ランバーさんから、レントさんという人を旅人の道という場所で見かけた、という話を聞いた。
「レントさんって、確か……ザムエルさんの息子さん、なんですよね? ……怖かったりしません?」
「あはは……確かにレントは背も高いし、顔もちょっと怖いかもしれないけど……中身は全然そんなことないんだよ。
本当はすっごくおせっかいで、優しいやつなんだから!」
ライザさん曰く、今は修行の旅をしているとのこと。
わたしの槍は確かに完成したが、わたし本人は素人同然。戦い方をレントに教わってみたらどう? との提案で、わたしとライザさんは旅人の道という場所へと向かった。
旅人の道は、森の近くにある街道だ。クーケン島まで陸路で行く際には、この街道を通ることになるため、その名の通り旅人や、行商人たちが行き来している道だ。
また、道を外れた周りには魔物も生息しており、ライザさんたちが初めて島の外に出たばかりだった時に、この場所で戦いに慣れていった、という話も聞いた。
ほどなくして、レントさんは簡単に見つかった。
道の向こうから、大きくてぶ厚い、いかにも重そうな大剣を背負った、背の高い筋肉質な赤い髪の青年が歩いてきたからだ。
そして……隣には、これまた大きな斧を持った、白髪の野生児みたいな少年。
「よう、ライザじゃないか。こんなところで何してんだ?」
「ライザ姉! 遠くからでもその帽子ですぐわかった!!」
赤い髪の男の人はレントさんだって分かったけど、隣にいる男の子は……?
「オレはレント。で、隣の元気なヤツは……」
「ディアンだ! よろしくな!!」
ディアンさんというらしい。ここから遠く離れた秘境、フォウレの里という場所から来た戦士とのこと。なんでも、レントさんの弟子なんだそうだ。
にしても、ライザさん以上に元気すぎる子だ。ディアンさんはどうやら、わたしとそう歳が変わらないらしい。
……じゃあ、ディアンくん、かな。
「ところでライザ、隣にいるのは新しい仲間か?」
「ああそうだ。レント、紹介するね。この子は――」
もう何度目だろう。とにかく出会いが多いし、それくらいライザさんの交友関係が広い、ということになる。
わたしは自己紹介とともに、異世界から来て、ライザさんに拾われたこと。ライザさんと一緒に行動するからには戦えるようになりたいことを話した。
異世界から来た、って話すと、ディアンくんはわかりやすく「すっげえ!」と目を輝かせてわたしの顔を穴が開くくらいに見つめてきた。
「近い近い近い……!」
「おいディアン。ユイカがびっくりしてるだろ?」
レントさんがディアンくんの肩を掴んで、それとなく引き離してくれた。
「ご、ごめん……でも、オレ、ユイカとは仲良くなれる気がするんだ! よろしくな、ユイカ!」
「う、うん! よろしくね、ディアンくん」
さすが野生児。ここまで初対面の男の子にがっつかれるとは思ってなかった。
純粋な好奇心の塊だ。ちょっと、うらやましいかも。
そんなこんなで、わたしの特訓が始まった。が……。
「さっそく、近くのちょうどいい魔物相手に戦いを仕掛けにいこう。あ、あの青ぷにとかどうかな?」
「え、ええ!? いきなり実戦ですか!?」
「うん! 習うより慣れろだよ、ユイカ!」
採取のときもそうだったけど、ライザさんって意外とスパルタだよね……?
「おいおい、ライザ……まあ、オレたちも実戦で強くなったから、ライザの方針には否定しないけどよ」
レントさんが肩をすくめた。が……止めようとはしてくれないらしい。ディアンくんは……なんか期待を込めたまなざしでこちらを見つめてきている。
「う、うう……やってみます、やってみますよっ。で、でも、わたし……こんなんですけど……」
わたしはぎこちない感じで槍を構えて、それっぽく素振りをした。
……ディアンくんのまなざしが期待から困惑に変わったのをはっきり感じ取った……。
「な、なんだその構え……そんなんじゃ、コテンパンだぞ!?」
ディアンくん、おっしゃる通りです……。
「あはは……ユイカ、力が入りすぎだよ。まず深呼吸。リラックスだよ? 肩の力を抜いて」
ライザさんに言われた通り、わたしは目を閉じて、深呼吸をした。少し落ち着いてきた。
「どう? レント。アドバイス、たくさんあるでしょ?」
「まあ、たくさんありすぎるが……要点を絞ると、こうだな」
レントさんはわたしの隣に立って、手本を見せるようにどっしりと腰を落とした。
「まず、重心をしっかり下げること。そうすれば、地面をしっかり踏みしめて、足の力が伝わりやすくなる」
「こう、ですか?」
わたしも真似をした。さっきの構え方は完全に浮ついていて、安定感がまるでなかったんだな……ということを痛感した。
「そうだ。それと、武器を振るときには目を閉じたり、視線を逸らせたりしないこと。敵の動きから目を逸らさなければ、自然と槍は当たるもんさ。
……この槍はライザに作ってもらったんだろ? 安心しろ。変に力を込めずとも、安定した威力は出るようになっているはずだ。さあ、行ってこい!」
腰をしっかり落とす。それだけで、なんだかだいぶやれそうな感じがしてきた。
「はい、レントさん! わたし……やってみます!」
レントさんに肩を軽くぽんと叩かれ、わたしは気合を入れた。
そして、その辺にいた魔物……青いぷにぷにした魔物の前に立った。
昨日、森の奥でわたしが初めて遭遇した魔物と同じ種類だ。ただ、今回は一体だけのようだ。
「……ぷにさん。わたしの相手になってください!」
わたしが青ぷにに槍を向けると、ぷにの目が鋭いものに変わった。戦闘態勢に入ったのだ。
「っ……!?」
わたしに向けられる明確な敵意。身を守るための本能的な敵意。
そんな敵意を向けられるのは当然、生まれて初めてだ。
深呼吸でため込んでいた冷静さが、一気にはじけ飛んでしまった。
「っ……ああぁぁっ!!」
どうすればいいのかわからず、それでも目の前のぷにを攻撃しなければいけないという気持ちだけは逸って、わたしは槍を構えながらドタドタと駆け出そうとして――
「わ、わわわっ!?」
ズサー! と情けなく転倒した。
「うわっ!? 大丈夫か!?」
ディアンくんの心配する声が聞こえる。わたしが転倒したスキを逃さまいと、ぷにがこちらに猛烈な勢いで突進してきたが、レントさんがわたしの前に割って入り、大剣で難なくいなしてくれた。
「焦りすぎだユイカ。しっかり相手を見ろ!」
「は、はいっ……!」
ぷにが体勢を整えて、再度わたしに向かってくる。
しっかり相手を見る。突進に合わせて、軽く槍を突き出すだけでいい。
「……見えてきた、気がする!」
わたしは確信をもって、ぷにに向かって槍を突き出し……たが。
「はあぁあ……っ!?」
緊張のせいで手汗がひどいことになっていたらしい。
槍がすっぽ抜け、ディアンくんの方へと転がってしまった……!
「お、おいっ……!?」
武器がないとなにもできない。ぷには突進中だ。
パニックになって呆然と立ち尽くすわたし。
「危ないっ! ユイカ、避けて!!」
ライザさんの声でふと我に返るが、足が動かない……!
「ひゃっ……!?」
わたしはぷにの突進をまともに――食らわなかった。
レントさんだ。
「……レ、レントさん……」
「おいおい、武器は身体の一部だ! 絶対に手放すんじゃねえ!!」
レントさんはわたし目掛けて突進してきたぷにを、その大剣でもって軽く弾き飛ばした。
ぷには力の差を思い知ったのか、どこかへと逃げて行った。
「ありがとうございます。……だめだ、わたし……」
ライザさんが作ってくれた槍を持って、初めて挑んだ戦い。
3人に見守られた結果がこの体たらく。
ディアンくんの近くに転がった槍を見る。 ……槍が泣いているよ、そんなんじゃあ……。