中空知が校庭へたどり着いた頃には彼女の姿はそこにはなかった。
そこにあったのは倒れ伏した神崎アリアと膝を着いた戦姉妹。そして、数名の公安の人間。
間に合わなかった。事件の後も話す余裕もなかった。手を伸ばす事すらできなかった。
救いたいと思いながら、中空知もまた心のどこかで『フィアナ』という人間に恐怖していたのかもしれない。だからだろう。この彼女のいない状況に中空知はどこか安堵を覚えていた。
答えを先延ばしにできたことを。
そんな中空知の前に影が落ちる。顔をあげるとそこには車椅子の女性がいた。
「初めまして。貴女が中空知美咲さんね」
初めて会う顔だ。だが、その顔を見た瞬間に背中に悪寒が走り、差し伸べられていた手をとっさに弾く。
目の前にいたのは公安0課元課長。現在の公安0課の課長代行だった。
当然、その弾いた音に反応し彼女の部下である間宮伊織が動く。元々、つい先日の一件で中空知はイ・ウーに接触している。十分に捕縛するだけの理由はあるのだ。
だが、それをただで許す東京武偵校ではない。上からの襲撃者に中空知と課長代行から距離を取る事となる。
「はぁ、こんなところに公安さんが何の御用なんだ? しかも、私の教え子に」
「どの口がそれをいうのか教えていただきましょうか? ――絡新婦、貴様には公安部に対するテロの容疑がかかっているんだが? あの男にトドメを刺したのはお前だろう」
片腕のない鬼塚はその言葉に面倒臭そうに頭をかいた。
公安へのテロ容疑に関しても心当たりがある。だが、あの場で誰が何名殺したかなんてスコアを付けられているとは思えないというのが彼女の結論だった。
つまり、間宮伊織の言葉はブラフ。主任殺しに関して確信を持っていたとしても、それを立証できるだけの物証がない。糸使いなどこの世界、数えるほどいる。その上、わざわざ犯行を誇るような精神を鬼塚は持ち合わせていなかった。それ故に彼女を押さえるには極秘裏に行うしかない。それをこの場で指摘する理由は――ない。
「何のことをおっしゃってるのかはわかりませんが、お帰り願えないのでしたらこちらにも考えがありますよ」
「悪いけど、このまま何も手土産なしって訳にはいかないのよね。あの女が動いたということは近々、穴倉は大きな行動を起こす。その上、英国との接触。それなら、こちらにもそれなりの対処が必要でしょう? 例えば、穴倉の情報網を管理している『撫子』の抹殺、とかね」
その言葉に中空知は思わず、表情を凍らせる。
わかっている。頭ではそうやって顔に出すのは失策だと。だが、出さずにはいられなかった。
目の前の女性がここで中空知と接触した理由。それは中空知が撫子と接触しており、面識があるから。
しかし、手土産とは何か。誰に対してなのか。
気付くと公安0課課長代行は再び、中空知に手を伸ばす。だが、鬼塚は間宮伊織と睨み合いになっており動けない。蘭豹も他の公安の人間への牽制。不味い。そう思い目を閉じた瞬間、何かが顔の前を横切った。
「手土産とは随分と物騒ですね。そのようなものなどなくとも、星伽は話し合いの場を設けると思われますが」
「あらあら、随分と他人行儀ね。貴女方が何を思って穴倉に付いたかのかわからないけど、それは我々からすれば悪でしかないのよ。でも、それを追求しようにも貴方達は『あの化け狐』を盾にしらばっくれるでしょう?」
「――――残念ながら、今の私は星伽から勘当されている身。星伽風雪が穴倉に付いたのは個人的な理由からです。他のバカと違い、外の情勢に関しては知っていますからね」
風雪自身、ここでの課長代行の追求に内心では焦っていた。
当然だ。彼女の目的は撫子を潰す事。それと同時に星伽に牽制を行い、余計な行動を起こせなくすること。
だが、そのどちらも過程に過ぎないのは薄々風雪も感じ取っている。
その裏で一体、何を企んでいるのか。撫子の殺害を行えば、穴倉は今後の作戦行動に大きな支障を来すことになる。星伽へ穴倉への協力を追求すれば、政治への介入が一層しにくくなる。
その先に何を見ているのか。対局を見れば、現状はそれは悪手と理解している筈なのだ。課長代行のこれまでの経歴。課長時代に自らの職を辞しても公安を存続させようとしたことなどその最たるものだろう。
「そう。今の貴方は星伽と無関係と……。そんな戯言を本当に信用できるとでも?」
課長代行は中空知から目を放すと風雪を睨み付ける。
公安としては星伽という国政に影響力のある人間が急速に穴倉と接近されては動き辛くなる。そこへ牽制をしたい。つまるところ、現状の風雪が邪魔なのだ。
最悪の事態は風雪が穴倉の幹部になってしまった場合だ。そうなってしまえば、星伽の影響力は更に強くなる。
現状の星伽の立ち位置を考えれば、確実に今後のイ・ウーに対する処遇にも口を出してくるのは目に見えていた。何せ、色金。アレが絡んでくるのは周知の事実。黙っている輩ではない。
「理解に苦しむのよね。星伽から離れてでも貴女が欲しいものがあるようには見えないのよ。所詮は歯車。それもあなた達の崇める神からのお告げだったのかしら?」
「だとしたらなんです? この身一つで世界が救えるのならば、喜んで奉げましょう」
「狂信者か……。伊織、引き上げるわよ。これ以上、長居は無駄」
課長代行は忌々し気にそう呟くと撤退命令を出す。
これで助かった。鬼塚と伊織の戦闘も起こらず、公安との衝突は回避された。その筈なのだが、中空知の中で何かが腑に落ちなかった。いや、それが何かなんていうのは彼女にはわかっている。目を背けていただけだ。
そして、それをここで言う事がどういう事なのかもだ。
「私に用があったんじゃない、んですか? イ・ウーのメンバーと接触した事ですか! それとも、撫子と接触した事ですか! それが悪だと断言するのなら、貴女も同じ穴の貉じゃないですか」
「…………へぇ。言うじゃない。ただの小娘と見誤っていたのは私の方ね。でもね、ここでソレを認めるってことは貴女自身が武装探偵である事を否定するのと同義だけど?」
「だったらなんなんですか。その程度で武装探偵であれなくなるのなら、そんなモノに何の価値があるんですか。……あの人たちは皆が皆、必死だった。貴女の……あなたの手のひらで踊るためなんかじゃない!」
中空知の言葉に課長代行は少しだけ考え込む素振りを見せる。
それが悪だくみなのか、本当に言葉を選んでいるのか中空知にはわからない。
目を閉じると、深いため息を吐く。その主任代行の行動に中空知は身構える。
「買い被りすぎよ。実際、もしも本当に思い通りになっていたとするなら、私は主任と彼の共倒れに賭けていた。でも、実際は彼は生き残った。でもね、それが彼を復讐鬼にしてしまった。所詮は獣よ。言葉を介すこともない」
「違います! あの人は――――」
「化け物よ。そして、次の標的も決まってる。私達、大人にできるのはせめて安らかな眠りを与える事。それが正義というもの。アレはもう止まらないわ。すべてを食らい尽くしても、飲み干しても待っているのは空虚だけ」
課長代行のその言葉に中空知は何も言い返せない。
わかっている。あの人のすべてはあの場で死んだ『人形』。
そして、彼の次の標的は恐らく、続きを行っているロスアラモス。
計画に終止符を打つ事。でも、その先に何があるのか。その目的を達した先に彼は何を見るのか。
戻る場所もない。ただ、先に進むことしかできない。足を前に進める事しか。
死に場所を求める幽鬼。そんなモノにさせていい筈がない。そんな事を彼女が望んでいる筈がない。
「今はっきりわかりました。私はあなたの事が嫌いです」
その言葉が中空知の覚悟だった。
それが堕ちるというのなら、堕ちるところまで堕ちていい。
武装探偵失格というのなら、それでいい、と。
誰かに寄り添うのが武装探偵だというのなら、一人として救う事の出来ない武装探偵に何の価値がある。
正義とか悪。そんな線引きで一体、何が守れるというのか。
あの一件に関わり、人脈を得て出した答えがソレだった。
「残念ね。次に戦場であったら容赦せずに潰すことにするわ。貴女みたいなタイプは敵に回すと厄介だから」
課長代行もその言葉に初めて中空知を対等に見た。
武力として脅威である鬼塚でもなく、その立場が脅威である星伽風雪でもなく、彼女をだ。
だが、それは同時に敵対の意思表示でもある。それは彼女が今回は見逃すと言っても、他は違う。
一人の公安の人間が無言で動くと中空知に斬りかかった。
「えっ」
咄嗟に反応ができない。
当然だ。元々、中空知にそういった態勢がない。殺意に対しての耐性もだ。
ソレに加え、鬼塚も蘭豹も睨み合いで動けない。動けば確実に均衡が崩れてしまうからだ。
刃が迫る。だが、それが中空知に届くことはなかった。
「へぇ、まだこの状況でも動ける人がいたんだ」
中空知の目の前にいたのは――ダガーでその刀を受け止める彼の戦妹、一里塚の姿だった。
だが、纏っている雰囲気はいつもとは違う。明らかにその目は人殺しの目。
その背中はとても大きい。だが、中空知にはとても寂しく見えた。
「本当は出てくるつもりはなかったんですけどね。でも、貴女に対応できる人、他にいないでしょ」
そうやって会話している間も二人の間では刃と刃がぶつかり、火花が飛び散る。
対等とは言いづらい。だが、完全に一里塚が押されているわけでもない。
その一里塚の姿はまるで彼が重なって見える。戦妹だからだろか? それとも、別の理由からだろうか。それがどちらかなのか中空知にはわからない。しかし、そんな均衡もすぐに崩れ去る。
互いにまだ遊びを残しているのだ。崩れるとしたら、そう――――相手が本気になる事。
「なら、私も人肌脱ぎましょかね」
その一言で相手の様子が豹変する。例えるなら、タガが外れたとでもいうのだろうか。
一撃毎に一里塚が押され始める。ただの薙ぎ払いですら防ぎきれず、押し戻される。
それが意味することは一撃の重さが増えた事。一撃の重さが増えれば、容易に受けられなくなる。受け続ければ、腕が使えなくなるからだ。それを一里塚もわかっているのだろう。苦い顔をしている。
そんな猛攻を受ける中、ダガーを持つ腕が痺れているのか右手を庇うように一里塚は動いた。
「化物め。『――なら、私も少しだけ本気になってあげる』」
まるで、別人のような口調で一里塚がそう告げると誰の間からも突然、消えたように見えた。
後に残るは赤き血しぶき。それと共に刀を持った公安の右腕がグチャグチャ折れ曲がる。
ズタズタにボロボロに。容赦なく。
どんなに一撃が重くとも、当たらなければ怖くない。触れられない刃など、一里塚の敵ではない。
一撃必殺も当たるからこその一撃必殺なのだ。
再び、現れた一里塚は妖美にダガーに付着した血をふき取ると、ナイフを懐へと仕舞い込む。もう、勝負は決したと言わんばかりに。
『はぁ、本当にこのバカは自分を過小評価し過ぎなのよ。そして、力を過大評価し過ぎ。それでどうする? まだ続ける? このバカに免じて四分の一殺し程度で済ませてあげたけど』
右腕の指は動くが、感覚がないのだろう。公安は軽く舌打ちすると刀を鞘へと納めた。
それは今回は引き下がるという意思表示。
その様子に一里塚も引き下がるとこの場での戦闘行為は終結した。
色々な禍根を残して――。
――――同時刻。
「大体の準備は整いましたか」
パソコンに向かい合った車椅子の少女は深くため息を吐いた。
ここに残されたデータのほとんどは初期化。別の拠点へシステムを移行。
ハードも再生不可能なレベルで破壊しておいた。公安がここを突き止めたとしても、彼らがデータを確保することはない。全ては闇に沈むというものだ。
「あとは私の後継――」
穴倉の幹部、撫子。その意味を知っている以上、その席に座る者は撫子でなければならない。
そもそもの問題として、それだけの情報網を保有していることが絶対の条件となる。
そして、その責に耐えるだけの精神力と冷静な分析、判断力。
現在、後継として考えているのは三名。その三名の全てが穴倉の人間ではない。
ここから先に広がる戦場。その場に撫子という名を冠した『塚原 送火』は自分の身体の限界を感じていた。
元々、病弱であったことも相成りいつ倒れてもおかしくない。そんな危うい綱渡りをしてきたのだ。
だが、ここから先にそんな甘いことは許されない。気を抜けば死ぬのは身内だ。
「武闘派で私にライバル心を燃やす『山猫』、未熟な原石である武装探偵見習い『中空知美咲』」
最後の一人に関しては最後の手段だ。山猫以上に堅物な上に彼女が撫子に就任した場合、穴倉は二つに割れる。
そうなると期待したいのは中空知美咲。素質は十分に見せた。まだまだ他の二名に比べれば未熟の一言に尽きるが、彼女自身の覚悟はそれを補うと期待している。
しかし、その選択権は彼女にある。無理強いをして撫子を襲名させても組織の瓦解を招くだけだ。
何より、今後は次期盟主の補佐も行わなければならない。あまり表だって動かなかった時とは違うのだ。
「撫子様――こちらへ。既に脱出の準備は整っております」
「その必要はありません。私にも穴倉の幹部としての矜持があります。恐らく、私を連れて行かなければ十分に逃げ切れるはずです。足手まといは私なのですから」
保険として夾竹桃を確保しておいてよかったと撫子は心の底で安堵する。
公安はどんな手を使ってでも私から情報を引き出そうとするだろう。それを阻止する為に私自身を廃人にする毒物を彼女から受け取っているのだ。それを飲めば、二度と日常には戻れないだろう。
「ですが……。我々の任務は貴女様の護衛です」
「だから言ってるでしょう。その任務は次の撫子に引き継がれました。今の私は『塚原送火』でしかない。ただの一介の情報屋にすぎません。それでもとおっしゃるのでしたら、これは姉さんに渡して下さい」
そう告げると一通の便箋を手渡した。
公安は確実に撫子を押さえに来る。それは分かっている。時間も残されていない。こうして言い争っている間にも逃げ道は狭まっている。
唇を噛み、苦渋を飲み込むとその便箋を撫子から受け取った護衛は無言で扉に向かう。
「ご武運を」
「貴女こそ」
そんな会話から三時間後、すべての作業が終わりコーヒーを飲んでいると社長室の扉が勢いよく蹴破られた。
「無粋ね。そんなに慌てなくても逃げも隠れもしませんよ」
「穴倉幹部――通称、『撫子』。罪状を上げればきりがないが、貴様に逮捕状が出ている。ただし、抵抗するようなら殺しても構わないそうだ。意味は分かるな?」
向こうとしても生け捕りにして情報を引き出したいという腹があるのだろう。
だが、それをそのまま飲み込むのは癪だ。抵抗する事が出来ない弱者でしかない送火には特に。
送火は細目を開けるとコーヒーを一口含み、深いため息を吐いた。
「せっかくのコーヒーブレイクが台無しじゃない。それに、ただで捕まるようならここまでの地位に上り詰めていないと思うのだけど? 違うかしら?」
そう告げると隠していたG19を引き出しから取り出すと、それを突入してきた人間に向けようとする。しかし、普段から慣れていない行為な上に車椅子だ。その行動に即座に襲撃者は発砲。右肩を撃ち抜かれ、だらりと垂れ下がりG19は虚しく床を転がった。
「使い慣れもしない武器に頼ったか。愚か者が」
「愚かなのはどちらです? もはや、私に価値などありません。既に託しましたから」
拳銃を突き付けられた状態でも毅然とした態度で送火は睨み返す。
死など恐れていない。今更の話だ。病に侵され、いつ倒れてもおかしくなかった。少しばかり長生きした。その程度の感想だ。だからこそ、その力による死への恐怖を与える事は彼女にとって恐怖になりえない。
後悔がないといえば嘘になる。姉の事。あの方の事。
自分に嘘をつき続けてきた。こんな体だ。必ず彼の足を引っ張ってしまう。隣に並び立つ事は出来ない。
本当はまだまだ生きていたかった。彼の背中を追い続けていたかった。でも、それはもう叶わぬ事。
「殺したければ殺せばいい。私にも矜持があります。貴女方に情報は渡さない」
それは送火が撫子として行える最後の仕事だ。
口を割らない。物言わぬ存在になる事。
口の中に隠していたカプセルをかみ砕くとゆっくりと目を閉じた。
一応、姉への言伝は頼んだ。だが、不安。報復を行わないだろうかと。
もしも、姉が報復を始めた場合、情報部門だけでなく物資の補給のラインも崩れる。それは穴倉にとって死活問題になるからだ。土台を失えば組織は立ち行かない。まして、これから大掛かりな戦争を起こすなら余計に。
意識が保てなくなる。体が寒い。何度も体験した。死が近付いてきている。
「この状況でも矜持か。そんな病弱な身体でよくもまぁ……。他に道もあっただろうに」
「黙れ! 何も知らないお前らが穴倉を語ろうとするな! あのお方を貶すな! 他に道もあっただと? 生き方は私が決める。お前たちにそんな目で見られる筋合いは……な、い」
襲撃者の一人に掴みかかろうとするが、うまく体に力が入らず車椅子から転がり落ち床に倒れ伏した。
身体がいう事を聞かない。視界が揺らいでいく。ゆっくりと死が全身を侵食していく。
あぁ、ここで私は終わりか。そんなことを送火は感じ取りながら重い瞼を閉じた。
「しかし、良かったの? 一応、情報は私の毒で流出しないにしても救出出来た筈よね」
「やだなぁ。死んで貰わないと大将がまた日向に戻っちゃうじゃないか。言ったでしょう? あの人には盟主を継いでもらう。僕らの王になって貰わないとね。その為の人柱だよ」
撫子の捕縛されるシーンを監視カメラごしに眺めながら、ブラックのコーヒーに角砂糖を三つ入れて一気に飲み干し、唇を舌で嘗め回すと楽し気に笑った。その様子に夾竹桃は軽蔑の視線を浴びせるが、それ以上は口にしない。別段、自分から関わる理由がないからだ。
目の前にいる黒霧有栖――『山猫』。性格は歪み切っているが、実力は穴倉でも上位に食い込む存在。
今回、ここに夾竹桃がいるのも事の顛末を見届ける為だ。
「そんな目をされたらまるで僕が悪者じゃないか。そもそも、彼らに情報を流したのは僕じゃないからね。まぁ、彼らがあそこに行きやすいようにトラップを解除したのは事実だけどさ。僕がやったのはそれだけ。遅かれ早かれって奴だよ。それに、彼女との約束通りに脱出経路は確保しただろう。ほら、僕は悪くない」
まるで自分は無罪だと言わんばかりの発言に夾竹桃は呆れてものが言えない。
確かにイ・ウーにもこのレベルの自己中心的な人間はいたが、ここまで酷くはなかった。
ただ、そういう意味ではこちら側の正しい在り方ではあるのだろう。他人を蹴落としてでも上に行こうという姿勢という意味合いでは、なのだが。
「さて、と。これから先は撫子の襲名の為の競争だ。まぁ、最後に勝つのは僕だけどね」
「忠告をしておいてあげる。そんな考え方だと、足元を掬われるわよ。あなたが思っている以上に人の可能性というものは予測不可能。案外、予想外な相手が襲名するんじゃないかしら?」
事の顛末が終わり、ここに残る意味合いを亡くした夾竹桃はそう告げるとこの場を去る。
その手には三枚のレポートが入った封筒が握られていた。
中空知美咲、黒霧有栖、――――の三名に関する情報が記されたレポートが。
一応、ネットは開通しました。
のんびり更新を再開していこうと思ってます。
感想待ってます