ベスカー・アンド・ザ・ドーター 名もなき戦士と異形の娘 作:あるてみす@二次創作
タトゥイーンで情報を得た。
マンダロリアンの紋章を付けた船を見かけた、とボバ・フェットに会いに来た者が申し出たので、その人物を捕まえて問い質した。
かつては観光客向けの民間船の乗組員だったモン・カラマリの男で、今は密輸業者の宇宙船を操縦している。新共和国軍の検問を逃れるため、クローン戦争の影響で現在は使われていない航路を利用した。その際に通りかかったのが、戦争以前は観光業で栄えていたが、現在は衰退している惑星とその衛星で、帝国の軽クルーザーが衛星へと降下していくのを目撃した。かと思いきや、その軽クルーザーにはミソソーの紋章が描かれていた、と。
「それで、その惑星がこれだ」
ジャジーはシュシュにホロネットの映像を見せた。アウターリムとミッドリムの中間にあるサガム星系のフジーサという惑星で、豊かな自然環境とそれを生かしたリゾートを売りにしていた。衛星の名はエノスといい、衛星一つを丸ごとテーマパークにしている。
『銀河に浮かぶ宝石、エノスでの休日をお楽しみ下さい!』
接客用ドロイドがにこやかに挨拶する。シュシュは目を丸めていたが、ジャジーを窺う。
「ここって遊園地?」
「それは昔の話だ。今は違う」
「なあんだ」
シュシュがあからさまに落胆すると、ジャジーはホロを消した。
「今回は長旅になる、準備を手伝え」
「でも、マンダロアにも遊園地はあったでしょ?」
シュシュが食い下がったので、ジャジーは嘆息する。
「首都のサンダーリのドームの中にはあったが、俺達みたいに外で働く市民には無縁だったよ」
「それなら、ジャジーはどこで遊んでいたの?」
「遊ぶ暇なんかない。子供は体が小さいから、狭い坑道に潜り込んでベスカー鉱石を掘るんだよ」
「えー……」
「内戦が激しくなって、マンダロアの衛星のコンコーディアに移り住んでからは、戦士になるための訓練が始まったから尚更だ」
「つまんない」
シュシュは更に落胆し、ぐにゃりと脱力した。こうなると、シュシュは運びづらくなる。ジャジーは悪態を吐きながら、ローブを丸めてシュシュを包み込んでから持ち上げた。
「ダンク・ファリック」
シュシュをベッドに寝かせたが、相当拗ねてしまったようで動かなくなった。このまま不貞寝するんだろうな、いつもは聞き分けが良いのに、とジャジーは軽く苛立ちを覚えたものの、シュシュがそんな態度を見せるのはこれが初めてなのだと思い直した。それだけ、ジャジーに気を許してくれた証拠だ。
ジャジーはR3にも手伝わせて物資の在庫をチェックした。食糧、水、燃料、弾薬、救急キット、その他諸々。ジャジーもシュシュの気持ちは解らなくもなかったが、子供っぽい振る舞いを見せるのは、大人としても、マンダロリアンの戦士としても情けないので、ベスカーアーマーの内側に押さえ込んだ。
こんな時、ヘルメットは便利だ。
ハイパースペースを脱した。
ジャジーとシュシュの乗ったセンチネル級シャトルは無事にサガム星系に到着し、フジーサへの航路を設定した。周辺宙域には宇宙船の反応もなく、戦闘の痕跡もなく、視界は極めて良好だ。前方には、瑞々しい海と緑の大地の惑星が浮いている。それこそがフジーサであり、その衛星がエノスだ。
駐機場にシャトルを着陸させると、すぐさま接客用のドロイドが近寄ってきた。人型ではなく、円柱型で浮遊している。ホロを投影させながら、しきりに明るい口調で説明してくる。
「いらっしゃいませ、お客様! エノスへようこそ! ホテルをご利用でしたら、今から予約をお取りいたします。全種族対応ですのでご安心下さい、御入用であればプロトコル・ドロイドもサービスでお付けいたします。人気のアトラクションに並ばずにご利用出来るファストパスも発売中です。必要であれば、お客様の機体にメンテナンス・ドロイドも派遣します。アトラクション以外にもスパやショッピングモール、最新のホロシネマ、シミュレーター、デジャリックマッチ専用の……」
「黙れ」
ジャジーが接客用ドロイドに強めに命じると、接客用ドロイドは引き下がった。
「はい、お客様。仰る通りにいたします。サービスの不満点があれば、接客プロトコルとエノス内の規則の範疇で改善いたします」
「何もいらない、引っ込め」
「はい、お客様。お詫びにこちらのクーポンを」
「うるっせぇ!」
ジャジーはさすがに苛立ってきて接客用ドロイドを蹴り飛ばそうとしたが、背中に担いだシュシュがぎゅうっと縮み上がったので足を引っ込めた。危ねぇ危ねぇ、とジャジーは気を取り直す。
「俺の船の燃料を補充しておけ」
「はい、お客様。その通りにいたします」
接客用ドロイドはくるりと一回転すると、ようやく離れていった。ジャジーはシュシュをぽんぽんと撫で、落ち着かせた。
「すまん、つい頭に血が上った」
「あのドロイド、何も悪いことはしていないじゃない」
シュシュはジャジーの行動が解せないようで、むくれてしまった。それはそうかもしれないが、物事には限度というものがあって、とジャジーは言い訳がましいことを考えたが、それを口にするのは気が引けた。シュシュの言う通りだからだ。廃業したテーマパークで稼働し続けているドロイド達には罪はない。彼らはあくまでもプロトコルに従っているだけだからだ。
ホテル、スーベニアショップ、レストラン、アトラクション、いずれも無人だが、ドロイド達が日々働いて磨き上げているので塵一つ落ちていなかった。しかし、経年劣化で活動限界を迎えたか、何らかの故障を起こしたドロイドが片隅に追いやられていた。
レストランの厨房は空っぽで、スーベニアショップには商品が補充されず、ドリンクやフードのスタンドは客が来ないので売り物が干乾びていた。それでも、陽気な音楽が流れ続け、マスコットキャラクターのホロが踊り、誰も乗っていないアトラクションが稼働し続けている。これもまた、滅びの形だ。
そして、ジャジーは壁に記されたミソソーの紋章を見つけた。目視しただけでは解らないが、特殊なライトで照らせば現れる。その紋章の近くにあるドアを開けると、地下道への階段が伸びていた。
テーマパークの喧騒とは打って変わって、地下は静まり返っていた。整備用の小型ドロイドが通路を走っていったが、彼らは電子音を発する程度だったので無害だった。太い配管を乗り越えた先で、ようやくジャジーは同胞を見つけた。
ヘルメットを被り、ベスカーアーマーを付けた一団が一斉にジャジーに振り向く。その中にはヘルメットをまだ被っていない子供と、儀式を終えて間もない子供が混ざっていた。ジャジーは背中からシュシュを下ろした。
「また会えて嬉しいよ」
「ジャジー・ジズ・ブー!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、ジャジーとは長年の友人であるホディ・ガーヤだった。それを皮切りに、ジャジーを知るマンダロリアン達がしきりに声を掛けてきた。今までどうしていたのか、どんな旅をしてきたのか、などと。
「積もる話はあるが、先に紹介しておく。シュシュだ」
ジャジーは身を屈め、シュシュの背を支える。シュシュは見知らぬ人々に囲まれて気後れしながらも、一礼した。
「シュシュといいます」
「シュシュは孤児だ。タトゥイーンで同族に巡り合ったが、故郷の星は既に滅びたと。それでも、俺はシュシュを故郷まで連れていく」
ジャジーは皆を見渡しながら言うと、一際大きな体格のマンダロリアンが歩み寄ってきた。青のベスカーアーマーに覆われた肉体は分厚く、威圧感がある。
「ジャジー・ジズ・ブー。それが解っているのであれば、なぜマンダロリアンとして迎え入れない? それとも、その孤児を我が子とする覚悟がないのか?」
ヴィズラ氏族の戦士、パズ・ヴィズラだった。
「マンダロリアンになるか否かは、シュシュに決めてもらう。そのために必要なことだ」
ジャジーが言い返すと、パズはシュシュをじっと見据えた。ヘルメット越しでも解るほど、強く厳しい眼差しだった。シュシュがびくりとすると、パズは大きな体を縮めて片膝を突く。
「まだ小さいな。俺の息子の半分もない」
「それもある」
ジャジーがシュシュの丸まった背中を支えてやると、パズは姿勢を戻した。
「なぜ顔を見せない? ベスカーのヘルメットを授かる前であれば、教義には背かないはずだが」
「……うう」
シュシュは俯き、ジャジーの陰に隠れた。パズ・ヴィズラに臆しただけでなく、答えられなかったからだ。ジャジーもまた、答えあぐねた。シュシュが素顔を露わにしないのは、体が乾燥してしまうことを避けるためでもあるが、周囲と自分の違いを気にしているからだろう。
「シュシュのことは、アーマラーにも相談する。その上で改めて判断する。我らの道」
「我らの道」
パズは深く頷き、それ以上は言及しなかった。マンダロリアン達が離れていくと、シュシュは長い袖に隠した触手でジャジーの手を握り締めてきた。その手を握り返してやってから、ジャジーはその場を離れた。
アーマラーの元に向かうために。
アーマラー。
マンダロアの伝統と歴史の体現者にして、ベスカーを鍛える鍛冶師であり、戦士達にアーマーを授け、教えを説く伝道師でもある。ジャジーは背筋を正し、シュシュを伴って鍛冶場に入った。
ミソソーを掲げた炉には火が灯り、超高温の青白い炎が噴き出していて、独特の熱気が籠っていた。その傍らに佇むのは、古めかしい意匠が施された金色のヘルメットを被り、マンダロアの伝統的な装束に身を包み、ハンマーと火鋏を携えた女性だった。
「アーマラー。この子は孤児だ」
ジャジーがシュシュを示すと、シュシュは鍛冶場の熱気のせいか、先程以上に委縮していた。アーマラーは頷き、シュシュを見下ろす。
「ジャジー・ジズ・ブー。あなたは教義を守り、その子を守った。我らの道」
「だが、マンダロリアンになるかはまだ決まっていない。シュシュの故郷の星は滅んでいるが、生き残りの同族を見つけたからだ。旅を経てから、シュシュが道を見定めるまで待ってもいいだろうか」
「構いません」
「だから、この先は皆と行動を共に出来ない。帝国に奪われたベスカーも取り戻せていないが、それは許されるだろうか」
「マンダロアへ通じる道は続いている。であれば、許される」
「我らの道」
ジャジーが返すと、アーマラーも応じる。
「我らの道」
「アーマラー、一つ聞いておきたい。シュシュがマンダロリアンとなった場合、どのようなアーマーを授ける?」
ジャジーがシュシュに振り返ると、シュシュは躊躇いながらもフードを外した。ヒューマンとは似ても似つかない頭部と、赤い触手を束ねた体が現れる。アーマラーは動揺もせず、シュシュを見つめる。
「シュシュ。あなたが求めるものは?」
「私は……」
シュシュは長い袖から両手を出す。それもまた触手で出来ていて、柔らかく曲がる。
「帰りたくても帰れなくて、やっと見つけた仲間は仲間じゃなくて、一人じゃ何も出来なくて……。だけど、ジャジーの傍にいたい。助けられた分だけ、力になりたい。アーマーを纏えば、ジャジーと同じように戦える?」
「ヒューマンではないあなたが、重たいベスカーアーマーを身に着けて訓練を受けるのは容易ではない。けれど、教義を抱いてベスカーを纏うのであれば、ベスカーは決してあなたを裏切らない」
アーマラーは身を屈め、シュシュと目線を合わせる。
「ジャジー・ジズ・ブーと共に歩めば、やがてマンダロアへの道が拓ける。そして、それがあなたの道となる」
「私の道」
「我らの道」
アーマラーは厳かに述べた。シュシュはちらりとジャジーを窺うと、ジャジーは手を差し伸べる。
「行くぞ、シュシュ」
「うん」
シュシュは歩き出したが立ち止まって振り返り、アーマラーに一礼してから、改めてジャジーを追っていった。地下から地上に戻ると、無人のテーマパークは賑やかなままだった。
「ちょっとだけなら遊んでいいぞ」
ジャジーがシュシュを見下ろすと、シュシュはきょとんとした。
「えっ」
「但し、一つだけだ」
「ええと、それじゃ、えっとね……」
シュシュはどぎまぎしながらも、パーク内のホロマップを見つめた。あれも面白そう、これも楽しそう、とシュシュは延々と迷っていた。ジャジーはベルトに手を掛けて手近な壁に背を預け、シュシュを見守った。それからしばらくしてシュシュが選んだのは、パーク内を一周するチューブの乗り物だった。
ジャジーも一緒に乗った。