緋弾のアリア 血濡れた銀狼   作:浅田湊

15 / 38
依頼

「犯人は峰理子。イ・ウーの構成員でした。ただ、今回の三つの事件に関しては彼女によるものですが、それ以前に関与していたかは不明。特に遠山武装探偵が死亡したとされる事件に関しては。以上が私からの解答になります」

 

『大筋、その通りなのでしょう。では、正式な依頼をさせていただきます。イ・ウー構成員の一人を拘束していただきたく思います。多少、荒っぽい事になっても構いません』

 

 イ・ウー構成員の捕縛。

 それはイ・ウーに宣戦布告するにも等しい。そして、直に仕掛けた俺に何のメリットもない。

 この状況でそれを受けるだけの理由を持ち合わせていない。

 ただ、『撫子』からの依頼。恩を売っておくという意味合いで考えるなら、一考の余地はあるのも事実。

 

『貴女の大切なものを隠している場所が判明しました。今回の依頼の対価はその情報です。それから、イ・ウーの日本国内活動が事実として認知されれば立花繚乱の帰国は確実に早まります。公安の保有する戦力として、項羽やその他上位陣と真正面からやり合える人材はそういませんから』

 

「つまり、お前達の目的は立花繚乱の復帰。だが、それだとお前達の活動が制限されるんじゃないのか?」

 

 立花繚乱は撫子達と抗争した事実がある。それだけに、彼らに対しても目を光らせる筈だ。

 そんな危険を犯してまで彼女を呼び戻す理由。いや、考えられるのは一つしかないか。

 

『先日の大使館狙撃暗殺事件で我々は襲撃犯の目的が彼女とあなたであると推測しました。ですが、現状の守りでは完全にお二方を守れるという保証はありません』

 

 あの事件の続きであるなら、立花繚乱は逃げられない。

 彼女が海外に一時的に左遷させられた原因だ。高等学校占拠事件。多くの死者を現場の判断ミスで生み出し、惨劇を生み出した。生存者は二十数名。その中に犯人グル―プの名前は含まれていない。

 

「あの事件の続きだとして、首謀者は死亡。事件の全容は闇に沈んだ筈だ」

 

『ですが、彼女の記したレポートが行方不明のままです。そして、もう一つのカードを我々が保有しているという事実。それを踏まえれば、十分に他の組織が同様のカードを保有している可能性は考えられます』

 

「つまり、生前にレポートを誰かに送っていたって訳か。怪物を作るという名目で行われたの非道な実験のレポートが……。ロスアラモス・エリート――アメリカの機関だから、そう簡単に手は出せない」

 

 極秘機関の一つだろう。

 だが、問題は中華街での襲撃は軍隊的気質を感じ取った。そして、母親の事をオリジナルと呼んだ。

 俺の事を知っているような口ぶりでもあったことから考えるに……おそらくは公安内部にスパイも……。

 それをあの課長が気付いていないとも思えない。

 

『そういう事になります。そして、イ・ウーはその事に関しての情報を保有している。それが突破口になるやもしれません。あくまで仮説にしかすぎませんが……』

 

 厄介な事を抱え込み過ぎているが、この状況。仕方がない。

 少なくとも繚乱が復帰すれば、少なくとも公安内部の内通者の洗い出しは行える。

 この状況で動かせる駒がない以上、他に選択肢はないか。

 

「それで、俺は誰を拘束すればいい? 峰理子か?」

 

『峰理子にそこまで重要な要素はありません。むしろ、我々にとっては夾竹桃の方が優先度は高い』

 

「夾竹桃?」

 

『イ・ウーの構成員。毒使いです。彼女をこちらで抑えられれば、今後の作戦行動にも戦略性が広がります』

 

 毒使い。なるほど、確かにそれは厄介な存在だ。

 耐性の強い人間を宛がえばそこまで苦戦する相手ではないが、逆を言えばその耐性を手に入れられる人間が極端に少ない。幼いころからの訓練と遺伝。確実性を考えるなら、知る限り俺を含めて五人。

 そして、その内の三名は動かせない重要位置の存在。なるほど、俺を宛がうわけだ。

 

「毒を持って毒を制するか……。妥当な判断だ。データを送ってくれ。後で見ておく」

 

『了解しました。『送火』名義を使って情報屋として流さしていただきます』

 

 しかし、厄介なことになったものだ。

 夾竹桃を捕縛すればイ・ウーに敵対される。おそらく、公安も何らかの処置をしてくるだろう。

 あの男も動くかもしれない。人質を使って俺を押さえに。

 

「まぁ、なるようにしかなりませんよね」

 

 そう呟いて、あることに気が付いた。

 ギブスだ。足のギブス。邪魔だからと砕いてしまっていたのだが、このままでは流石に不味い。

 ただ、既に完治しており動作に支障がないのも事実。迷った末に今回のバスジャック事件の情報収集もかねてけが人が収容されたらしい病院へと向かうのだった。

 

 

 

 武偵病院の中でも公安に通じている医者に診断され、完治と告げられたのだが念のためにギブスを再びつけるか尋ねられる。だが、はっきり言って邪魔だ。これから毒使いと戦うというのに……。

 即答でいらないと返答すると偽装の為の鎮痛剤を処方される。

 どうやら、最近はそうやって鎮痛剤で抑えるバカがたまにいるらしい。

 足の錘も取れ、囁かれているバスジャックの犯人がいまだに特定できていない事実に呆れ半分、喜び半分で出口へと向かっていると横を一般人らしき少女が通り過ぎる。

 その瞬間、何か嫌な予感が頭の中を過ぎった。

 この感覚、知っている。だが、相手は赤の他人……関わる理由は……理由は……。

 

「本当に私は糞が付くほどの御人好しですね」

 

 立ち止まるとその通り過ぎた少女の肩を掴んだ。

 

「顔色が悪い。それに脈拍も不安定。貴女、いつ毒を受けたの?」

 

「えっ……あの……」

 

 どうやら、記憶にないらしい。だが、風邪ではないのは事実。

 秘中の毒を打たれるような人種には思えないが、声をかけてしまったのも事実。見捨てると寝覚めが悪い。

 

「そのままにしておいたら、一週間持たないわよ。随分と身体に回ってるようだし……」

 

「私の妹に何か用ですか」

 

「ん? この子、貴女の妹さん。ご愁傷様ね。どんな恨みを買ったのか知らないけど、もう長くないわよ。それに、この手の毒に詳しい人間がこの病院にいるとは思えないし、残念ね」

 

 確か、間宮あかりだっただろうか。

 神崎アリアの戦姉妹だったと記憶している。

 ただ、こちらは様子から判断するに心当たりがありそうだ。

 

「そんな……夾竹桃が言ってた二年前に植えた種って……」

 

 夾竹桃――まさか、ここでその名を聞くとは思わなかった。

 つまり、彼女の狙いは分からないが何らかの思惑をもって間宮あかりに接触した。

 その人質がこの娘という事だろう。そのやり方に少しばかり、虫唾が走る。

 考えるより先に手が動いていた。

 その瞬間、少女が糸の切れた操り人形のようにゆっくりと倒れていく。それを受け止めると近くのソファーまで運び、間宮あかりに指示を出す。

 

「一時的に仮死状態になるように薬剤を投与しました。どうやったかは企業秘密ですが、タイムリミットは三日。それまでに治療法を見つける事です。見付からないようでしたら、苦しまないように殺して差し上げることをお勧めしますよ。その状況は拷問以外の何物でもないですから」

 

 二年の歳月の潜伏期間。

 いやらしさから考えて、少しずつ感覚を奪っていくタイプだと推測した。

 だとすれば、自分が当たり前の事を行えなくなるのを実感しながら死んでいくことになる。その指先からゆっくりと時間をかけて……。

 それを味わうくらいならば、さくっと殺してあげることが温情というものだろう。

 そんな判断をした私に対し、間宮あかりはこう尋ねてくる。

 

「先輩は毒について詳しいんですよね! なら、解毒方法について何か知っているんじゃ!」

 

「残念ながら、元の毒があれば解毒できますけど……いや、一人出来そうな知り合いがいるにはいますが、それも五分五分です。確実に助かる方法は夾竹桃を押さえる事だけだと思いますよ」

 

 間宮ののかという名前らしい少女を病室へと運ぶと、そこで彼女の詳しい状態を確認しながらそう返答する。

 確かに五分五分なら悪くない確率だ。二回に一度は助かる。

 だが、それはあまりにも残酷な確立だ。表の世界の人間には。

 

「一応、血液サンプルは取らせていただきました。後はお仲間さんと相談するといいですよ。まぁ、足掻くだけ足掻いてみればいいと思いますよ。結果は見えていますが。健闘くらいは祈ってあげましょう。では、一度席をはずしますのでゆっくりお考えください」

 

 そう告げると、音もなく部屋を後にする。

 そして、部屋を後にすると知り合いの医者に電話を掛ける。

 

『おかけになった電話番号は使われていないか、電波が入っていない為かかりません。二度とかけてくんな』

 

 久しぶりに電話をかけたのだが、かけた瞬間のあまりの対応に思わず苦笑いをしてしまう。

 だが、現状で他に頼れる人間はいない。頭が重いが仕方がない。

 

「お久しぶりです。少々、依頼したい事があるのですが今はどちらにおいでで?」

 

『仕事? 人がせっかく、六本木のバーで飲んでるっていうのに空気読みなさいよ。まぁ、いいわ。それで患者の容体と年齢、体重、身長も用意しておいて。十五分で向かうから』

 

「小柄な中学生程度。体重も平均ですが、身長は小柄。毒により、感覚が徐々に欠落していき、最後には死に至るようです。現状は仮死状態にして毒の進行を抑えていますがいつまで持つか」

 

『なるほどね。でも、その毒って風魔の秘中の秘でしょう? まぁ、どうでもいいけどさ。しっかし、感覚をおとしてく系統だと、時間も残ってないでしょうね。タイムリミットは三日くらいかな。仮死状態でも進行は止まらないだろうから――あくまで、命のだけど』

 

 三日は命のタイムリミット。

 それは、何らかの後遺症が残ってもおかしくないという事だ

 つまり、一刻の猶予も残されていない事を意味している。無事に助けるには。

 

『ただ、それは暗殺用だけどさ。意味ないわよね。毒としての使い道として美しくない。やるなら、スパッとやればいいのに……。徐々に感覚を落とすとか、美学を感じないわ。それに有効活用なんて人質くらいでしょう?』

 

「まぁ、そうですよね。殺すだけなら、遅延性の毒で事は足りる。こんな回りくどい毒なんて必要ない」

 

 それをわざわざ選んだという事は相手が遊んでいるという事なのだろう。

 間宮あかりは掌で踊らされている。知った事ではないが。

 必要な情報を渡すと通話を終え、病室に戻ってくるのだが何やら空気がおかしい。

 あまり、入っていきたくないのだがこの状況。仕方がない。意を決して部屋へと足を踏み入れると、そこには間宮とゆかいな仲間たちと神崎アリアがいた。頭に包帯を巻いた状態で。

 

「アンタ……足の怪我どうしたのよ」

 

「邪魔なのでギブスを壊しました。それより、知り合いと話しましたところ、急がないとやっぱりヤバそうですね。どうやら、その毒は風魔の秘中の秘らしく、暗殺用。早くしないと後遺症が残るそうです」

 

「どうして……符丁毒の事を……」

 

 忍者らしき恰好をした少女。なるほど、風魔の関係者か。

 しっかし、秘中の秘が外部に漏れるとは世も末である。嗤えもしない。

 

「符丁毒、ね。夾竹桃はどうやら相当な毒マニアのようね。という事は、貴方達には荷が重い」

 

「それは、逃げ「違いますよ。生き残れば勝ちです。死ねば次はない」アンタ……」

 

「それに、毒使いとの戦いは攻撃を受けてはいけない。そして、相手の行動からどのような毒を使うかを先読みし、それに対処しなければならない。それが出来るなら止めませんが出来ないのなら、無駄死にです」

 

 どの攻撃で毒が回るか分からない。だから、攻撃を受けてはならない。

 受けた場合、早期決着を。それは、毒の回りを押さえるためだ。

 もっとも重要なのは、どのような毒にも対処するだけの知識。

 接触、空気、粘膜。様々なタイプの侵入方法があるが、それらを対処するだけの知識と戦闘力。

 これらをもって、ようやくまともに真正面からやり合えるというものである。

 それがないのなら遠距離からの狙撃暗殺が妥当だろう。それが最も安全かつ効率的だ。

 

「なら、アンタならどう対処するわけ?」

 

「狙撃一択です。まぁ、毒の情報を引き出すのは難しいですけど、潰すだけならそれで十分です。両足と両腕を潰してしまえば、毒使いも毒を使うのが難しくなりますし、逃走も困難です」

 

 残されているのは口だが、そこを潰すのは難しい。

 歯に何かを仕込む人間もいるだけに、完全に安全とは言いづらいが妥協点といった所だ。

 まぁ、これ以上は私には関係ない事だ。

 

「まぁ、確かに妥当な判断ね。こんな餓鬼共に対処できる相手とは思えない。にしても、進行が速いわね。まぁ、やれるだけはやってみるけどさ」

 

 そう言いがら、白衣の女が病室へと入ってくると間宮ののかの状態を触診し始める。

 狩野博愛――彼女に治せないのなら、普通の医者には不可能だろう。人の身体というものをいい意味でも悪い意味でも知り尽くしている彼女に出来ないのならば……。

 それにしても、相変わらず酒臭い。そう言えば、六本木のバーで飲んでいたといってきた気がする……。

 

「無理でござる! それは毒を作ったものにしか!」

 

「確かに正攻法だと無理でしょうね。でも、症状からの逆算は難しいけど、不可能じゃない」

 

 舌出すと妖美に唇を湿らせる。だが、その妖美さも酒臭さがすべてを打ち消した。

 

「それに、たかだか毒でしょう? 死人を生き返らせるんじゃあるまいし」

 

 生きているなら、助けて見せる。そう言いたいのだろう。

 まぁ、これでしてやれることは全てやった。後はどうとでもなるだろう。

 最終的に夾竹桃を確保するのはこちらの仕事だが……。

 

「先輩は力を貸してくれないのか? 神崎先輩みたいに別件を抱えてるわけじゃないんだろう」

 

「確かに抱えてはいませんね。でも、貴方方に協力する義理はない。戦姉妹契約を火野さんと結んでいたのなら、一考の余地はありましたが、如何せんそれもありませんしね」

 

 火野ライカの戦姉妹は島麒麟だ。

 CVRであり、そこまで戦力になるような存在には見えない。お守りのお守りをするなんて御免だ。

 それに今回は相手が相手。遊んでいる余裕はない。

 

「何より、毒使い相手に多勢というのは無意味です。味方を人質に取られて終わりますからね。見捨てる覚悟があるなら別ですが、武偵憲章を守りたいのならば――相応の痛手は覚悟しなさい」

 

 恐らくは選択を迫られたなら、その選択を出来ないだろう。

 それが普通の人間というものだ。誰だって自分の身がかわいい。だからこそ、その究極の選択を前に他者へと委ねようとしてしまう。もしも、その選択を簡単にできてしまうのなら、それは冷血なのだろう。

 そして、私はその冷酷な人間の一人だ。

 

「痛手で済めばいいけど、全滅の危険性もあるからでしょう。耐毒訓練を受けてるわけじゃないだろうし、殺さず捕らえるなんて私だったら死んでも御免だわ」

 

 博愛は診断を終え、血液サンプルとカルテに何かを記しながらそう告げた。

 

「それにしても、毒使いか……」

 

「何を考えているんですか?」

 

「いや、毒使いって事は色々な毒に対する知見があるわけじゃない。人材として美味しいし、是非とも確保したいと思っただけよ。公安に引き渡すくらいならね」

 

 イ・ウー関連なら公安が動く。

 そうなれば、どういう流れで出所したとしても糸が付いているだろう。そうなる前に確保したいといっているのだ。おそらく、今回の依頼料として。

 だが、それはダブルブッキングになる。撫子からの依頼と。

 

「貴女はイ・ウーだけでなく、公安にも喧嘩を売るつもりですか……。それで、そんなアホな事を抜かして、解毒剤を作るメドは立ったんですか?」

 

「まぁ、なんとかね。それじゃ、私はこれから解毒剤作成に取り掛かるわ。--後の事は任せたわよ」

 

 横を通り過ぎる直前に博愛はそう告げる。

 まさか、撫子と博愛はグルであり、ここで間宮ののかが倒れる事を予知していた。いや、違う。間宮の関係者と接触を取っていたと考えれば、大筋がつながる。

 夾竹桃の捕縛。どうやら、それで終わりそうにはなさそうだ。

 

「では、私もお暇しましょう。皆さんの無事を祈っています」

 

 重苦しい空気の中、私は病室を後にしようとする。対夾竹桃用の装備を揃えるためだ。

 だが、そんな私を神崎アリアは呼び止めた。

 

「随分と毒使いとの戦い方に心得があるようね。それに、バスからの脱出方法。アンタ、一体何者なの」

 

「ただの通信科の生徒ですよ」

 

「ただの……ね。まぁ、ありがとう。この娘の妹の毒を見抜いて、応急処置を施してくれたんでしょう」

 

「お礼を言うのは助かってからじゃないですか?」

 

「カンよ。この娘は助かるわ。絶対に」

 

「絶対ですか。そうなるといいですね」

 

 神崎アリアへそう言い残すと、雨の中病院を後にする。

 確実に任務を遂行するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな夜更けに女子一人で散歩かのう?」

 

「瀧夜叉姫か……」

 

 振り向くと点滅する電灯の下に着物姿の女性がいた。

 手には身体の倍ほどもある太刀。話せばわかるという状況ではなさそうだ。

 

「行った筈よのう。汝らが何をしようが興味はないが、我が領地で好からぬ事を企むのであらば容赦はせぬと」

 

 過去にイ・ウーは数度の勧誘をしたのだが、全て断られた。

 従わぬのならばと里に襲撃をかけるも、彼女一人を前に壊滅。教授が後日出向き、交渉することで事なきを得たという過去がある。それだけに今回の一件は実に彼女の堪忍袋の尾に触れてしまったのだろう。

 

「事前に説明がなかったのは認める。だから、まずは話し合おう!」

 

「領地を踏み荒した有象無象にわざわざ温情をかけるのか?」

 

 かけない。完全に事前通達をしていなかったこちらのミスだ。

 だが、ここで死ねば死後に全世界に私の恥がばらまかれる。項羽の手によって……。それだけは死んでも避けなければならない。何としても、生き残らなければならない。

 瀧夜叉姫の強襲。戦術も戦略もあったものではない。

 ただ、真っ向からの戦い以外には残されていないのだ。

 

「ただ、夾竹桃や峰のところに行かなかったことだけは救いか」

 

 あの二人は瀧夜叉姫に対するだけの技量がない。毒などもってのほか。峰の技術では逃げる事もかなわない。

 その分、まだ戦える私が瀧夜叉姫に狙われたのは幸運と言えよう。

 まぁ、狙われない事に越したことはなかったが……。

 

「てっきり、尻尾を巻いて逃げると思うておったがやりあうつもりかの? この我と」

 

「見逃してくれないのなら、戦うしかあるまい」

 

 ジャンヌ・ダルクの名前を背負っているのだ。尻尾を巻いて逃げるなど出来る筈もない。

 たとえ、道を外れたとしてもその名に恥じぬ生き方を貫く。

 覚悟を決めるとデュランダルへと手をかけた。

 

「いい目をしておるではないか。じゃが、相容れぬ思想を前に敵対するしかあるまいて。故に我は汝らとの間に線を引いた。混じり物は混じり物らしく、人は人らしく。我らは所詮、理から外れた存在ぞ」

 

 その瀧夜叉姫の言葉はまるで彼女自身に呟いているようにも聞こえる。

 だが、一つだけわかったのは彼女は絶対にイ・ウーとは相容れないという事だけ。

 主戦派。彼らの存在が許せないのだろう。自らを化物と言い切り、裏で生きている彼女には。

 

「せいぜい、楽しませい。小娘如きがどこまで出来るかは分からんがな」

 

「なら、その小娘と驕った相手に痛めつけられる恥辱を味合わせてやろう」

 

 相手の超能力は分からないが、存命する最古の魔女に等しい存在であるだけに油断はできない。

 幾瀬にも代を重ねてきている魔女にはない。経験の積み重ねという強みがある。

 こうして、相対すると久方ぶりに自分がただの人間に過ぎないという事を実感する。

 辺りの気温が一気に低下する。空気中の水分が氷結し、キラキラと輝いた。

 

「超能力か。なら、少しばかり本気になろう。超能力者としてな」

 

 目の前にいた筈の瀧夜叉姫が消えたかと思うと、目の前で太刀を振りかぶっていた。

 それを咄嗟に受け止めるとそのまま後ろに跳び、距離を取る。

 消えた。いや、幻術の一種だろう。認識に関係する超能力を使う魔女?

 厄介な相手だ。その事実に小さく溜息を吐くと、デュランダルを握りなおした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。