あれ? ここはどこだ。
俺は・・・・・・どうなったんだ?
あぁ・・・・・・ダメだ。
まだ、頭がぼんやりする。
俺は確か、胸が苦しくなって、血を吐いて・・・・・・
それで看護師さんを呼んで、意識を失ったんだよな。
でも、俺の意識がこうしてあるってことは、助かったのか? それとも・・・・・・死んだのか?
死んでるとしたらなんで意識があるのか、不思議な話だが、どうなんだろう。
もしかしたら、これが幽体離脱というものなのだろうか。
でも、それなら俺の体はどこだ、という話になるな。
もう火葬されてなければの話だが。
少しだけ意識がはっきりしてきたような気がする。
俺は目を開くために意識を集中させる。
すると、微かに開く目に眩い光が差し込む。
俺が最初に感じたのは眩しいほどの光であった。
ずっと暗闇だった影響で、目がまだ光慣れていないのだろう。
眩しすぎる光に俺は思わず、不快感から目を細める。だが、だんだんと慣れてくると最初の頃よりも目を開けられるようになった。
「**——************———***」
ん? なんだ、この声?
光にある程度、慣れてきたお陰で、周囲の景色をより鮮明に認識することができるようになった。
そして目の前には金髪の髪を頭の後ろで結んだ若い美女と若い茶髪のチャラチャラした男が俺のことを上から覗き込んでいた。
チャラそうな男の方はともかく、隣の美女はとても美しい。それどころか巨乳でもある。
病院生活じゃ、ネットの世界でしか、見たことがないほどの美女。
この金の髪色からして染めたものではなく、恐らく地毛なのだろうか。
日本では殆ど見かけないレベルの美女だ。外国の人か?
(それにしてもこの隣の男は・・・・・・誰なんだ?)
なんだろう。ウザさを感じる。
この茶髪の男を見てるとなんだか、チャラそうだし、凄くワガママそう。
男の服から覗かせる筋肉は凄いな。強そうだ。
なんだか、女を取っ替え引っ替えしてそうだ。
この軽薄さを窺わせる茶髪の男は俺に向かって顔を引き締めたかと思えば、次の瞬間、舌を垂らして頬をつねり伸ばしながら変な顔をした。
「****——********」
なにしてるんだ、こいつ。
気でも狂ったのか?
変顔の男に対してこの金髪巨乳美女は面白かったのか、笑っていた。
美女の笑顔はとても美しい。絵になるな。
それにしてもこの二人は誰なんだ?ここがどこかもわからない。病院じゃないのか?
目の前の美女とその隣の軽薄そうな男。
服装からして看護師さんには見えない。
ここは病院じゃないのか?
なら、ここは・・・・・・。
「***——***********——***」
金髪美女は俺の方を見て、微笑みながら何か言った。
何を言っているのかは全くわからん。
ボンヤリしているせいか、よく聞き取れない。それに俺の聞いたことのない言語で喋っている。
もしかしてここは日本じゃないのか?
日本語ではないのは確かだ。外国か?
日本でもなく、病院でもない。
それならどこなんだ。
トン、トン
誰かが部屋の扉をノックする音が聞こえる。
「**——**——********——**」
ん?
聞いたことのない声が聞こえてきた。声質からして女性だ。
その声の主はドアの向こうから聞こえる。どうやらこの家にはこの二人以外にも誰かが住んでいるようだ。
そして扉を開けて入ってきたのは・・・・・・なんとメイドだった。
ガチャリと扉が開いた瞬間、俺は思考を奪われた。
ネットで見かけるような、男の妄想を詰め込んだミニスカートのコスプレではない。
足首までを完全に覆う、重厚な黒のロングドレス。糊がピシッと効いた、雪のように白いエプロン。首元をきっちりと締める立て襟。
それは、歴史の教科書からそのまま抜け出してきたかのような、本物の『英国式ヴィクトリアンメイド』の姿だった。
一寸の乱れもない白と黒の対比が、彼女の静かな佇まいをいっそう際立たせている。
お色気要素なんて微塵もない。むしろ、その完璧すぎる機能美と、一切の感情を排したようなプロの佇まいに、俺は気圧されるような凄みすら感じていた。
「***——****——**」
生きてる間にメイドを拝むことができるとは・・・・・・
それにこのメイドさん・・・・・・よく見ると美しいな。
この金髪美女に勝るとも劣らない美貌に加え、メガネ、そして同じく巨乳、そして真面目そうな雰囲気を醸し出している。
まさにメイドの要素を詰め込んだような美女だった。
それにしてもだ。
ここは病院なのか?
目の前には金髪美女と軽薄そうな男、その後ろにはメイドさん。
ここは病院じゃないのかも知れない。というか、絶対に違う。
なんで病院にメイドさんがいるんだ。風紀が乱れてしまう。
俺はここはどこなのか尋ねてみよう。
病院生活が長かったので、看護師さん以外と喋るのはほんとに久しぶりだ。別にコミュ障というわけではない。友達がいないだけだ。
なんだがそう思うと寂しくなってくるな。
ひとまず、聞いてみよう。
「あー、あーう」
俺の口から出てきたのはかつての声ではなく、赤子の呻き声のような声が出る。
なんということだ。ここまで重症だというのか。
そしてどうにかして体を動かそうとするも、あまり動かない。
いや、指先や腕、足の感触はある。だが、どうにも上半身は動かない。
まじか、重症とは思っていたが、ここまでとは思わなんだ。
これでは殆ど生き地獄ではないか。まだかつての入院生活の頃のほうが今よりは自由があった。
これでは生きている意味がないように思える。
「****——****——*****——**」
現状の悲観的状況に絶望していると、金髪美女が俺を抱き抱える。そして・・・・・・抱きしめられる。それも涙を流しながらだ。
なんということだ。案外悪くないかもしれない。こんな美女に抱きしめられた上、涙まで流してくれるとは。
かつての病院生活では、考えられないことだ。
今までは身内の人間では誰も会いにこないことが殆どだ。まぁ、あんなクソ親に来てもらっても嬉しくはないが。
正直、俺はこの美女を知らない。だが、どこの誰かもわからない美女が俺のために泣いてくれていると思うと今まで生きてきた人生にも意味があったのかもしれない。
人生で唯一の幸運だ。
(それにしても凄いな)
それにしても凄い美女だな。
特に胸。
いや、今は胸のことは後でいい。
というかこの美女の筋力だ。
この俺を抱き抱えるだけの筋力がこの折れてしまいそうな腕にあるとはとてもだが、そう思えない。
俺も病のせいで痩せてはいたが、48kgくらいはあったはずだ。にも関わらず、この美女は軽々と俺を抱き抱える。
この美女・・・・・・まさか、男だったりして。
いや、有り得んな。
なぜなら、この美女の巨乳そのものが、それを否定している。
間違いない。これは天然ものだ。
まぁ、ひとまず胸の話は後でいい。
恐らく、前よりも体重がかなり落ちているのだろう。
それでも重いと思うが・・・・・・。
まぁ、それも当然か。
今はいつなのか分からないが、助かっただけ、良しとしよう。なにせ、この美女に抱きしめられたのだから。
そうして、ひとときの幸運に浸っていると眠気がきた。
(・・・・・・んっ、なんだか眠たくなってきたな)
俺は強烈な眠気に抗えず、瞼を優しく閉じる。
甲竜暦406年。
パウロ・グレイラットとゼニス・グレイラットのグレイラット家にウィリアムが養子として引き取られる。