「ユイカ……と言ったか」
「は、はいっ」
決闘が終わり、わたしはこの場所を取り仕切ってくれた人――アガーテさんに声を掛けられた。
鋭い目つきに、スキの無さそうな感じ……まさに強い女性、という言葉が似合う人だった。
「お前は……本当にまだ槍を持って3日程度しか経ってないのか?」
「そ、そうですけど……」
「そうなのか……。当然、荒削りにもほどがあるが……さっき対峙した青ぷにを倒すのには、正直驚いたぞ」
「本当ですか?」
「ああ。……だが、外に出ると本気で命を狙ってくる魔物もいる。この勝利におごらず、十分に気をつけることだ」
「分かりました。ありがとうございます」
そのやり取りを聞いていたライザさんとレントさんが、少しびっくりした表情でわたしに話しかけてくる。
「アガーテ姉さんをそこまで言わせるなんて、ユイカはやっぱりすごいよ!」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。オレが剣を持ったばかりのガキのころは、どれだけ叱られて、どれだけしごかれたか……まあ、剣が下手以外の原因もあったけどな」
「あはは……そうだねえ……」
聞けば、ライザさんとレントさん、あと、今は王都っていう場所にいるタオさんという幼馴染3人で、昔は島で有名なやんちゃな悪ガキとして名をはせていたそうだった。
そして、その悪ガキ3人組の面倒を厳しくも温かく見守っていたのが、アガーテさん、ということだ。
……アガーテさんは決しておばちゃんという年齢ではないんだけど、わたしの感覚としては……近所の子供を見守っている地域の有名な人、みたいな感じなのだろうか。
まあ、もっとも、そういう話もフィクションの中でしか見たことないんだけど。
「でも、わたしがこんなに短期間で戦えるようになったのは、みなさんの教え方がすごく上手かったからでもあります」
「いやいや、そんなことは――」
謙遜するライザさんの言葉を切って、わたしは続ける。
「レントさんとディアンくんは、今まで世界をたくさん冒険して、たくさんの経験を積んできたじゃないですか」
「まあな。ライザだって、オレたちと冒険してたんだぜ。というか、元々オレたちが冒険するきっかけってライザだったからな」
「オレだって、ライザ姉のレンキンジュツのカッコよさに憧れて、ついていきたいって思ったんだぞ!」
レントさん、ディアンくんがライザさんを見る。ライザさんは二人から視線を向けられて、ちょっとタジタジのようだ。
「……だと思いました。あまりその話は、聞いてなかったですけど」
「……まあ、ユイカには、わざわざ話す機会もなかったわけだし?」
それはともかく。
「その冒険のことは、いつか時間があるときにゆっくり聞かせてもらいたいとして……皆さんがたくさん、いろんなところを冒険して、戦った経験の一部が、わたしに注ぎ込まれているんです。
こんなに短期間で急成長できたのは、そんな皆さんに教えてもらったおかげなんです。だから……お礼を言わせてください。……今は、それしかできませんけど」
わたしは3人の師匠に向かって深々と頭を下げた。
「もう、ユイカったら。そんなにかしこまらなくてもいいの。あたしと一緒に色んな世界、見てみたいんでしょ?」
「それは……はい。ライザさんの役にも、立ちたくって」
「うんうん。ユイカ、ガンガンあたしたちを頼ってね。あたしだって、たくさんの人を頼って、今のあたしがあるんだから……。
そうした方が、もっといっぱい新しい景色、見られると思うよ。……あたしは、そうしてきたから」
「ライザさん……」
たくさんの人を頼って、今のあたしがある。
……わたしも、わたしなりに、たくさんの人を頼ってきて、今のわたしがいる。
昔のお父さん、昔のお母さん、学校の先生、クラスメイト。名前もわからないコンビニの店員さんだって、ある意味では頼っている。
自分の足で、異世界の地面を踏みしめて、槍を持って戦う、今のわたしが存在できているのは……目の前のライザさんたちだけでは、決してない。
「オレだって、ライザにはすごく助けられてきた。その代わり、この剣でライザを助けたこともある。……ユイカもその槍で、ライザを助けられるようになりな。応援してるぜ」
「レントさん……はい! 頑張ります!」
「ユイカ。世界はすごーく広くて、知らないことがいっぱいあるんだぞ! レントと旅をしてきたオレだからこそ、こんなことが言えるんだ。
だから、ユイカ。いつかこの世界を旅してみるといいぞ! もちろん、オレの故郷のフォウレにも来てみるといい。師匠としてのアドバイスだ!」
「旅……うん! それができるくらいになるまで、ちゃんと強くなってみせるよ!」
こうして、想定外の砂浜の決闘は、わたしの初めての勝利という形で幕を閉じた。
ぷにたちは散り散りになって普段の生息地に戻り、アガーテさんも島に戻って、砂浜はいつもの景色に戻った。
そして、レントさんとディアンくんは、今日をもって再び旅に出るという約束だ。
「『こういうのは縁だ』……って、ライザの錬金術の師匠だったアンペルさんって人が言ってたんだ。だから、多分また、どこかでユイカとは会うと思うぜ。
その時には強くなったユイカを見せてくれよな!」
縁、という言葉を握り締めて、わたしとライザさんは旅立つふたりを見送った。
遠くなっていくふたりの背中は、なぜか遠ざかるほどに大きくなっていくような錯覚すら覚えた。
「……すごいなあ、ふたりとも……」
「でしょ? ……さてと、あたしたちも戻りますか」
「はい、ライザさん!」
ひとまずは戦えるようになったわたし。
とりあえず、お金を稼ぐために依頼を受けよう……でも、さすがに今日は疲れたかな。
わたしとライザさんはアトリエに戻って、いろいろな話をしながらゆっくりと身体を休めた。