緋弾のアリア 血濡れた銀狼   作:浅田湊

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読み違え

「まじですか……」

 

 任務を言い渡されて秘密裏に潜入したのはいいものの、辺りは戦場だ。

 恐らく、真正面から強行突破してきた人間とは別の存在が動いているのだろう。目的は分からないが、厄介なのには変わりない。

 どうするべきか……数が多過ぎるだけに殲滅後では標的を確保出来ないかもしれない。

 そもそも、この状況だ。標的を生け捕りはほぼ不可能と言っても過言ではない。武装は整っていても、逃走ルートを確保出来ていないままこの戦場を抜けるのは無謀だ。

 まぁ、今回の任務は標的から情報を引き出す事――

 拷問で吐かせてあっさり殺してしまっても問題はないだろう。

 死人に口なし。誰がやったかは永遠に闇の中だ。

 そう考えながら、極自然な動きで身を屈めた。

 

 目の前にあった花瓶が割れ、辺りが水浸しになる。

 

「武装探偵……ですが、我々の任務は確保、及び証拠隠滅故」

 

 ご丁寧にどうもと言ってやりたいが言葉をかける余裕はない。

 勝負は一瞬で決まる。銃器は――UMP

 それだけではどこに所属する組織かは分からないか……ただ、身を屈めていなければ蜂の巣になっていただろう。つまり、殺しには慣れているという事。

 PMCかそれに類する組織から送り込まれたという事か?

 だが、PMCがここで動く理由が見えて来ない。そして、何より公安がこの事を掴んでいない筈がない。国内でPMCの介入など奴らが許す筈がないか――なるほど、そう言う事か。

 ここに送り込まれた理由は時間稼ぎ。

 そう考えるならば、全てに納得がいく。わざわざ、標的を生きたまま捕えろという不可解な命令。

 脱出ルートを設定していない事。

 誘き出して一網打尽にするつもりか……そう簡単にいくとは思わないが

 ナイフを懐から取り出すと物陰から相手の様子を窺う。

 覆面で顔は分からないが、確実に十代後半。二十代はいっていない子供だ。しかし、銃器の扱いには慣れていても、実戦投入は初めてなのか辺りの確認ががさつだ。

 これなら容易に隙を突いて殺せる。

 そう考えると持っていた携帯を床に置き、匍匐前進で移動を開始する。

 そして、ある程度移動したところで携帯に電話をかけた。

 当然、そちらへ覆面は銃を乱射しようとする。読み通りだ。

 視界には俺はいない。確かに真正面からサブマシンガンに挑むのは愚かだ。

 だが、射線にいない状態で背後を付けばこれほど容易いものはない。銃器は確かに一撃で大きなダメージを与えるがその多くは失血死だ。

 つまり、銃器がこの世で最も凶悪な武器の一つであったとしても、それが最強である理由にはならないという事だ。

 何より、銃器で戦果が決まるのならばベトナム戦争はアメリカが勝利していただろう。

 

「動くな」

 

 背後から一気に迫り、首筋にナイフを突き立てる。少しでも動けば刃で首を掻っ切れるように肌と刃を密着させ、うっすらと血が滴る。

 これでこちらが優位だという事を嫌でも理解するだろう。

 しかし、死を前にして足が震えるなどPMCにしてはおかしい。新人なのだろうか?

 

「どこの組織だ? 何の目的で動いている?」

 

「答えると思っているのですか?」

 

 思ってなどさらさらいない。

 それならそれで話したくなるようにするだけだ。別に話を聞くのはこいつである必要はない。こいつを利用して恐怖を煽り、他の人間に話を聞かせてもらうでも構わない。

 時間の無駄だ。

 そう考えるとナイフで首を切り裂こうとするが、瞬時に手を引き、突き飛ばす。

 

 

 味方だろ……。

 

 

 同じ覆面をした人間が撃ち殺した。

 信じられないと言う顔から判断するに撃たれるとは思っていなかったのだろう。

 情報は一切、渡していないのだから……。

 だが、哀れむつもりはない。こういう世界だ。それが日常。世の常だ。

 味方が敵になる。背後から撃たれるなどざらにある。結局、死んだと言う事は己が未熟であったと言うだけの話だ。ただ、それだけの話。

 本当にそれだけの話なのだ。

 しかし、ここに留まるのも危険だろう。

 さっさと標的を捕らえなければ任務そのものが失敗してしまう。

 

「やはり、貴方の目的は吟愁ですか。しかし、公安が何を企んでいるのかまでは分からないと……これは早急に処理を着けなければ介入される恐れがありますね」

 

 おかしい。

 俺は何も語った覚えはない。つまり、超能力――

 サイコメトリー系となれば、少しばかり厄介と言うことになる。考えが読まれれば戦いを上手く進められない。どうする……この状況……。

 考えずに行動すべきか? 面相だ。本当に至極、面倒な状況だ。

 まぁ、このまま隠れていてもジリ損だ。ここは賭けでも動くべきだろう。

 

 直感に身を任せ、陰から飛び出す。

 

 何も考えない。

 自分は獣。ただ、獲物を本能のままに狩る狩人だ。

 だが、そう簡単に捕れる相手ではない。持っていたUMPでの射撃をやめると、銃を投げ捨てナイフへの近接戦へ持ち込まれる。

 何も考えない。ただ、相手の焦りと疲れを本能で感じ取り、刃を振る。

 しかし、その拮抗もすぐに崩れる。

 

「いくら読めてもよけられなければ意味がありませんよね?」

 

 その事に相手が気が付いた時には全てが決している。

 相手の心を読むことに慣れすぎていたのか、俺のナイフがどこから繰り出されるか分からず、そちらに集中してしまった。戦場で一点だけを見つめるのは愚策。全体を見なければならないにも関わらずだ。

 もしも、それなりに実践を経験していたのならばもう少し時間がかかっただろう。

 集団戦を持ち込まれたなら少しばかり危うかった。だが、結局この勝負は俺の勝ちだ。

 ナイフを左手に持ち替え、一閃すると懐へと足を踏み込み、覆面の腹に右を叩き込む。

 骨の砕ける嫌な音と何かが潰れるような慣れ親しんだ感触が勝利を確信させる。本来なら、心臓を潰し、確実に仕留める為に首を落としておきたいが今は時間がない。

 まぁ、次があったらの話だがそれなりの恐怖は植え付けられた筈だ。全てを理解したつもりが理解出来ない存在に出会ってしまったのだから……。

 

「こちらα、アリスがイレギュラーと交戦に入った。そちらに逃げた標的を潰してくれ――リスティ」

 

 なるほど、丁度いい。

 こちらへ向かってきているならソレを捕らえて脱出すれば言いだけの話だ。

 しかし、何なんだ? こいつら?

 アリスが恐らくリーダーだろう。ならば、リスティは何だ? 他の奴らはαという記号で呼ばれているとするなら、こいつはサブリーダ?

 不可思議なことが多過ぎる。どう判断すべきか、悩みどころだ。

 PMCにしては不可解な事がありすぎる。一度、裏を取るべきか?

 

「了解」

 

 声を真似てそう返すと通信機を切り、破壊する。

 目を覚まされて連絡を取られても面倒だ。ついでにUMPも貰っていこう。数が分からない以上、手持ちの弾薬だけでは心もとない。

 装填されている弾薬を確認すると、予備の弾層も奪っておく。そして、念のために今回の任務の為に渡されていたMk-23に細工を施すとUMPを通路へと向けた。

 

「出て来いよ。そこにいるんだろ? 吟愁」

 

「助けてくれ!金ならいくらでも」

 

 …………なんだ? この漂う小物臭!

 もしかして、金で成り上がったとか? 金の亡者かよ。こいつを護送しろってか?

 もう少し、悪なら悪らしい死に様とか生き様があるだろう。矜持ってのがないのか? 俺が知ってる闇の中で生きてきた連中は何者にも縛られない存在でありながらも、自分の敷いた法だけは絶対に捻じ曲げなかったぞ。

 だが、命令は命令。どんなに胸糞悪くても絶対だ。

 搾り取られるだけ搾り取られるがいい。

 

「そうですか。それじゃ、眠ってください」

 

 背後へ回り込むと、首に一撃を加え気絶させる。

 これで静かになるだろう。あとは脱出経路だけだ。潰しあってくれれば助かるがそう上手くはいかないだろう。事務所で争っていた連中だとすれば厄介だ。

 

「確保。脱出ルートをお願いします」

 

『それが……』

 

 向こうで何かあったのか? 彩峰の様子がおかしい。

 しかし、その理由がすぐに分かった。今回の依頼はあの男からではなかったのだ。

 

『貴方はそのまま彼を連れて陽動をお願いします。その男、疑似餌にくらいにはなるでしょう。裏で動いている連中を炙り出します』

 

「利用したってか? しかも、その言い方――こいつらがどこに所属しているのか最初から知っていて動いているような物言いだな」

 

『当然でしょう? 我々は法の番人。秩序の守護者よ?』

 

 課長か……あの男と繚乱をまとめるのは伊達ではないと言うことか。

 しかし、疑似餌にするにしても餌が大き過ぎるだろう。こいつを捕まえられたら……いや、まさか最初からそれすら興味がなかったのか?

 奪われたのなら奪い返せばいい。理由があれば領事館を制圧出来る――テログループが領事館を占拠していると理由付けをして。

 根回しまでの時間稼ぎか。

 

「アメリカ領事館襲撃用意ですか」

 

『あら、勘違いしないで貰える? 私達はアメリカの要求でテログループを制圧するのよ? こう言った事は誰もが賛成派ではないじゃない。陰なる反対派と中立を突けば承認を得ることは思いのほか容易いわ。特に保身に走るような肥えた豚はね』

 

 見た目の割りに随分と考え方があくどい事で。

 なるほど、ようやくこいつが公安をまとめている理由が理解出来た。

 したたかさと政治的なやり取り……今回の件、恐らく相当の裏取引があった筈だ。しかも、外交ルートを通さずに独自のルートを使って――ようやく合点が言った。

 公安の中で戦力で言えばあの男が一番危険だ。だが、全ての要因を踏まえれば最も危険なのはこの女の政治力だ。個人の力では抗えない強大な力。それを操るだけの力を持つ。

 

「領事館は治外法権区。一体、何を交渉材料にしやがった」

 

『言ったでしょう? 政治家の中には今回の作戦を良く思わない人間もいる。左遷させる理由を創れば、元の計画を潰せるでしょう?』

 

「あくまでも相手の利益を考えて……か」

 

 恐らく、水面下で相当話が進んでいるのだろう。

 この女が何を企んでいるかはどうでもいい。二グループが争っているこの隙を突いてどうやってここから脱出するかが今の問題だからだ。

 正面は無理。裏も何人か待機させているだろう。

 襲撃者は優秀だが駒が育ち切っていないらしい。強行突破も楽だろうが、主犯とかち合うことだけは避けなければならない。

 襲撃犯と出会えば、守りながら戦うなどと言う芸当は不可能だ。

 それだけの実力をあの惨劇から感じ取った。一対一で何とか持ち込めるか否かレベルだ。恐らく、超能力持ちとなれば危険だろう。

 

『えぇ……。向こうも今後とも良い関係を作れることを願うって言ってくれたわ』

 

 どこの諜報機関ですか。

 確かに国際テロリズム組織、共産圏など外国諜報機関、国内では宗教活動、市民活動にも目を光らせているのが公安だがCIAとまともに張り合うつもりかよ。この女は……。

 知ったことではないから、どうでもいいが恐らく公安内だけでないというわけか。外事方面にも顔が広いのか?

 どちらにしろ、現状利用されていることには変わりないわけだが……

 

「α、アリス、リスティ――今回の襲撃犯のコードネームだ。リスティは超能力でサイコメトリー系を持っている。そこから何か掴める筈だ」

 

『アリス――一般的な女の子名前? いや、高貴な地位? アリーサ』

 

「今……なんていった?」

 

 アリーサ――それは母親の名前だ。

 もしも、母親の血を利用して創られたクローンならば、それが実験の最終成果というのならば同じ血を持つ俺が決着を着けなければならない。

 他の人間に終わらせるわけにはいかない。

 

『やる気が出てきたみたいね。そいつ、もう用済みだから殺して良いわ。十分後にアイツの部隊がそこを強襲する。タイムリミットは今から600秒』

 

 同じ血を持つならば嗅覚で危険を嗅ぎ分け、撤退するはずだ。

 つまり、制限時間は600秒以下と言うことになる。勝ち負けを決めるのは厳しいだろうが、楔を打つ程度は可能だろう。

 何より、どの程度の成果物なのか判断材料にはなる。成果が上がらなかったで処分されるという結果でも問題はあるまい。

 隠蔽で消される。そういう終幕は胸糞悪いが、別にないわけではないのだ。

 通話が終わる。

 気絶している吟愁にMk23を突きつけると躊躇いなく、引き鉄を引く。45口径の銃弾が頭蓋骨を砕き、風通しを良くしているのだ。即死とは行かなくても、助かることはないだろう。

 

「続いていると言うのなら、どの程度の実力か見せてもらおうじゃないか」

 

 銃をホルスターにしまうと両手にナイフを持ち、アリスと呼ばれる主犯が戦っているであろうエントランスへ向けて歩き始めた。化物を殺す為に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、よろしいのですか? いくら、向こう側からの要請とはいえ……」

 

「分かってるわよ。向こう側は研究資料を手に入れようと躍起でしょうね。ロスアラモス・エリートが行っていたのは一人で戦況を変えられる化物の人工的な天才を作成したかった。でも、実際はそんな物よりも量産できるそれなりの質の私兵の方が都合がいい」

 

 強すぎる力は毒にも成り得る。

 それは、Gを創った際に学んだ筈だ。だからこそ、この一件に関わった男の研究成果を奪取し、教育方法としてプランに組み込んでくるだろう。

 それなりの質を持った使い捨てられる諜報員を作成するために……。

 世界は常に人材不足。まぁ、人がそういう生き物である以上は仕方ないのだが本当にやめてもらいたいものである。まぁ、そのプランもこちら側がパズルのピースを押さえている時点でどこまで有用なものか分かったものではないのだが……。

 

「私が単独で制圧すればこの件に関しては有耶無耶にして突っ撥ねる事も出来たのでは?」

 

 顔に出ていたのか、部下に心配されるなど私も随分と丸まったものだと思う。

 確かに捨て駒を用いて、完全に抹殺すると言う方法も考えた。だが、ソレを行った場合に起こりうる事態が機関の暴走だ。

 やるからには作成した製品と技術者を同時に潰せなければ意味はない。暴走されてこの日本で暴れられては公安の恥になる。それだけは断固阻止せねばならない。

 現状、大使館は包囲。袋の鼠だ。あとはあちらさんのお膳立て通りテログループを制圧するという名目で強制的に……。

 

「課長! 少し、よろしいですか?」

 

「緊急の要件? 何か作戦に問題が発生した?」

 

「先程、二キロほど先から微弱な電波が発信されていたので、少し気になり確認に人員を向かわせたのですが応答が……向こう側の放った狗でしょうか?」

 

 応答がない。

 恐らく、抹殺されたか……。しかし、二キロとなると狙撃?

 こうなれば作戦の遂行を前倒しにするべきか。ここで奴を押さえなければ、誰が指揮をしているのか闇に葬られてしまう。

 

「通信傍受!」

 

『しかし、ボロい依頼ネ! アレを射殺するだけで一億ドルだなんて――それに、うちらに喧嘩を売ってくれた復習も出来て一石二鳥ネ』

 

『それは良かった。既に前金で半分を指定講座に振り込んである。残り半分は成功報酬だ』

 

「半分、直ちに突入! 奴を確保するわよ! 半分は狙撃手の追跡に回って!上のルートは通らないだろうから、地下鉄を利用するはずよ」

 

 情報がどこから漏れたのかは分からないが、恐らく藍幇の曹操を雇ったのだろう。それならば、今晩の襲撃事件の報復と言う理由付けもある。

 してやられた。やはり、私の目の届かないアメリカ側に情報統制の漏れがあったか……

 最低でも制圧にかかるのは十五分。こちらをアイツに任せるんだったか。予想より動きが早い。いや、そもそも今日始末を着けるつもりだったのか?

 

 窓ガラスが割れ、悲鳴が聞こえる。

 失敗か……。だが、一億ドルの依頼量。相当、大きな組織が絡んでいることが分かった。

 アメリカの軍事機関の一つだろうか? 自分で蹴りをつけなかった辺り、食えないのかそれとも動けない事情があったのか。今後、面倒な事態になりそうだ。

 

 部下と共に部屋へ突入した時には奴は虫の息だった。

 即死は免れたが失血死は免れないだろう。まぁ、当然の末路だと思う。人の命を弄び、兵器に仕立て上げようとしたのだ。人間の屑の末路としては当然だろう。

 

「公安0課……か。まさか、私が切り捨てられるとは……」

 

「お前の上には誰がいる。ロスアラモス・エリートか? それとも、別の組織か?」

 

「我々はイ・ウーに対抗出来る怪物を生み出そうとした。我々こそが真の王者になる為に……怪物を生み出そうとした。MONSTERを……」

 

「真の王者か……」

 

 裏をまとめているのはイ・ウーとロシアの穴倉の二つ。

 表はアメリカ、台頭し始めている中国。そんな中で真の王者を目指す為に人の命を弄んだか……。反吐が出る。だからこそ、思わず手が出てしまった。

 

「アンタ、人の命を何だと思ってるの! 自分達の利益の為に多くの人間を実験材料にして……腐ってるわ。アンタもアンタの後ろにいる奴らも!」

 

 当然、車椅子から転げ落ちる。

 だが、それでも男に掴みかかるのをやめなかった。

 

「君も感じているだろう。我々も恐れているのさ。新たな秩序が築かれることを……何故なら、我々はただの人間。化物では……な……い……のだ……から……」

 

 そう言うと男は息絶える

 超能力か。確かに裏に蔓延る超能力者が表に出てくれば大惨事になるだろう。神話に登場するクラスの超能力を扱う化物すらいる。その気持ちは分からなくもない。

 だが、だからこそ、それを未然に防ぐのが私達の仕事の筈だ。

 

「課長、アメリカ側から連絡が……」

 

「拒否しなさい。今は電話に出られる気分じゃないの」

 

 依頼者はアメリカ。

 日本の法律では裁けない。我々も動くことは出来ない。しかし、引くつもりは一切なかった。まだ奴らを追う手は残っている。

 携帯電話はご丁寧に破壊されており、使い物にならない。

 恐らく、曹操も取り逃がすだろう。つまり、切り札となるのはアリスと呼ばれる襲撃の主犯格を抑えることか……。今はそれ以外に手はないだろう。

 

「MONSTERね。抑止力で人を支配しようとしても結局、技術は流出する。それに、その抑止力が持つのは数十年。それ以上は持たないわ。私達は彼らと違う時間を生きているのだから」

 

「課長? お手を……」

 

「必要ないわ。一人で出来るから」

 

 上半身の力で車椅子に戻ると腰を深く下ろし、タバコに火を点ける。

 こうして、タバコを吸うのは久しぶりだ。紫煙を吐き出すがやはり、自分には合わないらしい。紫煙に思わず咳き込んでしまう。

 

「英雄が悪を倒し、悪が人間を滅ぼし、人間が英雄を殺すか」

 

 まるでじゃんけんのような関係性だ。

 イ・ウーも所詮は延命装置ですらなかった。自らの力を驕る愚か者を退治するのは多くの人間でなければならないだろう。でなければ、何も変わらない。

 再び、その一人の英雄によって延命し、一人の英雄が死ぬことによって再び元に戻る。

 それでは何も変わらない。一人のカリスマはこの世に必要ないのだ。

 

「さて、彼は怪物になるか。それとも英雄になるか。一応、もう一つ手を打っておきましょうか。奴らにもそれなりに代償を支払って貰わないとね」

 

 そう言うと煙草を吸殻入れへと捨てる。

 いくら、彼らには組織力が劣るとはいえ舐められっぱなしはやはり――

 唇を一舐めすると頬を吊り上げて笑うのだった。




次の話が終わり次第、原作沿いへと移行するか悩み中
やはり、人は怖い。怪物が。超能力者も所詮は怪物に過ぎない。
まぁ、その辺りを分かってもらえると嬉しいです。
しかし、色々とやりすぎてると反省しています。領事館襲撃も未熟さが出たと思います。
次の次辺りから武偵殺しの話にシフトできれば嬉しいなーと思ってます。
このままオリジナル展開でもいいんですけどね。要望があれば……
感想待ってます
因みにイメージ的に名前のない怪物を聞きながら書いてます。
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