正邪 the Paraselene   作:チャーシューメン

4 / 4

 陰陽玉はモンスターボールより少し小さいくらいのイメージ。

以下、この章の登場人物紹介です。

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○登場人物
 鬼人正邪    天邪鬼。背丈はやや低。顔色悪いのは化粧。
 犬走椛     白狼天狗。背は高い。真面目で寡黙。無類の不器用。犬耳あり。
 少名針妙丸   小人族の姫。背丈は現在、三十cm前後。笑い上戸。輝針剣を背に差す。
 ミスティア   夜雀。おかみすちー。割烹着。背丈は低だが下駄を履いてやや低程度。
 赤蛮奇     飛頭蛮。ぼっち。ジト目、口隠し。中背。
 四季映姫    地獄の裁判長。背は高くてスレンダー。酒乱。
 小野塚小町   死神。ボインちゃん。江戸っ子。背は高い。
 姫海棠はたて  天狗の記者。ミニスカ。中背。いかなる相手にもタメ口。
 藤原妹紅    蓬莱人。もんぺ。ボロを纏うが仕草は雅。
 十六夜咲夜   紅魔館のメイド。レミリア命。鼻血。中背。

 黒天狗たち   天狗金属製の烏の面をつけ、黒い忍者装束を羽織っている。体は大きくて、明らかに男性だと分かる感じ。

 その他モブ東方キャラは大体心綺楼ベースな感じのデザインで。
 描写がないかぎり、公式と同じデザインの服を着ている想定。
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「4」「人の話を聞きなさい」

 

<ミスティアの屋台 屋台の中 朝 晴れ >

 

 はたて   「でー? 妖怪の山の怖~い白狼天狗様が、な~んで夜雀の使いっぱなんてやってるワケぇ?」

 

 小さなビデオカメラ(きゅうりマークの刻印付き)を構えるはたて。めっさジト目。

 椛は割烹着姿で箒を持っている。しかし、その顔にはモザイク。声にはボイスチェンジャが入って甲高くなっている。

 左上には赤いRECの文字。

 

 椛     「(甲高い声)だからそれは、麓の巫女に捕まって」

 

 バシャバシャとカメラのフラッシュが焚かれる。

 

 椛     「(甲高い声)って、ちょっと! カメラはダメです、絶対だめーっ!」

 はたて   「だいじょぶだいじょぶ、モザイク入れとくから」

 椛     「(甲高い声)モザイク入りでも無理無理、ダメだってェー!」

 はたて   「だいじょぶだいじょぶ、名前も伏せとくから。い(ピー音)ぬばしりもみじさんカッコ匿名希望カッコ閉じにしとくから」

 椛     「(甲高い声)全然大丈夫じゃねぇー! なんでかぐや消しなんだよ! 大体匿名希望っつってんのに、しっかり名乗ってんじゃねーか!」

 

 

<森の中 朝 晴れ>

 

 白刃が煌めき、振り下ろされる。その下で人影が揺れる。

 

 正邪の声  「くっ!」

 

 ばらり。

 切り裂かれた黒い髪、宙に舞う。

 

 

<ミスティアの屋台 屋台の中 朝 晴れ >

 

 モザイク修正椛。左上にはRECの赤文字。

 

 椛     「(甲高い声)ちょっ、もう、やめてくださいったら!」

 

 正面側へしっしっ、と手を振ってはたてを遠ざける椛。

 

 はたて   「それで? 一緒にいた幻想郷のお尋ね者さんは、何処に行ったのよ?」

 椛     「(甲高い声)あんな奴、知りせませんよ!」

 

<森の中 朝 晴れ>

 

 白刃の影が横向きに走る。

 ビュン! 風を斬る音。

 

 正邪    「(声のみ)うあっ!」

 

 赤い血飛沫が、少し飛び散り、藪にかかる。

 

 

<ミスティアの屋台 屋台の中 朝 晴れ >

 

 椛のモザイク顔がアップになる。

 左上赤REC、画面下にはテロップ「鬼人正邪の友人 犬走も◯みじさん 住所不定無職」

 

 椛     「(甲高い声)ええ、もう、いつかやると思ってたんですよぉ。卒業生達の間でもぉ、乱暴者で有名でぇ」

 はたて   「ふむふむ」

 椛     「(甲高い声)って、何やらせんですか! 何が卒業生ですか、何を卒業したってんだよ! それになんだこのテロップ、住所不定無職って! 私はちゃんと働いてます!」

 はたて   「まあまあ、遊び心よ」

 椛     「(甲高い声)こう言うのは邪心って言うんです!」

 はたて   「意外とツッコミがくどいなぁ、犬走椛さんてば」

 椛     「(甲高い声)ピー音入れろー!」

 はたて   「それでもみちゃん、正邪のことなんだけど」

 椛     「(甲高い声)人の話聞いてますぅ?」

 

 

<森の中 朝 晴れ>

 

 ガラン。

 刀が落ちる。

 それに飛び付くようにして、刀を拾う正邪。

 飛びかかってきた天狗Aを立ち上がりざまのなで切りで斬り捨てる。パっと飛ぶ血しぶき。

 その隙に背後に天狗Bが回り込む。

 刀を一閃させた天狗B。

 逆手の正邪が、それを刀で受ける。

 ぐぐぐ、っと押し込まれるが、蹴りを出して弾き飛ばす。

 刀で周囲を薙ぎ払い、威嚇する正邪。

 天狗たちは怯み、半歩距離を取る。

 背負った赤ん坊が泣き出す。

 

 正邪    「(心配そうな声色)ガキが……」

 

 ちら、と背を見て言う。その顔は険しく、焦りが浮かぶ。

 

 

<ミスティアの屋台 屋台の中 朝 晴れ >

 

 相変わらず録画中。テロップ「住所不定無職」も出っ放し。

 

 はたて   「大体さあ、あんた、こんなとこで油売ってて良いわけ?」

 椛     「(甲高い声)うっ」

 はたて   「夜雀の使いっぱやってる時点で、あんたなんか住所不定無職で十分じゃない」

 椛     「(甲高い声)ううっ……」

 

 しっぽを垂らしてうなだれる椛。

 

 はたて   「……はぁ」

 

 はたてはカメラを降ろして、壊れた屋台のほうを見やる。

 ミスティアはうつろな目をして、ドナドナを歌いながら焼け焦げた屋台のかけらを拾っている。

 その向こう側では、浮かない顔で切り株に腰掛けている赤蛮奇と、うろうろとその場で行ったり来たりしている針妙丸がいる。

 

 はたて   「(片手を挙げて近づく)はぁ~い、そこのお二人さん」

 

 赤蛮奇が顔をあげる。

 

 赤蛮奇   「あんたはたしか、天狗の新聞記者の」

 はたて   「姫海棠はたてよ、ヨロシクね。(懐から新聞を出す)あ、私の新聞、一部いかが?」

 

 赤蛮奇は力なく首を振る。

 

 はたて   「ちょぉ~っとお伺いしたいんだけど、あなた達、鬼人正邪と一緒に行動してたんでしょ?」

 赤蛮奇   「(迷惑そうに)まあ、そう言われればそうたけど」

 はたて   「私、あいつの取材してるのよね~。密着取材ってヤツ? あいつが何処行ったか、教えて欲しいんだけど」

 

 針妙丸がピタリと止まる。

 はたてを見上げる目は曇っている。

 

 針妙丸   「正邪は……」

 

 言いかけて、口をつぐんでしまう。

 

 赤蛮奇   「(言葉を継いで)あいつなら、逃げちまったよ。閻魔がいたからね」

 はたて   「えっ? 映姫さまが?」

 赤蛮奇   「閻魔の方はお付きの死神と一緒に、もうどっか行っちゃったけど」

 

 あわてて文花帖を取り出すはたて。

 

 はたて   「(ペンを走らせながら)それで、正邪の方は何処に?」

 

 

<森の中 朝 晴れ>

 

 上段から斬りかかる天狗B。

 正邪は避けようと身構えるが、その動きがはたと止まる。

 倒れた天狗Aが正邪の足を掴んでいる。

 慌ててその腕を刀を振って切り落とす。

 が、その隙に振られた天狗Bの刃を避けきれない。

 

 正邪    「ぐあっ!」

 

 後ろに尻もちをついてしまう。服が袈裟斬りに裂けるが、倒れこんでいたので傷は浅い。少し血が滲む程度。

 裂けた服の隙間から、丸い物体がコロリと転がり落ち、正邪の脇に止まる。

 血に飢えた陰陽玉。

 その表面には、正邪の血が付着している。

 尻もちをついたまま見上げた正邪の目に、天狗Bが高々と振り上げた刀が朝の太陽光を反射し、ギラリと光るのが映る。

 振り下ろされる刀。

 刀でそれを受ける正邪。

 火花が飛び散る。

 

 正邪    「ぬああああ!」

 

 正邪の気合の叫びも虚しく、徐々に押し込まれてゆく。

 残った天狗たちも刀を構えて正邪を取り囲む。

 赤ん坊の泣き声が最高潮に高くなる。

 その時、転がり落ちた陰陽玉が、付着した正邪の血をじゅるじゅると音を立てて吸収し、虹色の光を発し始める。

 虹色の光は渦を巻き、ぐるぐると帯状の光が吹き出してゆく。

 鍔迫り合いを続ける正邪の眼前に、天狗Bを遮るように虹色の光が吹き出す。

 

 正邪    「(目を見開いて驚く)なんだ?」

 

 驚いて刀を引き、周りを見回す天狗B。他の天狗達もざわめく。

 虹色の光はグルグルと回転しながらやがて幾つかの球状に収束。正邪の周りを回転し始める。

 ブウゥゥンと、霊夢のボム音が、全ての音を掻き消すように木霊する。

 

 正邪    「(正邪の声だけ鮮明に響く)これは、あの巫女の……夢想封印?」

 

 回転する夢想封印が天狗達をなぎ倒す。

 正面からまともに当たったブチ当たった天狗Bは、黒い影になって掻き消えるように消滅する。

 それを認めた残りの天狗たちは恐れおののき、背を見せて逃げ出す。

 それを呆然と見ていた正邪。

 はっ、と気付いて辺りを見回す。

 視線を落とし、光の帯が陰陽玉(血の跡は消えている)から流れ出ていることに気付き、手を伸ばしてそれを掴む。

 途端、夢想封印の輝きが消え去る。

 

 正邪    「この陰陽玉にこんな力があったとは……。お前の泣き声に反応したのかな」

 

 背負った赤ん坊を見やる正邪。

 赤ん坊は泣き止み、キャッキャッと笑っている。

 

 正邪    「(穏やかな顔で)助かったよ。ありがとう」

 

 

<人間の里 寺子屋の庭園 昼 晴れ>

 

 かこん、と鹿威しの音。

 朝の日差しを浴びた、こじんまりとした庭園。

 板張りの縁側に座り、大きな鎌を抱えた小町が欠伸している。

 

 小町    「まったく、ウチのボスは本当、融通が効かないんだから」

 

 その後ろ、障子の対面する二つの影が写っている。

 

 

<人間の里 寺子屋内部 昼 晴れ>

 

 座布団の上に正座した慧音が、険しい顔で口を開く。

 

 慧音    「どうしても、駄目ですか」

 

 対面、同じく座布団の上に正座した映姫。

 昨晩の醜態が嘘のように、姿勢を正したキリリとした姿。

 しかし、その顔は苦痛に耐えるように曇っている。

 

 映姫    「我々、彼岸の裁判官は、顕界への干渉を行うことはできません」

 慧音    「ですが」

 映姫    「我々は顕界の人々の罪を裁く。人々にその行いの結果の報いを与えるのが我々の役割なのです。行いそのものを咎めることは出来ない。世の理から逃れようとした者でも現れない限り、現世不干渉が我々の一貫した方針です。神隠しは、人と妖怪との通常の在り方だと認識しています」

 慧音    「しかし、最近のそれは、過剰でありすぎるのではないですか」

 

 映姫は首を振る。

 

 映姫    「昔に比べれば、これでも少ないほうです。若い貴女は知らないかもしれませんが」

 慧音    「人間が減れば、この幻想郷だって……」

 映姫    「分かって、慧音。こればかりはどうしても出来ないのです……」

 

 悲痛な映姫の表情を見て、慧音はうなだれる。

 対面する二人。それぞれに影を落としている。外は明るい光に満ち溢れているのに、室内は暗い。

 かこん、と鹿威しが鳴る。

 

 

<人間の里 寺子屋の庭園 昼 晴れ>

 

 

 庭園の縁側に腰掛ける小町。うつらうつらと船を漕いでいる。

 すっと差し出される湯のみ。

 小町が目を開けると、妹紅が立って湯のみを差し出している。

 

 小町    「おやおや。あんたはあの、蓬莱人の。なんだい、彼岸に行きたいって直談判しにきたのかい?」

 妹紅    「泣きつきゃ連れてってくれんのか?」

 小町    「ま、あんたは無理さね」

 

 小町の隣にストンと座る妹紅。行儀悪く足を組む。

 

 妹紅    「交渉は決裂か?」

 小町    「ふん、さすが、人間の癖に長生きしてるだけはあるじゃないか。お見通しかい」

 妹紅    「なんでお前らは、顕界に手を出さないんだ」

 

 もらった茶に一口、口をつける小町。

 空を見上げながら。

 

 小町    「彼岸の裁判官ってのは、何よりも中立でなくちゃならないもんなんだよ。正義からも、悪からも、罪からも、業からも。閻魔にとっちゃ一つの裁判でも、相手にとっちゃ、下手すらりゃ無限地獄に送られる、怖~い裁判だからね。犯罪人に同情なんてしたら、公平な裁判が出来ないだろう? 裁く方も命がけよ。あの人達はそういう気概でもって、事に当たってるのさ」

 妹紅    「そうか。閻魔も大変だな……」

 小町    「ま、ウチのボスにはそんなセンチメンタルな感情は無いがね」

 妹紅    「そんなに怖いのか、四季映姫は。そうは見えないが」

 小町    「ここに居るのは、あの人のほんの一部分。それも可愛い部分さね。本当のあの人を見たら、あんた、びびってちびっちまうよ」

 妹紅    「そうかい。それなら、彼岸に行けない蓬莱人でよかったな」

 

 二人であっはっはと笑う。

 背後の障子の戸ががらりと開く。

 中から映姫と慧音が現れる。

 振り向く妹紅と小町。

 

 映姫    「小町、何を居眠りして……あれ、してない」

 小町    「(頭を掻いて苦笑い)嫌だな映姫さま、私だって仕事するときはしますよぉ」

 妹紅    「終わったのか、慧音」

 慧音    「ああ……。映姫さまをお送りする、お前も来てくれよ、妹紅」

 

 妹紅は頷く。

 

 

<上空 昼 晴れ>

 

 大きく羽ばたく黒い翼。

 トイカメラを胸に飛ぶはたて。

 

 はたて   「鬼人正邪が赤ん坊を抱えているとはね……。なら、物資調達に人里に行くはずだわ」

 

 ドギュゥウン。

 サイヤ人みたいなスピードで飛んで行く。

 

 

<森の中 昼 晴れ>

 

 切り株に腰掛けてうなだれる赤蛮奇。

 その前を行ったり来たりしている針妙丸。

 二人を尻目に、椛はしゃがみこんでドナドナを歌うミスティアに紙袋を差し出す。

 

 椛     「ごめん、これ……お詫び。こんなんじゃ、ぜんぜん足りないのはわかってるけど……」

 

 そして深々と頭を下げる椛。

 呆然としながら紙袋を受け取ったミスティア。

 中を覗き込むと、中に入っていたのは、きゅうり。

 

 ミスティア 「うふ。うふ。うふふふふふふ」

 椛     「(恐る恐る顔を上げて)女将さん?」

 

 むんず、と頭を下げる椛の首根っこを捕まえるミスティア。

 目が座っていて、そのこめかみには青筋が立っている。

 

 ミスティア 「灰は灰に、塵は塵に、目には目を、歯には歯を。そして罪には裁きを」

 椛     「お、女将さん?」

 ミスティア 「どうして気づかなかったんでしょ? 折角映姫さまがいらっしゃってるんだもの、裁判しましょ、さ・い・ば・ん」

 椛     「ちょ、ちょっと?」

 ミスティア 「待ってたって、誰も解決してくれないわ。自分で行動しないと」

 

 針妙丸がピタリと足を止める。

 

 ミスティア 「さささ、四季様のところへレッツゴー!」

 椛     「ちょ、誰か、助けてぇ!」

 

 そのままの姿勢で、ずるずると引っ張られて行く椛。

 

 針妙丸   「そうか、そうだよね……」

 

 ひらりと飛び上がり、赤蛮奇の頭に乗っかる針妙丸。

 びっくりして目を白黒させる赤蛮奇。

 

 赤蛮奇   「ななな、なによぅ」

 針妙丸   「さぁ、私達も、わんこちゃんと一緒に人間の里に行くわよゥ!」

 赤蛮奇   「どうしたの、急に」

 針妙丸   「自分で動かなきゃ、何も解決しないものねッ!」

 

 呆れ顔の赤蛮奇。

 

 赤蛮奇   「(ボソリと)えーじゃあ、自分で歩けばぁ……?」

 針妙丸   「しゅっぱつしんこー!」

 

 赤蛮奇の髪をぐいぐい引っ張る。

 

 赤蛮奇   「いてて、イタイって! 行くから、やめてよぉ!」

 

 

<人間の里 昼 晴れ>

 

 人間の里入り口。

 火のともらない松明が道の両脇に設置されている。

 辺りには三筋の黒い跡と、爆発でめくれ上がった地面の跡が。

 黒い衣(赤ん坊を背負っているので膨らんでいる)に笠を被った正邪、道の端を歩きながらそれを見て、口笛をヒュウと吹く。

 

 正邪    「なんかあったのか?」

 

 入り口から少し歩き、目貫通りの入り口、道の幅が広くなる部分に差し掛かる。

 目抜き通りは人の往来が激しい。

 入りかけて、慌てて後戻りする正邪。

 

 正邪    「っと、昨日の今日だし、さすがにこれじゃまずいな」

 

 庄屋の物陰に入ると、瓶がある。

 フタをとってみると、中身は水。

 正邪はそれで顔をごしごしと洗う。

 ボロ布の袖で顔を拭くと、見違えるほど健康的な少女の顔になる。

 懐から出した布でホッカムリをして角を隠し、その上からさらに笠を被る。

 

 正邪    「(帽子の位置を調整して)これでよし」

 

 表通りに出て、そのまま目貫通りを歩く。

 キョロキョロと辺りを見回す正邪。

 

 正邪    「ミルクと清潔な布が欲しいけど……つっても金が無いしなあ」

 

 揺れる視界。

 道行く人々。着物を羽織った女性、人力車を引く男性、豆腐売りのおばちゃん、八百屋の看板娘、煙草をふかす老人。

 視界の端に明らかに違和感のある服、メイド服を着た後ろ姿が映る。

 視界の中心にその女性を捉える正邪。買い物カゴから、長財布が飛び出している。

 

 正邪    「派手な服だな、金持ってそう。よし、あいつにすっか」

 

 パチンと指を鳴らして、早足でズンズン歩いて女に近寄る。

 追い抜きざま、カゴから素早く長財布をすり、衣の袖に隠す。

 笠の下でほくそ笑む正邪、そのまま早足で歩いてゆく。

 途端、だれかの胸とぶつかる。

 

 正邪    「あいてッ! 何処に目ェつけてんだ、このウスノロ!」

 

 よく見ると、相手の服はメイド服、特徴的なスカート。

 

 正邪    「ん? あれっ?」

 

 振り返って見ても、先ほどのメイド服の女はいない。

 混乱して首をひねる正邪。

 

 咲夜    「まったく、油断も隙もあったものではないですわね」

 

 咲夜の手には、正邪がすったはずの長財布が。

 あわてて自分の右手を見ると、何も持っていない。

 

 正邪    「な、え、あ! お、お前はあんときの、ナイフ使い!」

 咲夜    「あら? 何処かでお会いしたことがあったかしら?」

 

 踵を返して逃げたそうとするも、振り返った先には既に咲夜が。

 

 正邪    「おわっ!」

 

 びっくりして立ち止まる隙に、咲夜に腕を掴まれる。

 

 咲夜    「駄目よ、逃げちゃ。悪いことしたら償わないと。さ、町役場にでも行きましょ」

 正邪    「く、くそっ!」

 

 突然、周囲がざわめき始める。

 辺りを見回すと、道の向こうから映姫、慧音、小町と妹紅が歩いてくる。

 

 正邪    「ゲエッ! 閻魔!」

 

 村人たちもうろたえる。

 

 村人A   「閻魔さまだ」

 村人B   「それに上白沢先生もいるぞ」

 村人A   「やっべぇ、あの二人に捕まったら日暮れまで説教されるぞ!」

 村人B   「くわばらくわばら」

 

 潮が引くように人々は建物の中に隠れ、目抜き通りから人が消える。

 必死に逃れようとする正邪を、すまし顔で押さえる咲夜。

 

 咲夜    「あらあら、四季様がいらっしゃってるのね。丁度いいじゃない、ちょっと説教でもしてもらいなさいな」

 正邪    「ざっけんな! 誰が!」

 

 ゴネる正邪を無視して、咲夜は正邪を引きずって映姫達の方へ歩いてゆく。

 映姫に声をかけようと咲夜が右手を上げると、映姫の前に飛び出す影が。

 椛の首根っこを捕まえたミスティアと、お辞儀したまんまの椛。

 驚きで目を丸くする映姫達四人。

 

 ミスティア 「四季様ッ! 是非ともお裁きを加えていただきたいものがおります!」

 椛     「いだだだ、イタイって! いい加減離してよ!」

 

 乱暴に掴んだ手を離すミスティア。

 バランスを崩した椛は倒れる。

 

 映姫    「あら、貴女達は、昨晩の。いかがいたしました?」

 ミスティア 「こいつがアタシの屋台を壊したんですゥ! 爆破したんですゥ! テロを仕掛けてきたんですゥ~ッ!」

 椛     「(這いつくばったまま泣いて)わざとじゃないんですぅ、事故なんですぅ!」

 映姫    「それはなんとまあ……。その事実を証言する証人などはいますか?」

 ミスティア 「はいッ! あいつらと」

 

 後ろに立つ赤蛮奇+針妙丸を指差す。

 

 ミスティア 「(小町の乳を差す)あとそこの乳袋ですッ!」

 小町    「(顔を真赤にして)誰が乳袋だい!」

 映姫    「あら小町、貴女も目撃していたのですか」

 小町    「っていうか映姫様も見てましたけど……」

 映姫    「(首を傾げる)はい?」

 

 キョロキョロ辺りを見回していた針妙丸が、正邪と咲夜を見つける。

 正邪、しまったという顔をする。

 

 針妙丸   「あーっ!」

 正邪    「(口に指を当てて)しーっ、しーっ!」

 針妙丸   「正邪だー!」

 

 全員、一斉に正邪達の方へ向く。

 

 慧音    「正邪? あいつ、またか……」

 

 咲夜は手を挙げて、正邪を引きずりつつ映姫達のほうに近寄る。

 

 咲夜    「四季様。ここにも貴女の裁きを必要としている罪人がおりましてよー」

 正邪    「放せ、バカッ!」

 咲夜    「この者、盗みを働きましてよ。懲らしめてやってくださいな」

 

 ツカツカと近寄る慧音。

 

 慧音    「お前は、せっかく人が働き口を紹介してやったと言うのに……」

 正邪    「(そっぽを向いて)そんなん知るか」

 慧音    「人と話すときは、ちゃんと目を見て話せ」

 

 正邪の笠をはぎ取って、その顎を掴んで顔をあわせる慧音。

 途端、驚いた声をあげる。

 

 慧音    「お前、まさか……さぐめ、さぐめか?」

 

 それを聞いた妹紅も目をむく。

 正邪はポカン。

 

 正邪    「はぁ? 誰だそりゃ?」

 妹紅    「神隠しの被害者の……」

 正邪    「知るかバカ!」

 

 慧音はボロボロと涙を流す。

 

 慧音    「生きて……生きていてくれたんだな……よかった、本当に……」

 正邪    「いや、違うから。誰だよさぐめって」

 

 正邪を抱きしめる慧音。

 正邪は困惑する。

 

 正邪    「いや、人の話聞けよ!」

 

 あっけに取られた周囲が見守る中、慧音は正邪を抱きしめ、慟哭する。

 

 

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