婚活から始まる異世界道中記   作:D1198

14 / 18
分かれと旅立ち

「お目覚めになりましたか?」

 

 アシリアの声で意識が戻る。

 瞼はまだ開かない。

 戻った意識もまだあいまいだ。

 確か、ユーリウスを地面に下ろして

 確か……

 

 意識が明瞭になり、ガバリと起きる。

 見れば、アシリアは旅人の服姿だった。

 

「丸三日寝ていたんですよ。体に違和感とかありませんか?」 

「アシリアは無事、だな」

「はい。おかげさまで」

「あれからどうなった」

「ラータス共和国から国外退去されてしまいました。ここは道の駅にある宿屋です」

「追放? 町に被害が出たのか」

「それもそうですが、あんな恐ろしいものを持っている奴を国にはおいておけない、と」

「甲竜の鎧か、よく没収されなかったな」

「何度か試みられましたが、所有者以外が持つと拒絶するようになっていて、追加で被害がでました。おそらくそれも込みでしょう」

「ユーリウスは?」

「天界へ帰っていきましたが……どうなるかは分かりません。光体まで持ち出した以上、只では済まないと思いますが」

 

 アシリアは過去を振り返る様に、遠くを見ていた。

 昔、ユーリウスと同じ務めをしていたと聞いた。

 彼女にも思うところがあるのだろう。

 どのような関係だったのか、気にはなったが蒸し返す気にもなれず、俺はそのままにするより他はなかった。

 

 道の駅を出て一週間ほど経ったころだ。

 分岐地点の小さな村にやってきた。

 

「小さな村だが賑やかな所だ」

 

 この村は北アメリア大陸と南アメリア大陸を繋ぐ村でもある。

 

「真一郎さん、ここでお別れです」

 

 何となくそんな気はしていた。

 

「私は真一郎さんに甘えすぎてしまいました」

 

 神族が一人の人族を贔屓にするのは良くないだろう。

 

「南アメリア大陸を周るのか」

「はい。冬季の北アメリアをいま周るより先に見ておこうと。獣人族が多いという西海岸がちょっと気になりますので」

「そうか。それじゃぁ仕方がない。お別れだ」

 

ストルラスの手綱を引いて俺はアシリアを見送った。

 

「しばらくのお別れです。愛しの人」

 

 アシリアはだいぶ手を振っていた。

 俺は続く限り見送り続けた。

 唇に残った彼女の感覚が尽きるまで。

 

◆

 

 マグナサーパス王国への道すがら、小さな村を見つけた。

 “コーコカス村にようこそ”と言う看板が立っていた。

 一週間ストルラスに一人乗りっぱなしだったので、一息つけると喜んだら、農夫らしい中年男性に見とがめられた。

 

「あんた何処から来なさったね」

「アペックスから」

 

 話が面倒になるので暗黒大陸での事は端折った。

 

「アペックス?」

「南アメリア大陸の最南端だよ」

「随分と遠くから来なすった。冒険者かね?」

「そうだけど、何か問題でも?」

「この村はこの通りなんもありゃせん。冒険者組合もない。申し訳ないが出て行っておくれんか」

 

 冒険者組合すら無いと、依頼も掲示板も無いから、立ち寄る理由は無いのだが。

 生活してる以上、道具屋ぐらいある筈だ。

 

「物資の交換もしくは購入をしたい。それが終わればすぐ立ち去るよ。道具屋は何処です」

 

 空を見ると太陽が正午まで大分あると告げていた。

 

「村の中央に井戸がある。そこに行けば看板が釣り下がっとるから直ぐわかる。いいかね。道具屋だけだでな」

 

 農夫の言う通り道具屋はすぐ見つかったが、こうも好奇な目で見られるとは思わなかった。

 かといって視線が合うとすぐ反らされる。

 露骨に窓の扉を閉める家さえあった。

 うぅむ。

 どこが“コーコカスにようこそ”なのだろう。

 ここまで閉鎖的なのは何か理由があるのではないか、そう思ったが余所者の俺にできる事などあるのだろうかと考えた。

 こちらも急ぎの身だ。

 深入りはよそう。

 

「……」

 

 道具屋は予想以上に閉鎖的だった。

 カウンターに腰掛けるお婆さんはじっとしたまま動かない。

 無言なのか無視なのか分からないが、とにかく道中で得た戦利品をカウンターに置いた。

 魔獣アルバトリグスの毛皮と牙をそれぞれ三体分。

 

「皮をなめす薬品と香辛料が欲しい」

 

 するとお婆さんを品定めし始めた。

 カウンターから取り出された要望の商品は、確かに要望通りだが、量が微妙に少ない。

 同じ魔獣のアビアビカスより弱いから構わないけれど、ぼったくりではないかと文句を言ったら。

 

「……」

 

 今回は無視をされた。

 もういい。

 こちらまで閉鎖的になりそうだ。

 そうやって店の外に出たら、ガラの悪い如何にもという連中が取り囲んでいた。

 パタンと道具屋の看板が閉店に変わり、がちゃりと鍵がかかる。

 他の店も同様だ。

 

「ようよう兄さんよう。ヒデェじゃねぇか。正午前に起きるなんて何年ぶりか分かんねぇってのに、俺らを素通りしていくなんてよお」

 

 どうしようか。

 こちらも急ぎの身だ。

 応じる気はないし、駆け引きの時間すら惜しい。 

 あ、良いものがあった。

 以前買った煙幕玉があった。

 大きく息を吸って、それを地面に叩きつけた。

 破裂するとボフッっと激しい煙を噴出した。

 

「な、何だこりゃぁ!」

 

 道具屋の軒先を支える柱に、結んでおいたストルラスの手綱を解くと、さっと乗り込んだ。

 喝を入れて走り出す。

 

「誰が逃すかてめぇ!」

「風上だ! 風上へ向かえ!」

「どっちだよ! どっちが風上だ!」

 

 あばよ。そう心中で呟いた。

 

「待ちやがれこん畜生がーーっ!」

 

◆

 

 もうあの村とは関わることはあるまい。

 そう、草原を横切る道を進んでいたら、道の真ん中に仁王立ちをしている奴を発見した。

 連中の仲間かと思ったら、随分と若い、というより子供だった。

 結ったおさげを二つぶら下げて、安っぽい長袖のワンピースを着ていた。

  

「おじさん冒険者でしょ。お仕事を依頼したいの」

「そういう時は冒険者組合に依頼するんだ。覚えておくように」

 

 度胸は据わっているな、あぜ道の陰に隠れている他の子供らと比べたら。

 

「知ってる。あの山を越えると冒険者組合がある。はいこれ、お手紙。イーリスお姉ちゃんに渡して。組合で働いてるから」

 

 指をさす山が見える。

 勘で半日と言ったところだと辺りを付けた。

 どうも俺が初めてだという訳ではなさそうだ。

 

「名前は?」

「ヘレン。この時間ならいつもこの辺に居るから」

 

 そしてその山を越えたインテニックス村の冒険者組合で働いているというイーリスと言う人物に会った。

 都合のいい事に受付嬢だったのですぐに分かった。

 手紙を差し出すと、そう言う事をされると困りますと言う。

 なので、ラブレターではない、差出人の名前に覚えはあるかと聞いた。

 

「少々お待ちください」

 

 受付の奥に引っ込むと、暫くの後、数時間を暫くと言っていいのか分からないが、ともかく一つの依頼が掲示板に吊り下げられた。

 何事かと、集まる冒険者たち。

 

『スラン男爵の身辺調査』

 

 思わず黙る冒険者たち。

 

「男爵でも貴族は貴族、誰がやるんだよ。冗談じゃねぇ」

「騎士団案件じゃねーのか。団長はたしか子爵様だろ」

「スラン男爵と言えば最近あまり良い噂聞かねぇけどな。何十人も奴隷を買い込んでるとか。それでそれっきりとか」

「声が大きいぜ。俺はパスだな」

 

 俺は同感だと妻に関する依頼もしくは情報がないか探す。

 行方不明者のリストがあった。

 それと同時に身元不明人のリストもあった。

 

『ジュウジ=トウドウ、ミナ=キサラギ、ジョージ=グラス ……』

 

 無い。

 遠野香澄の名前はなかった。

 こちらに来ていないという事か。

 それならそれで良いのかもしれない。

 半ば諦めかけたその時だった……あ、あった。

 思わず手に取った。

 ビリと端が破れる。

 掲示板の端に日本語で書かれていたメッセージがあったのだ。

 

『真一郎へ。マグナサーバス魔法魔術学校に居る。連絡を待つ。香澄』

 

 急に体の力が抜けた。

 立っていられない程だ。

 堪らず冒険者組合内の椅子に腰かける。

 暗黒大陸に放り出されて約十ヶ月間……な、長かった。

 暫くボーっとしているとギルド職員に声を掛けられた。

 

「ひょっとしてそのメッセージ読めるんですか?」

「あ、ああ。読める。知り合いからの伝言だ。こちらからも出せるか?」

「はい。出せます」

 

 当然のことながら宛先と差出人は異世界〈こちら〉の言語で書いた。

 本文は日本語だ。

 無事だと、そちらに向かう事をしたためた。

 

 よし行くか、そう立ち上がった時と一人の騎士がやって来た事は同時だった。

 カランコロンと扉が音を立てる。

 

「スラン男爵の身辺調査の件だが騎士団からも依頼を出す。冒険者諸君の奮起を期待している」

 

 互いに見合う冒険者たち。

 全員が“しかしなぁ”と言う顔をする。

 

“なんで騎士団が動かないんだ”

“万が一失敗したら大事だからじゃね”

“一回失敗してるって噂はあるぞ”

“スラン男爵と言えば最近錬金術に傾倒しているって話だぜ。その辺じゃねーの”

“ここの騎士団っていまいち冴えないからな”

 

 囁き合う冒険者たち。

 一人の冒険者が言った。

 その物言いは、波風立てない様な言い方だった。

 

「旦那。内偵なら暗殺者組合に回した方がいい。冒険者には向いてないぜ」

「我が騎士団は暗殺者と取引をしない」

 

 全員が建前だと思っただろう。

 捨て駒も覚悟しなくてはなるまい。

 

「ならば剣士だ。剣士の資格を持った者はいないか! 騎士団の正式な依頼だ」

 

 騎士団と剣士組合は別組織だが、剣士から騎士になる奴が一定数居るので、兄弟のような関係とされる、場合が多い。

 別に騎士を狙っている訳ではないので断ることはできるが、逃げたと剣士組合で印象が悪くなる可能性はある。

 それは避けたいところだ。

 俺を含めて渋々手を上げる数名の冒険者たち。

 騎士は満足げに頷いたが、俺らは渋い顔をするのみだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。