ショップ大会に参加してから数日。部活動も本格的に始まり、先輩方との交流も深まり始めていた。
この学校はそんなにアビカに力を入れている訳でもなく、顧問もあまりアビカをやっていたわけでは無いらしい。
本人曰く、あくまで生徒の自主性を尊重しているとのことだったが、実態は幽霊部員ならぬ幽霊顧問と化していた。
結局、部活には
その結果……。
「
「いや、こっちを先に見てください! もう選抜戦が近くて……!」
「
先輩方が白栞と
「白栞ちゃんも千夏ちゃんもすごいね」
「まあ、あの二人はなぁ……そりゃこうなるか」
かく言う
流石にまだ白栞と千夏に勝ったことはないが、時折ハッとするプレイングを見せるらしく、白栞をしても今後が楽しみだと言わしめる逸材のようだ。
ちなみに俺はつい三日前に桂木さんに負けていたりする。……まだ勝ち越してるからセーフとさせていただきたい。
「すんません先輩方、アタシはちょっと桂木とやりたいっす」と、千夏は先輩方の誘いを断ってこっちに来た。
千夏も最近は桂木さんとのバトルが楽しくなってきているようだ。
「千夏ちゃん、忙しいのにありがとう。今日はバッチリ千夏ちゃん対策もしてきたよ!」
「へえ、そりゃ楽しみだ。でも特定の相手だけ対策したデッキじゃ、他のヤツと戦った時に辛いぞ?」
「気をつけるよ。でも今回は、どこまで対策カードを削れるかの実験がしたいって感じかな」
桂木さんはかなり論理的にデッキ構築やプレイングをしている印象だ。デッキの中身も毎日少しずつ変わっている。
トライ&エラーを繰り返して、着実に成長するタイプだ。こういう人は大抵、アビカが強くなる。
その後、千夏と桂木さんで何戦かやったが、結局千夏の全勝で終わった。と言っても、最後の試合はかなり惜しかったのだが。
「うあー、負けちゃった……。ありがとうございました」
桂木さんが千夏対策で採用したカードを活用しようとしていたが、千夏もそこは流石で、上手く捌いて立ち回っていた。
ただ、桂木さんはその後のプレイングが上手かった。対策カードが想定通りには機能しないと悟ると、それを囮に本命プランを通しにいくなど、とても復帰明けの初心者とは思えないプレイングを見せたのだ。
結果としては、千夏が序盤から積極的に桂木さんのライフを削りにいっていたため、ギリギリで間に合わなかったが……。
「今のは自信あったんだけど……千夏ちゃんから見てどうだった?」
「……」
桂木さんが問いかけるが、千夏からの返事はない。
もしやと思って千夏を見れば、思った通りノートにペンを走らせていた。
「千夏ちゃん? 千夏ちゃーん!」
「ん、ああ。ワリい、ちょっと今の対戦内容をメモってた」
千夏は、対戦後やふとした時にメモをとる癖がある。どうやら試合内容の振り返りを都度纏めているらしい。時間があればその内容を検証して、構築やプレイに反映させ続けるなど、とにかく強くなるための熱量が尋常じゃない。
正直、ここまで打ち込めるのは尊敬している。
恥ずかしいから絶対言わないけどな。
「えーっと……今の試合だよな? 五ターン目に対策カード見せてプレッシャーかけにいったのはかなり良かったと思うぜ。アタシが捌けなければテンポは完全に取れてたし、そこにリソースを割いた相手に対して本命を叩きつける流れはよかった。ただ、四ターン目までにあと二点はライフが残ってないと間に合わないから……」
聞いてて思うが、千夏は戦況の分析が上手い。勝因や敗因を的確に理解し、それを学び続けることができている。
これもアビカで強くなるのに必要な素養の一つだと思うが、勉強にも活かせばもうちょっと成績は上がるんじゃないだろうか。
「お前、今失礼なこと考えたろ」
「いや? 全然?」
その後は俺も先輩方と対戦したり、白栞のアプローチを回避したり、秘蔵の新コンボデッキが全く回らずに桂木さんに連敗したりしていた。
通算戦績は、まだギリ勝ち越している。
「結翔くん、白栞ちゃんがすごく暇そうだよ?」
対戦が終わり、次の準備をしている桂木さんに言われて見ると、白栞はアビカをせずにスマホで動画を見ているようだった。
「まあ、ここで白栞が得るものも無いんだろ。残念ながら俺じゃ相手になれないしな」
「私はいつでも結翔とバトルしたいんだけど⁉」
気持ちは嬉しいが、俺じゃ白栞を満たすようなバトルはできない。本人は気にしなくても、こっちが気になってしまう。
白栞が強くなるためには、レベルの近い相手が必要なのだが……。
「千夏ちゃんだったら、白栞ちゃんと良い勝負ができるんじゃない?」
何気なく放たれた桂木さんの一言に、内心で冷や汗をかいた。いつかその話題になるだろうとは思っていたのだが。
この部内で白栞の次に強いのは間違いなく千夏だ。それは誰が見ても明らかだし、当然そういった意見が出るのも分かっていた。
だが、この二人はもう何年もアビカで戦ってない。
詳しい理由は俺には分からない。毎日三人で変わるがわるに対戦していたのが、ある日を境にピタリと無くなったのだ。
あまりにも不自然だったので、理由を尋ねたことはある。だが、二人にどれだけ聞いたところで、その理由は答えてくれなかった。
「そうだよ千夏ー。そろそろ私と戦ってくれてもいいんじゃない?」
「はいはい、そのうちな。あとバトル中に話しかけんなよ」
別に、二人の仲が悪くなったという事もない。こうして軽口を叩いて笑い合う仲だし、アビカ以外の事なら一緒に遊んだり競ったりする事がある。
ただ、アビカで直接戦うことが無くなっただけだ。
もし今、白栞と千夏が戦ったらどうなるのだろう。そんな妄想は何の意味も無いと分かっていても、考えずにはいられなかった。
「さて、最終下校時刻三十分前だ! 各自現在行っているバトルを最後にして遅れないように!」
部長の一声で、少しずつ片付けが始まる。そんな中でも千夏はノートにメモと取り続けていた。
「千夏、そろそろ下校だぞ」
「……ん、サンキュー結翔。もうそんな時間かよ」
声をかけると、千夏も片付けを始めた。
「千夏ちゃんは本当に集中力がすごいねー」
「集中しすぎて電車を乗り過ごしたり、電柱にぶつかるのは勘弁してほしいけどな」
「何それ、可愛い」
それは可愛いのだろうか? 女子の感性はどうにも分からなかった。
―千夏side―
部活を終えて自宅に戻ると、今日書いたノートを取り出す。対戦後すぐにメモは書いているが、振り返りも兼ねて自宅で清書するのが日課だ。
清書用のノートを机の引き出しから取り出す。そろそろページが埋まりそうだ。
「六試合目の部長とのバトル、結果的にミスは無かったと思うけど……ミッドレンジタイプのデッキとの対戦を想定してない構築だと、この環境は厳しそうだな。勝つためには……」
清書する過程で、気付いた点もメモしていく。思考を整理して次に繋げる大事な工程だ。
「八試合目の桂木は……正直ちょっとやばかったよな」
とても初心者とは思えないプレイングだった。飲み込みが早いと言っても、ここまでの速度で伸びるとは。
それほど熱心にアビカに打ち込んでいるようには見えない。要領がいいのだろう。
アタシにできるのは沢山バトルをして、良いところも悪いところもひとつずつ振り返って、改善していくことだけだ。
それを続ければ、あるいは。
「……負けてらんねーよな」
小さく息をついてからノートを閉じる。そういや、メモに使ってるノートも今日で一冊埋まったはずだ。新しいノートと入れ替えておかなきゃな。
クローゼットから新品のノートを取り出し、古いノートをしまう。もう何冊目になっているのか、積み上がっているノートを数えたことはないが、平積みの山がいくつも出来上がっていた。
場所は取るし、管理の面でも読み返す時でも、きっと電子でメモしてた方が楽だろうとは思う。
あまりデジタルに強くないというのもあるが……。この積みあがったノートが、努力を可視化できているようで安心するのだ。
「いつかきっと、戦ってやるさ」
昼間桂木に言われたことを思い出す。
今はまだ、きっと白栞には届いていない。アタシのプライドも、大事なものも取り返せないだろう。
それでも、努力が才能を凌駕できる日が来ると信じてる。きっとこの積み上げられた経験の山が、あいつに届く足場になったその日こそ──。