ギアナ地方には、地図に載っていない森がある。
正確には、森そのものは地図に載っている。
しかし、その森の奥に何があるのかを知る者は少ない。
衛星写真には、果てしなく続く緑の海が映る。
その森を流れる無数の川は、やがて一本の大河へと集まり、ギアナ地方を南北に分けるように大地を横切っている。
人間が暮らす町は、ほとんどが川沿いに作られていた。
森の中にも小さな村はある。
だが、森の奥深くへ進もうとする者は少ない。
理由は単純だった。
道がない。
そして、道がない場所には、何がいるかわからない。
そんなギアナ地方の、とある町。
朝。
一人の少年……あるいは少女にも見える子どもが、研究所の前に立っていた。
名前はナギ。
年齢は十歳。
短く切った髪。
大きすぎないリュック。
そして、まだ何も入っていないモンスターボール用のケース。
ナギは研究所の扉を見上げていた。
扉の横には、小さな看板がある。
『ギアナ地方生態研究所』
その下に、手書きで付け足されている。
『本日はポケモンを受け取る日です』
ナギは一度だけ深呼吸をした。
そして扉を開けた。
「待ってたよ!」
白衣を着た女性が駆け寄ってきた。
「君がナギだね?」
ナギは頷いた。
「今日は君の旅立ちの日だ。緊張してる?」
ナギは少し考えたあと、肩をすくめた。
「そうだよね。私も十歳の頃は緊張したよ」
研究員は笑った。
研究所の奥には三つのボールが置かれている。
「さて、今日君に渡すポケモンはこの三匹」
三つのモンスターボールが開く。
最初に姿を現したのは、緑色の小さな猫。
「ニャオハ」
ニャオハは周囲を見回すと、すぐに研究員の足元へ歩いていった。
二匹目。
赤い体に丸い鼻。
「ポカブ」
ポカブは床の匂いを嗅ぎ、くしゃみをした。
三匹目。
青い体に黄色い頬。
「ケロマツ」
ケロマツはじっとナギを見つめている。
三匹とも、ナギを見る。
ナギも三匹を見る。
「さあ、どの子にする?」
研究員が三つのボールを並べた。
「ニャオハにする?」
選択肢が現れた。
はい
いいえ
ナギは少し考えた。
そして、
「いいえ」
と答えた。
「じゃあ、ポカブ?」
ナギはポカブを見る。
ポカブもナギを見る。
ポカブは鼻を鳴らした。
ナギは笑った。
だが、首を横に振る。
「いいえ」
「それじゃあ……ケロマツ?」
ケロマツは、最初からずっとナギを見ている。
ナギもケロマツから目を逸らさない。
「はい」
研究員は嬉しそうに笑った。
「決まりだね」
ケロマツの前にモンスターボールが差し出される。
ケロマツは一度ナギを見る。
そして、自分からボールに触れた。
光になって消える。
ナギは受け取ったボールを両手で握った。
「大切にしてあげてね」
ナギは頷いた。
研究員は続ける。
「それと、もう一つ。君にお願いしたいことがある」
ナギが顔を上げる。
「ギアナの森で、最近ちょっとした異変が起きているの」
研究員は机の上に地図を広げた。
ギアナ地方。
巨大な森。
そして、その森の中心に赤い印がついている。
「この辺りに住む野生のポケモンが、最近になって町の近くまで下りてくるようになったの」
ナギは地図を見る。
「原因はまだわからない」
研究員は少し困った顔をした。
「大人の研究員が調べればいいと思うかもしれないけど……」
そこで言葉を止めた。
「大人が森に入ると、ポケモンたちが警戒することがあるの」
ナギは首を傾げた。
「だから、ポケモンと一緒に行動できるトレーナーに、森の入口まで行って様子を見てもらいたい」
ナギは自分のモンスターボールを見る。
「危険な場所には行かなくていい。森の入口まででいいから」
研究員は笑った。
「やってみる?」
選択肢が出る。
はい
いいえ
ナギはケロマツの入ったボールを見た。
そして、
「はい」
と答えた。