初めての魔物との邂逅をなんとか……本当に、なんとか切り抜けたわたし。
その報酬は、槍の素材として使うアンバーの力を引き出すための、特別な水。
「うわぁ……すごく透明で、きれいな水……」
夕陽に照らされてきらきらとしている、息をのむほどに澄んだ、森の奥で湧いている水。
今まで見た中で一番きれいかも。
「でしょ? これだけ綺麗な水なら、いい結果になりそうでわくわくするね!」
わたしたちは湧き水を汲んで、アトリエへと戻ってきた。
「さて。改めて、ユイカのために槍を調合しちゃおう! ユイカ、そこに素材を並べてくれる?」
「はい、ライザさん。お願いします!」
わたしは槍の素材となる丈夫な木材、アンバー、綿毛草を並べた。
「お、とと……綿毛草が飛んでいきそう……」
「あはは、気を付けてね?」
ライザさんは頬を両手で軽くたたいて、気合を入れた。
「よし! とっておきの調合、見せてあげる……!」
慣れた手つきで、ライザさんは素材を投入していく。アンバーを投入する際だって、一切のためらいがなかった。
そして、大きな木べらで、ぐるぐると釜をかき混ぜる。なんてことないかき混ぜる動作だって、何かしらのコツとかがあるのだろうけれども……わたしにはまったくつかめそうになかった。
「よし、もうそろそろ……! そーれっ!」
ライザさんが最後のひと混ぜをすると、光がぱぁっとあふれ出て……まるで芸術品かと思うような、とてもきれいな槍が完成していた。
アトリエに差し込む夕日に照らされて、アンバーの材質が混ざったオレンジ色の刃先が、誇らしげに輝いている。
「できたよ、ユイカ! 大成功!」
ライザさんは槍を手に取って、出来栄えを確かめる。
「うん! ちゃんと綿毛草の効果が出ているね。羽が生えたかのように、とても軽い……ユイカ、持ってみて!」
「はい、ライザさんっ」
わたしはライザさんからできたての槍を受け取った。
「わ、すごく軽い……これなら、わたしだって使えそう!」
たとえるなら、中が空洞になったプラスチック製の物干し竿。子供の時に、振り回して遊んで、お母さんに怒られた。
そんなことをふと思い出すくらいの軽さだ。リーチの長さゆえの重さに振り回される、なんてことはなさそうだ。
「ライザさん。この槍、すごくしっくりきてます。最高です……!」
「ユイカがこんなに喜んでくれて、あたしも嬉しいよ!」
「この槍に、何か特別な名前をつけたいな。オレンジ色のアンバーの刃に、羽が生えたような軽さ……それに、わたしの初めての槍で、その素材を採るために、怖い思いもした。
わたしとライザさんの、思い出の詰まった大切な槍。そして、これからも、きっと色んな思い出とともに歩いていく、わたしの大事な槍……」
アンバーの刃先が誇らしげに輝いている。本当に、きれいな槍だなぁ……。
「うん、とってもいいと思うよ。ユイカの思う、かっこいい名前をつけてあげて?」
「かっこいい名前……うーん……」
アンバー……琥珀。軽い、槍……。
「『琥珀の
あまりいいのが思い浮かばなかった。あとは、ライトアンバースピアとか? うーん。だめだ。
わたしのネーミングセンスのなさに頭を抱える。
「『琥珀の軽槍』……いいじゃん、それ! あたしは名前の響き、結構好きだよ?」
そんなわたしの提案にも、手をパンッと叩いて笑ってくれるライザさん。
わたしが年下で妹っぽく見えるから接待されて……ないだろうな、ライザさんだし。
「そ、そうですか?」
「うん! そんなに素敵な名前をつけてもらって、この槍も嬉しそうに見えるよ」
「そ、そうかな……?」
「そうだって!」
「うう……」
ライザさんの怒涛の褒め言葉に、ただただわたしは困惑しきりだった。
翌日、わたしたちは出来上がった槍をランバーさんに見せに行った。この槍の刃のもとになったのがアンバーで、そのアンバーの場所を教えてくれたのがランバーさんだから……絶対に見せに行きたいと思った。
「おーい、ランバー! 見て見て、ユイカの槍が完成したんだよ!」
ランバーさんの姿を見るなり、ライザさんが大きく手を振って声を掛けた。
「え、もうできたのか!?」
「もちろん! 錬金術士・ライザリン・シュタウトを誰だと思ってるの? ……ユイカ、『琥珀の軽槍』、見せてあげて?」
「はい、ライザさん。……ランバーさん、これです!」
わたしはライザさんに促され、ランバーさんに槍を渡した。
「うお、これが……って、軽い!?」
まるでふわっと槍が意志をもって浮き上がったかのように、ランバーさんが槍を持ち上げた。いや、持ち上げたのではなく、想定より軽すぎて持ち上がってしまった、といった方がいいのかも。
「あはは、びっくりした?」
「ああ、だいぶ……何か工夫でもしたのか?」
「それがね……なんと、ユイカのアイデアだったんだー!」
「マジか!?」
わたしは軽くしたいって言っただけで、具体的な材料(綿毛草)はライザさんが考えてくれた……って言えば、ライザさんが、
「でも、槍を軽くしたいから、軽い素材を混ぜれば……って提案したのはユイカなんだよ! この世界に来たばかりなのに、錬金術のレシピ作りの筋が良くってびっくりしちゃった」
なんて、さらに褒めかぶせてくるものだから、恥ずかしいのなんの……。
「しかも、森の奥の湧き水をとりにいったとき、ユイカは初めて魔物にあったんだけど、それでも――」
「ライザさん! もうやめて、これ以上は……!!」
わたしは、顔から火を噴くような熱さを覚えるはめとなったのだった。