正邪 the Paraselene   作:チャーシューメン

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以下、この章の登場人物紹介です。

○登場人物
 鬼人正邪    天邪鬼。背丈はやや低。顔色悪いのは化粧。
 犬走椛     白狼天狗。背は高い。真面目で寡黙。無類の不器用。犬耳あり。
 少名針妙丸   小人族の姫。背丈は現在、三十cm前後。笑い上戸。輝針剣を背に差す。
 博霊霊夢    博霊の巫女。守銭奴。中背。平坦。締りのない顔。針妙丸を保護中。
 上白沢慧音   半獣人の教師で人里の守護者。熱血。ノンケ?
 藤原妹紅    蓬莱人。もんぺ。ボロを纏うが仕草は雅。
 河城にとり   河童。金にがめつい技術屋。椛と仲がいい。
 姫海棠はたて  天狗の記者。いかなる相手にもタメ口。ミニスカ。
 ミスティア   夜雀。おかみすちー。割烹着。背丈は低だが下駄を履いてやや低程度。

 その他モブ東方キャラは大体心綺楼ベースな感じのデザインで。
 描写がないかぎり、公式と同じデザインの服を着ている想定。



「2」「先立つモノはカネ」

 <暗転>

 

 少女の声 「キャーッ!」

 

 <人間の里 寺子屋の前 朝 晴れ>

 

 大地に落ちる、揺らめく二つのでこぼこした影。

 一人は、薄汚れた緑色の怪獣の着ぐるみを着た正邪。怪獣の口の部分から顔を出し、わりとノリノリで怪獣の演技をしている。そして、わりと板に付いている。コミカルな動きで、わりとカワイイ。

 もう一人は、黄色い肩アーマーと青いハイレグを身につけ、黄色いバイザーをつけた椛。右手にはムチを持っている。椛は恥ずかしがって、体を縮こまらせてプルプルしている。ハイレグの後ろにはフサフサした大きな尻尾がうなだれている。

 

 正邪   「ガオーッ! この寺子屋は我々、『草の根妖怪ネットワーク』がいただいたぁ! おとなしくしないと痛い目見るぞー!」

 

 正邪はチラリの椛のほうを見やる。が、椛は赤面してプルプルしながら俯くのみ。

 

 正邪   「(椛を肘でつついて、小声で)オイ、セリフどうした、セリフ!」

 椛    「(涙目で)そ、そんなこと言ったって……、こ、こんなとこ、ブン屋連中に見られでもしたら……」

 正邪   「(舌打ちして)しょうがねぇなぁ」

 

 着ぐるみの上から頭をボリボリとかく正邪。

 

 正邪   「ぐははは、覚悟しろー! お前たちは全員、我々のお夕飯になるのだぁー!」

 

 正邪は両腕を掲げて、威嚇のポーズを取る。

 

 少女の声 「(悲鳴と言うよりは歓声)キャーッ!」

 

 正邪たちの前には、年端の行かない少年少女達がいる。少女達は目をキラキラ輝かせて、歓声を上げる。少年たちは興奮してバタバタと飛び跳ねたりしている。全く正邪たちには臆していない。なぜか、針妙丸も混じってバタバタとはしゃぎ回っている。

 

 正邪   「ガオー!」

 

 正邪は両腕を掲げて、威嚇のポーズ。少年達は歓声をあげる。

 

 正邪   「食べちゃうぞー!」

 

 正邪は両腕を掲げて、威嚇のポーズ。少女達がパチパチと拍手をする。

 

 椛    「お前、ノリノリだな……。お?」

 

 椛の周りにわらわらと少年達が集まってくる。

 少年たちは歓声を上げながら、手にした木の枝で椛をつついたり、服を引っ張ったりし始める。針妙丸も混じって、木の枝で椛の体をつついている。

 

 椛    「わっ、わっ、コラやめろ、つつくな、脱がすな、引っ張るな~!」

 

 顔を真っ赤にし、必死で服を押さえる椛。

 そのとき、上空から鋭い声が響き渡る。

 

 ?    「まてぇい!」

 

 声に反応して、子どもたち、そして椛もキョロキョロと辺りを見回す。椛を取り囲んでいた少年たちも、椛から離れる。

 スっ、と伸びる怪獣の腕。上空を指す。

 

 正邪   「あ、あそこだ!」

 

 寺子屋の屋根の上に、太陽を背にする、逆光線のシルエット。その形は明らかに、腕組みして立つ霊夢のそれである。

 どこからともなく、渋いメロディ(天空よりの使者)が流れてくる。

 

 霊夢   「(やけに凛々しい声)おのが邪欲を満たさんとする妖怪共よ! 闇を操り心をむしばむ者達を、博霊の巫女は決して許さない! 正義を願う人々の祈りの結晶が、我の力となるのだ! 人、それを『賽銭』という!」

 

 ぽかん、と口を空ける椛。頭にはハテナマーク。

 

 椛    「え? え? 全然意味わからん……」

 

 正邪は椛の頭をジャンプして叩いた後、霊夢のほうを見上げ、声を張り上げる。

 

 正邪   「だ、誰だ、お前は!」

 

 日輪がキラリと輝く。光が増し、霊夢の姿が見えてくる。

 

 霊夢   「お前たちに名乗る名前はない!」

 

 キュピーン、と手にしたお祓い棒が輝く。

 

 霊夢   「とああッ!」

 

 霊夢は飛び上がり、捻りを加えて一回転すると、正邪達の前に着地する。そしてお祓い棒を胸の前で横に構えてキメポーズ。

 

 霊夢   「闇あるところ光あり、悪あるところ正義あり。八百万の代弁者、博麗霊夢、参上!」

 椛    「(頭をさすりながら)え、さっき名乗らないって……」

 霊夢   「行くぞ! 博霊酎神拳奥義、空中天昇脚!」

 

 霊夢は素早く正邪に駆け寄ると、サマーソルトキックを放つ。正邪はスウェーバックして直撃を避ける。

 ヒットした瞬間、「博霊酎神拳 空中天昇脚」の文字がカットイン。

 避けた勢いでそのまま仰向けに地面に倒れこむ正邪。

 

 正邪   「ぐあああ! やーらーれーたー!」

 椛    「えっ、えっ?」

 正邪   「(地面に突っ伏して)ガクッ!」

 

 わざとらしく白目を剥く正邪。

 

 霊夢   「トドメだっ!」

 

 掛け声とともに霊夢は光る札を椛の後方に投げる。椛はキョトンとして、耳がピコピコ動く。

 霊夢は後方にジャンプすると、スッと消える。

 

 霊夢   「博霊酎神拳奥義、亜空点穴!」

 

 椛の後方、光る札の辺りから現れた霊夢が、ナナメ下方に向かって、流星のように強烈な飛び蹴りを放つ。

 

 椛    「わっ」

 

 が、椛はヒョイと避けてしまう。

 霊夢の蹴りは地面に当たる、衝撃で地面が少し抉れ、土が吹っ飛ぶ。

 

 霊夢   「(無言で椛を睨みつける)」

 椛    「(怯え、オドオドして)えっ? えっ?」

 

 正邪は地面に倒れたまま顔を手で押さえ、しかめっ面をする。

 

 正邪   「あのバカ……」

 

 霊夢は無言でお祓い棒を取り出すと、ギラリと目を光らせる。

 

 椛    「ひぃっ!」

 

 椛は怯えて、耳と尻尾がピンっと立つ。

 霊夢はお祓い棒を大きく振りかぶると、

 

 霊夢   「博霊スラッシュ!」

 

フルスイングで椛の尻にたたきつける!

 

 椛    「ぎゃん!」

 

 さらに霊夢は椛の尻を執拗に狙い、お祓い棒を三度、四度と叩きつける。

 

 霊夢   「博霊スラッシュ! 博霊スラッシュ!」

 椛    「痛いっ、霊夢さん、マジ痛いですって!」

 霊夢   「博霊スラッシュ! 博霊スラッシュ! 博霊スラァーッシュ!」

 椛    「痛い、痛いって! 参った、参りましたぁ!」

 

 椛は真っ赤になった尻をつきだして、地面に倒れ込む。

 霊夢は 大きく肩で息をする。倒れこんだ椛の尻尾を掴んでまくり上げ、あらわになった尻にもう一度博霊スラッシュを叩き込む。ぎゃん、と椛が呻く。

 

 霊夢   「成敗ッ!」

 

 霊夢は汗を拭い、髪をかきあげ、輝く汗をまき散らしながら、イイ顔で子どもたちの方に向く。

 

 霊夢   「さあ、寺子屋の子ども達っ! 悪しき妖怪は滅んだわっ! 正義は必ず勝ァつ!」

 

 お祓い棒を天にかざして勝どきをあげると、子ども達も大きく歓声をあげる。

 

 少年A  「すっげー!」

 少女A  「かっこいいー!」

 少女B  「巫女つえー!」

 

 霊夢に駆け寄って輪を作る子供達(+針妙丸)。たくさんの子供の憧れの視線を受ける霊夢はホクホク顔。

 

 霊夢   「あっと、いけない、決めゼリフ、決めゼリフ……」

 

 霊夢は腰に手を当て仁王立ちになる。

 

 霊夢   「さあみんな! 博麗神社は、君のお賽銭を待っている! (右手を突き出して)博麗神社で、僕と握手!」

 

 霊夢が決めポーズを取ると、ひときわ大きな歓声が上がる。子ども達のキラキラした顔。

 その奥に、小さく、青い人影が見えている。

 その人影は、ものすんごいジト目の慧音。微動だにせず、腕組みして立っている。

 

 慧音   「(ものすんごいジト目)」

 

<暗転>

 

 星が飛び散るエフェクト×3。それぞれ、クレヨンしんちゃんのゲンコツ音みたいな音が鳴る。

 

<人間の里 寺子屋前 朝 晴れ>

 

 コスモスの花が咲く、寺子屋の前の庭。色づく木々の枝に、スズメたちが止まている。

 

 慧音の声 「ばっっっかもーん!」

 

 慧音の大声に衝撃波が生まれ、木々がざわざわと震える。

 スズメたちが一斉に木々から飛び立つ。

 

<寺子屋 教室内 朝 晴れ>

 

 寺子屋の黒板の前で、目くじらを立てて仁王立ちする慧音。

 その前に、霊夢と椛と正邪(怪獣服のままだが、頭だけはずしている)と順に三人が正座している。三人の頭には大きなコブ。さらに尻尾の間から覗く(椛はまだハイレグ)椛の尻は、真っ赤に腫れあがっている。針妙丸は正邪の頭に乗っかり、たんこぶをペシペシ叩いている。正邪は俯いて、その顔は前髪で隠れていて、表情をうかがい知ることは出来ない。正邪と椛の首後ろには、もちろん御札が貼ってある。

 

 慧音   「何しとるんだ、お前たちはっ!」

 霊夢   「その……子供たちに、秋の交通安全啓蒙活動をば……」

 慧音   「たわけたことを言うなッ! 博霊の巫女がマッチポンプをやるとは、どういう了見だッ! こんなことやるのは、歴代巫女でもお前くらいだぞ、霊夢!」

 霊夢   「(両手の人差し指同士を突き合わせながら)……だってぇ、神社が壊れちゃったんだものぉ……」

 慧音   「だからって、こんなことやる言い訳になるかッ!」

 

 霊夢はシュンとなってしまう。それを見て、針妙丸は「うひゃひゃひゃ」と正邪の頭の上で笑い転げる。

 慧音はキッ、と椛のほうを睨みつける

 

 慧音   「お前たちもお前たちだ! 霊夢の口車に乗ってバカやって! もし魔理沙や守矢の巫女がいたら、一発で退治されていたところだぞ!」

 椛    「すみません、すみません……。どうしてもお金が必要で……」

 慧音   「中学生の万引きみたいな言い訳するなっ!」

 椛    「ひぃっ!」

 慧音   「大体お前、天狗だろ! 人里でこんなことやって、タダで済むと思っているのか!」

 椛    「すみません、すみません、通報だけはカンベンしてくださいぃ~」

 

 椛は俯きながらボトボト涙を落とす。

 

 慧音   「うっ……」

 

 慧音もさすがに、それを見てちょっと引く。慧音は慌てて、正邪のほうに向き直る。

 

 慧音   「そっちのお前、覚悟は出来てるんだろうな。指名手配を受けてるくせに大胆なやつだ、鬼人正邪」

 

 正邪はうなだれて、表情をうかがい知ることは出来ない。

 

 慧音   「私は妖怪に賞金を懸けて追い回すことに反対だが、お前がそういう態度なら、こちらも対策を取らざるを得ないぞ」

 

 正邪はうなだれたままだが、その口元がわずかに歪む。

 

 慧音   「……弁明もなしか。仕方がない、お前を八雲紫に引き渡す!」

 

 正邪は突然、ガッ、と慧音の足にすがりつく。針妙丸は振り落とされそうになって、正邪の首にすがりつく。

 

 正邪   「(涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で)ありがとうございますぅ、せんせぇ!」

 慧音   「え? あ、ありがとう?」

 正邪   「怖かった、怖かったですぅ!」

 

 いきなりの豹変に、慧音も椛も霊夢もドン引きする。

 

 正邪   「(霊夢のほうを指さして)あの巫女が、あの巫女が、力づくで無理やり……。人間を襲うなんて、そんな恐ろしいこと、私は嫌だって言ったのに~」

 

 慧音の太ももに顔を押し付けて「おーいおいおい」とわざとらしく号泣する。慧音のスカートが、涙と鼻水でベチャベチャになる。

 霊夢も椛もあっけにとられてしまう。

 

 霊夢   「うわー、一瞬で変わり身ったわ。あんだけノリノリでやってたのに」

 椛    「ゲ、ゲスい……。しかしあながち嘘でもないという……」

 

 霊夢は平手で椛の尻を思い切り引っ叩き、スパァンとイイ音がする。ぎゃん、と椛が呻く。

 正邪は潤んだ目で慧音を睦める。

 

 正邪   「せんせぇ、聖職者のせんせぇなら、霊夢みたいにヒドいこと、しないよね……?」

 慧音   「え? あ、う、うん。そ、そうだな」

 正邪   「さすがです、せんせぇ! 一生付いて行きまぁす!」

 

 正邪の頭の上で針妙丸が立ち上がり、透明な液体の入った小瓶(目薬)を抱えて慧音のほうに示す。

 

 針妙丸  「騙されちゃダメよ、先生! こんなの、嘘泣きなんだからっ! こいつは今までだってさんざん……わっ!」

 

 言いかけたところで、正邪の右腕が針妙丸をつかみ、ビタン、と畳に叩きつける。

 畳に押し付けられた針妙丸はバタバタともがくが、針妙丸の口を正邪の人差し指が塞いでいて、もがもがといううめき声が出るだけである。

 正邪は左手を慧音の太ももの裏にすべらせ、するすると蛇のように慧音の足に絡みつく。

 

 正邪   「頼りになるっス、先生……かっこいいですぅ……。」

 

 ぞわわ、と慧音の全身に鳥肌が立つ。

 慌てて慧音は足を振り、正邪を振りほどく。

 

 慧音   「や、やめろ! 私にそのケはないぞ!」

 正邪   「(横座りで、親指の爪を噛んで)あん、いけずぅ」

 

 背景に電撃が走る。ガラスの仮面みたいな顔になる椛と霊夢。

 

 椛    「そ、そこまでするか。鬼人正邪……、恐ろしい子! さすが、あの八雲紫を倒しただけはある!」

 霊夢   「いや、そこで引き合いに出される紫が可愛そうだわ」

 

 正邪は慧音ににじり寄る。慧音は必死にそれを避けようとバタバタともがく。

 

 慧音   「分かった、分かったからこっち来るな! やめろ、あっち行け! お、オレのそばに近寄るなァーッ!」

 

<妖怪の山 滝の裏 昼>

 

 さわさわと水の音がする。

 川べりに立てられた迷彩柄のテントから、腰まではだけたツナギに黒いタンクトップ姿のにとりが、湯気の立つ金属製カップを片手に、もそもそと這い出してくる。大きく伸びをするにとり。

 

 にとり  「んーっ、もみちゃんもいないし、そろそろアジトに戻ろっかなぁ」

 

 ふと、テントの端に丸めた新聞紙の束が挟まっているのを見つけ、それを手に取る。

 

 にとり  「およ、こんなところにまで配達か。天狗連中もマメなこった」

 

 広げて見てみると、「今日の風祝」「早苗の恋愛相談室」「神奈子の酒」「ミジャグジ様の声」といった紙面が目につく。

 湯気の立つブラックコーヒーに口をつけながら、つぶやくにとり。

 

 にとり  「まぁた守矢一色かい。営業してるなー」

 

 さらに新聞をめくると、ん、とにとりが止まる。

 モノクロ写真で、正邪が黒いボロ布を纏ってこそこそと道路端を歩いている写真。その上に大きく見出し『指名手配犯の鬼人正邪、人里に現る!』。

 

 にとり  「鬼人正邪、人里に現る……か。」

 

 にとりはまたコーヒーをひとすすりする。

 

 はたて  「(スッ、と後ろから顔を出して)あんたんとこにもそれ、来たんだ。」

 にとり  「(口からコーヒーを吐き出す)ブゥーッ!」

 

 にとりは咳き込んで、さらにカップの中身を右足にこぼしてしまう。

 熱さに、持っていた新聞紙束とカップを放り出すにとり。

 

 にとり  「(右足を抱えて転げまわる)ギャアアー!」

 はたて  「なにやってんの、アンタ」

 

 呆れ顔のはたて。

 にとりは右足を川にひたして、ふう、と一息つく。涙目ではたてのほうを見る。

 

 にとり  「これはこれは、烏天狗のはたて殿じゃないですか。しがない河童めに、なにか御用で? 取材ですか?」

 はたて  「(新聞束を拾いつつ)まぁた、そんな他人行儀。 そんな気を使わなくたっていわよ。そんなタマじゃないくせに。」

 にとり  「はいはい。敬語の苦手なはたてさん。」

 

 はたては、にとりの手にしていた新聞紙を眺めると、「やっぱりね」とつぶやく。

 

 にとり  「なんかあったの?」

 はたて  「……取材、ってのは、間違ってないわ」

 にとり  「はぁ?」

 はたて  「さっきの話」

 

 はたては携帯電話型カメラを取り出すと、カチカチと操作をする。

 

 はたて  「いまさら、って感じじゃない? 鬼人正邪の話なんてさ。」

 にとり  「ああ、まあ、ねぇ」

 はたて  「なんかおかしいのよ。今更こんなネタ、誰も興味ないのに。一定数の新聞、正邪の話題が続いている。しかもそれを広めようとしているフシがあるのよ。」

 

 にとりはツナギの片側を腿あたりまで脱いで、真っ赤になった太ももに、ツナギのポケットから取り出した軟膏を塗りこむ。むにゅむにゅとゆれる、にとりの赤い太もも。黒色の下着が露わになっても、にとりもはたても、気にした風はない。

 

 にとり  「(軟膏を塗りこみながら)と、言うと?」

 はたて  「河童のアジトならいざしらず、こんなキャンプにまで、わざわざ新聞配達してるじゃない。」

 にとり  「なるほど。確かに。でも記事の内容なら、射命丸さんの新聞だって、相変わらずだぁれも興味のない人里の話を書いているみたいだけど」

 はたて  「あいつのは、いいのよ。なんか理由でもあるんでしょ。文って頑固だし。でも、これは違うわ」

 にとり  「そうかなぁ? まあ、確かに不思議だよねぇ」

 

 はたてはカチカチと携帯を操作する指を止めて、つぶやくように言う。

 

 はたて  「……ないのよ、記者名が。新聞に。」

 にとり  「(手を止めて)え?」

 はたて  「鬼人正邪のことを書いた新聞には、決まって記者名が書かれていないのよ。」

 にとり  「自己顕示欲の塊みたいな、烏天狗の、それも新聞記者が? それは変だな」

 はたて  「そういうの。記者として、血が騒ぐじゃない。」

 

 はたてが親指を強く押しこむと、パシャリ、と音がしてフラッシュが焚かれる。

 

 はたて  「誰が書いているのか気になって、念写してみても。ほら、この通り。」

 

 はたてが示した携帯電話の画面には、真っ黒な写真が映るのみ。

 にとりはそれを見ると、目つきが鋭くなる。

 

 はたて  「出処すらわからない新聞なんて、おかしいわ。自分が書いたって吹聴しないで、新聞なんて書いても、意味ないじゃない」

 

 にとりは黙って立ち上がると、ツナギの袖に腕を通す。そして、ツナギのジッパーをジジジ、と閉めたあと、帽子を目深に被りなおす。

 帽子の下から覗く眼光は、鋭い。

 

 にとり  「(はたてとは別の方向へ視線を向けながら)……解析してやろうか?」

 はたて  「え?」

 にとり  「その写真さ。画面は確かに真っ暗だが、その闇の中に、何か映っているかもしれないだろう。手がかりが見つかるかもよ。その代わり、そのカメラはしばらく預かるが。」

 はたて  「えー、カメラを?」

 にとり  「はたての念写に映らないってことは、逆に『アタリ』ってことだ。誰かが妨害している。私の作ったカメラが、仕損じるわけはないだろう。」

 

 はたてはにとりのほうに向き直ると、にやりと笑って携帯電話を放り投げた。

 にとりはそれを見もしないで、片手でキャッチする。

 

 はたて  「技術者の意地、ってわけ?」

 にとり  「それもあるが……、気に入らないじゃないか。この河城にとり様を利用しようとする奴なんざ、さ。それも、こんなセコいやり方で。」

 はたて  「なによ、カッコイイじゃない」

 

 にとりはテントに頭を突っ込むと、少しの間、何やらゴソゴソとやる。テントがゆらゆら揺れる。

 すぐに出てきたにとりは、手に持った小さなカメラをはたてに手渡す。そのカメラは、正邪の「天狗のトイカメラ」と瓜二つ。

 

 にとり  「もってけ。予備のトイカメラだけど、少し写真取るには十分さ。オートフォーカス、自動巻き上げ機能付きだぞ」

 はたて  「(ニンマリ)あら、やけにサービスいいじゃない」

 にとり  「(眼光鋭く)……椛が鬼人正邪を追って、人里に降りている。話を聞くといい。」

 はたて  「(驚いた顔)犬走椛が? そんな記事、見てないわよ」

 にとり  「だからさ。気をつけろ。相手は白狼天狗を動かせるってことさ。……下手をすれば、天狗社会をも敵に回すことになりかねないぞ」

 はたて  「いいじゃない。何かこそこそ企んでいる奴がいるなら、一面記事にスッパ抜いてやるわ。ペンは剣よりも強し。写真付きの新聞なら、たとえ相手が八雲紫でも倒せるわよ」

 

 ふわり、とはたては宙に浮かぶ。格子模様のスカートとツインテールがひらひらと揺れる。

 

 にとり  「わたしはアジトに戻って解析をするが。」

 はたて  「オッケー。 じゃ、行ってくるわ!」

 

 はたてはくるりと向きなおると、川下のほう、人間の里へと飛び去ってゆく。

 と、にょきっと伸びたにとりの腕が、ガシッとはたての足を掴む。バランスを失ったはたては失速して、ビターン! と地面にたたきつけられる。

 鼻血をだらりと流すはたて。にとりのほうに向いて叫ぶ。

 

 はたて  「いったぁーい! 何すんのよ!」

 にとり  「ちょいとちょいと、はたてさん。行く前に、何か忘れちゃいませんかい。」

 はたて  「はぁ?」

 にとり  「(指で丸を作って)何って、金だよ、カ・ネ! わたしは先払いじゃないと動かないよ。先立つものはカネと親ってよく言うだろ」

 はたて  「ちょっとぉ~、サービスじゃないのぉ~?」

 

 はたてが不満そうに言うと、にとりは顔に濃い陰を作って、見下すように言う。

 

 にとり  「当たり前だろ? こちとら遊びじゃねえんだよ」

 

<人間の里 寺子屋前 昼 晴れ>

 

 教壇の前、心なしか、少しやつれた慧音の顔。服が少しはだけている。

 相変わらず並んで正座している三人。正邪の頭上には針妙丸。

 

 慧音   「な、なるほど。つまり神社の復興のための資金を集めている、とな。」

 正邪   「(手を上げて)はいっ、そうでーす! せんせぇー!」

 

 けいおんみたいな絵柄になって、ペカー、と後光を発する正邪。針妙丸も一緒になってペカーする。それを霊夢も椛も、胡散臭そうに見ている。

 

 慧音   「人里には仕事を探しにやってきた、と。」

 霊夢   「そうなのよ。そんで、(あごで正邪と椛を指す)こいつらが使えないから、仕方なくヒーローショーで人集めを、ね」

 

 シュン、と落ち込む椛。

 

 慧音   「しかし、倒壊した博麗神社で、賽銭なんて入れられないだろう」

 霊夢   「大丈夫よ、必要最低限は復旧したから」

 

<博麗神社 昼 晴れ>

 

 倒壊した博麗神社。散らばる材木の前に、ポツリと賽銭箱が置いてある。

 その横に立て看板「博霊神社」と、賽銭箱を指す大きな矢印。

 

<人間の里 寺子屋前 昼 晴れ>

 

 正邪がもう慧音に迫らんばかりに、手を上げて身を乗り出す。(針妙丸も正邪の動きに合わせて一緒に手をあげる)慧音は無表情で、スッ、と一歩ずれる。

 

 正邪   「はいはい、せんせぇー、しっつもーん!」

 慧音   「(正邪のほうは見ないで、無表情で棒読み)はいっ、正邪君」

 正邪   「たとえばぁー、この寺子屋でぇー、せんせぇといっしょに働くことって出来たりしますかー?」

 

 霊夢はお祓い棒を掴んで「……異変か?」とつぶやく。

 

 慧音   「はっはっはっ。なるほど。確かに、寺子屋はいつも人手不足だしな。助手は多いに越したことはない。それにここなら、お前たちの監視も出来て一石二鳥だな」

 正邪   「そうそう、そうですぅ」

 慧音   「(壁のようなカオで)だが断る」

 

 ドベッ、と正邪と針妙丸がすっ転ぶ。

 慧音は腕組みして言う。

 

 慧音   「残念だが、お前たちは妖怪だ。子供に近づけるわけにはいかない。」

 霊夢   「(つぶやく)いやあたし人間……」

 慧音   「(無視)悪いが、これは私だけの意思じゃあない。ここには人間の子供が通っている。子供の両親はお前たちを歓迎しはしないだろう。理屈じゃない。情けないが、感情論なんだ。承知してくれと言う他無い。」

 正邪   「そんなぁ……、残念ですぅ……。」

 

 俯く正邪。一瞬、ニヤリとほくそ笑む。

 

 慧音   「その代わり、別の仕事を斡旋してやろう。夜雀のミスティアが妖怪向けの屋台をやっているんだが、最近、人手が足りんとぼやいていた。お前たち、行ってやるといい。」

 

 <人間の里 町外れ 夕刻 晴れ>

 

 人里の外れで民家は少ない。

 霊夢、正邪、椛の三人が、雑草の生い茂る道を歩き、森のほうへと向かっている。正邪と椛はいつもの服に戻っていて、霊夢の頭の上には針妙丸が乗っかっている。ただし、椛の剣は無い。

 そばに流れる川に反射する夕日がキラリと輝く。

 正邪は頭の後ろに手を回して、気だるそうに歩く。

 

 正邪   「ケッ、あの教師、偉そうに。何時間もしつっこく説教かましやがって、何様だってんだ。里の守り神気取りかよ。今度あったら、ギッタギタにしてやる」

 椛    「いきなり態度を変えるな。まだ先生、見てるぞ」

 

 椛は振り返る。

 遠くに慧音の仁王立ちする姿が見えている。慧音の脇には、人里の入り口を示すように、二対の松明が置かれている。

 

 正邪   「知るか、ここまで来りゃこっちのモンだ」

 椛    「お前……。ある意味すごいよ、ホント」

 

 頭を抱える椛。

 

 霊夢   「ミスティアんとこねぇ……。あのバカ鳥、カネ持ってんのかしら。」

 

 霊夢は両手で持ったお祓い棒を首の後ろに回して、やはり気だるそうに歩く。

 

 針妙丸  「(ニコニコしながら)次は小鳥さんに会えるのね~」

 霊夢   「小鳥っていうか、大鳥?」

 針妙丸  「私、一回、鳥さんに乗って空を飛んでみたかったんだ~」

 霊夢   「そんなもん、文あたりにでも頼めば……」

 

 言葉を切り、急に鋭い目つきになって彼方の森を見やる霊夢。

 森は夕日で赤く染まり、風でさわさわと揺れるのみ。

 

 針妙丸  「文さんはいっつも忙しそうに飛び回ってるから、頼み辛いのよぅ」

 

 霊夢はすぐに元のしまりのない顔にもどる。

 

 霊夢   「ていうか、あんた飛べるじゃないのよ。飛べよ。」

 

 <人間の里 町外れ 夕刻 晴れ>

 

 仁王立ちしている慧音。周囲の木々が風でざわざわと揺れ、すこし不安げな表情になる。

 

 妹紅   「慧音!」

 

 上空から、妹紅がふわりと舞い降りて来る。風を受けた銀髪がなめらかにふくらんで、夕日を反射してキラキラと美しく輝く。

 

 慧音   「(からかうように)なんだ、天使かと思ったぞ、妹紅か。あれ? ならやっぱり天使じゃないか」

 妹紅   「何バカなこと言ってるんだ」

 

 妹紅の真剣な声に、慧音は眉を潜める。

 妹紅は辛そうな顔をしている。

 察した慧音は表情を固くして、聞く。

 

 慧音   「何か、あったのか。」

 妹紅   「(顔を背け、うなずき)……神隠し、だ」

 慧音   「今度は、誰だ」

 妹紅   「(苦しげに)……また子供だよ。」

 慧音   「まさか……!」

 妹紅   「そうだよ、お前の教え子だ」

 

 慧音は俯いて、拳を握りしめ、ワナワナと震える。

 

 妹紅   「あいつらが、やったんじゃないのか」

 

 遠目に見える、正邪達四人を見る。のんきそうに歩いている。

 慧音は俯いたまま首を振る。

 

 慧音   「……それはない。霊夢は博霊の巫女の役割を果たしていたよ。」

 妹紅   「本当に霊夢は頼りになるのか」

 慧音   「ああ……。今日だって、子供達を守ってくれていた」

 

――モノクロフラッシュバック

 

<寺子屋前>

 

 霊夢が椛に博霊スラッシュを決めている光景。

 その裏。

 寺子屋の入り口の引き戸には、博霊の赤い札が張られている。

 

<寺子屋内>

 

 正邪が慧音の太ももにまとわりついている光景。

 その裏。

 寺子屋の教室の廊下の壁には、大量の博霊の赤い札が張られている。

 

――フラッシュバック終了

 

 妹紅はゆっくりと首を振る。銀髪がさらさらと舞う。

 

 妹紅   「しかし、現に霊夢は連続する神隠しを防げていない。」

 慧音   「それは私たちも同じだろう。」

 

 慧音は俯いたまま、小刻みに震える。

 

 妹紅   「……慧音。あまり自分を責めるな。お前のせいじゃない。あるはずがない」

 慧音   「しかし、私に、力があれば……!」

 

 慧音は何かをこらえるように大きく深呼吸すると、妹紅に向き直る。

 その顔は決然としていて、動揺の陰はない。

 

 慧音   「とにかく、夜警を増やすしかない。すまんが手伝ってくれ、妹紅」

 妹紅   「当然だ」

 

 妹紅はコクリと頷くと、入り口近くの松明に自身の手を押し当てる。

 松明はいきなり勢い良く燃え出す。

 赤々も燃える、ゆらめく松明の炎。

 

 <人里のはずれの森 夕刻 晴れ>

 

 灯籠の燃える炎。

 灯籠は山道に沿って等間隔に設置されており、その先に、「やつめうなぎ」と達筆で書かれた提灯が灯る、牽引式の屋台がある。

 夕焼けに空が染まっているので、辺り一面、暖かな赤色で満たされている。その中で、屋台からはひときわ明るく、ひときわ楽しげな光が漏れている。

 割烹着姿のミスティアが、のれんをかき分けて出てくる。カラコロと下駄の音。

 

 ミスティア「あら? あんたたち……」

 

 ミスティアは歩く正邪、椛、霊夢(とその上の針妙丸)の姿を認めると、怯えて声をあげる。

 

 ミスティア「ゲェッ、霊夢!」

 霊夢   「会うなり失礼ねぇ」

 ミスティア「な、何の用よっ! 今月分のショバ代は払ったでしょっ!」

 

 正邪と椛は霊夢のほうを無言で見やる。霊夢は顔を背けている。

 

 椛    「そんなことやってたのか」

 正邪   「完全にスジモンの所業じゃねーか。私にどうこう言えるアレなんか、お前」

 

 あきれ果てて空虚な顔になる正邪と椛。

 

 霊夢   「……博霊スラッシュ!」

 

 霊夢はお祓い棒をフルスイングして、正邪と椛の尻を叩く。「ぎゃん!」と二人して尻を押さえる。ぴんっ、と背筋が伸びる二人。

 屋台から出てきて、ミスティアはその様子を呆れ顔で見ている。

 霊夢はお祓い棒を肩に担ぎ直し、ミスティアのほうに顔を向ける。

 

 霊夢   「今日はその話じゃないのよ。あんたが困ってるって慧音から聞いて来たのよ。なんでも、人手が足りないらしいじゃない」

 ミスティア「ああ、なによ、バイト希望者ってわけ。そりゃ助かるけど……しかし」

 

 ミスティアは霊夢を指さしてギャハハ、と品なく笑う。

 

 ミスティア「博霊の巫女が妖怪の店でバイトってわけ! ショバ代とってくるくせに、こりゃ傑作だわ!」

 

 腹を抱えて笑うミスティア。

 笑顔の霊夢は阿修羅閃空のように、青い残像を残しながら、素早く舐めるように動いて、ミスティアの正面に移動。その頭に右手でアイアンクローを決める。

 針妙丸は霊夢の元いた場所の空中で置き去りになっていて、わけも分からずキョロキョロと左右を見たあと、尻から地面に落ちる。

 

 針妙丸  「きゃあ!」

 ミスティア「いだだだだ!」

 

 ミスティアは顔を掴まれてバタバタともがく。

 

 霊夢   「(笑顔で)いやいや、働くのは私じゃないのよ。(左手で指差し)あっちの二人。」

 正邪   「えっ、なんだ、お前はやんないのかよ」

 霊夢   「真っ当な人間は、日が暮れたら、お家帰って寝るもんなのよ。」

 椛    「真っ当……」

 

 霊夢は正邪達の方を見やる。

 正邪と椛は、心なしか少し距離をとっているように見える。針妙丸は、打ちどころが悪かったのか、腰を押さえて悶えている。

 

 霊夢   「なによ、その妙な距離感は」

 

 霊夢はミスティアを掴む右手を上に引き上げ、ミスティアは宙に釣られる形になる。

 

 ミスティア「いだだだだだ、ヤバイヤバイ、マジヤバイ! もげる、顔もげるって!」

 霊夢   「あんたたちもサボったらこうなるのよ」

 

 霊夢はにっこりと笑う。

 ミスティアは大きくびくんと跳ねると、だらりと腕を垂らし脱力する。

 霊夢が右手を離すと、白目を向いて泡を吹いたミスティアが、地面に崩れ落ちる。

 

 正邪   「(小声で)マジで人間かアレ……」

 

 正邪も椛も青ざめ、逃げ腰になっている。

 

 霊夢   「さあ、さっさと支度して来なさいな、アンタたち」

 正邪&椛 「(ビシっと敬礼して)サ、サー、イエッサー!」

 霊夢   「一円でも多く稼いでくるのよ!」

 正邪&椛 「サー、イエッサー!」

 霊夢   「私がアンタたちの分まで、食っちゃ寝しておいてあげるからねっ!」

 正邪&椛 「サー、イエッサー!」

 

 正邪と椛は力の限りそう叫ぶと、倒れたミスティアを二人して引きずって、ダッシュで屋台の陰へと消える。

 腰をさすりつつ、ようやく立ち上がった針妙丸。

 

 針妙丸  「あ、ま、待ってよ~!」

 

 正邪と椛がいなくなったのを見て、屋台の方へ駆けてゆく。

 その背に。

 

 霊夢   「針妙丸」

 

 振り返る針妙丸。そこには、夕焼け空を背負った霊夢の背がある。

 

 針妙丸  「なあに、霊夢?」

 霊夢   「……やつらのこと、頼むわ。」

 針妙丸  「あれっ、霊夢は行かないの?」

 霊夢   「ええ。少し……別の用があってね。しっかり見張っておくのよ」

 針妙丸  「(胸を叩いて)いいわ、任せて! 正邪のやつが悪さしようとしたら、この輝針剣でつっついてやるんだから!」

 

 針妙丸は光り輝く縫い針を取り出して、得意気に掲げる。そして満面の笑み。

 霊夢は背を向けたまま。

 

 霊夢   「違う」

 針妙丸  「へっ?」

 

 肩越しに振り返る霊夢。その顔には、先程まで浮かんでいた暢気さ、陽気さ、ある種の弛緩が消えて、刃のように鋭い目をしている。

 

 霊夢   「見張るのは、天狗のほうよ。」

 

 夕焼け空に雲が流れていく。その速度は速い。ざわざわと、木々が風に揺られる音がする。

 

 針妙丸  「え……」

 

 針妙丸は眉を顰め、握りしめた輝針剣を胸のほうに引き寄せ、体をこわばらせる。

 

 霊夢   「何かあったら、御札を破りなさい。いいわね?」

 針妙丸  「う、うん……。行ってくるわっ!」

 

 輝針剣を握りしめたまま、とてとてと駆け出す針妙丸。

 だが二、三歩進んだところで、不安げに後ろを振り返る。

 霊夢の華奢な背は何も語らない。

 針妙丸は輝針剣を背に差すと、再び駆け出す。

 

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