プロローグ:人生の幕引き
ここは日本の東京に位置する大病院。
俺こと17歳の美少年は病室のベッドの上で生死の境を彷徨っていた。
自分で美少年というには何とも歯痒いものがあるが、今はそれどころではない。
なぜ、こんな状況なのか、と思うかもしれないが、遡こと17年前――。
俺は生まれつき不治の病を患っていた。
世界でも症例が少ないとされている先天的な遺伝子疾患だそうだ。
正直、そう聞かされた時には目の前が真っ暗になったのを覚えている。
この病気は遺伝子を起因とする疾患だそうで、治療法は現在に至るまで確立されていないんだそうだ。
まぁ、仮にあったとしてもその治療を受けることは難しいだろう。
なぜなら、俺の両親はクズに等しい人間だからだ。
正直、両親のことはあまり記憶にない。というか、殆ど覚えていないに等しい。
というか、会いたくすらないんだが。
俺がこの疾患だと判明し、入院生活を始めてから一度も会いに来ていない。
俺はどうやら世間一般でいうできちゃった婚で産まれたらしい。
母が高校時代にやんちゃしたせいで、高校を退学し、悪い男とつるむようになった結果、妊娠したそうで、その際に授かったのが俺だ。
母の両親はこのことに大変、激怒したらしく、妊娠発覚と同時に勘当された。
これに関しては同情の余地がない。
それどころか自業自得ではあるが、俺からすれば溜まったもんじゃない。
遊び半分で産まれた俺が、何の支援すら受けられない人間の元に産まれることが、不幸への切符を切られたようなものだ。
そうして数ヶ月後に俺が出産された。
正直に思うと、これが俺の人生の最悪の始まりだ。
今こうして死にかけているのにも関わらず、両親の気配すらない。むしろここまで来たら来ないでほしいくらいだ。清々しさを感じる。
この遺伝子疾患の症状は極めて顕著である。
まずは単純な栄養失調だ。これは俺の体にも一目で分かるほど、現れている。
肉は酷く痩せこけ、骨の輪郭がよく分かるほど。
これはまるでゾンビに成りかけの一歩手前のような状態だ。
そして次に現れるのは身体能力の低下である。
まぁ、これに関してはさほど重要ではない。というのも、そもそも激しい運動自体が禁止されており、殆ど、病室のベッドの上以外で過ごした記憶はない。
最後の最大の特徴は成人まで生存できないことだ。
どこかの映画で聞いたことがあるような言葉だが、まさか、現実に存在しているとは――。
何だか、俺の周りが騒がしいな。
どうやら看護師さんとお医者さんが来たようだ。
何か慌ただしく喚いているような気がする。
心電図のモニター音が、規則正しい音から、少しずつ間隔を狂わせていく。
……ああ、いよいよなのか。
手遅れなのか?
まぁ、それは当然だな。生まれてから一度も自由な世界を知らず、誰からも愛されることなく終わる人生だ。不満がないと言えば嘘になるけれど、もう考える気力すらない。
天井の白いクロスが、急にぼやけていく。
体が鉛のように重く、そして同時に、嘘のようにフワフワと浮いていく感覚がした。
息ができない。胸の奥が冷えていく。
(――あぁ、もしも次があるなら)
最後に脳裏に浮かんだのは、物語やテレビの中で見た、青空の下を駆け回る子供たちの姿だった。
動かない手足を呪い、愛されない孤独を抱えたまま、俺の17年の短い人生は静かに幕を閉じた。
意識が、暗い底へと沈んでいく――。