「で、どっちがアリスだ?」
槍を振り回すアジア系の女と金髪に銀髪の混じる柳葉刀使いの女。
まぁ、どちらがアリスでも関係ない。
動けなくして無理やり尋問でもして聞き出せばいいだけだ。
だが、世の中そう上手くは事は進まない。
こういう時に限って邪魔者が乱入するのである。
もしも後、数歩足を進めていたら大惨事だっただろう。乱入者の不意打ちを食らっていただろう。壁を粉砕するほどの威力だ。受身を取れなければ行動に支障が出ていただろう。
運がいいと言うのか悪いと言うのか……
しかし、この状況での乱入――撤収するつもりか? それとも、打開の為の加勢?
「アリス、撤収命令だ! 負傷者は既に回収済み。後はお前と俺だけだ」
「任務失敗……やってくれるな。イエローモンキーもチャイニーズも」
忌々しげにそう呟くと刃を収める。
恐らく、逃げるつもりなのだろう。ここから先は追撃――
ナイフを取り出すといつでも飛び込めるように身を屈める。巨体からは隙が見えないが、槍使いが動けば確実に私は視界から消える筈だ。
そして、思ったとおり、チャンスがやってくる。
「α、殿はお前に任せる。俺達はまだこんな所で死ぬなんて許されない」
「イエス・マム。先に逝かせて頂きます」
「逃げられると思っているのか?」
まぁ、当然だろう。
槍使いも相当な腕のようだ。そう簡単には狙った獲物を逃がすまい。
彼女の前では巨体などただの大きな的……そう思っていた。
目で追えない速度で放たれた突きは気が付けば、巨体に迫っていた。
だが、その槍は男を貫けない。
まるで、鋼に受け止められているかのように分厚い筋肉の壁で食い止められる。
その様子に女も眉を顰めた。何か、違和感を覚えたのだろうか?
まぁ、それが何かなど俺にはどうでもいい、興味もない。
男は槍使いに抑えられている。
この状況でならアリスまで素通り、一対一に持ち込める筈だ。そうなってしまえば、こっちのもの。そう考え、男の横をすり抜けようとするがそう簡単には通してくれないようだ。
その巨体に似合わぬすばやさで槍を振りほどくと、腕を力任せに振るってくる。
ただ、腕を振るっただけ。その筈なのだが巨大ゆえに範囲が広い。
避けるのは無理だ。距離と速度を考えれば、変な受け方をして足を痛めてしまう。
ならば、ここは全力で受けるのが得策――
そう考え、足でその腕を受けるが完全に失策だった。
足に激痛が走る。人体にありえない重さだ。まるで、全身が金属のような……
そこでようやく先程の槍が通らなかった理由に気が付いた。
そう言うことか……さっきの槍が貫けなかったのは全身の皮膚の下に金属――金属骨格を仕込んでいたからか。どんだけ、非人道的な行為を繰り返しているんだよ。
そんな事をしたら、拒絶反応で死ぬかもしれないんだぞ。
大手術なんてものじゃない。もはや改造だ。人道なんて笑って踏み躙る程の。
力を得る為になら何でもするってか……。
なるほど、こりゃこっちも本気でいかなければ、潰されるな。
「ほう、受け止めるか。俺を足一つでか――だが、もう限界じゃないのか?」
舌打ちする。
確かに先程の攻撃を受けたことにより、右足を傷めた。だが、まだ戦えないわけじゃない。ただ、行動力が少し落ちてしまっただけだ。牙は抜け落ちていない。
「黙れよ。俺はアリスに用があるんだ。テメェなんざ眼中にねぇんだよ。そこをどきやがれ」
「小僧が。聞こえなかったのか? 俺はここから先は通さんと言った筈なんだが」
「だそうだ。お前もあの小娘が狙いなんだろう? ここは共闘といかないか――フローレア」
本名。
今使っている偽名とは違う方を知っていると言うことはこっちについても調査済みということか。だが、願っても見ない提案だ。
こんな鉄屑に長々と押さえられる訳にはいかない。この計画の中心にいる奴が誰なのかを聞きだし、潰さなければならないからだ。
「乗った。さっさと片を付けて奴を追うぞ」
「なるほど、アリスのオリジナル――いや、甥か。なら、余計ここで刈り取らねばならんな! アリスと同等、それ以上の戦闘能力を秘めるならば我々の計画の邪魔になる」
計画――
こいつ以外にもいると言う訳か。つまり、こいつに負けるようならばその先はない。
何を企んでいるのか知った事ではないが、立ちはだかると言うのならば潰すだけだ。
「姓は項、名は籍、字が羽。いざ、尋常に勝負だ」
「なんと、イ・ウーの覇王か。懸念材料が同時に揃うとはなんと好機。どちらかを潰すだけで計画を前倒し出来るというものだ」
なんだ、この三つ巴的展開……。
てっきり、また藍幇かと思ったら予想以上に複雑な関係と言うわけか。
いや、まて……こいつら一体、何をするつもりなんだ?
アリスの件を考えれば、俺を狙う理由は俺の身体を流れる血だろう。脈々と品種改良された暗殺者としての遺伝子が目的の筈だ。この流れから言えば、アリスは不完全。
まぁ、母親の遺伝子自体が元々の品種改良で生まれたイレギュラーである以上、それは仕方ないと言う訳か。ちょっと待て、ならこいつらはいつから存在している?
「項羽って言ったな。こいつには聞きたいことがある。殺さず捕らえるぞ」
「捕らえるか。また、無茶な要求をしてくれる」
だが、言葉と違い、その課題が満更でもないのか笑みを浮かべている。
項羽も考えているのだろう。こいつらが一体、何者であるか。これまでどの国家も行おうとしなかったイ・ウーへ喧嘩を売るような真似をするのか。
アリスを捕らえられれば御の字だが、まずは情報。それ以外は頭から消した方が良い。
この巨体を潰さない限り、追えないのだから――
「話し合いは済んだか? なら、こちらから行かせて貰うぞ!」
そう叫ぶと、右足を傷めている事を気付かれたのかこちらへ突進してくる。
もう受けるわけにもいかない。咄嗟に懐からアンカーガンを取り出すと、それを二階の手すりに発射、一気に巻き上げる。
間一髪といった所か……掠る事もなく、二階へと逃げ延びるが奴のスピードをどうにかしなければ話にならない。
それに、あの巨体。あの重量であのスピードは明らかにおかしい。
何かの薬物による強化か? だとすれば、どう攻める。
この状況で土台を……そう考えたとき、シャンデリアが目に飛び込んでくる。
「そっちは任せた!」
流石に息が合うか分からないが今はかけるしかない。
Mk23では火力不足。UMPを奪っておいて正解だった。銃口を構え、狙いを定めるとタイミングを計り始めた。
(なるほど、シャンデリアで押し潰して機動力を殺ぐか)
どの程度の強度を誇っているのかは分からないが、確かに悪くない。
刃が通らない以上、他の手を考えるしかないからだ。今の私では奴を貫くことは難しい。それを考えれば、奴の策に乗るしかない。
アイツに出て来られたら、全てを破壊し尽くすまで止まらないのだから……。
「良いのか? 最初から押し付けられたな」
「そのようだな……だが、貴様程度私一人で十分と言うだけの話だ」
何度も槍で受けられるような攻撃ではない。
重い一撃は確実にこちらの腕を痺れさせている。受けるものとかわすものを見極め、瞬時に判断を下す。全てを受けていたら、確実に負けるだろう。
「どうした、噂ではもっと化物という話だったがまるで小娘ではないか」
「その小娘の首すら容易く取る事が叶わんのはどこのどいつだ?」
バトラの呪いか。
忌々しいが、技術があってもそれを用いるだけの身体能力がない。まぁ、お陰でこの枷から解き放たれた時、自分が更なる高みに上れると確信できているのだが……やはり、この手の硬い相手は技量だけではどうにもならない。
力を奮い、真正面から挑むだけだったが今後は魔剣のように罠を張ることも覚えた方が良いかもしれない。
壁は高ければ高いほど燃えるというものだ。
身体に力が入る。呪いの効果が薄まっているのか? 分からないが都合が良い。
後ろへと跳ぶと槍を構えなおした。
息と整え、目を閉じる。確かに、一撃一撃は弱いかもしれない。だが、塵も積もれば山となる。小さなダメージでも蓄積すれば、鉄を砕く事も可能なはずだ。
男の拳を身体を逸らしてかわす。
それと同時に、何百もの突きを男へと叩き込む。全て、同じ場所。首だ。
だが、まだ足りないらしい。血を流させる事は叶わなかった。私の手では……。
「そのてい!!」
銃声が響き渡る。
その音に上を見上げるがもう遅い。落下してくるシャンデリアから逃れることは不可能だ。辺りには埃が舞い上がり、視界を覆い尽くす。
落下直前に防御体勢に入ったところを見ると仕留めるまでには至らなかっただろう。
だが、これで無敵ではないことは証明された。
威力の高い攻撃なら通る。十分に――
「やってくれたな! 小娘度もが!」
シャンデリアを持ち上げるとそれを二階にいる私へと投げ飛ばす。
だが、これまでのような速さはない。
私は二階から飛び降り、一階へと移動するとMk23を取り出した。
「仕留めきるまでには至りませんでしたか……」
血が流れている。赤い血か……。
同じ人間と言うわけだ。なら、身体全てが金属で覆われている訳ではない。内部までダメージが通せばいい。それならば、得意分野だ。
そう考えると、引き鉄を引いた。
「無駄だ。そんな弾丸では俺は止まらんぞ!」
「それはどうかな? 一発一発は弱くても数撃てば通るだろう?」
通らないか。言ってくれる。
あのサイコパス用に用意していたが、まぁここで使うのも悪くない。
男は突進してくる。だが、動かない。真正面に立ち、引き鉄を引いた。
「あばよ」
その言葉を言い放つと同時に辺りは閃光に包まれる。
だが、目を潰した所で止まらない。勢いは死なない。
「黙って見てろ! 項羽」
間に入ろうとする項羽を制する。
仕上げは俺一人で十分。そろそろ、タイムリミットだ。
闇雲に走ってくるバカならば目をつぶっていても、投げられる。
巨体が宙を舞う。
支えにする右足に激痛が走るが、歯を食い縛る。
そして、そのまま床に叩き付けると即座に口の中へとMk23を入れる。
「口内からなら通るだろう?」
辺りに血はまき散らなかった。
弾丸が脳を貫くも、金属骨格を突き破る事が出来なかったのだろう。だが、脳を潰されれば終わったも同然。アリスを逃がしたことを考えれば、勝利はしたものの、勝負は負けたといったところだろうか?
終わったと同時にその場に座り込む。
「何故、殺した? 捕らえるのではなかったのか?」
「そんな余裕はないからだ。公安が来る。その前に決着を付けたかったからな」
乱戦になれば逃げられる可能性もあった。
こちらの情報を敵に渡すということだけは避けなければならない。
今後、恐らく舞台に上ってくるならそれなりの脅威となる筈だ。目的は分からないが、イ・ウーと敵対出来るまでに強大な組織力と隠蔽工作を行える政治力、財力を誇るとすれば危険だ。それに、殿を務めた時点で外部からの――
「公安か……予想より早いな」
そう呟くと同時に遺体が爆散する。
予想通りか。外部の人間によって、証拠が残らぬように隠滅。
遺体の回収と言い、何から何まで用意周到という訳だ。これじゃ、次の機会までは何一つとして情報は手に入らない。
してやられた。
「さっさと行け。公安が来ますよ?」
「いいのか? 私を行かせても」
「この足じゃ、貴方を足止めは出来ないので――私、出来ないことは無理にはしない主義でして……こんな所でくたばるわけには行きませんし」
逃がしたのは減点だろうが仕方ない。
まだ死ぬ訳にはいかないのだ。ここはまだ、自分の命というカードを切る場ではない。
「なるほど。次もまた味方で会いたいものだ。首輪が断ち切られたときにだが」
そう告げると、颯爽とその場を後にする。
それから少しして、公安は到着。結局、現場処理で終わり、あの男は不機嫌。
俺は俺で右足の治療を終えた後、寮へと送り届けられ、初めて寮の部屋で眠る事となる。
まだ、朝は早い。誰も起きていない。これではコソ泥のようだが、仕方がないだろう。
眠る前にシャワーを浴びる。息が荒い。
分かっている。もっと、上手くやっていればアリスを逃がさずに済んだ。
「くそ……次は潰す。絶対にだ」
拳を振り上げるが、その怒りを叩きつけるものはない。
床に座り込み、ただシャワーを浴びると大きなため息を吐くのだった。
「αは死亡。ですが、本気ではないとは言え、項羽の足止めには成功しました」
「なるほど。間に合いそうか?」
「はい。アリスに関しても調整は順調です。彼らが動くより先にこちらが動けるかと」
「よし、それならばいい。これ以上、奴らが好き勝手暴れるのは我慢ならんからな」
「はい。化物がその力で暴れまわるなど、言語道断。彼らは世界から消されるべきです」
手元にあるのは今回、邪魔された三名。
公安0課課長、フィアナ・シュトレーゼ、項羽。この三名の内、どれかが欠けていたのならば、今回の作戦は成功していただろう。
まぁ、まだ戦争が始まった訳ではない。引き鉄には手をかけられているが、まだ銃弾は発射されていないのだ。イロガネなどという脅威は全て破壊する。
力に酔いしれた化物どもを皆殺しにする。
化物どもが自らの力に酔いしれ、暴れるなど俺が許さん。
「その為の我々ですから」
「期待しているぞ。我々が秩序を作るためにな」
今回の中核にいた存在は再び、闇へと影を潜めることとなる。
まるで、機会を窺うかのように……
『そうか。ご苦労だったね』
「面目ない。何の申し開きもありません。これから、藍幇に乗り込み直接、依頼人が誰だったのかを聞き出そうかと……そうすれば、奴らに関しての情報が手に入る筈です」
『いや、それには及ばない。恐らく、情報は何も残っていないだろう。君にはそっちに残ってもらえないかな? 公安の一件が少し気になる。調べて貰えないかな?』
「了解しました。教授」
公安に関しての情報収集か。
この手の調査は私よりも理子や魔剣向きの仕事だ。奴らが動けない以上は仕方ない――。 しかし、あれだけの戦力を持っている奴らは一体なんだったのか。
αと呼ばれた男にしてもそうだが、練度が足らなかった。だが、一定の練度を積めば脅威になる。それだけの人間を確保出来るとすれば、脅威なんてものではない。
早めに刈り取っておくべきだ。それに、こちらに関しても熟知していた。
「ロスアラモス・エリートも利用されていたと踏むべきか……αはどう考えても人工天才という理念で作られたとは考えにくかった。むしろ、どちらかと言えば兵器――」
恐らく、仕掛けてくるとすればまだ先。
目的は分からないが、また相対する事となるだろう。
その時は全力で相手をするまでの話だ。それに、面白い奴とも出会えた。奴と試合えば私の中の空虚も満たされるかもしれない。
気が付くと、自分の唇を軽く嘗め回していた。
「キンちゃん、なんで女性を連れ込んでるのかな?かな?」
「いや、しらねぇよ! 本当にマジで信じてくれ!」
「信じたいよ。信じたいけど、現にここで眠ってるのはどう言い訳するの――そっか、寝てるうちに泥棒猫を消しちゃえば……」
「おい! ちょっと、待て」
周りが煩い。こっちは昨晩の戦いで疲れてるんだ。
右足だって骨折はしていないものの、傷めているには変わりない。出来ることなら、静かに休みたいのだ。
「何の騒ぎ……って、遠山さんでしたか。そう言えば、挨拶まだでしたね。少し前から、同室となったフィアナ・シュトレーゼです。よろしく」
そう言えば、寮を利用したのは初めてであり、同居人といいながら一度も会ったことない。それは驚くのも無理はないか。
まぁ、今から挨拶をすればいい。
しかし、頭が回らない。昨日の戦闘の疲れか、まだ頭がボーっとしているのだ。
「後でいいですか? 疲れてるんで、もう少し休みたいんです。そうだ。学校には今日は休むと伝えといてください」
「伝えてくださいって……」
「通信科の女子寮に空きがなかったのでこちらに回されたんです。文句があるなら、学校側にお願いします。私に言われても困りますから……それじゃ、おやすみなさい」
「はぁ……分かったよ。その足の様子だと二、三日は安静にしてないとダメそうだもんな。用事があればいってくれ。少しは力になるからさ」
足か……大げさに包帯を巻かれた上に石灰で固定されているが、別に折れてはいない。
ただ、こうでもしないとまた暴れるからと言う理由だ。課長からの命令もあり、あの男もこの足が治るまでは無茶な命令はしてこない。
これで遠山キンジの監視と言う楽な任務……楽な……
「学校!」
「あぁ、だけどもうバスないぞ? その足じゃ登校は難しいだろ。俺は自転車で行くが……」
「後ろ乗せて頂く出来ませんか?」
監視対象に不用意に接触は不味いのだが、瀬に腹は変えられない。
監視する任務を放棄したと言われれば、どうなるかわからないからだ。
「き、キンちゃん……」
後ろの黒髪の様子だと無理そうだ。
どうする。どうするよ俺――――思案を巡らせていると、電話が鳴り始める。
知らない電話だ。誰だ? 一体……
『おはよう。よく寝られたかしら? 返事は良いから、用件だけ伝える。タクシー回したから、使いなさい。その足では学校いけないでしょう』
それだけ告げられると電話は切れる。
一方的なのは相変わらずか……。
「タクシーが来るそうです、先に言って構いませんよ。貴方たちまで遅れる必要はないでしょう?」
「なら、下まで手を貸そうか?」
「その必要はないです。後ろの人が怖いですから」
手を借りるなど背後の般若が暴れだしそうで出来る筈がない。
そうして、先に遠山キンジと女子生徒を送り出すと制服を着替る。銃を確認。弾薬も装填済みだ。ナイフも全て隠してある。
「お待たせしました。手を貸しましょうか?」
「あぁ、頼むってアンタかよ」
タクシーと聞いて、民間の会社に依頼したのかと思えば、来たのは彩峰。
まぁ、彩峰の手を借りつつ車に乗り込むと、何事もなかったかのように東京武偵高校へと向かうのだった。
次回辺り、戦姉妹を付けようと考えてます
まぁ、またオリキャラになりますが……次の更新はいつになるだろう……
一応、これで武偵殺し編に入れるかな?
現状
リアルで燃え尽き症候群的な状態
それから、これからオリジナル展開をどうしようか悩み中
不評なのかなと……
感想待ってます