翌日。わたしたちが砂浜に着くと、大量の色とりどりなぷにが、まるでギャラリーのごとく密集していた。
所かまわず跳ねているわけではなく、ちゃんと秩序をもって密集している。わたしたちの姿を認めても、襲ってきたりする感じでもなさそうだった。
「お、おい……これだけ多いと何かの騒動にならねえか?」
さすがのレントさんも、この光景には困惑を隠しきれていないようだった。
「なあ、ライザ姉。あの人って……」
「え!?」
手紙をくれた大きな青ぷにの隣に、ランバーさんとよく似た軽い鎧を着た大人の女性がいた。
その女性は、わたしたちの姿を見ると、かなり困惑した表情で会釈した。
「あ、アガーテ姉さん!? 何やってるの!?」
「それはこっちが聞きたいくらいだ、ライザ……」
クーケン島のいわゆる自警団的組織、護り手の一番手――アガーテさん。子供だったころのライザさんやレントさんたちを見守ってきた、お姉さん的存在の人だ、とレントさんから教えてもらった。
「昨日、この大きな青ぷにから……その、手紙が、届いてだな。『ウチのやんちゃなガキが決闘したがってるから、この辺を通るニンゲンどもに事情の説明を頼めるか』、と来てだな……。
いくらぷにといえども、無下にすれば何が起こるかわからないだろ。だから……まあ、見張り、というわけだ」
アガーテさんはひどく困った様子だった。それもそうだ、手もないぷにぷにした魔物から、こんな律儀に手紙が来るなんて……。
「まあ、アガーテ姉さんがこの場を取り仕切るなら、大きな混乱も起きなさそうだね。……にしても、すごい状況だねえ……」
「ああ。まったくだ」
そして、わたしが初めて戦いを挑んだ相手である青ぷに――『びくとる』が、わたしの姿を認めて進み出て……ぷるぷると身震いをして、明確に威嚇をした。
しかも、結構舐め腐った顔で笑っている……。
隣にいるディアンくんがわたしに声を掛ける。
「ユイカ。あいつ、ユイカのことを見下してる。『おまえなんて、いちげきだ!』って言っているみたいだぞ」
「……まあ、そうだよね。あんなに無様だったもんね」
冷静さを失って、派手に転倒したり。手汗がひどすぎて、槍がすっぽ抜けたり。この前の戦いは、ほんとうに散々だった。
「でも、昨日、あんなに頑張って特訓したんだもん。わたしは負けないからね」
「いいカオするようになったな、ユイカ。オレはユイカが勝つって信じてるからな!」
「ありがとう、ディアンくん……!」
ディアンくんに強めに背中をバシっと叩かれた。ありがとう、それで気合が入った。
目の前の青ぷに、『びくとる』……。
「ユイカ、気を付けろ。アガーテ姉さんから聞いた話だと、どうやらこの青ぷに、昨日『特訓』していたらしい。
……負けたくないのは相手も同じってことだな。油断するなよ!」
「はい、レントさん!」
びくとるが軽く飛び跳ねて身体をほぐしている。この身のこなしの軽さと弾力性、かなり脅威になりそう。
「ユイカ。あたしの見立てなら、ユイカが昨日の特訓の力をちゃんと引き出せれば勝てるはず。……頑張って!」
「ライザさん……! よし、絶対に負けられないっ!」
わたしは後方にいる3人に向けてうなずいて、決戦の砂浜の舞台に立つ。
なんてことない青ぷにと、おととい初めて槍を握ったばかりのわたし。
……絶対に負けられない戦いが、ここにある。
「行くよ、びくとる。勝負だ!」
わたしが槍を構えるや否や、びくとるはその柔軟な身体を弾ませて、ゴムまりのように体当たりを仕掛けてきた。
「この程度……『琥珀の軽槍』の素軽さなら、なんとでも!」
びくとるの体当たりに合わせて、わたしは槍を突き出す――が。
「なっ!?」
その突き出した槍をとんでもない柔らかさで避け、さらにその柄を足場にして、わたしの顔面目掛けて体当たり。
「ひゃぁっ!?」
「ユイカっ!!」
後方に吹っ飛ばされるわたし。ライザさんの声が聞こえた。
でも、大丈夫。わたしは鍛えた。
「……ふっ!」
「そうだ、その動きだ!」
レントさん直伝の受け身がさっそく役に立つ。すぐさま体勢を整えた。
おまけに槍も手放していない。
「わたしなんか、一撃じゃない、でしょ……っ!」
追撃に来たぷには油断していたのか、動きが直線的だ。
……これなら、大丈夫!
「甘いよっ!」
力を入れなくても、相手の勢いを利用すれば十分に威力は出る。ディアンくんの教えだ。
びくとるの体当たりに合わせ、的確に素早く突き出した槍は、見事真正面を捉えた。
「やるじゃないかユイカ! さすがはオレの弟子だぞ!」
勝手にディアンくんの弟子にされたけど……まあ、似たようなものかもしれないからいっか。
「油断するなユイカ! 今のは追い払っただけだ、次が来るぞ!」
「分かってますよ、レントさん!」
とはいえ、さっきの一撃は威力は出ていない。防御的にいなしただけといっても過言じゃない。
びくとるは再度起き上がり、複雑に左右に飛び跳ねてわたしを惑わそうとしてきた。
「な、なんだこの動き!? ほかのぷにじゃ見たことないぞ!?」
ディアンくんでさえ見慣れない動きらしい。だけど……。
「これがキミの特訓の成果なんだね、びくとる……でも!」
どうせ体当たりしたときに合わせて槍を突き出してくる、って思っているんでしょ。
カウンターしかできないって、思ってるんでしょ!
そんなわけ……ないじゃん!
「わたしの槍は――軽くて、鋭いんだからっ!!」
左右に幻惑させるびくとるの動きを中断するように、わたしは素早く位置を詰めて、渾身の突きを繰り出した。
やや狙いはズレたけど……アンバーの力が宿った琥珀の軽槍の斬れ味ならっ!!
「はぁあっ!!」
わたしは身体を回転させ、思いきり横に薙いだ!
手ごたえあり、ジャストミートっ……!
「どう、だ……っ!」
琥珀の軽槍のオレンジに光る刃先が、びくとるの身体の中心に思いきりクリーンヒットした。
大きく吹き飛ばされたびくとるは、目をぐるぐる回していた。
そこで、手紙をわたしたちに渡した大きな青ぷにが、わたしの前に立ちふさがり……つまり、戦闘不能、ということだった。
「か、勝った……わたしが、初めて……!」
さっきのびくとるの体当たりが強烈で、いまだに頬のあたりがひりひりする、けど。
「勝ちました! 勝ちましたよ、わたし!!」
3人の師匠たちの顔を見渡して、わたしは身体全部を使ってこの喜びを表現した。
掲げた槍の穂先にキラリと光るオレンジの輝きは……誇らしげに見えた。