さあ、どうやって島を盛り上げよう?
竜に襲われて、全身にケガを負った翌日。
「ええっ!? もうそんなに動けるの!?」
「すごい回復力……」
ライザさんとクラウディアさん、ふたりの献身的な看病のおかげで、わたしはすっかり元気を取り戻した。
「はい! むしろ、まるで生まれ変わったみたいに身体が軽くって……! ふたりのおかげです、本当にありがとうございます!」
実際、昨日のわたしは幼稚園児並みのお世話を必要とする状態だった。
怪我でまともに食事すらとれなくて、ライザさんにあーんしてもらったり。
竜のことがフラッシュバックして怖くて寝られなかったから、ふたりの手を握って、冒険の話を聞かせてもらいながら寝かしつけてもらったり。
……15歳にもなってこんなことされるの、だいぶ恥ずかしいかも。でも、そのおかげで、たった一日で昨日の痛みは完全に消え失せた。
そして、クラウディアさんは商会の仕事のため、ここでいったん別れることになった。
一見大人しくて清楚なお嬢様……みたいな女性なんだけど、クラウディアさんは本当に見かけによらない。商会を率いる父から、この若さでこのあたりの地域をすべて任されるほどの才能にあふれたやり手の商売人で、バリバリのキャリアウーマン。それが、クラウディア・バレンツさんという人間だった。
昨日たくさん話したけど、まだまだ話し足りない。わたしたちを助けてくれた命の恩人でもある。……とっても名残惜しかった。
「ユイカさん! これからもライザをよろしくね!」
「はい、クラウディアさん!」
「……ふたりとも、なーんか引っかかるなー……」
こんな冗談みたいなやり取りができるくらいに仲良くなったから、本当に名残惜しすぎた。
「……さてと、ユイカ。身体が軽いなら、一回外の空気でも吸いに行こっか。この後のこと、考えなきゃだしね」
「この後のこと……クーケン島を盛り上げること、ですね」
「そう! 森を散歩しながら、一緒に考えてみようよ」
「はい!」
わたしは思わずライザさんの手を引いて外に飛び出した。
「わっ?!」
飛び出した後に、ライザさんの手を引いていたことに気が付いた。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「あはは、大丈夫だよ。本当に元気になったんだね、ユイカ!」
「そうなんです。元気が有り余っちゃって……ちょっと、自分でもびっくりするくらいに!」
わたしとライザさんは森の中を歩いた。
木々の隙間から差し込む朝日が、朝霧に反射してキラキラと舞う幻想的でさわやかな景色。
空気がおいしい。歩くことで血が巡り、頭がさえる感じがする。
「クーケン島を盛り上げる手段……んー、方法としてはいろいろありますよね。イベントを開催するとか、観光客を呼び込むとか、それとももっと別のアプローチをとるのか……」
とはいえ、わたしはそこまでクーケン島のことを知らない。今のクーケン島が抱えている問題がわからないから、何を目的にしてどういうことがしたいのかなんて、見えてくるはずもなかった。
そんなわたしを見かねてか、ライザさんがこういう提案を持ちかけてきた。
「ねえ、ユイカ。とりあえず、あたしの家に行ってみない?」
「え? ライザさんのご実家ですか……?」
「うん。あたしの家、農家なんだ。あたしの両親とお話してみたら、何か見えるものがあるかもしれないよ?」
「……ライザさんが、そう言うなら。でも、緊張するなぁ……」
「緊張しなくても大丈夫だよ、あたし以外には優しいから。……よし、決まり!」
「ライザさん以外って……あはは……」
村の片隅にあるライザさんの家。2階建ての立派な家で、周囲には広々とした麦畑が広がっている。
「結構立派な家なんですね、ライザさんのご実家」
「そ、そうかなぁ? ……あ、お父さんだ!」
ライザさんの家の前では、ライザさんのお父さんらしき人が穏やかに畑の様子を眺めていた。泥臭さはみじんも感じさせないどころか、むしろ一種のさわやかさみたいなものも感じる。
「おや、ライザじゃないか。おかえり。相変わらず元気そうじゃないか」
「ただいまお父さん! えへへ、見ての通り元気だよ」
そこに、家からドアが開き、一人の女性がやってくる。おそらく、ライザさんのお母さんだ。
「ライザ、おかえり! あんたはいっつも急に帰ってくるんだから……!」
「えへへ、ただいまお母さん! ……ユイカ、紹介するね。あたしのお父さんとお母さんだよ」
お父さんの名前はカール。お母さんの名前はミオと言った。いかにもいい人そうだ。
でも……わたしはだいぶ緊張していた。緊張しなくていいとは言われたけど、緊張するものは緊張する。
「は、はじめまして。ライザさんにお世話になっている、ユイカっていいます……!」
直立不動になってしまい、随分ぎこちない感じの自己紹介になってしまった……。
「あはは、ユイカ。そんなにガチガチにならなくても大丈夫だってば!」
ライザさんに肩をぽんと叩かれる。
「うちの両親、 見かけによらず? 優しくって、あったかいんだから!」
「ちょっとライザ、失礼なこと言わないの! ……ユイカさん、よく来てくれたね」
ライザさんのお母さん、ミオさんがわたしのことを見つめる。わたしがライザさんの妹のように見えるのだろうか、ずいぶん優しい目だった。
「あんた、ライザの新しいお友達かい? ふふ、この子に振り回されて大変じゃない?」
「お母さんこそ失礼なこと言わないの! もう……」
この母あってこの娘あり、なのかもしれない。
「母さん、挨拶が先だよ。……ユイカさん、娘がいつもお世話になっているね」
カールさんって、農家の人とは思えないほどにさわやかだ。声もすごくいい。
「そうだったわね。ユイカさん、改めてよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
太陽はいつの間にか高く昇っていて、夏の日差しがまぶしくわたしたちを照らしつけていた。
「……ところでユイカさん、お腹は空いていないかい? 今ちょうど、お昼の準備をしようと思っていたんだ」
いつの間にかお昼時になっていた。たしかにご飯にはちょうどいい時間だけれど……。
「で、でも、いきなりそんな、悪いですし……」
「遠慮しなくていいんだよ、ユイカ。お母さんの料理、すっごくおいしいんだから!」
ライザさんに背中を押される。そして、それに返事するように……わたしのお腹の音が鳴った。
「あはは! ユイカのお腹、正直だね!」
「ううう……ご、ごちそうになります……」