ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘 作:あるてみす@二次創作
夜を待つ。
奇襲攻撃を仕掛けるには夜が鉄則だ。相手がドロイドなら視界の悪さは関係ないのでは、と思われるかもしれないが、ドロイドの数と配置を把握するためには時間を要する。なので、結果的に攻撃を仕掛けるタイミングは夜になる。
案の定、ドロイド・ゴートラは揚陸用のガンシップを拠点としていて、兵員輸送用のトランスポートがその周辺に待機していた。モス・アイズリーをうろついているのは偵察部隊に過ぎず、本隊はこれから到着するとみていいだろう。
ジャジーはスピーダーバイクから武装を下ろした。ブラスター・ライフルを担ぎ、ブラスターを追加し、ナイフの本数も増やす。グラヴ・チャージよりは威力は劣るが、手榴弾もいくらか持ってきた。とはいえ、熱反応を探知してみると、圧倒的に敵の数が多い。
「これからどうするかな……」
ジャジーは砂の山の陰に寝そべり、考え込んだ。シュシュは砂の熱さよりもベスカーアーマーの方がマシなのか、ジャジーの上に乗っかった。
「ドロイドには話しかけても意味がないし」
「こんな時に焦ると失敗する」
「そうなの?」
「俺の経験則であり、師匠の教えだ」
「お師匠? 何の?」
「マンダロリアンの。といっても、一人じゃない。ザ・ウォッチに属しているマンダロリアン達が、俺を鍛えてくれたんだ。皆、得意分野が違うからな」
「なんでも出来るわけじゃないんだ」
「俺だってそうだ。少しずつ学んできた」
ジャジーはシュシュの丸まった背中を撫でる。
「でも、俺が知るべきだったことは……」
マンダロアの鉱山を掘り、鉱脈からベスカー鉱石を採掘し、それをアーマラー達に加工してもらい、一人でも多くのマンダロリアンにベスカーアーマーを授ける。それがブー氏族の伝統にして生業であり、誇りでもあった。
鉱山の採掘は楽な仕事ではない。土と埃にまみれ、石を砕き、地熱と地下水とガスに苦しめられながらも、純度の高いベスカーを含んだ鉱石を見つけ出す。戦士に比べれば地味で目立たず、都市部に住む者達からすれば古臭くて泥臭い。しかし、誰かがやらなければベスカーアーマーを生み出せない。
けれど、マンダロアの内戦によってブー氏族が携わっていた鉱山は戦場に変わり、やがて大粛清によって鉱山そのものが破壊された。もちろん、鉱山の周辺にある街も、住民も、そこに根付いた歴史も。ツルハシを握り、槌を振るい、ノミを扱うはずだった手でブラスターを握り締め、ジャジーはヘルメットの内側でため息を零した。
それでも、俺はこの道を選んだ。
二つの太陽が地平線に沈んだ。
乾いた熱さに満ちていた空気が一気に冷え込み、寒暖差でベスカーアーマーの重みが変わる。衝撃分散機能だけでなく、温度調節機能を備えているとはいえ、それでも外気温の著しい変化は心身に作用する。それでも集中力を損なわず、パフォーマンスを落とさずに動いてこそマンダロリアンだ。
ジャジーはレンジファインダーを下ろし、ガンシップを観察する。エンジンには点火していないが、ドロイドが至るところに配備されている。B1バトル・ドロイドはざっと百基を越えていて、B2スーパー・バトル・ドロイドも三十基はいる。数で圧倒するのがドロイドの戦い方であり、彼らもその例に漏れない。
せめて誰が隊長なのかが解れば、と思いつつも、ジャジーはブラスター・ライフルで狙いを定めた。ガンシップの外装は通常のブラスターであれば貫通出来ないし、稼働中であればシールドに弾かれるが、この状況であれば意味を成す。レンジファインダーを切り替え、エンジンの位置を探る。余熱が籠っているエンジンの位置は特定した後、照準を据え、ブラスター・ライフルのエネルギーを充填する。
引き金を絞り、最初の一発を撃つ。ガンシップの外装に命中するも弾かれ、歩哨のドロイド達がぴたりと立ち止まる。ジャジーは即座に充填し、二発目を撃つ。命中し、外装が抉れる。
B1バトル・ドロイドが一斉にこちらに振り向き、ブラスターを手にして歩み寄ってくる。シュシュは異変に気付き、慌てふためくが、ジャジーと敵を見比べることしか出来なかった。ジャジーは不安に駆られているシュシュを目の端で捉えながらも、三発目を充填する。
がしゃんがしゃんがしゃん、とB1バトル・ドロイドの群れが砂の山を登ってくる。先頭の一体が砂の山を乗り越えた瞬間と、ジャジーが三発目をガンシップに命中させたのは同時だった。エネルギーの弾丸は破損した外装を貫通して配管に火を灯し、盛大な爆発を起こした。
「ああっ」
一斉にドロイドの群れが振り返ると、シュシュはジャジーにしがみついてくる。ジャジーは熱を帯びたライフルを担ぐと、スピーダーバイクに飛び乗った。
「行くぞ、シュシュ!」
今回はちょっと危なかった、成功するとは思っていたが、とジャジーは達成感を味わいながらも気を緩めなかった。ジャジーはスピーダーバイクの速度を上げ、燃え盛るガンシップの裏手に回る。そちらにも当然ながらドロイド達がいたが、ブラスターで撃ち抜き、兵員輸送車を盾にする。
兵員輸送車に一斉射撃が行われ、ブラスターの光弾が飛び交う中、ジャジーは兵員輸送車の下からピンを抜いた手榴弾を放り投げる。砂にまみれながら転がっていた手榴弾は、手前にいたドロイド達を吹き飛ばすが、後続の部隊には及ばない。
ジャジーはブラスターを何度か撃ってドロイドの群れを引き付けた後、兵員輸送車の陰に新たな手榴弾を配置し、素早くスピーダーバイクに飛び乗って離脱する。それと入れ違う形でドロイドの群れが飛び込んでくると、彼らはあっさりと罠に嵌まって爆砕した。
すると、今度は目の前にB2スーパー・バトル・ドロイドが突っ込んできた。ジャジーはグラップリング・ラインでガンシップの破片を引っ張り、B2スーパー・バトル・ドロイドに叩き付けてから更に加速する。
これで半分はドロイドの兵力を減らしたが、全滅には至っていない。ジャジーはドロイド達を引き連れながら、夜の砂漠を突っ走っていく。シュシュはジャジーの腰にしがみつき、微動だにしない。
ブラスターが地面に命中するたびに砂が炸裂し、空気が焦げる。ジャジーは時折振り返って撃ち続けたが、五基のB2スーパー・バトル・ドロイドがスラスターを作動させて浮上した。
「おっと」
想定内だが、これはちょっと不利だ。ジャジーは躊躇いもなくスピーダーバイクを捨て、ジェットパックを作動させる。シュシュを背中に担いだまま、B2スーパー・バトル・ドロイドの追撃を回避する。体の軸をずらして敵の射線から外れながら、急上昇と急降下を繰り返して背後を取る。
ジャジーはB2スーパー・バトル・ドロイドの首のない頭部に着地すると、至近距離でブラスターを撃って頭部を破壊する。途端に失速して墜落し始めたので、それを蹴り飛ばし、後続のB2スーパー・バトル・ドロイドに激突させて墜落させる。それでも三基は残っているので、ジャジーはグラップリング・ラインで一基を絡め取り、相手のスピードを利用して振り回し、残りの二基を巻き込んでから地面に叩き付ける。
「お?」
すると、レンジファインダーが何かを捉えた。新たな熱反応が迫っている。それも砂の中から。これはもしや、とジャジーは高度を上げて離脱した。
周囲の振動を感知したからか、ずず、ずずずっ、と何者かによって砂が抉れていく。後続のドロイド達はその異変に気付かず、砂が抉れた場所へと次々に足を踏み入れていく。すると、砂の底から円形の巨大な口が現れ、ずらりと生えた牙と触手が露出した。
「なにこれ」
シュシュが唖然とすると、ジャジーはヘルメットの下で口角を歪めた。
「サーラックだ。この大きさからすると、まだ成体じゃなさそうだが……」
とはいえ、サーラックが脅威であることに変わりはなく、餌を選り好みしない怪物はドロイドであろうとお構いなしに飲み込んでいった。これで手間が省けた、とジャジーはジェットパックの燃料が尽きる前に引き返した。
「シュシュ、サーラックの考えは解るか?」
ジャジーが問うと、シュシュは首を横に振る。
「全然。あの大きい生き物は、何も考えていないのかもしれない。そうでなかったら、私達よりもずっとゆっくりしているのかも」
「かもな。時間の感覚が違う生き物もいるさ」
ジャジーは燃え尽きかけているガンシップを目指し、飛行し続けた。ほとんどのドロイドは機能停止していたが、B2スーパー・バトル・ドロイドの一基が逃走を図っていた。ジャジーはそのB2スーパー・バトル・ドロイドの進行方向に回り込み、先手を打つためにレンジファインダーを下げた。熱反応を感知したが、ドロイドの駆動機関とは異なるものが見えた。
もしかして、こいつは。ジャジーは速度を落として降下し、焼けた砂に足を擦り付けながら着地すると、B2スーパー・バトル・ドロイドにブラスターを向けた。相手もまたブラスターを構えたが、ジャジーは一定の距離を保ちながら言葉を発した。シュシュの故郷の言葉に出来るだけ似せて。
「……」
すると、B2スーパー・バトル・ドロイドはブラスターを下げて後退った。ジャジーは銃口を上向けてから、背中に担いだシュシュを指す。
「お前、どこのドロイドだ? なぜ、この子と同じ言葉を使う? 見た目はB2だが、中身はプロトコル・ドロイドなのか?」
「あれっ」
シュシュはフードを上げ、目を丸めた。
「この人、ドロイドなのに声が聞こえてくる。どうしてだろう」
がしゃり、とB2スーパー・バトル・ドロイドが硬直した。ジャジーは警戒を保ちながらも問う。
「もしかして、ドロイドの中に隠れているのか?」
「……そうだ」
「詳しく話を聞かせてくれ。俺はこの子の故郷について調べているんだ。どんなに小さな手掛かりでもいい、情報を提供してくれ。見返りは支払う」
「解った。だが、場所を変えよう。騒ぎを聞き付けて、ドロイド・ゴートラの本隊が来る」
B2スーパー・バトル・ドロイドはドロイドの残骸を一瞥した後、進んだ。シュシュは不安そうだったが、ジャジーはシュシュを支え、B2スーパー・バトル・ドロイドに続いた。運良くスピーダーバイクが生きていたので、ジャジーはそれを回収してから、戦場と化した一帯から離脱した。
遠くからサーラックの鳴き声が聞こえた。
首のない頭部の外装が開いた。
そこから現れたのは、青い触手に二つの赤い目を持った生命体だった。シュシュよりも一回りは大きく、触手の本数も多いので年齢を重ねているようだ。繊細な肉体を保護し、水分量を保つためなのだろう、青い触手は水で満たされたタンクの中にいた。
「あんたは何者だ?」
ジャジーが問うと、青い触手は銀河標準語で答えた。
「自分が何者か、長らく忘れていた。だが、君達に会ったことで久し振りに思い出したよ。俺はヴィヴィ、ハッケージの生まれだ。不時着した宇宙船によって、星の外に出た。それ以来、ドロイドの真似事をして暮らしている」
「ハッケージ? 聞いたことがないな」
ジャジーが首を捻ると、シュシュも同じ動きをする。
「知らない」
「宇宙に出てから調べてみたが、俺の故郷は未開惑星に分類されていて名前すら付けられていなかった。だから、知らないのも当然だ。だが、そっちの娘が知らないのはどうしてなんだ?」
ヴィヴィに問われ、シュシュは目を伏せる。
「そういうことを覚える前に連れてこられたから」
「すまん、言いすぎた。謝るよ。それで、ハッケージのある宙域なんだが、タトゥイーンがここで……」
ヴィヴィはドロイドの腕を操り、砂に星図を描き始めた。それによると、ハッケージはアウターリムと言えども、タトゥイーンとは銀河を跨いだ反対側に位置している。
「遠いな。ハイパードライブを乗り継いでも十日、いや、半月は掛かるな」
ここがこうでこれがこう、とジャジーが星図にハイパードライブの道順を書き足すと、シュシュはその星図をじっと見つめた。
「どんな星なんだろう」
「先に言っておくが、ハッケージは消えた。余計な期待を持つだけ無駄だ」
ヴィヴィはドロイドの機体を起こす。
「帝国の秘密兵器の実験で破壊されたからだ。嘘だと思うなら、調べてみるといい」
「ヴィヴィ。それなら、あんたは帝国から逃げているのか?」
ジャジーが身を乗り出すと、ヴィヴィは青い触手をゆらりと振った。
「いや。帝国は俺の存在自体に気付いていないし、生き残りに出会ったのもこれが初めてだ。生きていてくれて嬉しいし、殺し合わずに済んで何よりだが、今の俺はドロイドとして生きている。だから、顔を合わせるのはこれが最初で最後だ」
「なんで」
シュシュが赤い触手を伸ばすも、ヴィヴィは青い触手を引っ込めた。
「滅びたものに縋り付いても、空しいだけだ。それなら、新しい生き方を探す方が余程有益だ」
がしゃり、と外装を元に戻し、ヴィヴィはB2スーパー・バトル・ドロイドとして去っていった。ジャジーはシュシュを抱き寄せると、シュシュはぶるぶると震えて涙を滲ませていた。悲しみと混乱に押し潰されそうなシュシュをゆっくりと撫でてやりながら、ジャジーはマンダロアに思いを馳せた。
それなら、俺達はどうなんだ。マンダロアが滅ぼされても生き延びたマンダロリアンが長らえ、帝国に奪われたものを取り戻そうと模索しているのは愚かなのか。いや、違う。ヴィヴィが選んだ道がそうであったというだけで、マンダロリアンが歩む道は違う。
それが我らの道だ。