緋弾のアリア 血濡れた銀狼   作:浅田湊

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回り始める事件

 一試合目終了後、フィアナの所属しているグループは試合が行われる事が無かった。

 理由は明白。対戦相手がいないのだ。話によれば何者かの手によって行動不能にされたらしい。

 当然、一人だけ無事であるフィアナに疑いの目が向かうのだが、その時間は中空知と一緒に運営の手伝いをしており、多くの人間の証言もある。犯行は不可能という物だろう。

 ただ、問題は試合が行われないという事だ。各国のエリートとして選抜された人間が謎の襲撃にあっただけでなく、試合が行われる事無く決勝へと進んだという結果が後々の問題に発展するのではと危惧している。

 だからこそ、運営側としてはフィアナに決勝進出を辞退して欲しいのだろう。

 それに関しては何の問題もない。むしろ、好都合だ。てっきり、無理矢理犯行をでっち上げるか、試合中に事故を起こす為に決勝へと何とかして出させると思っていただけに予想外でもある。

 恐らく、別口からの何かしらの接触があったのだろうが……考えられる限り、一つだけだ。

 状況から考え、穴倉はない。残すとすれば、アイツを確保できなかった場合に備えた穴倉との交渉カードとして確保しておきたい公安0課元課長くらいだろう。

 となれば、裏で動いたのはお抱えの公安0課の人間。

 もしも、それが事実であるならばそろそろ接触がある筈だ。

 

「少し、席を外して貰えますか」

 

 本線進出が無くなった時点で運営補佐に戻っていたフィアナは隣で仕事をしていた中空知にそう告げる。

 無言で携帯を指差し、聞かれたくない話をすると伝えると少し不安げな顔をしながらも中空知は咳を外した。

 不安なのはまた裏の連中とつるむのではないかという想いからだろう。

 だが、今回は別だ。そんな心配は必要ない。

 携帯を耳に当てると同時にかかってきた通話に出る。

 

「お久しぶりですね。公安0課元課長さん」

 

『あら、私から連絡が来る事をまるで読んでいたみたいな言い様ね』

 

 この返答は推測は当たりという事か。

 アイツの所在がどうなったかは不明だが、恐らく保険を発動させたのだろう。

 つまるところ、目的は穴倉への牽制。そして、主任に対する無言の圧力という奴だろう。

 何より、ここで行動を起こせるという事は土台固めがほぼ完了したと見て問題ない筈。だが、日本国内の政府組織でそのような再編の動きはなかった筈。暗部の連中にも目立った動きは……。

 そこまで考えた時点である事に気付いた。一つだけ例外の組織が存在している事に。

 

「なるほど、貴女の現在の立ち位置がようやく分かりました」

 

 この時点で戦力を集める事が可能な組織。あるとするならば、外事課――対テロ対策部門だろう。

 つまり、現在は外事三課の人間。暗部への繋がりがある部下がいた事を考えれば、納得の立ち位置でありあそこの出身ならこれまでの経歴が表ざたにならないのも理解出来る。

 深い部分まで調べられるような組織ならば可能なのだろうが今の立ち位置では隠蔽された上に抹消された過去の事件など調べようがない。捜査官データなど尚の事だ。

 

『そう。なら、話が早いわね。準備しなさい。そこから脱出させてあげる』

 

「ロシアとの摩擦を考えた上での行動という訳ですか。――状況が変わったなんて言いませんよね」

 

 今更な提案だ。元より、信用出来る相手ではない。

 現段階でこの提案をしてきた理由はアイツの奪還作戦時に何か問題が起こり、作戦参加者が生死不明。洗浄後の為、情報が錯綜しており最悪の事態を想定しての動きと見て間違いない。

 だが、あくまでも人質としての価値しかない以上、従う理由はない。

 外事課を頼るくらいならば、イ・ウーを頼る方がまだ信頼できる。仕事のパートナーとしてだが……。

 それに、包囲網を破る手段ならない訳ではない。無い訳では。

 

『私としては某国に二つの鍵を渡したくないのよ。国益の為よ』

 

「国益ですか。悪いですが、その話を受けるつもりはありません。私はもう犬ではありませんから」

 

『飼いならされた犬は野生には戻れないわよ』

 

 確かにそうだろう。一度、平穏を知れば危機察知能力が極端に落ちる。結局、そういう人種なのだ。

 自らの直感を信じると言えば聞こえはいい。だが、実際は常に極限の状態に身体を置いているに他ならない。

 しかし、同時にそういう場所を忘れられないのも事実。平穏にいればいる程に自分の狂人さが浮き上がる。

 どこまでいっても、フィアナという存在が虚構でしかないように。

 

「それに、私もただで終わるつもりはありませんから」

 

 それだけ最後に告げると通話を切り、用意しておいた暗器を制服へと仕込み、最後に拳銃をホルスターへと納めた。相手は情報によれば、魔剣は氷の魔女。その事を考慮し、リボルバーと自動拳銃の二丁。

 それから、グレネードを数個。装備は万全。状況も整った。そろそろ、魔剣も動くだろう。

 それから、あの協力者もだ。いや、既に動いているの間違いか。そうでなければ、先程の通話を盗聴している人間がいた事の説明にならない。ご丁寧に机の裏にマイクを隠していたのはフィアナを狙っての事以外には考えられない。そのマイクを剥がすと、そのまま握りつぶした。

 さて、行動を開始しよう。武装探偵流ではなく、私なりのやり方でだ。

 そう思って、部屋を後にしようとすると扉の前には中空知が立っていた。

 

「なるほど、先程のマイクは貴女のものでしたか」

 

 別にこの状況で誤魔化すつもりはない。むしろ、好都合だ。

 全てを台無しになるまで粉々に砕くには都合がいい。それに対し、言い訳をするつもりはない。

 フィアナは躊躇いなく自然な動きで中空知の額に銃を突き付ける。

 OTs-38――リボルバーでありながら、サプレッサーが付いており辺りに音が広がり難い。

 何より、内臓式のレーザーサイトが中空知の額を朱く照らしている事で自分の立場を理解してくれるだろう。

 

「何を……する、つもりなんですか? 私、裏社会との繋がりだって黙ってました! でも、でも、これは……」

 

「貴女の知る必要がない事です。邪魔をするなら容赦しませんよ」

 

 フィアナはそう告げると中空知を足払いで床へと倒す。

 そして、そのまま流れるような動作で首を絞め落とした。その耳元である言葉を囁いて。

 殺してはいない。身の安全も確保できたはずだ。後は目標物を確保できれば第一目標は達成だ。

 サブ目標がどこにいるか分からないが、恐らくは本目標と共に行動している筈だ。中空知を室内へ隠して扉を閉めるとそのまま運営本部へと直行する。

 そして、三回ノックをして中から返事が聞こえるのを確認するとゆっくりと入室する。

 中にいるのは五名。本目標の星伽白雪とサブ目標の星伽粉雪も一緒だ。後の三名も強襲科の人間ではなさそうであり、見た所は障害にはなり得ない。後は脱出経路だが使えるのは彩峰が待機しているルート位だろう。

 深紅と公安、元課長の手駒がどう動くか見えないが、混乱時に地上部分を行くのは危険過ぎる。

 

「あれ、確かフィアナさんは近接格闘部門の選手じゃ?」

 

 フィアナに気付いた白雪がこちらへと歩いて来る。当然、その後ろには粉雪。

 出来れば分断したかったが仕方がない。時間も時間だ。行動を開始しなければ――。

 

「その予定はキャンセルになりました。別件が入りましたので――」

 

 そろそろ、ここにあの襲撃者が現れてもおかしくないと思ったのだが見当外れか。なら、先手を……。

 そう思ったのだが、そうやらもっと大物を引き当ててしまったらしい。この感覚、人殺しの目だ。

 

「こんな所で迷子ですか駄犬」

 

 死角から突き出された腕を振り払うとそのまま白雪たちを守るような位置へと移動する。

 予想外ではあるが、ツキは此方にある。精々利用させて貰うとしよう。盛大に。

 

「言葉も介しませんか。誰の子飼いか知りませんけど、邪魔をするなら叩き潰しますよ」

 

 向こうも此方にとっても時間がない状況。互いに刃を治めるという選択肢はない。

 なら、力尽くで自分の意見を押し通すしかないのだ。そういう生き方しか出来ない人種なのだから。

 先程の一撃から判断し、一撃必殺の暗殺を得意としているのだろう。気付かなければ内臓を取られていた。言葉通りの意味で……。無意識の内に反応して事無きを得たが……。

 この相手、油断出来る相手ではなさそうである。

 

「流石に先手を打たれては厄介ですね」

 

 この後も連戦が続くのだ。ここで大きなハンデを背負う訳にはいかない。

 わざと受ける事で確実に相手に叩き込むという方法もあるのだが、それは危険過ぎる。

 だとするなら、選べる選択肢は一つ。簡単だ。敵よりも早く、一撃を叩き込む。それだけだ。

 ナイフを構えると一気に距離を詰める。

 互いに一撃を叩き込める範囲。先に音をあげた方が負けという物だ。分かり易くていい。

 引けば追撃が来る。それを知っているだけに紙一重で躱し続け、ナイフを振り続ける。

 

「終わりです」

 

 そう呟くと襲撃者はどうやったのか分からないが、フィアナの持っていたナイフを絡め取った。

 両手に武器はない。不味い状況だ。非常に不味い。

 構えるとこちらへ一気に走り込んで来る。あの姿勢……どこかで……。

 正確無比な内臓を抉り取る暗殺技。あぁ、なるほどそういう事か。分かってしまえば何でもない事だ。

 なら、受けてしまっても問題ない。

 身体は宙を舞う。だが、その最中も頬をフィアナは釣り上げて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「任務完了。回収して帰投します」

 

 この程度か。そんな違和感を拭えない。

 最初の一撃を避けられた。その時点で二度目の一撃必殺を見切られていないのが不自然だった。

 なら、どうして受けたのか。受けた際、フィアナシュトレーゼは確かに笑っていた。

 そこまで思考した時点である事に気付いた。手に持っているソレが生温かくない事に……。

 手を開けてみるとそこにあったのは閃光発音筒。しかも、信管が抜けている。

 なら、今倒れている理由もこの爆発に。瞬時に判断し、閃光発音筒を遠くへ投げようとするがもう遅い。

 完全に視覚と聴覚をやられ、方向感覚を失ってしまった。聴覚と視覚が戻るころには室内に残っていたのは伸びている目標以外の人間であり、逃げられたという事実だけだ。

 やはり、殺す気で行くべきだった。そう判断し、後を追跡しようとするのだが目の前を何かが横切る。

 狙撃? 外から……まさか、主任の部隊が既に配置を? そろそろ、引き時という事だろうか。

 課長からの命令を達成できなかったのは痛手だが、致し方ない。

 そう判断し、撤収しようとするのだが、そこへ携帯が鳴る。

 

『間宮が動くとはね。課長の思い通りにさせる訳にはいかないのよ』

 

「久世ですか。繚乱は先の公安施設襲撃で行方不明。その時点で貴女が彼ら側に着く理由が判断しかねますが」

 

 元々、久世は繚乱に雇われている人間だ。つまり、繚乱が生死不明になった時点でこの件から手を引くと判断していただけに少しばかり予想外だ。

 いや、違う。予想通りか。あの時の事件に関わった全員が何らかの影響を受けている。

 それは久世も他ならないのかも知れない。

 

『アンタが何を考えてるのは知らないけどさ。これは私なりのケジメってやつよ。だから、私に貴女を撃たせないで』

 

「立花繚乱の命令ではなく、個人の意思でという訳ですか。その考えが過ちを招くとしても、ですか?」

 

 主任から逃げる唯一の道を自ら断ったのだ。

 魔剣。そんな取るに足らない物の為に。理解に苦しむ。

 生きていれさえすれば、後からどうにでもなるというのに。

 

『私達はさ。いつだって、合理的に物事を進めないといけない。でも、あの子たちは違うでしょう。合理的な物だけが正しいとは限らない。若いうちだけよ。無茶が出来るのはね』

 

「理解に苦しみますね。まぁ、いいでしょう。負けを認めましょう」

 

 これ以上、ここに釘付けにされるのは痛手だ。なら、早急に立ち去るべきだろう。

 主任に後を付けられて、課長の所在が割れる事は避けなければならないのだから。

 そう結論付けると屋外から此方をスナイプしようとしている久世を睨むと、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ、危なかった。あと一歩踏み込まれてたら、死んでるのはこっちだった」

 

 両脇に気絶している星伽姉妹を抱えて地下へと目指していた。

 恐らく、魔剣もそこから侵入するのだろうが、こちらにとってもレキの狙撃を危険視する必要性がなくなる絶好の場所だ。何より、色々と工作が行い易い。爆破物も多いだけに。

 地下へと降りるとようやく目を覚ましたのか、二人が重い頭で辺りを見回し始める。

 

「ここは……さっきまで、運営本部に……」

 

「襲撃犯から逃げて地下にもぐりました。一般市民に被害が及ぶのを避ける為に」

 

 詭弁だ。目的は別にある。

 だが、フィアナを信用しきっている白雪は気付けなかった。その裏に隠れる思惑に。

 そして、同時に申し訳なく思っていた。魔剣の命令に従おうとしていた為に巻き込んでしまったのではないかと。互いがそんな思い違いをしている中、粉雪だけはフィアナを睨み付ける。

 威嚇されるような事はしていないのだが、まだ警戒は解けていないらしい。

 しかし、これからどうするべきなのか。問題はそこだ。

 星伽白雪が従順なのはいい。だが、魔剣は恐らく何かを吹き込んでいる筈だ。だから、信用ならない。

 こちらも色々と抱え込んでいるのだ。そんな輩に背中を任せられる程、肝が据わってはいない。

 

「フィアナさん……な、何をしてるの、かな?」

 

 目の前の光景が信じられないらしい。

 つまるところ、それだけ信用されていたという訳だが。

 同時に「ようやく正体を現しやがりました!」と粉雪が叫んでいるのだが、無視する。

 突き付けているのは拳銃だ。リボルバーOts-38そのレーザーサイトが粉雪の頭を朱く照らしている。

 距離から考えれば、白雪はフィアナを殺す事は可能。だが、それは、粉雪を殺されてもいいのならという前段階があった上での話だ。彼女は絶対に見捨てられない。

 それを理解した上での行動だった。

 

「見て分かりませんか? 人質というやつです。あぁ、これが実弾かどうか知りたいのなら今から試し撃ちしましょうか? この娘の頭でですけどね」

 

「約束した筈だよ。キンちゃんにも粉雪にも手を出さないって!」

 

「そんな口約束などを信じるから悪いんです。状況が変われば、そんな物は通用しない」

 

 予想通り、白雪は魔剣と通じていた、か。

 これでは神崎アリアが後手に回る訳である。となると、やはりこの地下のどこかに魔剣はいるのだろう。これで状況は完璧に整った。当初の予定に入っていた追われるという状況が無くなっただけに流れは此方に来ている。

 追って来るのは星伽を追う神崎アリアと遠山キンジ。後はフィアナを追う公安。

 

「では、先を歩いて下さい。少しでも不穏な動きをしたら撃ち殺しますからお忘れなく」

 

 そう言って白雪を先に歩かせると地下をゆっくりと歩き始める。

 背後から追って来る静かな息遣いに全くもって気付かぬままに。

 そして、目的地に予想外の人間が待機している事を知らずに。




次の更新は未定です。
リアルが忙しいので
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