さんざんな結果に終わってしまった、わたしの初陣。
わたしの手汗で投げ出され、ディアンくんの足元にむなしく転がってしまったわたしの槍。
わたしが頑張って素材を集め、ライザさんがわたしのためだけに作ってくれた、大事な大事な槍。
傾きかけた日光に照らされた、きらりと光るアンバーのきらめきが……今のわたしには、悲しみの涙に見えた。
「ユイカ、けがはない? 大丈夫?」
その場に座り込んだわたしに、ライザさんが駆け寄って声を掛ける。
「さっき転んだときに擦りむいたくらいで、たいしたことはないです。でも……みなさん、ごめんなさい」
ライザさん、レントさん、ディアンくん。わたしは3人の顔を見渡した。
誰一人怒っていない。むしろ、とても穏やかで、温かかった。
ディアンくんがわたしの槍を拾い上げて、わたしに渡してくれた。
「最初から完璧なヤツなんていねえって。ほらよ、ユイカ。今度はちゃんと手放すなよ?」
「はい、わかりました……」
「あとさ、そんなに堅苦しいのはオレ、嫌いなんだ。なんとかです、とか、そういうのはオレにはナシにしてくれよな」
「あ……う、うん。そうしてみるね」
レントさんは一歩引いた位置で、アドバイスをしてくれた。
「手汗で滑るなら、柄に滑り止めの革を巻くか、手袋を用意するのも手だぜ。技術だけじゃなくて、道具の工夫で補うのも戦士の知恵だ」
「は、はい。そうですね」
「ユイカ、巻くための革くらいならアトリエにあるよ。それを巻いてみよっか」
「ありがとうございます、ライザさん。じゃあ、お言葉に甘えますね」
変なところから来た、正体の分からない、謎の多い人間。何一つ、輝いているところのない人間。それが、わたし。
なのに、みんな、そんなことは気にしていない。何もできないに等しいわたしの可能性を信じて、親身になってくれている。
「……こんなに、応援されているんだ、わたし」
今まで、身の回りのことに興味なんて持てなかった。
みんなもわたしに興味を持っていなかった。
わたしも、みんなに興味なんて持てなった。
でも、今は、違う。
「ありがとうございます、皆さん。わたし、絶対に戦えるようになってみせますね――!」
わたしは立ち上がって、日が沈みかけたこの異世界の空を眺め見た……とたん。
ぎゅるるるるる……。
「……あ」
たくさん身体を動かしたからか、わたしのお腹が悲鳴を上げた。
し、締まらない……。
「あはは、元気な音だな!」
「ちょっと、ディアンくん……!」
「まあ、オレもちょうど腹が減ってきたところだしな! ライザ姉、みんなでご飯にしようぜ!」
「もう、仕方ないなぁ……ふふっ」
ライザさんはにっこりと笑った。
「あたしのアトリエで、夕飯と行きますか!」
その夜、わたしたちは4人でにぎやかに夕飯を食べた。これまで、ライザさんと2人で食べていたけど、一気に騒がしくなって楽しかった。
特に男性陣二人は物凄い量を食べていた。とはいえ、ライザさんに……。
「ユイカもこんなに食べるんだね……びっくりしちゃった」
まあ、成長期ですから。
翌日。
琥珀の軽槍の柄に、ライザさんからもらった革を巻いたわたしは。
「ユイカ。オレも小さい頃は槍で練習してたんだ。小さい子に教えたことだってあるからな!」
アトリエ近くの開けた砂浜で、ディアンくんが中心となって、わたしは改めて基礎の基礎から戦闘の特訓を受けることになった。
基本のフォーム、心構え、戦術。派手なことなんてできるわけないから、まずは基礎的なことからコツコツと。
「どうやったって、戦いは攻撃を食らうことからは避けられねえ。とはいえ、工夫次第でダメージを軽減することはできるぜ」
レントさんからは、防御術や受け身といった、地味だけれどもとても重要なものを教わった。そして、もちろん。
「あたしは……普段こういったことを気を付けてるかな」
錬金術士という立場上、ライザさんはアイテムを使って支援しつつ、味方を指揮することが多い。杖で自分から殴り込みにもだいぶ行くらしいけれど……。
その経験で得た、周りを見て判断する力、というものを教えてもらった。
一日ですべてこなすにはなかなか密度が濃かったと思う。
けれども、わたしは幸いにして、覚えが早いようだった。
「よし、これだけオレと打ち合えれば大丈夫だろ! そうだよな、レント!」
「……ああ。合格だ、ユイカ。お前、素質あるぜ」
「ありがとうございます。二人の教え方がとっても上手かったおかげです!」
レントさんとディアンくんのお墨付きをもらった。
「うんうん。昨日のユイカからものすごく進歩したね。よく頑張ったよ!」
ライザさんがうんうんとうなずいた。そのあと、ライザさんがレントさんと目を合わせて、何か懐かしげに微笑みをかわしていた。
……あんなに戦い慣れしている二人にも、わたしみたいな時期があったのだろうか。
「さてと。いい時間だし、アトリエに戻りますか!」
レントさんとディアンくんがいるのは、今日が最後だ。明日にはまた、旅立ってしまう。
わたしは二人に、旅の色んな話を聞こうと……そう思いながら、アトリエにもど――
「おい、見ろ。あのぷに……ライザに懐いてるやつじゃないよな?」
レントさんが、アトリエの近くに大きな青ぷにがいることに気が付いた。
「うん。……待って、レント。たぶん、あたしたちに敵意があるわけじゃないよ」
「どうしてだ? ……って」
よく見ると、ぷにの口元には何か紙みたいなものがくわえられていた。
わたしたちがすぐそばに来ても、敵対の意思を見せたり、逃げたりもしなかった。ただ、紙をくわえて、律儀に待っていた。まるでわたしたちの帰りを待つかのように。
ライザさんが紙を受け取ると、その大きな青ぷには律儀に軽く頭を下げて、悠々とアトリエをあとにした。
「ライザ姉。こんなこと、しょっちゅうあるのか?」
「ううん。たまに懐いてくる魔物もいるけど、紙を渡されたのは初めて……って。これ、ユイカ宛だ」
「わ、わたし!?」
わたしとはまったく無関係だと思っていたので、急にわたしの名前が出てきて物凄くびっくりした。
ライザさんから紙を受け取ると、そこには、妙にぷにぷにとした筆跡でこう書かれていた……。
『へっぽこな むすめへ
あした すなはまで まつ
いんねんのしゅくてき びくとる より』
「……もしかして、昨日戦った、あの青いぷにから……挑戦状!?」