仕事帰りに拾ったおねえさんはクソザコメンタル悪魔祓い 作:善い思考
背後に現れた謎の人物×2に、俺の視線は釘付けになった。かけられた言葉は耳を通り抜け、相槌を打つことすら忘れていた。
なぜなら彼らの──主にデカい方のビジュアルが、己の常識からかけ離れた、あまりにおかしなものだったからだ。
全身が闇に溶け込む、フード付きの黒いマント。RPGの魔法使いや占い師の格好に近い。
背は巨人と言って差し支えないほど高く、170と少しある俺が正面に立っても、かなり見上げないと顔が見えない。頭ひとつ分、いや、二つ分はありそうだ。
そして最も異彩を放つのは、その顔。正確に言うと、顔を覆うソレ──おそらく仮面が、なにより異様だった。
感情が一切読めない漆黒のマスク。目の部分はのっぺりとしており、顔面の骨格を象ったようなデザインはドクロをイメージさせる。
その姿は、そう、例えるなら……
『めちゃくちゃガタイの良いダ〇スベ〇ダー』だ。
「あ、あなた方は……?」
俺と同じく驚いているマヤさんが、恐る恐る問いかける。
「そんなの聞かなくても分かるでしょ。お前たちと同じ悪魔祓い!」
見たところ小学生ぐらいだろうか。茶髪セミロングの少女が圧強めな口調で答えた。こちらの格好は普通のドレス、おそらくロリータファッションというやつだ。
……冷静に考えると、あまり普通じゃないかもしれない。横にいる方が凄すぎて霞む。
「あくまばらい……?」
「あ、もしかして違う呼び方する派? そっちはなんて呼んでんの?」
「え、えっと……?」
「なに、そんなのも答えらんないの? 秘密主義者なの?」
「ちょっと分かんないです……」
少女はわざとらしく大きなため息をついた。
「お前さっきからオドオドしてばっか。もっとシャキッとして! ハッキリしなよ!」
「ひっ、ご、ごめんなさいぃ……」
「ごめんなさいじゃ分かんないよー! さっさと──うぎゅ」
それまで黙っていた横の人物が、少女の頭を上から押さえつけた。
「コラ、そんな言い方することないだろう。お嬢さんが怖がっている」
マスクの奥から聞こえてきた声は低く、紳士的な雰囲気を感じさせる渋い声だった。
「う、だぁってぇー……」
「驚かせて申し訳ない。わたくし、こういう者でして」
大男は目の前まで近づいてきたかと思うと、姿勢を低くし、両手で何かを差し出した。
「え?」
反射的に目をやる。
端を指で挟み、差し出されたそれは、長方形の小さな紙──どこからどう見ても、何の変哲もない名刺だった。
「……あ、はい。ありがとうございます」
社会人魂が刺激された俺は、咄嗟に胸ポケットから黒の名刺入れを取り出し、会社で作成した名刺を1枚差し出す。
「おおっ、これはこれはご丁寧にありがとうございます」
「頂戴します」と一言添え、互いに名刺を受け取る。
「ソブちゃんに名刺渡されてちゃんと返す人初めて見た……社会人ってスゲー(?)」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
マヤさんも大男から名刺を受け取る。
名刺には、流麗なフォントで『上級悪魔祓い ソンブラ=フラロウス』と書かれていた。
すごい名前だな……と名刺を見つめていると、大男はマントをばさりと翻し、恭しく一礼した。
「改めてご挨拶を。この娘と共に悪魔祓いをしております、ソンブラと申します。以後お見知りおきを」
ソンブラと名乗る大男は、少女の背中を優しく押す。
「ほら、アサヒも自己紹介」
「わかってる!」
そんな彼へ反発するかのように、少女は不機嫌そうな声で返事をした。
「わたし、
視線を逸らしてむくれる様は、とても年相応の少女らしい。彼女の年齢は知らないが。
「瀬多有也です。こちらは──」
「あ、えと、マヤです。よろしくお願いします」
「あの、さっき言ってた悪魔祓いってなんですか? この名刺にも書いてますけど……」
「え!? お前らそんなことも知らないのぉ!?」
「コラ、やめなさい」
「いやだって! そんなんも知らないで悪魔とやり合ってたとか、絶対おかしいでしょ!」
「む……それはそうだが」
ソンブラさんもそれには同意見だったのか、軽く首を傾げた。
「もしや、アプリを利用していないのでは?」
「そんなことあるぅ? あんなのどうやっても見逃さないでしょ」
「失礼。こちらの画面に見覚えは?」
ズイっと急接近してきたソンブラさんが、懐からスマホを取り出して液晶をこちらに向ける。画面には、全体的に暗めなレイアウトの中に『悪魔出没情報一覧』と書かれていた。
「いえ、見たことないです。マヤさんは?」
「ん……ない、ですね」
横から画面を覗き込むマヤさんの眉が、困ったように寄る。
「やはりそうですか」
「えーうそぉ……」
「こちらは『祓魔特定事象対策管理システム』というアプリ。私たちが活動するにあたって、必要不可欠なものです」
「めっちゃ長くて言いづらいから、私たちは『祓魔システム』って呼んでる」
「このアプリに日夜更新される祓魔依頼を請け負うことで、現世に蔓延る悪魔と戦う者たち……それが、我々『悪魔祓い』なのです」
俺は彼らの信じ難い話をどうにか理解しようと努める。
二人は悪魔祓いという活動者で、そのアプリで何かをどうこうアレコレして、悪魔とかいう存在と戦う……と。
なら、なにより気になることがひとつある。
「あの……すみません、多分変な質問だとは思うんですけど、悪魔ってなんですか?」
「はァ!? そこからぁ!!?」
「……なるほど。たしかにシステムを知らなければ、悪魔自体知らないのも至極当然、か」
もちろん悪魔という言葉は分かるが、彼らが言っているのは世間一般的な意味ではなく、何か特定の存在を指すワードなんだろう。
そして彼らの驚きようから、知らないとかなり驚かれる単語だということも分かる。
「貴方がたが先ほど会敵し打ち倒したもの、あれこそ、我々が悪魔と呼ぶ存在です」
「さっきのが悪魔?」
先ほど倒した怪物は頭が三つある蛇だった。俺の中にある悪魔のイメージとは随分かけ離れている。
「マヤさんも……名前知らないんでしたよね」
「初めて知りました……」
「えー……名前も知らないで戦ってたのぉ……?」
この引かれよう、俺たちは無免許で鳥獣を狩猟してたようなものなんだろうか。たしかにそれは不味い。
「ていうか、もしかして今まで戦ったの全部、悪魔だったのか?」
「随分と戦い慣れているとは思っていましたが……やはり、これまでにも何体もの悪魔を祓ってこられたのですね」
ソンブラさんがそう言うと、マヤさんが唐突に狼狽え始めた。
「え、み、見てたんですか?」
「ええ。不躾かとも思ったのですが……こっそりと拝見しておりました。しかし、実に華麗な舞でしたな。一切の狂いなく的確に刃を振るい、悪魔の首を狩るあの体捌き……いやはや、惚れ惚れします」
「はずかしい……」
怒涛の賞賛を受け止めきれなかったのだろう。マヤさんは真っ赤になった顔を両手で覆った。
「恥ずかしがることなどありませんよ。胸を張るべきことかと」
「うぅ…………ひゃぁっ!?」
どこかから、パシン! と高い音が弾け、マヤさんが突然悲鳴じみた声をあげた。
何事かと見れば、朝陽がマヤさんの太ももをはたいたようだった。
「ア、アサヒ! 何をしてる!」
「いいから! さっさと本題入ってソブちゃん! さっきから関係ないことばっか話してる!」
ごもっともだと納得したのか、ソンブラさんは一度咳払いをしてから再び語り始める。
「とどのつまり、我々は悪魔祓いとして、こちらのアプリを用いて日々悪魔と戦っているのです」
「活動場所は特に決まってない。今日お前らを見つけたのもたまたま」
「今日お二方に声をかけたのは、他でもない。私たちの目的を果たすため、是非とも貴方がたの力をお貸しいただきたいのです」
「……目的っていうのは?」
漆黒のマスクがわずかに俯き、ソンブラさんの表情に影をつくる。
「朝陽にかけられた、悪魔の呪いを解くことです」