「それにしても、よく課長が許可出しましたなあ」
「ですね。飛ばしておいて数ヶ月で戻って来られるとは思ってませんでしたよ。こんな事なら、セーフハウスを引き払うんじゃありませんでした……。大損です」
なにやら騒がしい米軍基地に降り立った和服姿の女性とだらしがない女性の二人。
久し振りの日本は少しばかり肌寒さを覚える。黒いコートを羽織っているが、何かを感じ取るかのように体の中を悪寒が通り過ぎる。嫌な兆候だ。やはり、帰ってきて正解だったのだろう。
「許可? そんなものある訳ないでしょう? アドシアードに合わせてこじつけてね。まぁ、それに蛇の道は蛇っていうでしょう? この方法なら課長も手が出せない。国際問題になるから」
その言葉に二人の部下は嫌な顔を浮かべる。
当然だ。もしも、帰国した事が課長の耳に届けば面倒な事になるのは必至。
そうなれば、二度と日本の大地を踏めなくなる可能性もある。それだけ、公安内でもこの班はやっかまれているのだ。その公安には有り得ない裏社会への政治力に。
「恐らく、問題はないと思いますよ。ここで先生を国外追放すれば確実にCIA辺りがスカウトに来るでしょう」
「確かにCIAからスカウトが来てたのは認めるけど、私は私の正義の為に刀を振るだけよ」
最後に降り立ったのは金髪の少女だった。
今回のアドシアードの近接戦闘の部門で参加登録されている。今回、無理を押し通せたのは彼女の教師としてこうして来日する事となった。向こうの食事が口に合わなかった事もあるが、この日本でやり残して来た事が気がかりだったという事が大きい。
それに加え、そろそろ穴倉の連中が何らかのアクションを起こす筈だ。
流れて来た報告を聞く限り、例のプログラムが関わっている。自らの身内の不始末が原因なのだ。
「そうですか。残念です。我が国に来ていただければ、一緒に仕事が出来ると思ったのですが」
「貴方は武装探偵。私は国家を守る公安。対場が違えど、同じ道を歩む事は出来る筈よ」
まぁ、言いたい事は分からなくもない。
例の一件に関わっているのはアメリカの極秘機関。ロスアラモス。
それ故に、国家間での敵対関係になりかねないのだ。
アメリカに所属するSランク武装探偵としてどういう立場に置かれるか。考えずとも分かる。
そんな中、恐らくこの基地に長官なのだろう。こちらに何人かの部下を従えて、此方の方へと走って来た。
「立花繚乱で間違いないな。少しばかり、お力をお借りしたい」
向こうの引き連れている部下は銃器に手をかけている。
その事実に思わず、溜息を吐いてしまう。まぁ、相手は偽物。
仕方ないと言えば、仕方ないがこの状況でそれをやられると少しばかり厄介なのだ。
銃声が響き渡る。マガジン地面へと落下し、辺りには空の薬莢が散乱する。
言わんこっちゃない。目の前には基地の長官を除き、地面に蹲っている。
その長官も一人の部下に取り押さえられている。
頭の痛い現実だ。しかも、後ろで見ている武装探偵殿はその状況に目を輝かせている。
まぁ、分からなくもないが。屈強なアメリカ軍人をものの数分で無力化したのだ。流石というものだろう。
「相変わらず、銃器に対する反応速度は流石やなぁ。とても狙撃手とは思えまへん」
「私なんてあの人に比べたらまだまだですよ。それにしても、ダメですよぉ。引き鉄に手をかけてちゃぁ。手が滑って殺しちゃうじゃないですかぁ」
「なるほど、噂に耳を違わぬという訳ですか。流石は『死を告げる風』という訳か」
随分と余裕を持っていらっしゃる。いや、さっきの銃声から判断してマガジンは空だと分かっているからか。
だが、何を考えているのだろう。随分と甘く見られた物だ。
立花繚乱、鈴城折雛、久世遙三名を相手に逃げ切れると思っているのだろうか。
まぁ、後ろにいる武装探偵がどちらに着くかによって状況は僅かばかり変わるのだろうがまぁ、大差ない。
そちらが殺る気ならこちらも同様の立場を示すまでだ。
「それでお前は何者なのかしら? 危険を冒してまで私に接触した理由は何かしら?」
「相変わらず、怖いですよ。そんなにピリピリしないで下さいよ。私はただの交渉で来たんですから……。互いに知らない仲ではないでしょう?」
その言葉に久世はゆっくりと長官から離れる。
すると、長官は手を首元へと持っていき、一気に顔の皮をはがした。
「なるほど。それで穴倉の連中が私に何の用かしら?」
穴倉の中で諜報を主に行なう変装の名人。名前はない。それ故にゴーストの異名を持つ女。
厄介な相手が出て来たモノだ。こいつをここで斬り伏せれば、どう考えても穴倉の本隊が動く。
向こうも暗に脅してして使って来たのだ。まぁ、こちらにはその意志はない。今はまだ。
「我々はただ今を持って日本から手を引きます。それを伝えてくれと頼まれました。まぁ、ここからは推測ですが現状、中国とイタリアでの交渉はおおむね締結済みです。恐らく、次の本目標は……」
「IADAか」
「お見事。と言う事は、最終的目標は何かお分かりと言う事ですか」
もったいぶった態度だ。
私を試しているという訳ではない。ただ、すぐに明かしたら面白くないからとかそんな理由なのだろう。
この流れは恐らく、イ・ウーと本格的に事を構えるつもりなのだ。
その為の日本からの一次的撤退。だが、それを伝える為にわざわざここに来たとは思えない。
「アレが国外に渡らない為の保険として私を使う気か。それで対価はなんだ?」
「今回の武偵殺しの後処理に我々も手を貸しましょう。恐らく、誰が旅客機を墜落させたのか問題になると思いますから……ね?」
「はぁ、分かった。そっちには貸しもある。だが、見逃すのは今回限りだ」
「ありがたきお言葉です」
旅客機墜落の後始末。
嫌な言葉ではあるが、イ・ウーが絡んでいる以上は上で揉める事になるだろう。
誰が落としたのか。それをどう国民に説明するのか。
そう言う意味合いでこういう後処理に慣れている穴倉の連中は便利といえる。付き合いたくはないが。
何やら、愉しげに後ろで武装探偵もその話を聴いていたのだが、ゴーストが立ち去る直前に彼女はこう尋ねる。
「ところで、貴方がミスフローレアなのかしら?」
その顔は明らかに好戦的な顔だっただけに思わず、溜息が漏れてしまった。
「なるほど。武偵殺しを追って飛行機に飛び乗り、その飛行機が墜落の危機ですか。それで、私に何を?」
『どうやら、防衛省は旅客機を墜落させるつもりらしく……』
なるほど、防衛大臣の指示だろう。判断としては間違っていない。
都内に墜落し、大事故を起こされるよりはその方が政権にダメージは少ない。
政治的な駆け引きの中で選んだのだろう。他の国との申し合わせも済んでいる筈だ。
今更、小市民が口を挿んでどうにかなる問題でもない。
まぁ、時間稼ぎを出来なくはないがそれを公安が見過ごしてくれるか問題だ。
「防衛大臣からの命令でしょう」
『防衛大臣……ここからだと手の出しようがないと言う事ですか』
確かに秘匿回線を用いた通信だろうから、ここから直接観賞は難しいだろう。
学校の器材ならば不可能ではないのだろうが、ここから学校までは少しばかり時間がかかる。まず間に合わない。かといって、中空知に通信に割り込めば色々と問題になる。
最悪、公安によって消されかねない。
だが、わざわざそれを行う理由がこちらにもない。
「そう言う事です、ただ、撃墜命令は出ていないようですね。いや、落とせないの間違いか」
もしも、撃墜する場所を間違えれば大きな被害を被る事になる。
だから、その判断を行えず渋っている可能性もある。つまり、国民を人質に取る形にはなるが、そうすれば撃墜されないギリギリの航路を取る事が出来る筈だ。
問題はどこに着陸させるか。それなのだが……。
「位置情報は此方でも確かめました。湾外に出れば撃墜。つまるところ、湾内部で着陸箇所を探さなければなりません。滑走路の距離を考えると、あそこしかないでしょうか」
この近くの風力発電を行っている島だが、滑走路の長さが微妙に足りない気がする。
というのも旅客機の着陸は経験した事がないのだ。それだけに、雨天時の着陸に必要な距離のデータが文献としてしか手元にないのである。それに加え、あそこには灯りがない。目印がないのだ。
この悪天候を考えれば素人には難しい。
『確かにあの島なら……』
「距離は風車にぶつけてスピードを落とせるので間に合うか賭けになりますね。灯りに関しては学校に何かあるでしょうから……問題は人員ですか。それと、着陸させる人間の腕ですね」
『神崎アリアさんと遠山キンジ君に二名ですから……だ、大丈夫ですよ』
絶対の保証はない。
ただ、こちらからは祈るしかないだろう。状況が状況だ。
そんな事を考えていると、突然通信に割り込みが入る。しかも、どうやら無理矢理回線を繋がれたらしい。
『もしもし? 久しぶりね。ちょっと、頼みたい事があるんだけど』
「いきなり、アメリカにいる人間が何の用ですか? 今、忙しいんですけど」
『防衛大臣を揺する情報何か無いかと思って……。旅客機を墜落させるのは不味い訳よ』
繚乱の言葉から判断するにどこの国が飛行機の墜落原因を作ったのか。と言った所だろう。
撃墜前の情報が既に外部に漏れている? そう判断し、ネットで情報を漁ってみるとなるほど。公安としても穏便に終わらせたい理由と言うのはこれか。
どこからか飛んできたミサイルらしきものによって翼が壊れた。
自衛隊によるものとは考え辛い。となると、アメリカ軍、中国人民解放軍。この辺りだろう。
噂と言うのは厄介な物で一度でも火がつけば勝手に延焼してしまう。
政治屋共にこちらの情勢は分からないだろうが、世論と言うのは色々と厄介だ。
特に声の大きい愚民どもの相手は面倒な事この上ないのだろう。知った事ではないが。
「なるほど、確かに状況がきっぱくしているのは理解しました。確か、この防衛大臣は賄賂疑惑がありましたよね。そこを叩けば問題ないかと。ただ、そんな事をすれば国内政治と対立する事になりますよ?」
立場上、政治屋の方が上になる。
公安局そのものへの圧力なども強まって来る筈だ。日本人には平和ボケした連中が多過ぎるのだから。
『確かにその通りよ。この立場になって痛感したわ。何故、姉さんが国を裏切ったのか』
綺麗事では世界は救えない。
中空知に言ったように法では誰も守れない。大切なモノを守る為には力がいる。権力がいる。
弱肉強食ソレが世界だ。強いモノこそが正義。弱者は悪だ。
光があれば闇がある。その両者ともに決してなくならない運命だ。
人間が人間であり続ける限り。
「それでも、貴女はそちら側に残った。法が法としての機能を失くしてしまえば、裏は裏でなくなってしまう。結局、私達は多くの矛盾を抱えながらこの世界で生きていくしかないんですよ。残念ながらね」
『貴方からそんな言葉が聞けるとは思いもしなかったわ。そう言えば、アドシアードに合わせて帰国しているの。機会があれば、食事でもしましょう。色々と話しておきたい事があるから』
「分かりました。時間を作ってみましょう」
そう言うと通話を斬る。
そして、中空知に簡単に防衛大臣からの命令のほうは対処が出来たと告げると通話を終えた。
恐らく、これで大丈夫だろう。そんな確信めいた何かを感じながら……。
「武偵殺しの次は魔剣……貴方達に関わると過労死しそうです」
教務科から与えられた新たなミッションは星伽白雪の護衛。
アドシアードに合わせて帰国した立花繚乱率いる公安0課強襲班。
星伽白雪を狙うイ・ウー所属の魔剣と山の翁。
「この女性がお姉さまに銃を突き付けているのを予知したんです!」
星伽白雪をフィアナが殺す事を予知したという粉雪の来訪
「なんで、白雪を殺した!」
「殺せと命令されたからです。イ・ウーに引き渡すくらいなら」
そして、水面に咲く朱い華
アドシアード編こうご期待
とまぁ、一巻の話に区切りがついたので次回予告みたいな事をやってみました。
今回短いのは次回への繋ぎと言う意味合いが大きいです。
アドシアード編で新たに登場予定は粉雪くらいになるかと。(当初はメインヒロインでした)
アドシアード編はこの物語における大きな転機でもあります。
その為にジャンヌを強化したりしたので頑張りたいと思います。(不定期更新になりますが
あと、急にお気に入り登録が増えたりで驚いてたりします。感想など頂けると励みになりますのでよろしければ!
公安メインの話はアドシアードが終わった直後になります。
そこでは項羽、滝夜叉姫辺りのオリキャラも再登場させる予定です
最後になりますが、割とジャンヌの戦闘は好評のようなので安心しました。
そろそろ、主人公の設定など公開した方がいいのだろうか?
主人公のイメージソングはNieR -RepliCant- カイネ/救済です。