緋弾のアリア 血濡れた銀狼   作:浅田湊

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不穏な影

「それで?キー君から私を呼び出すなんて珍しいね?もしかして、イイ事でもするの?」

 

 ブラドから理子の母親の形見を取り戻してから数日が経ち、こうしてキンジは理子をファミレスに呼び出したのだった。

 アリアも同席しているのだがそれを無視して理子はキンジにベタベタとくっついて来る。

 それを向かいの席の粉雪は白い目で眺めていた。

 

「違う!少し理子の力を借りたいんだ!」

 

「キー君の頼みならいいよ?何かな?」

 

 更に胸を押し付けながら迫る理子を必死に引き剥がそうとするキンジは粉雪に目で合図を送る。だが、粉雪はそれを無視して一人知らん顔でジュースを飲み続けていた。その横では今にも沸点を通り越さんばかりに手を震わせているアリア。いつ爆発してもおかしくはない。ガバメントに手をかけている。

 

「いつかの決着を着けてあげようかしら?」

 

 とうとう、怒りの沸点を通り越したのか拳を震わせて口の端を釣り上げながらアリアは理子を睨みつけた。

 しかし、ここでアリアと理子が戦いを始めたら話が前に進まない。今はそれ以上にすべき事があるのだ。

 キンジは無理矢理引き剥がす事に成功すると粉雪から受け取っていたあるモノを手渡した。

 

「へー。珍しい銃だね。この辺りじゃ出回ってないっていうより、特殊部隊が使う奴だよ。って事は、やっぱりフィアナって穴倉の人間だったって事か。あそこって地盤がロシアだった筈だしさ」

 

「その穴倉ってなんなんですか……。風雪お姉さまも何も語ってくれませんでした」

 

 風雪……。星伽神社で対外的な任務を行っている星伽白雪の妹であり、粉雪の姉だ。

 濁したと言い方をしたという事は語られないような存在。まるで、イ・ウーのようではないか。

 知れば消される。そう言わんばかりの存在。そんな二人の表情に理子は拳銃を返した。

 

「あそこはただの武装探偵程度が関わって良い問題じゃないからだよ。貸しがあるから忠告するけど、あそこは表にも強い影響力をもってる。だから、下手に関わらない方がいいよ」

 

 下手に関われば地獄を見る。実際そうやって潰された組織を峰理子は知っていた。

 穴倉の実態は簡単だ。法外の法。理外の理を司る機関。

 そして、根深い。あのイ・ウーですら手を出せない規模になっているのだ。

 判明しているのは円卓と呼ばれる幹部会が存在しており、盟主と呼ばれる存在を中心に作られた組織である事だけだ。幹部の素性は殆んど表に出て来ない。規模すら不透明だ。

 峰理子が調べた限りでも十三名で構成されているとも、数百人規模とも噂されていた。

 これだけ情報網が発達した世界の中でそこまで徹底した情報管理を行えているだけでも驚異的。そんな存在を相手にしてただの武装探偵程度が何か出来るとは到底思えない。

 

 

「キー君、それをしてどうするの?キー君が彼女を撃った事実は変わらない。そうまで彼女の過去を暴く意味はあるのかな? それこそ、死者への冒涜以外の何物でもない。私はそうは思うけど……」

 

「はぁ、あんたも知ってるでしょ? 最近巷で騒がれてる殺人事件」

 

 そこでようやく、理子は合点がいった。

 この東京を騒がせている殺人事件。現状の死者は八名。殺害方法も異なり、接点もない。職業もばらばらだ。

 一つだけ言えるのは全ての遺体の傍に特殊な薬莢が落ちていた。SP-4と呼ばれる特殊弾頭が。

 そして、その薬莢を利用するのは先程、理子が見せられていた拳銃。フィアナの所持品だ。

 

「だとしても、この銃は情報部特殊部隊用に開発されてそこに配備された物なんだけど……。国と国との衝突の可能性もあるのにもしかしてアリアもそのお得意の勘が鈍っちゃったのかな?」

 

 殺人事件は全て単体として捜査されている。

 理由は明白だ。一連に共通点が無く、その殺し方も杜撰の一言だからだ。

 ただ、その犯行現場にも犯人に繋がる証拠品が薬莢以外に残されていないのも特徴といえば特徴。

 理子の中でも一つの仮説が生まれているのも事実だ。傷口があそこまでずさんな処理をされていた理由は素人の犯行ではなく、拷問にかけたから。それも情報を吐かない事を理解していての犯行だ。

 拷問をされても吐かない長期間潜入任務を主とする職業――『公安』か。

 つまり、この犯行は公安に真っ向から喧嘩を売る宣戦布告。

 だが、それは愚の骨頂だ。藪を不容易に突けば虎が出る。血に餓えた人喰いだ。人殺しすらも許容された闇の公務員が全力を上げ、犯人の存在を抹消するだろう。

 

「それで? その事件がなんの繋がりが?」

 

 その殺人事件の犯人がフィアナという証明には程遠い。

 星伽白雪の誘拐事件の捜査資料を読んだが、あの出血量。本当に死んでいてもおかしくはない。

 ただ、今回の殺人事件。普通の事件ではない事は肌で感じ取っていた。

 

「ホームズ。忠告してやる。この件には関わるな」

 

 外面ではない理子の本性からの忠告。

 その言葉にキンジは一瞬、怖気づいてしまうが神崎は逆に睨み返す。

 逃げる事は嫌い。そんな感情からの行動なのだろう。だが、そこへ予想外の言葉を投げかけられる。

 

「私はお姉さまみたいな力はないです。それに、武装探偵ですらない。だから、遠山様が言っている事の半分も分からないです……。でも、間違っている事に間違っていると言えずに何が『正義の味方』ですか! お前達がそんなだから『矛盾』はなくならないのです!」

 

 その叫びに理子も即座に反応を返せない。

 頭では分かっている。武装探偵も所詮はそういう機構でしかない。正義の味方になりたいのであれば警察にでもなれば良い。だが、ある意味においては粉雪の発言に一理あった。

 遠山金一がそうであったように確かに社会の機構として利用されるだけかもしれない。

 しかし、彼らによって救われているモノもある。そして、その志を持って活動している人間も存在している。

 

「はぁ、流石にこんな小さい子にそこまで言われたら立つ瀬ないなぁ」

 

 そう小さな声で呟くと理子はこう続けた。

 

「矛盾を抱えて生きていくしかない。結局、矛盾という物を誰かに押し付けているに過ぎない。その象徴が公安0課であり、イ・ウーであり穴倉。そんな彼らは矛盾の体現者であり、同時に被害者でもあるのかもね」

 

 彼らがその矛盾を作り上げたわけではない。その過程の中で出来上がり、そんな捻じ曲がった世界を正しく運営する為に出来上がった機構。歪みが歪みを生んだのならば、フィアナもその歪みの中で生まれた存在。

 そこである事を思い出した。フィアナが追っていたモノ。

 

「人工的な天才を作る研究。ロスアラモスエリート、そう言えば、そんな話をしたっけな。あぁ、大使館狙撃事件についても聞かれたっけ?」

 

「ちょっと待って? ロスアラモスってアメリカの機関よね。大使館狙撃事件で狙撃されたのはアメリカ大使館の人間……。そして、今回見つかった銃器はロシア製」

 

「さぁ? お得意の推理でもすればいいんじゃない?」

 

 峰理子は我関せずと他人行儀にそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで八人。アイツ、復讐でもしてるのかな?」

 

 目の前に置かれている残り三十二名の顔写真。

 判明している抹消された捜査官だ。人工天才――しかも、Gシリーズと違いHSSを用いない失敗作。

 そういう触れ込みだったのだが、ここまで証拠一つ残さず抵抗すらさせずに殺害に成功している光景を考えるに少しばかりの恐怖を覚えてしまう。この女を作った人間は何を求めていたのか。

 

「さぁな。まぁ、ロスアラモス・エリートに奪われるのが癪だったから横からかっさらっただけだ。まさか、穴倉の連中や項羽とやりあう羽目になるとは思わなかったがな」

 

 実際、四季星と真正面から戦っていたらHSSが発動していても危なかっただろう。

 部下の一人から噂を聞いていたが、次元が違う。それにもう一人の狙撃手は的確に義手である左手を一撃で破壊するだけの精密射撃を行ってみせたのだ。

 しかも、それをスタンドアローンで行なってみせている辺り、どれほどの化物か表しているだろう。

 

「そう言えば、アイツはどうなるんだろうね。今回の作戦は失敗した訳だしさ」

 

「さぁな。興味がない」

 

 Gシリーズの後継として創られたと言われるアリス。

 あの場所での攻防戦で会い見える事はなかったが少なくとも再調整は行われるのだろう。

 GⅢが暴走した事。それを感情が理由だと考えているのなら……。

 

「感情を引き剥がすでしょうね。薬物と催眠療法を取り入れた拷問みたいな方法で」

 

 振り返るとそこには『人形』の姿があった。

 出て行った時と同じ姿だ。返り血一つ浴びていない。

 ただ、写真を一枚破り捨てた所を見ると殺しには成功したのだろう。

 

「それで、愛しの王子様は見付かったのか?」

 

「死んでいるなら死んでいるでそれでいい。私は全てにケリをつけるだけよ」

 

 コードネーム『人形』。そして、その経歴から意思を保有しない存在と思っていていただけに実の所、彼女の行動には少しばかりの興味があるのも事実だった。

 だからこそ、敢えて何も言わない。その行動の先に何を視るのか。それに興味があるから。

 だが、一つ気になっている事が存在していた。

 愛しの王子様がこんな事で釣り上げられるとは思わない。調べた限り、アレは公安に協力する理由が無くなっている。むしろ、公安が潰れれば利する側の人間だ。

 行動と矛盾している以上、そこには別の意図が隠れている以外には考えられない。

 だが、その意図にGⅢは辿り着く事が出来なかった。

 理由は全て言葉にしていたのだから……。

 

「ところで、この一件でどこか情報機関が動いてるって話はある?」

 

「ねぇよ。それどころか、逆に静観してやがる。まるで、何かを待っているかのようにな」

 

 静観。確証が持てないが故の静観なのか。何か目的があっての静観か。

 少なくとも、フローレアの血族が野に解き放たれた時点で行動を起こす組織が存在していてもおかしくはないと判断していただけにその動きは人形にとって予想外だった。

 あの血族の劣化コピーを作ろうとしていたのだとすれば、あの男は必要パーツである筈なのだ。

 あれはフローレアの叡智の結晶。フローレアが追い求め、数々の失敗の山を築いても辿り着けなかった場所なのだ。ただ、完璧を求め続ける研究者にはプログラム創始者の思想など理解出来ないのだろうが。

 

「なら介入して来るつもりはなさそうね。それなら、楽に私は私の本懐を遂げられる」

 

 そう呟いた人形の横顔はとても弱々しく、彼女の二つ名とはかけ離れて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐る恐るスーツを着た男の一人が、一際異彩を放つ暴力の権化のような主任に告げる。

 すると、面倒と言わんばかりに頭を掻き遺体を蹴り飛ばした。

 そろそろ、警察が動く筈だ。今回の一件、公安が表だって動けるだけの証拠がない。それが余計に腹立たしい。

 殺されているのは公安が使っているスパイ。しかも、主任の子飼いの狗だ。それをどうやって突き止めたのかは分からないが、全て潰されているのだ。

 こんな犯行が行えるのは元課長、フィアナ=シュトレーゼ、人形。数える限りしかいない。

 どれだとしても、警察や武装探偵に先に犯人を確保される訳にはいかなかった。

 

「ったく、ゴミが仕事増やしてんじゃねぇぞ! ただでさえ、アレの処分に失敗したっていうのによぉ! それで、当然何か掴んだんだよなぁ? 公安ばかり狙うような命知らずが誰か!」

 

「今の所は……全て同一犯と言い切る証拠もなく、全てが別件という形で警察は捜査しているようです。また、抵抗した様子がない事から、見知った身近な人間の犯行ではないかと。年の為に……二人一組の行動を心がけるようにとの伝令を既に出しています」

 

 その言葉に主任は報告したスーツの男の襟首を掴み、一気に引き寄せると徐々にその首を締め上げる。

 

「んな分かり切った事なんざ誰も聞いてねぇんだよ! そんなもん一々報告しなくても報告書読めば分かるからな! それに、何かってに一人二組の行動を心掛けろなんて伝令出してんだ? お前らは炙り出す為の消耗品だろうが! 分かったら全員に発信機を飲み込ませてマークでもしてろ!」

 

 主任はそれだけ命令するとスーツの男を近くのゴミ捨て場に投げ捨てた。

 フィアナの暗殺も失敗。人形の輸送も失敗。それどころか、元課長により政界内部に動きがある。

 このままでは三日天下になるのは必然だった。それを打破する為には結果がいる。状況を覆せるだけの結果が。その為には何としても今回の犯人を捕らえる必要があった。

 こんなワザとらしい落し物を残した奴を叩き潰す必要が……。

 完全に主任にビビっているスーツ姿の部下共を無視して逆辻は死体を見下す。

 面白くない。部下を殺された事がではない。殺され方が、だ。

 消耗品を勝手に潰しただけに飽き足らず、中途半端な芸術品にしか仕上げていない。恐怖に顔を歪ませる事もなく、自分のみに起こった事に気付けていない。詰まらない。本当につまらない。

 

「分かっちゃいねぇな……死が最大の恐怖じゃねぇんだよ」

 

 主任はそう呟くと大通りの方に目を向ける。

 そこには眼帯をして煙草を吹かす黒髪の女がいた。

 

「次はねぇぞ。失敗は死に繋がると思え。テメェの治療代にも相当な金を注ぎ込んだんだからな」

 

「分かってますよ。抉られた右眼が痛んで夜も眠れませんからね。それより、彩峰はどうするつもりです?」

 

「あぁ、あいつか。星伽に保護されて矢がるから手が出せねぇんだよ。一度、娘の安否確認で使いをこっちに出して来たみたいだが――魔剣に狙われていた娘もこっちに戻って来てねェ」

 

 彩峰に関しても何らかの処置を取っておかなければ部下への影響力に関わる。

 特にこの状況だ。敵前逃亡に対し、何らかの対処をしておかなければ部下を抑えきれなくなる。

 何より、奴が持つ情報を利用し星伽神社が立花を押してくる可能性も高い。

 

「なるほど。まぁ、あそこは狙撃するのも難しいですからね。それに、星伽は政財界とも繋がりが深いから下手に手が出せないって訳ですか。まぁ、興味ないですけど」

 

「あぁ、それからアメリカの武装探偵が嗅ぎまわってるようだから気を付けろ。公安施設襲撃の一件で向こう側の政治家の一人が依頼したらしい。最悪、消しても構わん」

 

 例の公安施設襲撃犯に関する情報も全くあがっていない。

 最悪の事態を想定し、毒ガスも用意していたのだがそれは収容されていた犯罪者の処分に留まっている。

 襲撃者の遺体も人形の遺体も発見されなかった事から、奴が自由になったのは確定。

 残っていた状況証拠からあの場に立花繚乱がいた可能性が高い事は分かっている。だが、どうして姿を見せないのかが分からない。久世遙にしてもあれ以降は網にすらかからない。

 

「へぇ、誰を消すって話をしてるんですかね」

 

「ナタリア・スティール――いつから話を聞いていやがった」

 

「私が嗅ぎまわっているようだから最悪消して構わないって所くらいからですね。公安0課さん」

 

 そのナタリアの言葉が嘘だという事にすぐに気付いた。

 喰えない女だ。だが、こういう奴に限って何かしらの策を講じているモノである。

 

「ここは日本だぞ。お嬢ちゃん。あんまし調子こいてると事故に遭ってもしらねぇぞ」

 

「そう。それは注意しなきゃいけないわね。ですが、武装探偵とは国際的な物ですので、その事はお忘れなく。そうそう。あまり、私の事をただの武装探偵と思っていたら痛い目を見ますよ?」

 

 全く引くつもりがないナタリアに思わず舌打ちをしてしまう。

 絶対に信念を曲げようとしない姿など立花繚乱にそっくりだ。

 だからこそ、主任もナタリアに対して警戒心を抱いていた。何か裏で掴んでいるのではないかと。

 

「しっかし、武装探偵は大変だねぇ。お前みたいな大物がこんなチンケな殺人の操作をするとは……」

 

「チンケね。本当にそうだと良いけど……調べた限り、殺された人間全員が内部情報をどこかへ流出させていた疑いがかかってますけどね。『外部からのリーク』によって――まぁ、週刊誌が嗅ぎつける程度のネタですが」

 

「嘘を書きたてて想像を煽るのが週刊誌の役割だろ。そんなんに一々気を回してたら、公安なんざ仕事出来やしねェよ」

 

 その言葉にナタリアは小さくだがはっきりとした嫌悪感を込めた舌打ちをする。

 

「曲らなければ世が渡れないなんて腐った世界ね。特に正しい者の口を塞ぐ事でしか平穏が保てない所なんて反吐が出るわ。本当にここで直々に消せないのが残念ね」

 

「そりゃどうも。こっちもテメェみたいなクソガキをここで消しておけないのは残念だわ」

 

 そう告げると主任はナタリアの横を通り抜け、繁華街へと消えた。

 そろそろ警察が事件を嗅ぎ付けてやってくるころだ。所管だなんだとうるさい連中に絡まれるのは厄介だし、公安部が関わっている事を気付かれるのは後々の始末に支障が出る。

 上層部への根回しをしているとは言え、そういう正義感に酔った連中は大勢いるのだ。

 自分の事を正しいと信じて疑わないそんなバカ者共。

 遠くからサイレンの音がけたたましく聴こえてくる。通算、九人目の遺体の発見。

 処理としては前の八件と同じ扱い。未解決事件扱いになるのだろう。

 

「あんまし、舐められるのも癪だしな。そろそろ、俺自ら捜査指揮を執るか……」

 

 主任が最後に自ら捜査指揮を執ったのは『人形』と『フィアナ=シュトレーゼ』を捕獲した事件。

 多くの犠牲を出したが同時に多大なる報酬を得たという曰く付きの事件が最後だ。

 それだけに眼帯を付けた女は楽しそうに頬を釣り上げる。

 主任が前線に出るという事は敵味方問わず、多大な犠牲が出る。成果主義その為にはどんな犠牲すらもいとわない。どんな汚い手段すらも利用し、敵を駆逐する。

 そして、その後には草木一本生えない焦土と化す。そんな男なのだ。この主任という男は。

 

「そう言えば、あの時邪魔された魔剣とも決着を着けないとな……」

 

 降りしきる雨にあの時、トドメを刺しそびれた相手を思い出し女は新たな標的として顔を頭に刻み込んだ。




 とある一室。
 心電図が小さく脈動している。それが彼が生きている事を証明していた。
 全身は包帯で覆われており、顔も疲れ切っている。それが彼が今も生死の境目をさまよっている事を証明していた。
 そんな苦しそうな顔をする青年の顔を濡らした冷たいタオルで拭いて行く。
 いつ目覚めるか、本当に助かるのかは教授にしかわからない。
 ただそれでも、必死に生きようとしている事だけは分かっている。
 裏社会の伝説の一つ。銀髪の狼。その最高傑作と言われるアリーサ=フローレア。
 一度、教授と戦闘し仕留める寸前まで追い込んだとまでイ・ウーで恐れられている穴倉の創始者の一人であり、今も恐れられている暗殺者。
 その女性と瓜二つであり、項羽が認めたという男性であるならばきっと「勇者様」に相応しいのではないか。そういう想いから看護を買って出たのだった。
 念の為に彼が目覚めたらいつでも渡せるように愛用していたという銃も確保済みだ。そして、服に関しても補修済み。ナイフやグレネードに関しても予備も合わせて用意している。
 ここに運び込まれてもうすぐ三週間になる。
 教授の条理予知ではあと三日以内に目を覚ます筈だ。
 いつでも身体を動かせるようにと毎日行っていた筋肉の衰えを押さえるストレッチを終えると一度、本業である会計の仕事へ戻る為に部屋を後にするのだった。





感想待ってます。
次の話はまた時間が空くと思います。
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