ある日のライブ終わり、汗を拭う立希さんの横顔がすごく綺麗だった。いつもはかっこいいとか可愛いって感じるのに、やり切った後の今日の立希さんはどうしようもなく綺麗に見えた。
翌日のバイトの準備中に立希さんと顔を合わせた。
いつもどおり立希さんは可愛い。
だけど、昨日の綺麗な立希さんの顔が脳裏によぎってぼーっと眺めていた。
「……なに?」
「あ、いや。昨日のライブの時の立希さんき――」
そこまで言って口が一瞬止まる。いつもなら可愛いとかかっこいいなんて躊躇なく言えるはずなのに、綺麗っていう言葉を言おうとしたら妙に恥ずかしく感じた。
「今日みたいに可愛かったなーって思って」
「はぁ?私の顔見てる暇あったら真面目に燈の歌聞いたら?」
「あはは……」
笑ってごまかしたけど、立希さんとろくに目を合わせられなかった。
***
凪の様子がどうにもおかしい。
いつもならしないようなミスを連発するし、なんか挙動不審だし、私と視線を合わせようともしないし……可愛いって言ってこない。
「あのさ、仕事に集中してくれない?私まで迷惑なんだけど」
凪の失敗のフォローをしながら、小言をいうと「すいません……」と落ち込ませてしまった。
「ごめん……言い過ぎた。ミスする日ぐらい誰にでもあるから」
***
背を向ける直前、立希さんの顔が少しだけ寂しそうに見えた。その表情が可愛くもかっこよくも綺麗でもなくて、胸が締め付けられるようだった。
そのあとは作業に気をつけながら無事に仕事を終えることができた。
そして、休憩室の椅子に座ってへばっていると、仕事が終わった立希さんも部屋に入って来る。
俺の斜め前の椅子に座ると、スマホを取り出したり、前髪をいじったり、どこかそわそわしたように見えた。
いつもなら、そわそわしてる立希さんも可愛いですねなんて言ってるだろうに、綺麗な立希さんが脳裏によぎって、いつもの調子が出ない。
俺は、ため息をついて荷物をまとめ始める。
「あ、あのさ」
立ち上がろうとしたところで立希さんが俺を呼び止める。
「私、なんかした?なんか今日の凪変だったから」
顔を伏せたまま、視線だけを俺に向けて立希さんはそう言った。
「あ、いや。立希さんがなにかしたわけじゃなくって……その」
いつもならはっきり言える言葉が言いづらい。
俺は立希さんから目を逸らして、小さく口を動かした。
「前のライブ……立希さん、すごく綺麗で、立希さんの顔見ると思い出しちゃうから」
なんでこんなに恥ずかしいんだ。
自分でも耳の方が熱くなってるのが分かる。
視線を立希さんの方に向けると、アワアワと口を動かして、立ち尽くしていた。
「ば、ばかじゃないの!綺麗とか……じゃあ、今日ミスが多かったのって」
「はい……立希さんのこと見るとその時のこと思い出して見惚れちゃって……」
すると、立希さんはそそくさと荷物をまとめて立ち上がる。
そして、休憩室のドアノブに手をかけるとこっちを少しだけ振り返った。
「……別に私のこと見るのは勝手だけど、次はライブもちゃんと見て。じゃ!」
少しだけ勢いよく扉を閉める立希さんの耳が赤かったのを俺は見逃さない。
「やっぱり立希さんは可愛いな」
改めてそう思った。
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