緋弾のアリア 血濡れた銀狼   作:浅田湊

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一つの終わり

「どうしたの? その程度で私を奪うなんてよくも言えるわね」

 

 ジャンヌと隻眼の女のチームワークとは程遠い猛攻を前に全く手も足も出ないのだ。

 ある程度の強者である事を予測していたのだが、まさかここまでとは想定の範疇を越えている。

 勝てない相手ではないのだ。そう、ここまで一撃が当てられない事がそもそもおかしいのだ。

 死角を突いた攻撃もまるでそこから来る事を知っていたかのように躱してしまう。

 明らかにおかしい。勝てない敵ではないとそう感じ取っているだけになおさらだ。

 その事に隻眼の女も気付いているらしく、軽く舌打ちをした。

 

「それがお前の実力って奴か。それだけの実力があればあの場から脱出できただろうが」

 

 あの場――恐らく、人形が公安に捕縛された事件の事を言っているのだろう。

 全ての資料が闇に葬られており、部外者がその内容を知るには当事者たちの口から語られる以外にない。

 ただ、そこが激戦だった事だけは理解している。つまり、そこから単騎で逃げ出せるだけの実力を持っていたのにそれを行わなかったと言いたいのだ。そんな理由――いや、一つだけ心当たりがある。

 そして、彼女がここでジャンヌ達を撒く事無く、留まり続けている理由。

 

「お前は待っているというのか。今も、あの男を」

 

 理解出来ない。それがジャンヌの抱いた思いだった。

 来るか来ないかも分からない。死んでいるのかも知れない男をここで待ち続けているのだ。戦場のど真ん中で。

 理解しがたい。そこまで目の前の少女があの男に拘る理由とは何なのだろうか。

 だが、よく考えてみればジャンヌも項羽も同じだった。あの男に導かれるかのようにしてこの場にいる。

 この場にいないあの男がこの事件の中心にいるのだ。そう、フォアナ=シュトレーゼという人間が。

 

「そろそろ、準備運動も終わった事だしここから先は少しだけ本気を出してあげる。私程度を越えられないのならばこの先に立つ資格はないわ。貴女にその資格はあるかしら?」

 

 人形はそう呟くとジャンヌの視界から消えた。

 いや、違う。ステップを織り交ぜる事によって視界を誘導し、死角に入ったのだ。

 その事に気付いたジャンヌはすぐさま、デュランダルで応戦しようとするがもう遅い。

 脇腹には深々とナイフが突き立てられていた。甲冑の隙間を上手く突いて。

 抜けば出血が激しくなる。刺された個所と痛みでそれを無意識に理解したジャンヌはそれを抜く事無く、筋肉に力を入れる事により無理矢理止血すると自らの超能力でナイフの刺さった周囲の肉を凍らせる。

 行動力は著しく低下するが、これならば続行は可能。仕切り直しという物だ。

 その光景に人形は少しばかり驚きの色を浮かべる。

 

「意外ね。貴方はもう少し、女らしい性格かと思ってた」

 

「黙れ! 私も一介の剣士だ」

 

 不意を突く形で斬りかかったのだが身体を逸らすだけで躱される。

 おかしい。何故、届かない。完全に不意を突いたはず。

 まるでこれでは赤子の手を捻るかの如く、あしらわれているではないか。

 なんなんだ。この実力差は。確かに、イ・ウーではジャンヌの立ち位置は下から数えた方が早い。

 だが、ここまで簡単にあしらわれた経験など皆無に等しかった。

 裏社会で名前も知られていないような人間には尚更の事だ。

 そんなジャンヌの言葉に人形は深い溜息を吐くと冷たくこう言い放つ。

 

「剣士? 笑わせないで――私の知っている剣士はもっと凍るように鋭い太刀筋だったわよ」

 

 身体が宙を舞う。蹴られたという事に気付いたのはそれからすぐ後だった。

 有り得ない。目の前の人形を恐怖する自分が存在している。項羽を前にしても恐怖心に襲われる事はなかった。

 まるで、蛇に睨まれた蛙。分かっている。このまま恐怖に呑まれたら為すがままだという事は。

 だが、次の一手が見付からない。彼女に有効打を与えられるような手が見当たらないのだ。

 そこまでの実力差。経験の差。覚悟の差。

 

「アンタ達では私を殺せない。言ったでしょう。私を殺せるのは私だけよ」

 

 人形がもう一人の隻眼の女を軽く壁へ叩き付けるとジャンヌへとMk23の引き鉄に指をかける。

 銃口。避けなければ殺される。それが分かっているのだが、身体に力が入らない。

 身の程を弁えていなかったのは自分の方か。滝夜叉姫に触発され、あの男に促され、ここにいる。

 ここまで来てしまった。だが、私には全てが役不足だった。身の程知らずは私の方だったのだ。

 それを受け入れるとゆっくりとジャンヌは目を閉じる。

 銃声が聞こえた。だが、痛みは来ない。いや、一撃で殺されたのかもしれない。

 そんな事を考えていると、どこからか声が聞こえてくる。

 

「ここが地獄じゃあるまいし、何を諦めてるんだ。おい――」

 

「久し振りね。クロエ――いつも貴方は私の前に立つ時はぼろぼろね」

 

 ジャンヌが目を見開くとそこには黒一色のコートを纏った女性。

 地下でジャンヌと対峙し、狙撃されながらも自分を逃がした少女。フィアナ=シュトレーゼがそこにいた。

 驚かずにはいられない。あの地下での狙撃は明らかに致命傷だったのだ。

 確かに失血死は免れるかも知れない可能性はあった。だが、こんなに早く立って動けるようになる筈がない。

 あの時、フィアナは絶望的な状況だった筈なのだ。なのに、なぜコイツはここにいる。

 どうして、私をまた助けているのだ。

 

「まぁ、あれだ。色々とあったんだよ。お前がいない間に」

 

「なら、貴方が抱えている剣士は貴女の彼女かしら? 少しだけ本当に少しだけ妬ましいわね。殺しちゃった方が良かったかしら?」

 

 先程までとは違い、その言葉に殺意は込められていなかった。

 ただ、久し振りに再会した友人と会話をしているかのような。この場に似合わない空気を醸し出している。

 まるで、いつかの続きを始めようとしているかのように。彼ら二人の時間を一言ずつ確認しているかのように。

 

「勝手にこいつと私の関係を勘違いするな。私とコイツはそんな関係じゃない! こう、上手く言葉には出来ないが、興味対象だ。そういう感情がある訳じゃない!」

 

「興味対象ね。それはその血統に? それとも、貴女の本能がそれを求めるのかしら?」

 

 何かしら言葉の齟齬を感じるのだが、それよりも先にフィアナの胸から脱出せねばならない。

 いつまでも、お姫様抱っこの光景を他者に視られるのは恥かしい。確かにそういう事を望んでいなかったというのならば嘘になる。こういう事をやられてみたかったのは事実だ。だが、実際にこういう状況でやられると恥ずかしさが込み上げてくる。同時に何故か、安心感も込み上げて来ていた。

 フィアナの胸に全てを預ければ――この少女ならこの状況を打開すると。

 

「俺とお前はそういう関係じゃないだろ。そういう可能性はあった。だが、今は断たれた道だ。俺達に残された道はどちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。決着を着けよう」

 

「そうね。楽しいお喋りの時間をもう少しだけ続けたい気持ちもあるのだけど、これ以上続けてしまえばあの頃を思い出してしまって手が鈍っちゃう。死んで貰える? 貴方が死ねば私は私を取り戻せる」

 

「取り戻せやしねェよ。それを踏まえてお前なんだ。俺達はそれすらも背負って行くしかねぇんだよ」

 

 ゆっくりと近くの壁へとジャンヌは降ろされる。

 一度目に対峙した時には気付かなかったが、フィアナの背中はとても大きかった。

 そして、その背中はどこか教授――あの人の背中に重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 火花が飛び散る。

 ナイフとナイフの鍔迫り合いだ。

 こちらは体調は万全とは言えない。いつもこうだ。万全の状態で挑みたい相手に対して、常に不利な状況で挑む羽目になってしまう。だが、それは人形とて同じ。

 監獄へと押し込まれ、その身体には明らかに衰えが見える。だが、それを補うかのように技にキレが増している。目を失った存在がそれを補う為に嗅覚が発達していくかのように。

 彼女はこちらの殺気に明らかに対応してきていた。

 

「相変わらず、化物染みてるな。本当に」

 

「貴方もね。随分とボロボロじゃない。立ってるのもやっとでしょう? その身体でどうして、ここまで出来るのよ。いつもいつも、貴方はどうしてそうやって自分を犠牲にして立ち続けていられるのよ!」

 

 実際問題、クロエの身体は既に限界だった。

 ここに来るまでにも相当な無茶をしている。イ・ウーで助けられたが、それでも完治しているわけじゃない。血は輸血で補えたがボロボロになった身体は替えが利かない。今、この時も全身を激痛が襲っている筈だ。

 それを薬で抑えているに過ぎない。分かっている。勝っても負けても、この代償は高く付くと。

 だが、それでも譲れない物がある。譲る訳に行かないものがある。

 確かに、彼女にとって。人形という存在にとって今は嘘でしかないのかも知れない。

 でも、確かにそこにあった物。彼女という存在に胸を痛めている人間の想いまで嘘にさせる訳にはいかない。

 

「決まってるだろ。お前の為だよ。それ以外の何の為にここに来るって言うんだよ!」

 

 人形のナイフがクロエによって弾かれる。体勢を崩す。

 だが、すぐにその状況に片手に持ったMk23をこちらの首筋に照準を合わせると引き鉄を引く事で自壊を打開しにかかる。迷いのない動き。人殺しを何とも思わない。ヒトデナシの動きだ。

 それを距離を取る事でクロエは避ける。仕切り直しだ。

 

「私の為? 誰がそんな事を求めたのよ。私は――」

 

「知ってる。お前のコードネーム『人形』はその人格すらもインストールされた物でしかない。伽藍同な精神に他者の思考をインプットする事で他人になり替わる。それがお前だ。今この時ですら、その感情がお前の本来の物ですらないのかもしれない。そんな事、とっくの昔に知ってるんだよ!」

 

 プログラムの過程で自己防衛の為に全ての人格を失った少女。それが人形。

 自己というものを確立するものがなく、それ故に他者の意識を自分にダウンロードする事によって自己を保とうとする。顔を剥がれた人間。プログラムの悲惨な犠牲者だ。

 その力故に最も答えに近いとされていた。理由は簡単だ。他者の精神をダウンロードする際にその技すらも自らの物としてしまう。まるで、それが最初から自分の物だったかのように。

 それが彼女の特技であり、『人形』と呼ばれた自己を持たない兵器だった。

 クロエはOts-38をホルスターから引き抜くとそれを人形へ向ける。

 銃弾はリボルバーに入れられているだけ。予備はない。五発。

 それと同時に人形を撃つ事をクロエは僅かにためらっていた。それを人形が見逃すはずがない。

 

「だから、私を殺すのを躊躇うの? 言った筈よね。私はあの時の続きをするって」

 

 分かっている。この場でそういう考えでいる方が失礼だという事は。

 ここにも覚悟を決めてきた。けれども、人形とこうして顔を合わせて再会して色々な感情が込み上げてくる。

 頬に赤い線が走る。間一髪で銃弾を躱したのだ。後一瞬でも反応が遅れていたならば、頬に風穴が開いていた。

 相手は殺す気出来ている。いや、本当に殺しに来ているのだろうか?

 ここまでの発言にしてもそうだ。何かがおかしい。

 もしも、自由になることを望むのならば施設を逃げ出した後、ここに残る理由はない。

 そう、ないのだ。クロエが彼女に拘った理由は彼女の親友との約束。彼女を助けるという約束を果たす為だ。

 しかし、彼女自身がクロエに拘る理由は実のところない筈なのだ。

 人形が言う枷は既にない。あの時、主任がすべて焼き払ったのだ。

 悩みを抱えながらもクロエは人形と再び距離を詰める。この距離でなら、Mk23は使えない。

 銃を撃てないクロエが人形に勝つには銃器の使用が制限されるこの距離で勝負をかけるしかない。

 

「あぁ、そうだな。俺にお前は救えない」

 

 いつだってそうだ。

 これまで、クロエに救えたものはない。

 いつだってその手から取り零し続けてきた。

 零して失くして、そうした結果としてここに立っている。

 結局は多くの躯の上に立っているに過ぎないのだ。

 たったちっぽけな違い。人形とクロエの違いはただ一つ。

 救われたのか、救われなかったのか。それだけだ。

 

「そうよ。貴方に私は救えない。だから、死んで」

 

 視界が暗転する。

 当然だ。無茶な運動をしていれば傷も開く。そして、その傷口を人形は何の迷いもなく抉り取った。

 その両手で。容赦なく。

 躊躇えば死が待っている。それは分かっている。頭では理解している。

 だが、それを行えない。それを行ってしまえば、戻れなくなることを知っているから。

 結局、同じなのだ。クロエも人形と同じように儚い夢を見続けているのだ。

 絶対に叶う事がない。ごく当たり前の一般的などこにでも有り触れた。そんな人生を。

 

「一つ聞きたい。お前は俺を殺して、その先に何を視る」

 

 気付けばクロエは人形に馬乗りされていた。両腕は封じられ、頭にMk23を突き付けられる。

 絶体絶命の状況だ。どう足掻いた所で打開策は見付からない。

 

「何も変わらないわ。また、始まるだけよ」

 

 その人形の言葉にクロエはようやく決心がついた。

 また、始まる。そう、最初に戻るだけなのだ。

 彼女はまた全てを嘘にする。何もかもをなかった事にする。

 そして、壊れ続けるのだ。自分が壊れている事すらも忘れて。

 

「そうかよ。なら、俺は死ぬわけにはいかない。もう、これ以上はお前に間違えを続けさせない」

 

 そう告げるとクロエは人形の顔面目掛けて頭突きする。

 そして、僅かに拘束が緩んだのを確認すると抜け出し、右頬に拳を叩き込む。

 

「やってくれるじゃない……」

 

「悪い。こっからは本気でお前を殺しに行く。だから、お前も手を抜くなよ」

 

 人形が人形であり続ける限り、プログラムは終わらない。

 クロエがクロエであり続ける限り、プログラムの有用性を示し続けてしまう。

 どちらの存在も常に矛盾を孕んでいる。どこまで行っても同じ穴の貉。

 

「フローレアが末端。クロエ=フローレア」

 

「第二最終試作品『人形』」

 

 互いに自らの名乗りを行う。ここから先は遊びはなしだ。

 言葉の掛け合いもない。ただ、ぶつかり合いのその衝動の中で語り合う。

 何度も火花が散る。刃をぶつけ合う度に二人の繋がりが一つ一つ切れていく。

 何の感情もない。ただ目の前の存在を排除する。その衝動に呑まれそうになる。

 

「そうよ。それでいい。私達は所詮、道具なのよ。人を殺す事でしか自分を保てないね」

 

「違う。俺達は……俺達は人間だ」

 

 どうして。そんな悲しそうな顔をしながら、そう叫ぶ。

 それはお前が一番否定したい事だろう。

 

「俺達は間違えを犯しながらも前に進むしかないんだよ。いつか、その罪に裁かれるまで、な」

 

 きっと、いつかその罪。その責任を取らされる時が来るのだろう。

 俺達に出来るのはその時が来るまで足掻き続けるだけだ。それ以上の事は出来ない。

 もしも、それを止めてしまえば俺達はただの獣になる。畜生になる。

 矜持も尊厳もなくして――。

 

「俺はお前を救いたかった。それが傲慢だったのは分かってる。お前にとって俺は…………」

 

 勝負は一瞬で決まった。

 いつだって命懸けの戦いは一瞬で決まる。

 人形とクロエの勝者を分けたのはただ一つ。生への執着心だった。

 クロエの右手の甲には大きな穴が開いていた。指も上手く動かない。

 だが、倒れていたのは人形だった。わき腹は赤黒く染まり、ゆっくりと地面に赤い水溜まりを作った。

 

「なんで……。そんな顔するのよ。そんなんじゃ、この先やっていけないわよ。この先は私なんか目じゃないような化物達が待ち構えてる。そいつらを相手にするんでしょう?」

 

「あぁ、そうだ。その通りだよ」

 

「本当に大丈夫なのかしらね。貴方はいつも優しいから。だから、その優しさをここに置いて行きなさい」

 

 その言葉に導かれるようにOts-38を人形の首へと向ける。

 引き鉄が重い。鼓動が早くなる。指を弾くと同時にクロエは叫んだ。

 

「そう。それが貴方の答えなの……。貴方らしいわね」

 

 銃弾は人形の右。数センチの所に着弾していた。

 分かっている。撃ち殺さなければ失血死する。彼女の事を思うならここで彼女を殺すべきだという事くらい。

 それが彼女の為だという事くらい。

 人は一生に一人しか殺せないのだとしたら、クロエに人形を殺す資格はない。

 もしも、ここで人形を殺す事を選んでしまったのなら、それを嘘にしてしまうから。

 

「すまない。俺にお前は殺せない」

 

「分かってた。でも、良かった。私の最期を看取ってくれるのが貴方で」

 

 そう告げると人形は弱々しく微笑み、クロエに口付けする。

 初めてのキスは血の鉄臭い味がした。永遠に消える事のない。血の味だ。

 

「さようなら。私の愛しの人。貴方は生きなさい」

 

 そう告げると弱々しい手でクロエを突き飛ばした。

 目の前で人形の頭がはじけ飛ぶ。それが狙撃によるものだと気付くのに数秒を要した。

 全身が人形の脳漿と血で染まる。目の前にあるのはただの物言わぬ骸だ。

 その物言わぬ骸を愕然と抱き締めると大声をあげてクロエは泣き叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

「終わったわね。これでもうあの子は光の下には帰って来ないわ」

 

「それってどういう意味ですか!?」

 

 ビルの屋上。双眼鏡越しに眺めていたその光景に久世遙は哀しげにそう呟いた。

 だからこそ、二人がやり直す可能性を潰した主任が許せなかった。

 ここから先はただの私怨だ。公安としての仕事ではない。ただ、難いから主任を殺す。

 私情で動くのは愚の骨頂だという事は分かっている。それを行えば、公安に戻る事は出来なく事もだ。

 だが、それでもその選択を選ばずにはいられなかった。

 

「すいません。繚乱さん――私はどうやらここまでのようです」

 

 ケースからM82A1――アンチマテリアルライフルを取り出すとそれを狙撃した主。主任へと向ける。

 対物ライフルを対人に使うのを禁じられているのは知っている。だが、あの男を確実に仕留めるにはこれぐらいの装備が必要なのだ。何より、相手は軍用ヘリに乗っている。それを落とすにしてもだ。

 

「地獄で会いましょう? 主任」

 

 何の躊躇いもなく対物ライフルの引き鉄を引く。

 一発の銃弾はヘリのテールローターを撃ち抜き、姿勢制御が出来なくなったヘリはフラフラと墜落。炎上した。

 逃走経路はこれで塞いだ。あの高さからの墜落。無事では済まないだろう。

 あの悪運の強い男の事だ。確実に止めを刺さなければ、また目の前に障害として現れるだろう。

 だが、今は武装探偵を連れている。無茶をする訳にはいかない。

 まだ、何名か鼠が迷い込んでいる事だし、彼らに任せるしかないだろう。

 彼らがどちらの味方なのかまでは分からないが……。

 

 

 

 

 

 

「墜落したヘリの場所まで来てみれば、死にかけの屑がいるとはね」

 

「う、うぁあ……鬼塚……千尋」

 

「言われなくても自分の名前くらい分かってるわよ。でも、お前はここで死ぬ」

 

 ロスアラモスは人形とフローレアの戦いの映像を手に入れた時点で人形に価値なしと判断した。

 そこから先は自由行動だ。ここにいるのは鬼塚千尋としての個人的な意思だ。

 バカな教え子の尻拭いとでも言えるかもしれない。

 

「お前に殺されるってか? 亡霊の分際で……」

 

「そうよ。貴方はその亡霊に殺されるのよ。私も一応は武偵校で教師をやってる。あの子に対して思う所が無い訳でもないの。だから、貴方がやった事も許せないと思っている私がいる」

 

「許せないだぁ。お前も同じだろうが。何重にもスパイをして、尻尾を振りご機嫌を取る事しか能がない奴隷の分際でエラそうにモノ言ってんじゃねェぞ!!」

 

 そう。その通りだ。

 だが、そういう生き方をしていてもそれでも曲げられないものがある。

 煙草に火を点けると、右手の指をゆっくりと弾いた。

 

「そうね。私も相当な屑よ。でも、私は大人よ。子供じゃないわ」

 

 ズタズタに引き裂かれた遺体を眺めながら、鬼塚はそう呟いた。

 これから先、あの坊やがどういう道を選ぶのかは分からない。

 だが、それを選ばせてしまったのは周りの大人だ。選んだのは彼だが、選ばせてしまったのは。それ以外の選択肢を全て消し去ったのは他でもない周囲の大人だ。

 

「それで貴方のご主人様はどうするつもりかしら? 事と次第によっては私が貴方をここで止めるけど?」

 

 そう告げると背後に立つ男を鬼塚は睨み付けた。




公安の主任と人形を中心にした話はここでいったん終了です。
前回の更新から一気にお気に入り登録が増えて少し驚いています。
殆んど、原作に絡めず好き勝手やって来たので色々と足らない部分もありましたが、一応予定していた部分までかけたから良かったかなと思っています。
この先の展開につきましては原作通りに進めていくか、半ばオリジナルで話を進めていくかは考え中です。
感想等ありましたら、頂けるとここから先の話を書く励みになります。
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