ご賞味ください。
「ねえりっきー、ラテアートやってよ〜」
「やらないって言ってるでしょ。メニューにないしやらないから」
カウンターでグラスを洗っていると、愛音ちゃんと立希さんのそんなやり取りが聞こえてくる。
「でも、ともりんとかこういうの好きだと思うんだけどな〜」
ああ、これは立希さんの負けだな。
立希さんは燈さんにめっちゃ弱いし、なんでもしてあげたくなっちゃうタイプだから。
二人で少しだけなにか言い合ったあとに、立希さんがカウンターに戻ってきてカフェラテを淹れる準備を始めた。
「やっぱり淹れるんですね」
「……うるさい」
愛音ちゃんの口車に乗せられて不機嫌そうになりながらも、スマホの画面を見つつラテアートを作り進める。
「ふぅ……やっとできた」
「愛音ちゃん喜びますね」
「……」
「燈さんも喜ぶと思います」
「うるさい!」
上手くフォローできたと思ったんだけど、むくれてる立希さんも可愛いな〜。
それにしても、初めてと思えないくらい綺麗にできてるな。こういうところは立希さんすごい器用なんだよな。
愛音ちゃんにラテアートを届けて、少しお疲れ状態の立希さん。
だけど、幸運にも今日はお客さんの入りも少ないしゆっくりできるはず。
「やっぱり、初めてのことって疲れますよね。俺片付けやっておきますよ」
「ん……ありがと」
珍しく素直な立希さんからお皿を受け取って、ちゃちゃっと洗う。
「俺にもラテアート作ってくれませんか?」
「はぁ?なんで凪にも作らなきゃいけないわけ?」
「ほら、さっきあのクオリティじゃ燈さんに出せないって言ってたじゃないですか。だから練習がてら俺にも作ってほしいなぁって」
「やだ、疲れてるから。それに、また同じ手にかかるみたいで癪だから」
腕を組んだままぷいっと顔を逸らして、目を合わせてくれない。
「そっか……俺も飲みたかったな」
作ってもらえるんじゃないかと期待してた俺は、割と本気で落ち込んでしまった。
「はぁ。ほら、くだらないこと言ってないで仕事して」
立希さんは大きな溜息をつくと、手を動かし始めて二人で仕事に戻る。
―――
もう少しでバイトも終わりか。
愛音ちゃんも帰って、相変わらずお店の方も客足が少ない。
「時間ですし、そろそろ上がりましょうか」
「……ちょっと待って」
立希さんが何やら作業をしてて、俺がそれを終わるのを待っていると、一杯のカフェラテが俺の前に出された。
「はい、これ」
「え、これってパンダのラテアート?」
すごく可愛い。ラテアートも可愛いんだけど、顔を合わせないで耳を赤くしてる立希さんがすごく可愛い。
「でも、なんで」
「飲みたそうにしてたし……落ち込んでるみたいだったから」
女神かと思った。普通に涙が出そうだ。
「……持ち帰っていいですか?」
「バカなこと言ってないで飲んで」
そのカフェラテはほろ苦かったけど、いつもよりも甘く感じた。
立希さんはなんだかんだ優しいんだなって再認識する一日だった。
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