冒険者組合で登録し、道具屋で一式揃えれば、晴れて冒険者になる訳だが、その道中、特にやることがない。
魔獣が現れれば俺がどうこうする前に三人が狩ってしまうし、飯にしても料理はやはり三人がしてしまう。
野宿を含め一日中屋外で過ごすことは、体力的に負担なので有難いといえば有難いのだが、やっぱり心苦しい。
料理なら多少はできるが、香辛料を含めた食材が俺の居た世界と微妙に違うので、微妙にお手上げだ。
無理して作れば不味いと不評を受ける羽目になる。
ファイアーボールでの着火役がせいぜいだ。
仕方がないので道中、ストルラスの世話をすることにした。
こいつはラクダとダチョウを掛け合わせたような生物で、草原から荒野、はたまた砂漠まで俺らを運んでくれる二本脚の乗用生物だ。
フェレナスによると、ブリーダーもいて世界中で便利な交通手段となっている、らしい。
使用料もお手ごろで、食い物もその辺の雑草で済むというリーズナブルさである。
こんな生き物いるのねと俺は感心するのみだ。
休憩中、鞍を外しブラッシングをしたり水を飲ませたりする。
心地よく思ってくれるとクルルと喉を鳴らす。
これがなんともかわいらしい。
一通り世話を済ますと俺も小休憩だ。
木陰で腰を下ろす。
どっこらしょと。
「ほらよ師匠も飲んどけよ」
ウーナスが持ってきたのは革製の魔道具だ。
魔力を込めると水が溜まる魔術師製の水筒である。
だれが作っているんだと聞いたら、こう言った魔道具の大半は人族製らしい。
なんでかと言うと、生命体として人族より強靭なウーナスら亜人は、魔術に興味を持たないそうだ、と言うよりは必要性がない。
だが時々こうして荒野を何日も進むような依頼の時は、クリティカルになるので、用意するのである。
「街中ならともかく、魔獣相手にして水なしは一週間が限度だな。まぁ人族製と言うのがちょっと引っかかるけどよ、便利っちゃぁ便利だからな。あ、いけね。師匠も人族だっけか。ま、細かいことは気にしないこった。アハハ」
とはウーナス談。
何がアハハだ。
◆
野を越え山を越え谷を下り、時々道に迷ってウロチョロすること約二週間、目的地のノンエミニ渓谷に到着した。
随分と大きな渓谷で、大パノラマもかくやと言う勢いである。
遠くでなる風音が耳に突いた。
望遠鏡と言うよりは遠眼鏡を使っているのはデュオノだ。
渓谷の底を伺っているらしい。
随分と用心深いと思ったがその方がトルニトーズの為かね。
ウーナスが「予想より早く着いたな」と言うと、フェレナスは「地図を読み間違えなければもっと早く着いたにゃ」とツッコミを入れる。
「んだと、コラァ」
「事実にゃー。冒険者のくせに地図が読めないなんて失格にゃ」
「あ、ん、な、落書きみたいな地図で迷わない方がおかしい!」
「そこが甘いにゃ、要点は抑えてあったにゃー」
追いかけっこを始めるウーナスとフェレナス。
それを他所にデュオノが俺に歩み寄ってきた。
浮かべる表情は憂慮である。
「簡易式の望遠鏡ではよく見えません。建物と思わしきものはありますが、それ以上の事は」
「どちらにせよこんな深い渓谷じゃ、今から底に降りたころには日没だ。ここで朝を待って、それからだな調査は」
「私も同意見です」
「ウーナス、てな訳だがいいか?」
ギルド=トルニトーズのリーダーはウーナスなのである。
そのウーナスはフェレナスと噛み付き合っていた。
「「うな」」
◆
幸運にも渓谷の絶壁にスロープがあったので、ストルラスに騎乗したまま崖を下っていく。
ゲートらしき跡があったが、朽ち果ていたので、ストルラスで簡単に乗り越えることができた。
皆無言で手綱を手にしていた。
ただストルラスの大地を蹴る音がするのみである。
ウーナスが「なんか奇妙なところだぜ」というので俺が「崖の壁面をよく見てみろ」と言った。ウーナスの目が驚きで開かれる。
「これ加工物じゃねーか。ならこの渓谷の壁面全部人工物が埋め込まれてるのか!?」
レンガのように敷き詰められた一枚一枚に、よく分からない文様が刻まれていたのだった。
「どうもこの渓谷自体が作られた場所って事になるな」
普通渓谷と言えば、気が遠くなるぐらいの時間をかけて、川が大地を削って作られる。
それが人工物と来たもんだ。
俺の居た世界なら巨大重機を使えば出来なくはないが、この世界にはそんな物はない。
ブルッと体を震わせたのはフェレナスだ。
得体が知れないと緊張しているらしい。
「こういう場所は苦手にゃ。さっさと終わらせたいところにゃ」
デュオノが「まるで砦のようです」と独り言ちる。
そうしたらウーナスが「噂に聞く先史代の文明か?」と言ったので俺が詳しいのかと聞いたらウーナスは首を横に振った。
「畜生。族長の話もっとまじめに聞いておくんだった」
◆
崖を折りきると、物音ひとつしない、朽ちた町があった。
正門だったらしい朽ちた跡、城壁だったと思われる朽ちた跡、そこを通り過ぎると間取りを感じさせる朽ちた跡があった。足元にあるのは食器と思しき欠片だ。
廃墟と言うよりはもはや遺跡である。
俺はあるものを見つけた。
「おいウーナス、これを見てくれ」
「人骨か……装備から見て冒険者だな。全員聞いてくれ。戦闘準備。ポーションとスクロールの確認を忘れるな」
全員が抜剣する。
鬼が出るか蛇が出るか。
全員が慎重に足を進める。
十字路に差し掛かろうかと言うところだ。
フェレナスが突然皆を止めた。
猫の獣族であるフェレナスは耳がいいのだ。
耳をピクリピクリと振っている。
何かを察知したに違いない。
そっと右路を伺うと何かが立っていた。
全員が顔だけ陰から出してそれを見た。
人型の何かが、仰け反る様に、立っていたのである。
それは異様な光景だった。
フェレナスが生き物じゃないとささやいた。
魔力パターンは、遠すぎるのか小さいのかのどちらかで読み取れない。
先手必勝だ師匠頼む、そうウーナスが言うので、俺はファイアーボールの呪文を唱える。
飯の時や暖を取る時、その度に唱えていたので、大分こなれていた。
問題は規模だ。
この世界の魔力密度は元の世界の二〇倍はあるので、威力調整が問題となる。
呪文の韻はこんなところかと発動直前だった。
ウーナスが叫ぶ。
「やべっ、感づかれた!」
そいつは仰け反りながら走り寄ってきた。
クルクルと回っていた首がピタリとまり三つの目が俺らをとらえる。
姿を見せた敵は能面の自動人形〈オートマトン〉だった。
俺の魔力探知でもしたのだろうか。
気味が悪いが、これから燃やすならば大したことは無い。
一秒差でこちらの勝ちだ。
「ファイアーボール!!」
数千度の爆炎に包まれたそれは全身を焦がし、焦がした先から体を崩壊させ、そして崩れ落ちた。
ウーナスが「やったぜざまーみろ!」と歓声を上げた事とフェレナスが「まだ居るにゃ!」と叫んだ事は同時だった。
大昔は詰所だったのだろうそれなり大きな壁の頂上から、もう一体が強襲をかけてきたのである。
いかん、この間合いではウーナスが殺られる。
ガキンと金属同士がぶつかり合い火花を散らす。
オートマトンの手刀を、防いだのはデュオノのバスタードソードだった。
フェレナスがするりと敵の脇に入るとショートソードで顔を斬りつける、すると片目を失い遠近感を欠いた敵は挙動がおかしくなる。
俺はその隙を逃さずブロードソードで敵の首を跳ねた。
ウーナスは、首と泣き別れになってなおガタガタと暴れるオートマトンの胴体に、ロングソードを突き立てた。
ウーナスが「助かったぜみんな」と冷や汗をぬぐうと、フィレナスが「礼には及ばないにゃ。仲間だにゃ」笑っていった。
デュオノは「これで終わりでしょうか」不安の相を隠さない。
かつて香澄が俺に試した時のように、鉱石の魔力を測らせた時の様に、俺は呼吸を整える。