ。あんたも例外じゃないだろ?」

 ボバ・フェットの傍らに控えているフェネック・シャンドは、水のボトルを抱えているシュシュに目をやった。シュシュは以前ほど委縮しておらず、フードの下からフェネックを見上げる。

「そうかもしれません」

「ドロイド・ゴートラを雇い入れた首魁については、俺の方でなんとかする。兵隊共を片付けてくれ」

 ボバからの依頼を断る理由もなく、ジャジーは了承した。

「引き受けた」

「元気だった? うん、私も。あれから色々あったんだ。へえ、そうなの。うんうん……」

 シュシュは床の鉄柵を覗き込み、地下室から身を乗り出してきたランコアと目を合わせた。ジャジーはボバを窺うと、好きにさせろ、と言いたげな視線をヘルメット越しに返してきた。なので、ジャジーはシュシュが気が済むまでランコアとお喋りさせてやった。

 友達は大事だ。たとえ怪物であろうと。

 

 

 ドロイド・ゴートラの拠点を探った。

 タトゥイーンの広大な砂漠、デューン・シーのどこかに兵員輸送用のガンシップを停泊させているのだろう、とジャジーは当たりを付けた。こんな時に役に立つのがジャワなのだが、生憎、ジャジーはジャワの言葉には明るくない。砂漠の民であるタスケン・レイダーもそうだが、彼らの言語体系は原始的でありながらも独特で、発音の差異で意味が正反対になってしまうので、かなり慎重に話さなくては誤解を招く。

「私が話を付けてみようか」

 ジャジーの内面を察知したのか、シュシュが提案した。ジャジーはスピーダーバイクに必要な物資を詰み込んでから、シュシュを見下ろす。

「ああ……ランコアと同じようにするのか」

「でも、気味悪がれられちゃうかもしれないし、反撃されるかもしれないから、その時はジャジーが代わってくれる?」

「そりゃもちろん」

 ジャジーはシュシュを持ち上げ、座席の後ろ側に座らせた。シュシュは念入りにローブを着込んで砂が入らないように徹底してから、紐を付けた水のボトルを肩から掛けた。こうすれば落とさずに済む。

 それから、スピーダーバイクで砂漠へと乗り出した。果てしなく広がる砂漠は高低差が激しく、何もないようでいて、至るところに怪物が身を潜めている。場所によってはタスケン・レイダーの領地なので、彼らと揉めないように交渉もしなくてはならない。それ以外の部族もいるので、気が抜けない。

「あれだ」

 ジャジーはキャタピラの痕跡を見つけた。ジャワの移動手段にして住居であるサンドクローラーは動きが鈍重なので、追い付くのは難しくない。問題はその後だが。

 しばらくすると、不格好な錆びた箱のようなサンドクローラーを発見した。ローブを纏った小柄な種族、ジャワもこちらに気付いて騒ぎ始めた。ジャジーは戦う意思がないことを示したが、ジャワはそれを意に介さないようで余計に騒がしくなった。スピーダーバイクを奪いたくて仕方ないからだ。

「もうちょっと近付いて」

 シュシュはジャジーをせっついてきたので、ジャジーはスピーダーバイクの速度を少し上げた。サンドクローラーと並走し、ジャジーはブラスターを抜けるように気を張りながらも事の次第を見守った。

 ジャワは似た格好をした子供を見て興味を示したが、それでも警戒心は抜けていなかった。シュシュは彼らにちょっと臆しながらも、本来の言葉を発しながら精神感応能力を併用した。それからしばらく、ジャジーの理解の及ばない会話が繰り返されたが、ジャワ達は南西側をしきりに指差した。

「あっちにドロイドの群れがいるんだって」

 シュシュに説明され、ジャジーは納得した。

「なるほど。それなら、そっちにドロイド・ゴートラの船があるとみていい。こいつは礼だ」

 ジャジーはスピーダーバイクのサイドバッグを開け、ジャンクであるドロイドの腕を放り投げてやると、ジャワ達はそれを受け取ってくれた。シュシュはサンドクローラーに手を振り、ジャジーはスピーダーバイクの方向を変えて発進した。

「シュシュは頼りになる」

 ジャジーは後ろに手を回し、シュシュの頭を撫でてやると、シュシュはジャジーの腰にしがみついた。

「自分に出来ることが解ってきたから」

「ああ、俺もだ」

 ジャジーはハンドルを握り直す。シュシュのために何をしてやれるのか、どうするべきなのか。シュシュの故郷が見つからなかったとしても、生きる時間が違っていたとしても、危険が絶えない世界を乗り切るための方法を学ばせていこう。マンダロリアンになるとしても、ならなかったとしても、シュシュが身を立てるには必要だからだ。

 若き日のジャジーがそうであったように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。