思った以上に前半の執筆に時間が掛かってしまいました。
俺が赤ん坊に転生して一年半ほどの年月が経過した。
足腰もしっかりしてきたおかげで、二足歩行ができるようになった。
以前のようにハイハイと這い回る必要がなくなり、自由に動き回れるようになれた。
活動範囲も広がったことで、ようやく二階を探索することができる。
「♡ ♡ ♡!」
俺は今、とある赤ん坊を抱きしめている。
「っ!?」
めでたいことに半年ほど前に、俺に人生初の弟が誕生した。
名前は“ルーデウス・グレイラット”という。
両親は“ルディ”という愛らしい愛称で呼んでいる。
両親はもちろん、父さんと母さんの子だ。
容姿も両親の遺伝子をしっかりと受け継いでいるようで、髪色はパウロ譲りの栗色で、瞳はゼニス譲りのようで綺麗な緑色をしていた。
俺から見ても愛らしい印象を感じさせる容姿をしている。
こうみると案外、男でも可愛らしいって思うんだな。決してショタコンなわけではないが、そう感じた。
せっかく転生して初めての弟だ。大切にしよう。
大切にすると決意してから数日後・・・・・・
俺にもそう思っていた時期がありました。
ここ最近、ルーデウスの様子がどこかおかしい。
生まれた直後は泣くことはなかったし、ここ半年ほど、赤ん坊特有の騒がしくなることはない。
まぁ、これに関しては俺も生まれた時は同じだったようで、そういうこともあるのかもしれない。
だが、母さんやリーリャさんに尋ねたら、どうもしどろもどろになっていたな。
おかしなものだ。
ところがここ最近、ルーデウスが不可解な行動をよく目にする。
母さんやリーリャさんに抱かれた際、わざと胸に顔を埋めたり、小さい手で揉んでいるように見えることが多々あった。ある時は母さんとリーリャさんの下着を隠れて被っていることもあった。
極め付けは、あのいやらしさ全開の笑みである。
まるで前世で見たドラマでキャバクラで散財した挙句、お気に入りのキャストに甘える肥えた中年オヤジそのものだ。
俺は悍ましいものを見た。
・・・・・・なんだこれ?
いや、決して気味悪がっているつもりはないが、とてもじゃないが赤ん坊の思考回路とは思えない。
いくら父さん(元ヤリチン)の血を引いているとは、ここまでの変態が生まれるものだろうか?
もしや、変態の突然変異か!?
赤ん坊とは思えない行動を取るルーデウス。
まさに生粋の変態の申し子。と呼んでも差し支えないほどだ。
そのせいか、リーリャさんからは少し警戒されている。
嫌っているというほどではないが、少々、距離感を感じる。
俺の弟が変態みたいで、すみません。リーリャさん。
(でも・・・・・・なんだ?)
兄弟だからか? 親近感のようなものを感じる。
いや・・・・・・兄弟というより、これは・・・・・・
(まさかな・・・・・・俺と同じなんじゃ?)
俺はこれまでの違和感からある推論が頭に浮かんだ。
それはルーデウスが「転生者」なのではないか、ということだ。
突拍子もない推論ではあるが、根拠がないわけではない。
なにせ、俺自身という実例があるのだから。
一つ目は、ルーデウスが生まれた直後に泣かなかったことだ。
赤ん坊は普通、生まれた時は泣き喚くものという風にリーリャさんに聞いた。だから、その時は死産なのではと心底、心配したらしい。
これは俺も同じようだったからというのもある。
二つ目は、あの摩訶不思議な変態的な行動だ。
赤ん坊なら多少はそういう風なことがあってもおかしくない。
ただ、少しわざとらしさを感じたから、リーリャさんに相談した。
すると、リーリャさんはルーデウスに違和感を感じているらしい。
赤ん坊らしからぬ行動に少し気味悪がっている。
確かにそう言われれば、前から拒絶感というほどではないが、距離感を感じていた。
「旦那様の影響でしょうか?」
リーリャさんは、父さんの影響ではないかと教えてくれた。
俺は思わず、頭を傾げた。
どうして父さんが関係するんだ?
頭を傾げる俺にリーリャさんはこっそりと父さんの昔話を聞かせてくれた。
昔、父さんは母さんと結婚する前、冒険者だったらしい。
その間、色んな女性に手をかけていたらしい。
リーリャさん自身も父さんの冒険者時代のことは詳しくは知らないそうだが、なにやらリーリャさん共、昔、何かあった様子だった。
それに関しては詳しくは教えてくれなかった。
まぁ、俺も父さんの痴情のもつれ話は聞きたくはない。
父さんは、まさに前世で言うところのヤリチンだったということが分かれば、今はいい。
それにしても、これが父さんの過去とは泣けてくる。
そんな元ヤリチン父さんの血を受け継いでいるとはいえ、ここまでの変態が生まれるだろうか?
まぁ、ここは異世界だ。
案外、そういうものなのかもしれないが、俺はルーデウスに変態でもありながら知性のようなものを感じた。
赤ん坊という体裁を武器に、母さんやリーリャさんの胸をさりげなく揉むという行動は、赤ん坊であればなんら不思議ではないが、あのいやらしい笑みをプラスで考えればおかしい。
これは遺伝子云々で片付く話じゃない。
むしろルーデウスが「転生者」だったなら納得できる。
・・・・・・というか、「転生者」であってくれ。
俺の人生初の弟が元ヤリチンの遺伝子レベルでの変態は少し凹む。
まぁ、変態でも俺の弟であることは変わりない。
その時はその時だ。
時に厳しくも時に優しく接してやろう。
(・・・・・・とはいえ、どうやって確かめればいいんだ?)
そもそもルーデウスを「転生者」と見抜くには、どうすればいいかが問題だ。
俺にはそう判断する基準と呼べるものが少ない。
俺と同じ地球育ちの日本とかなら、問題ないが、流石に外国となると難しい。
なにせフランス語やアフリカ語などになると分からんし、そこから枝分かれした言語は俺には理解できない。
前世で英語くらいは勉強したから、今だけなら役立つが、これ以外ならお手上げだ。
そもそも俺の前世と同じ地球・・・・・・世界じゃないかもしれない。
なにせ、こんな剣と魔法の異世界があるのだ。他の世界があってもなんら不思議ではない。
もしかしたらSFのようなスーパーヒーローがいる世界もあれば、死神が卍解する世界、海賊王がいる世界、人口減少で女性の比率が多い世界なんかもあり得る。
まぁ、最後の世界なら転生したことを悔やむかもしれんが、今は後でいい。
そんな世界で言語が同じかは分からんし、そもそも価値観や倫理観も違うかもしれない。
まさに「異世界」だな。
(まぁ・・・・・・その時は、そのままのルーデウスを受け入れよう。)
どんな異世界出身でもルーデウスは今、紛れもない俺の弟だ。
ここでルーデウスを孤独にさせるのではなく、受け入れてやるのが兄の務めというもの。
兄の本懐を果たすぞ。
俺はそう決心するのだった。
それから数日後のこと、とある大事件が起きる。
俺はこの日、言語を覚えるために読書をしていた。
この家は裕福ではないものの本が五冊ほどあった。
文字を覚えるには充分だろう。
俺はふとルーデウスを見る。
ルーデウスは窓際の椅子によじ登り、外の景色を眺めていた。
ルーデウスは外の世界に興味があるのだろうか?
そういえば、父さんが今、庭で剣術の練習をしていたな。
やはりルーデウスも男だから剣に憧れがあるのだろうか。
これには俺も分かるところがある。
この世界には魔法もあるが剣もある。
魔法も憧れるが、剣にもロマンがある。単純にカッコいいからな。
ルーデウスを眺めながら、そう思っていると次の瞬間・・・・・・
「あう!?」
(ッ! 危ない!)
「ルーデウス!」
ルーデウスが椅子からバランスを崩して落ちそうになっていた。
このままだと後頭部から床へダイレクトアタックしてしまう。
もし、怪我をしたら・・・・・・!
俺は思考よりも速く、体は駆け出していた。
しかし、現実は何とも非情だ。
(くっ! 間に合わない!)
ルーデウスと俺との間はおよそ1メートルほどしかない。
全力疾走すれば、何とか間に合う距離感ではある。
だが、それはあくまでも成人の大人の話だ。
俺はまだ1歳の赤ん坊だ。
足腰は発達し、二足歩行できるとはいえ、まだ未熟な赤ん坊の体。
筋肉も骨格も発展途上な、この体では到底、間に合うわけがない。
どんなに全力を出したとしてもルーデウスが後頭部から落ちる未来は変わらない。
「ルーデウス!!」
ほんの1〜2秒もすればルーデウスの後頭部は床と接触する。
それは俺にとっては最悪の未来。
ルーデウスはまだ赤ん坊だ。
脳の当たりどころが悪ければ、最悪、何らかの後遺症が残るかもしれない。
俺はそんなものをルーデウスに背負わせたくはない。
(クソ! 間に合わない!? ルーデウス!)
(俺は・・・・・・また、何もできないのか!?)
俺は心の中で自身の無力感に絶望する。
このままではルーデウスが・・・・・・。
必死に体を動かす俺。
その時、俺の体が何かを駆け巡る。
俺はその時、何故だか“間に合う”という確信が湧き上がる。
俺は床を激しくドゴンと勢いよく踏み込む。
そして野生のチーター、あるいは疾風怒涛の如き恐ろしいスピードでルーデウスと床の間に滑り込む。
そして俺は床へ激突寸前のルーデウスの体を自身の小さな両腕で文字通り「間一髪」キャッチした。
しかし、勢いが余りすぎた。
このままではルーデウス共々、二人揃っての壁に激突コースである。
(・・・・・・このままじゃ壁ドンならぬ、壁クラッシュ!!)
俺はルーデウスを庇うように丸まり、自らの背中を盾にし、無防備にも無垢材の壁に激突した。
ゴンッ!!
凄まじい激突音が家中に響き渡り、壁は盛大にひび割れて凹んでおり、天井からは砂埃がパラパラと降ってきた。
「キャアァァァ!!」
突如、母さんの悲鳴が聞こえた。
(・・・・・・母さん?)
俺は壁と激突したせいか、意識が朦朧としていた。
どうやら頭をぶつけたらしい。打ちどころが悪かったな。
朦朧とする視界で俺は、母さんを見る。
母さんは外の洗濯物を取り込むのが終わったのか、洗濯物籠を持って、家に入ってきた。
そして、この惨状を目にし、悲鳴を上げたようだ。
「ウィル!! ルディ!! 大丈夫なの!?」
母さんは口に手を当て、顔面を真っ青にしながら俺達を見下ろしていた。
そして猛ダッシュで慌てて駆け寄ってくる。
「ウィル!! あなた、ルディを庇って」
母さんはこの惨状の中、俺とルーデウスの姿勢から察したようだ。
目元に大粒の涙を浮かべ、口元に手を当てながら、泣き堪えていた。
そんな母さんの目の前で俺は横に丸まるように倒れている。
背中がズキズキと痛む。ルーデウスを助けるために、かなりのスピードで突っ込んだせいか、勢いをコントロールしきれずに激突した。
「奥様!! 何事ですか!?」
「どうした!? ゼニス!? 何があった!」
父さんやリーリャさんも母さんの悲鳴と激突音を聞きつけ、家内のリビングに集まってくる。
そして母さんが事情を説明する。
「ゼニス!! 急いでウィルの背中に治癒魔術を」
「えぇ!! そうね。リーリャ、ルーデウスをお願い」
「はい!! 畏まりました」
父さんの咄嗟の判断で、母さんに指示する。
母さんはリーリャさんにルーデウスを託し、俺の背中側に回り込むと真剣な表情で背中に手を当てて、呟く。
「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん『ヒーリング』!!」
これはかつて、家の畑で見たリーリャさんが起こした奇跡。
しかし、リーリャさんが使っていたものとは違うものだ。
母さんの手元が淡く光り輝くと背中のズキズキとした痛みが一瞬で消えていく。
そして同じように後頭部にも手を当て、呟くと光り、痛みが消えていく。
(痛く・・・・・・ない)
そして俺は痛みが消えていくことに安堵し、意識を失う。
「ウィル!! ウィル!!」
俺は遠のく意識の最中、母さんの絶叫だけが聞こえていたのを覚えている。
◆ ◆ ◆
「・・・・・・ん」
それから数日で俺は意識を取り戻した。
長い間、寝ていた影響で体のあちこちはガチガチになった。
俺ってどれくらい寝てたんだ? ルーデウスは無事なのか?
俺は周囲を見回す。
ここは2階の俺の寝室だ。 俺が眠っていた間、誰かが掃除をしてくれたのでだろうか。隅々まで綺麗になっており、埃一つない。 リーリャさんが掃除をしてくれたのか?
ん?
ふと、階段が軋む音が聞こえる。
誰かが階段を登ってきたな。
足音はだんだん、俺の寝室に近付いてくる。そして寝室の扉の前で止まる。
ガチャ。
そしてドアノブを捻り、誰かが入って来る。
入ってきたのは、母さんだった。
「・・・・・・母さん?」
「ウィル!」
母さんは寝室へ入るなり、俺が意識を取り戻したことに気付くと、両手に持っていた食器を床に落とす。そして大泣きで俺を強く両手で抱きしめる。息が詰まりそうなくらいだ
母さんは何度も俺の名前を呼びながら泣き、離れる頃には目元を真っ赤に腫らしている。
「良かった・・・・・・ウィル。本当に良かった。あなた、一週間も目を覚さないから、もう・・・・・・」
「・・・・・・一週間?」
俺は自分の耳を疑った。
感覚としては一日ぐっすりと寝たような気分だ。
もの凄く気分が良い。
しかし、どうやら俺は一週間もの間、眠っていたらしい。
しばらくすると、父さんとリーリャさんも二階の寝室へ上がってきた。
リーリャさんはルーデウスを抱き抱えたまま、涙を流す。
「母さん、ルーデウスは・・・・・・」
俺は母さんにルーデウスのことを尋ねる。
ルーデウスは無事なのだろうか?
抱き抱えられるルーデウスを見る限り、平気そうに見える。
だが、実際はどこかぶつけているのではないか?
「大丈夫よ。ウィル、あなたが守ってくれたおかげで元気にしてるわ。でも、今度からはあんな無茶はしないでね。ママをこれ以上、泣かせないで・・・・・・」
心配は俺の杞憂だったようだ。
俺はルーデウスを守ることができた。しかし、その反面、母さんをまた泣かせてしまった。
父さんも静かに呟く。
「ウィル。お前はルーデウスを守った。これは悪いことじゃない。むしろ褒められるべきことだ。
俺は誇りに思う。だがな・・・・・・」
しかし、父さんの声色はいつもより静かで抑え気味だった。
「お前は自分の身を顧みず、危険を犯した。そのせいで、一週間も目を覚さなかった。
俺や母さん、リーリャがどれだけ心配したか、分かるか」
俺は思わず言葉が詰まった。
俺はルーデウスを助けることしか考えていなかった。
それ自体は悪くないと思っている。
だが、そのために自分のことを顧みず、危険を犯し、結果的に母さんや父さん、リーリャさんを悲しませてしまった。
「・・・・・・ごめんなさい。ルーデウスを守らなきゃって思って」
俺はただ謝ることしかできなかった。
寝室に沈黙が漂う中、父さんは大きな手を俺の頭に乗せた。
「いいか、ウィル。お前は正しいことをしたんだ。兄としてな。
だがな、お前を心配する人がいるということをよく覚えておけ」
前世とは違い、俺はもう一人ではない。
自分を愛してくれる、心配してくれる家族がいる。
俺はもう二度と家族にそんな思いをしてほしくはない。
「わかった。」
俺がそう言うと、父さんは俺を抱きしめる。
その時の父さんの胸の中は暖かく心地良かった。
俺は二度と心配をかけないようにしよう。そう心に誓った。
ヒロイン候補について試行錯誤しております。
現段階で、決定済みのヒロインは決まっており、シルフィエット、ノルン、アイシャの3名は決定済みです。これ以外のヒロインで追加して欲しいキャラがございましたら、感想でもよろしいのでお寄せください。