仮)婚活から始まる異世界道中記   作:D1198

3 / 4
邂逅1

 俺は走った。

 とにかく辺りを駆け回った。

 ここは、この状況は危険だと心のアラームが鳴りっぱなしだ。

 ここは自然界の魔力密度が異常に高いのだ。

 ここに飛ばされる前と後でがらりと変わってしまった。

 “ここに飛ばされる”自分で言っておいてから気が付いた。

 映画で時々見る別世界に来てしまったとでも言うのだろうか。

 

 翼音〈よくおん〉が聞こえたので空を見上げたら、大型の生物が空を飛んでいた。

 大地を駆ける為にあるだろう丈夫な四本脚をもっているのに、大きな翼をもっているのである。

 生を受けてそろそろ三〇年になるが、あんな生き物は見たことがない。

 

 俺は堪らず悪態をついた。

 周囲にあるもの、草木や岩、空の雲すら得体の知れないものに見えた。

 突如吹いた風が、樹木や草原の草を鳴らす。

 何かが隠れているのでは、俺を狙っているのか、妄想なのか現実なのかどちらでもいいが、自分の身を守ることが最優先されるらしい。

 妻のイメージが頭をよぎる。

 俺以上に実力のある魔術師の香澄の事だ、きっと俺より上手にやるだろう。

 

 まずは自分の確認をすることにした。

 怪我の類はない。

 装備は長袖シャツとジーンズ。

 家が洋館だったことが幸いして靴を履いている。

 あと、クリスタルの短剣〈ダガー〉が一振り。

 スマホがあるが圏外なので使い物にならない。

 

 ここで冷静になってきた。

 体調は、すこぶる快調と言っても良い。

 これはこの世界の魔力の濃さのせいだ。

 あれほど走り回ったのに息切れもしていない。

 香澄に施された魔術処理以外心当たりはなかった。

 

 ガサリと音がしたので、とっさにダガーを向けると現れたのは、大型犬程の大きさのウサギだった。

 草をかき分けるように大きな耳をぴんと俺に向けていた。

 なんだと拍子抜けする事ができなかったのは、ウサギの放つ魔力の波動が、激しい波を打っていたからである。

 その波動がはじけたと思ったら、突然襲い掛かってきた。

 その脚が大地を蹴った影響で粉塵が巻き上がる。

 双眸の間にある宝石のようなものが赤く光っていた。

 そのウサギの牙は俺の首を狙っていると悟った。

 げっ歯類のくせに鋭利な歯型だった。

 まるで鮫のようだ。

  

 ウサギに蹴り出された小石が地面に落ちる前、つまり突進は一瞬〈ひとまたたき〉きもない瞬間だった。

 そのウサギは俺を仕留めたと確信していたに違いない。

 事実、首をはねられてなお、牙をむいていた。

 首と泣き別れになった胴体がピクリピクリと痙攣している。

 自分でも驚いたが、俺はダガーでウサギの首を刎ねたのだった。

 

「結婚相手へのアピールになると思い剣道を習っていたのが、功を奏したな」

 

 言い訳がましい独り言をついこぼしたのは、こんな大きい生き物を殺したのが初めてだったからである。

 犬を殺してしまったらこんな感じになるんだろう。

 ダガーからは大型ウサギの赤い血が滴っていた。

 

 

 結論を言えば、大型ウサギは俺の食料になった。

 石ころと枯れ木の破材を使って原始的なグリルを作ったのである。

 血を抜いて、さばいて内臓を取り出し、毛皮をはがし、転がっている枯れ木で火をつけて焼いた。

 ライターはおろか火打石すら無かったので、ファイアーボールを使って火をつけた。

 鋭利な石ころで掘った穴には、食べない部所を放り込んで埋めた。

 動物とはいえ初めて見る臓腑〈ぞうふ〉を見て、こみ上げるゲロもその中にぶちまけた。

 ウサギ肉はもちろん枯れ木に対しても、ダガーは大活躍だった。

 調味料が欲しかったが、無いものは仕方がない、だが腹が減っていれば何でも旨いとはよく言ったもので、きれいに平らげた。

 

「げっぷっ」

 

 先ほどまで命を奪ったことに対して悔やんでいたが、我ながら現金なものである。

 

「でなければああなる」

 

 水を求めたのだろう、小川の縁でこと切れた死体があったのだ。

 随分経っているらしく完全に白骨化していた。

 装備を失敬しようと思ったが、錆びて使い物にならなかったのであきらめた。

 

 これは証拠だ。

 この白骨遺体は、二本の脚と二本の腕を持っている。

 そして鉄製の武器を使っていたという事実。

 ならば作り出した奴もいる事になる。

 この別世界には文明がある証だ。

 頭部に角〈ツノ〉があるのが気にかかるが、まぁいい。

 物を作る奴がいるならそれは理論的な奴ら、数を扱う商売でそれを買うやつら、つまり言葉が通じるという意味だ。

 

 パチと焚火の火が爆ぜた。

 周囲に魔力の波動が複数あった。

 周期的で丸みを帯びたパターン。

 その方に目を走らせれば何かと視線が交差する。

 しばらくするとそれはゆっくりと立ち去った。

 こちらの動物も炎が苦手なのだろうか。

 焚火に薪をくべる。

 またパチリと爆ぜた。

 じきに日が落ちる。

 

「しばらく寝られない夜が続きそうだ……って会社員と何が違うのだろう」

 

 独り言が多くなったと自嘲気味に笑った。

 クリスタルの剣身をもつダガーをじっと見る。

 香澄は無事だろうか。 

 無事だと知らせたいし無事だと確認したいが、どうにもならない。

 もどかしい。

 その時だった。

 

「@#$%!!!」

 

 何の音だ。

 

「&*%$!」

「@&#@!!!」

 

 音というよりは言語のように聞こえた。

 現地民かもしれない。

 だがこんな危険な場所なのだから、武装しているに決まっている。

 第一次接触でしくじって争いごとに発展するのは少々厄介だ。

 いやだいぶ。

 

 穏便に済ませてどうにか情報をと思ったが、どうも様子がおかしい。

 その声は慌てているように聞こえる。

 呼吸を整えてじっとその方を探ると、魔力の反応が三つと一つ。

 魔力パターンを見ると、どうも追っ手から逃げているらしい。

 逃げているのが三つの方だ。

 

「逃げ込み先はここか」

 

 日も落ちれば焚火は絶好の目印だ。

 俺は腰のダガーを取り出した。

 三つを追っている、もう一つの魔力量の大きなこと。

 大型ウサギより鋭さに欠けるが、パワーと重量がある。

 ダガーで間に合うだろうか。

 

「「%%&¥*!」」

 

 現れたと思ったら、その追われている三つ、それは三人だった訳だが目の前を駆け抜けていく。

 視線が絡む。

 伺えたのは恐怖と怯え。

 先頭の奴が足をもつれさせたので、その三人は盛大にすっ転んだ。

 続いて最後の一つも現れた。

 

「グルル……」

 

 水牛ほどの大きさで、長い牙を持つイノシシ、が表現として適当か。

 そのイノシシは焚火の火を警戒しつつ、それでいて俺らを狙うことは止めなかった。

 魔力パターンが、周期的だが鋭利なものに変わる。

 仕掛けてくる、そう思ったら、魔力パターンが弾けた。

 焚火を踏み越え襲い掛かる。

 牙にあてがったダガーを起点にかろうじて、猛烈な突進を受け流す。

 魔力が体の強化をしていなかったら、とてもできない芸当だ。

 

 それを幾度か繰り返したら、イノシシの目標は完全に俺となったらしい。

 事実追って来た筈の三人には目もくれない。

 その三人はすっ転んだ事がきっかけで腰を抜かしている。

 後で苦情を申し立ててやる、そう思った瞬間を狙ってイノシシが真正面から突進してきた。

 どうする、ダガーでは間合いが足りない。

 どうにかして脇に回り込まねば。

 気が付けば足元近くにダガーより長い得物のロングソードが落ちていた。

 三人のうちの誰かものだろう。

 すっ転んだ際に、弾かれて落ちたに違いない。

 イノシシが飛びかかって来た事と、俺がロングソードを拾ったことは同時だった。

 手にした感覚は当然ながらダガーより竹刀に近い。

 婚活の一環で培った剣道の気迫見せてやる。

 俺の段位はそれなりなのだ。

 一閃、手応えあり。

 どうと音を立てて、イノシシは倒れた。

 首を斬り落とせはしなかったが、致命傷だろう。

 その首から血が噴き出していた。

 

 

 飛び込んできた三人組は魔獣、俺が勝手にそう呼ぶことにしたのだが、イノシシ型の魔獣を食っていた。

 どれだけ逃げてきたのか、相当に腹を空かすしていたらしい。

 肉を捌いていく手際の良さから、似たような事を日常的にしている連中、と言う事が分かる。

 整った装備を見てからも、どういう事を生業としているのか、何となく分かった。

 恐らくは職業的狩人。

 

「#$@&&」

 

 三人のうち、一本の角を持つ奴がいるのだが、そいつが俺に骨付きのもも肉を差し出した。

 言葉が通じないのは互いに了解済みだ。

 俺は謝礼を述べるとそのまま肉に食らいついた。

 焼きたては旨い。 

 ただ我がままを言えばそろそろ野菜も欲しいところではある。

 

 指の数が同じせいか、それとも二本ずつの腕と脚を持っているせいか、身振り手振りは概ね共通だ。

 その一本角の奴は自分の胸に親指を突きつけとると「ウーナス」と言った。

 どうやら名前らしい。

 俺はそのまま真一郎と答えた。

 二本角の奴がデュオノ、猫耳獣人はフェレナスと言い、三人肩を組んだら揃ってトルニトーズと声をハモらせた。

 チーム名と辺りをつける。

 なんというか、調子のいい連中だ。

 足元をすくわれなければ良いがと思った。

 

 だからだろう。

 剣を教えてくれ何て言いだしたのは。

 三人は俺が魔獣イノシシを斬ったところを見て、そう思ったらしい。

 

 俺は一つ息を吐くと地面に、樹木と、斬り落とされた枝と、削り出され剣となった絵を描いた。

 つまりは木剣だ。

 彼らは頷いた。

 交渉成立。

 俺は彼らからこの世界のイロハを学び、俺は彼らに剣道を仕込む。

 目指すは一路、港湾都市カプトウダだ。




ウーナス、デュオノ、フェレナスは全員男です。
ギルド名はトルニトーズ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。