「助けてくれ、ライザ!」
翌日。旅人の道の砂浜で、慌てた様子の行商人さんが話しかけてきた。
息を切らした様子で、どうやら何かから逃げてきたように見える。
「どうしたの!? そんなに慌てて……」
「魔物に襲われて、荷物を置いたままなんとか逃げてきたんだ! 怪我はしていないが、商品が……!」
ライザさんはわたしのことを見た。
当然、わたしはうなずく。
「その商品を取り戻せばいいんだね! 了解、あたしたちに任せて!」
場所はさして遠くなかった。入口近くにある、花畑に囲まれた小さな池のある場所。
そこに、商人が置いていった商品と……大きな……イタ、チ?
茶色い体色に、青いラインが入っている。
「ユイカ……あれは、ブルーフィンって言うんだ。とても素早くて、力も強い強敵で……あたしたちが初めて島の外に出たときに、小妖精の森で出会って全滅しかけた魔物なんだ」
「そ、そんなに強い魔物なんですか?」
「今となってはそんなでもないけど、初めて会ったときには手も足も出なかったんだ」
「そうなんですか……でも、こいつを追い払わないといけないんですよね」
わたしは槍を握り締めた。
こちらに気付いたブルーフィンが、今にも襲い掛かろうとしている。
「ユイカ。あいつは素早いけど、そのかわりスタミナがない。向こうの攻撃を耐えれば、自然とこっちのターンになるはずだよ」
「分かりました、ライザさん……!」
「うん。ユイカ、頑張ろう。あたしも援護する!」
ブルーフィンがわたし目掛けて飛びかかってきた。素早い――が、昨日戦った青ぷに――びくとるよりかは、ちゃんと見れる!
「そこっ!」
わたしの十八番のカウンターが当たった! よろけたブルーフィン目掛けて、ライザさんが直接杖で殴りかかって、そのまま打ち上げる。
「ユイカ、追撃!」
「はいっ!」
空高く舞い上がったブルーフィン目掛け、わたしは槍を突き上げた。
しかし、ブルーフィンは空中で姿勢を巧みに変え、わたしの槍を避けた。
「あ、危ない!」
「っ……!」
ブルーフィンはわたし目掛け、急降下で攻撃してきた。
歯を食いしばって攻撃を耐え、わざと後ろに吹き飛んでダメージを和らげる。地面のお花畑もいいクッションになっていて、受け身も決まってだいぶ衝撃を軽減できた。
「ユイカ、大丈夫……うん、大丈夫そうだね!」
「はい、この程度……!」
「来るよ! 前見て!」
「もちろん!」
素早く体勢を立て直し、突進してくるブルーフィンの追撃を軽く横に薙いであしらった。
ブルーフィンの体勢が崩れたのを、ライザさんは見逃すはずがない。
「そこだぁっ!!」
わたしの槍よりも数倍も素早いと錯覚させるような動きで、ライザさんは杖を突き出して攻撃した。
ブルーフィンは後ろに大きく吹き飛ばされ、敵わないと感じたのか、とても素早い動きで逃げて行った。
「……ライザさん、わたしなんかよりも槍を使うのがうまい気がするんですけど」
「えへへ。まあ、伊達にたくさん冒険してませんし? ……さてと、ユイカ。一緒に商品を集めちゃおう」
「はい!」
ブルーフィンによって散らばった商品を拾い集めて、あとは行商人のもとに届ければ依頼達成。
初めての依頼は、なんてことない感じでスムーズに終わる……はず、だった。
「……あれ、急に天気が……?」
太陽が急に隠れ、地面に大きな影が落ちる。さっきまで雲のあまりない晴れた空だったのに、こんなに急に天気が変わるわけ……。
「ユ、ユイカっ! 逃げるよ! 商品はあと!!」
「え、ライザさん!?」
「早く!!」
鬼気迫った表情のライザさんが叫んだと同時に、わたしの身体は宙に浮いた。
「え……」
宙を舞い、上を向かされる。
そこには――色鮮やかな赤色のウロコをまとった、巨大なドラゴンがいた。
そして、わたしは……そのドラゴンの羽ばたきによって生まれた風に吹き飛ばされて、舞い上げられた――ということに、気が付いた。
「ユイカっ!!」
刹那、強烈な突風がわたしを地面に突き落とした。
「きゃぁああっ!!」
わたしは地面に勢いよく叩きつけられ、2回ほど身体が跳ねた。今までに経験したことのない激痛が全身を走る――!
反射的に受け身を取り、お花畑のクッションもあったが、意識と槍を手放さないので精一杯だった。
「っ……ユイカ! しっかりして!」
「ライザ……さん……っ」
「ごめん、あたしがもっと早く気づいていれば――とにかく、逃げるよ! あたしにつかまって!」
ライザさんが大きな傷を負ったわたしを背負って、逃げようとする。
とはいえ、いくらライザさんとはいえ、わたしを背負った状態では動きが遅くなる。
「っ――まずい」
周囲の温度がにわかに熱くなっていく。
後ろを振りむくと、その大きな口に燃え盛る炎を溜め、ドラゴンが今にも炎を吐こうとしている。
このままでは、逃げきれない――!
そう思った時。
まさに炎を溜めているドラゴンの口内に、どこからか飛んできた青白い光の矢が直撃した。
ドラゴンは大きくのけぞり、炎の溜めは中断された。
わたしは、矢が放たれた先を見るために、前を向いた。
そこには――いかにもお嬢様といった柔和な気品と、内面からあふれる勇敢さを両立させた、金髪の女性が弓を構えて立っていた。
「ライザ! 下がって!」
「クラウディア……!?」
「ここは私が引き受けるよ! ライザはその子と一緒に逃げて!」
「うん! ……任せたよ、クラウディア!」
クラウディア、と呼ばれた女性が、たった一人でドラゴンを引き受ける。
この人もどうやらライザさんの仲間らしい。ライザさんはクラウディアさんの実力を完全に信頼しきった様子だった。
「ユイカ……あと少し、頑張って!」
わたしは小さくうなずいて、逃げるライザさんの背中に必死でしがみつくことしかできなかった。