クーケン島に初上陸をした日の翌日――つまり、この世界に来てから3日目。
わたしとライザさんは、槍を作るための素材を集めに森へ探索に出かけていた。
「槍に必要な素材は、柄になる丈夫な木材。刃になる硬い石か金属。それでいいんでしたっけ?」
「うん! それだけあれば十分だよ」
「あ、でも……」
わたしは非力だ。重すぎる武器は上手く扱いきれない可能性が高い。
たしか、ライザさんは錬金術のことをこう言ってた気がする。『素材の力を引き出して、新しいものに作りかえる』。
つまり……軽い性質の素材を入れたら、軽くなるのでは……?
「わたしって、あまり力がないじゃないですか。だから、軽くて扱いやすくしたいんです。そこで……追加で、何か軽い素材をプラスする、っていうのはどう、でしょうか?」
「わぁ、ユイカ、それってすっごくいいアイデアじゃん!」
ライザさんはいちいちオーバーすぎるくらいにわたしのことを褒めてくれる。ちょっと、照れくさい。
「うん! 錬金術はそういうことだってできるんだよ。調合の工夫としてはバッチリ! 軽い性質を持つ素材なら、あたしにも心当たりがあるしね!」
「どんなものなんですか?」
「えっとね、『綿毛草』っていう植物なんだ。……でも、まずは木材と石から採取してみる? 木材なら、前に舟を作るときに行った場所があるから、そこに行こうよ」
「はい、ライザさん! 前の採取で、木材ならちょっとだけ見分けるコツを掴めましたし……」
「お、じゃあ、ユイカ。やってみる?」
「はい。だって、わたしの槍ですもん。素材くらいは、わたしで選ばなきゃ!」
わたしはわくわくしている。本当にわくわくしている。
自分で素材を拾って、自分の槍を手に入れる。それで、自分が戦えるようになって、できることを広げていく。
すごく、楽しい。出来ることが増えるようになる感覚って、すごく楽しいんだ!
「ふふ、ユイカ。最初に会った時とは大違いだ」
わたしとライザさんは、倒木がたくさんある広場へとやってきた。
「さあ、ユイカ! 前に教えたことを思い出して、木材を選んでみて」
「はい! ……えっと、これは……うーん……はぁ、はぁ、やっぱり木って結構重い……」
大きな木材はちゃんと重量があり、それなりにずしりと来る。
「あはは、木って結構重いよね。無理せず自分のペースでいいよ、ユイカ」
「ありがとうございます。……なんだか、ライザさんが先生に見えてきました」
「え? 先生?」
「はい。ライザさんが先生だったら、きっとみんなに好かれるいい先生なんだろうなぁ……なんて」
「もう、先生だなんて大げさだよ、ユイカ!」
ライザさんが照れて頬をちょっと染めたのを見逃さなかった。表情が豊かで、底抜けに明るくて、その上とっても頼りになるひと。だから、島のみんなからも好かれるんだろうな……。
「あたしはただ、知っていることをあたしなりに教えているだけ。……でも、ユイカにそう言ってもらえるのは、やっぱりちょっと嬉しいかな。えへへ……」
ライザさんのかわいさを供給したところで、わたしは採取に戻った。
木材を触ったり、叩いて音を聞いたり、光に当てて艶を確かめたり……。
そして、わたしなりの一本をしっかり選んだ。
「……決めた。ライザさん、これにします」
「うん、どれどれ……」
ちょっと緊張する瞬間。まるで、美術や国語の作文の時間で、完成品を先生に見せているときのよう……。
でも、そんなことはあんまりなかった。ライザさんはすぐに、目を輝かせたのだから。
「……すごいじゃん、ユイカ! この木材、節もなくて真っ直ぐだし、密度もしっかりしている。文句なし! さっすが!!」
「本当ですか? ありがとうございます、ライザさん!」
「ううん。これはユイカの力で見つけた木材なんだから。ひょっとして、採取の才能があるかもね?」
「それは言い過ぎですって……」
「あはは、照れてる?」
「照れますって、そりゃ。だいたいライザさんはいつも褒めすぎ……」
わたしは照れ隠しで目をそらした。
「あはは、ごめんごめん。でも、ユイカがすごいのは本当だよ?」
「そういうところですってば! ……早く、次の素材を探しにいきましょうよ!」
「うん、そうだね。次は……硬い石か金属、だね」
わたしとライザさんは、さらに森の奥へと入っていった。ここから先は初見の場所だ。
地面からは大きな岩が突き出していて、石には困らなそうな場所だけど……。
「ライザさん。石ならありそうですけど、この森に金属なんてあったりするんですか?」
「金属を含んだ鉱石なんかが見つかることがあるよ。普通の石よりもずっしり重くて、光に当てるとキラリと光るんだ。表面が少し透き通ってることもあるよ」
「重くて、光る……なるほど、頑張って探してみます」
そこに、一人の男の人がやってきた。ライザさんと同い年くらいの、若い男の人だ。腰に剣を携えている。
「あ、ランバーじゃん! 奇遇だね」
「よう、ライザ! こんなところで何してんだ? って、ライザがやることといえば素材探しか」
「まあね。そんなランバーこそ、何してるの?」
「いやあ、モリッツさんに頼まれちゃってさ。ボオスさんの縁談がらみの、贈り物選びだよ。しかも、また俺にまで見合い話が回ってきてさあ……」
「あはは、ランバーも大変だねえ……」
とりあえず、ランバーさんというらしい。モリッツさんに何かしら関連のある人で、ライザとはそこそこ親しそうだ。会話の途中に出てきたボオスさん……は、誰だかわからないけど。
「ところで、そっちは誰だ? ライザの新しい仲間?」
「あ、紹介するね! この子はユイカ。今は、一緒に槍の素材を集めているんだ」
「はじめまして、わたしは――」
出会いがたくさんなら、自己紹介の回数も増える。自分の自己紹介も、なんとなく慣れてきた。
「――へえ、戦えるようになるために、まずは自分の槍を……ユイカくらいの時のオレ、こんなにしっかりしてたっけなぁ」
「してないね。まったく」
「もう少し手心みたいなものはないのかな、ライザは!」
二人のやり取りに思わずくすりと笑ってしまった。
「んで、槍の刃の素材か? んー……そうだ。それなら、あそこの大きな岩陰を覗いてみるといいぜ」
ランバーさんが指さしたさきには、苔むした古い巨大な岩石があった。まさに、ずしり、といった感じの大きさだ。
「前にあそこを通った時、なんかキラキラした石が落ちているのを見たんだ。多分あれは、いい石かなんかだろうな」
「お、気が利くねランバー。助かっちゃった! ユイカ、探してみよう」
「はい。ありがとうございます、ランバーさん!」
わたしはさっそく、岩陰に向かった。
「うわ、すごい。とっても大きな石が、たくさん……」
そこにはキラキラした石……どころか、大量の大きな石が落ちていた。しかも、一つ一つがとても大きい。わたしが初めて見るくらいには、大きい。
「んしょ……全部重い、けど……どれも同じくらいだし、あんまり光ってない、し……」
拾い上げては戻し、拾い上げては戻しを繰り返す。結構な重労働。いいものが、見つかればいいんだけど……。
「ん……ん?」
明らかに一個、違う。妙に光ってる――気がする。
「ん……これ、すごく重い……! ライザさん、これ!」
しかも、重さも桁違い。2倍くらいありそうかもしれない。わたしはライザさんを呼んだ。
「どれどれ……わぁ、ユイカ、それすごいよ!」
「え! なんですか、これ……!?」
「ただの石じゃない。アンバーだ! 琥珀水晶が混ざってる、とっても質のいい石だよ!」
「アンバー……!?」
そ、そんなもの見つかるの!? すごいなぁ、この世界……!
「お、本当にお宝を見つけやがった! ユイカ、お前すげえ運がいいな!」
「いえ、ランバーさんが教えてくださったおかげです! ありがとうございます!」
「礼なんていいって。……オレもそろそろ、モリッツさんのところに戻らねえと。じゃあな、ライザ、ユイカ」
ランバーさんはひらひらと手を振って、森の奥へと去っていった。
わたしは拾ったアンバーをじっと見つめる。すごく、きれいな石だ。
「……槍ができたら、ランバーさんに一度見せてみたいですね」
「うん。それじゃあ、採取を続けよっか」
「はい!」
柄になる木材と、刃になるアンバー。
あとひとつ。わたしが扱う上で大事な、軽量化――。