目が覚めると、見知らぬ誰かの家だった。
木がむき出しになった自然味あふれる内装。本棚に所狭しと押し込められた大量の本。ベッドに大きな絨毯、向こうの写真立てには……これは、この人の仲間、なのだろうか。装いがファンタジー世界のそれなのだけれども……。
そして、紫にあやしく光る暖炉のような何かの隣に、ひときわ目を引く大きな釜。
外からは森のざわめく音と、寄せては返す海の波音。
まるで、別世界のようだった。
そして、わたしの目の前には……ソファに座って眠りこけている、一人の若い女の人がいた。
涼し気なトップスに、赤いホットパンツ。それよりも……わたしでも分かるようなスタイルの良さ。ちょっと羨ましいと思ったけれど、いざ自分がこのスタイルを手に入れる想像をすると、否が応でも注目を集めそうで、それはそれで嫌だな、と思った。
羨ましいのには間違いないのだけれど。
ホットパンツの周りにはベルトにくくられたボトルと色のついた謎の液体がある。白い帽子に黒のうさ耳カチューシャっぽい飾り。花の形をした二対の金色の髪留め。よく見ると、頭頂部の編み込みが相当おしゃれだ。セットにかなり時間がかかるんだろうな……。
「……んん……あれ、あたし……寝ちゃってたんだ」
じろじろとちょっと気持ち悪く見つめていたのが伝わってしまったのだろうか。その女の人が目を覚まし、わたしのほうを見つめた。
どうしたらいいのかわからず、ちょっと気まずくて、わたしは無言で目をそらした。
「君の方が早く起きてたんだね。体調は大丈夫?」
そんなわたしの戸惑う様子に対し、女の人は一切気に留めなかった。
わたしの体調……全く問題がない。むしろ、ちょっと軽いくらいだ。
「体調……はい、不思議と大丈夫です。ところで、ここは……?」
わたしの疑問に、女の人がほほ笑みかける。
「ここは小妖精の森の中にある、秘密の隠れ家……あたしのアトリエなんだ。それで、向こうにあるのが、わたしの故郷のクーケン島だよ」
女の人が窓の外、海の向こうを指さした先に、確かに大きな島が見えた。
でも、わたしにとってまったく聞きなじみのない名前がたくさん……。
「あとりえ……? くーけん、島……?」
挙動不審に見えたのかもしれない。
でも、その女の人は、初対面のわたしに対して、まったく壁を感じさせないような感じで、語り掛ける。
「そっか。多分、異世界の人……なのかな?」
「異世界……?」
この人が言うには、わたしは小妖精の森、というこの家の近くにある森で、気を失って倒れていたらしい。家(アトリエというらしい)に連れ帰ってわたしの看病をしているうちに、女の人が逆に寝てしまって……そして、今に至る、という状況。
「何もかも初めて聞く場所、なのにあなたと話が通じてしまっている。……この部屋も、わたしから見れば奇妙なものばかりです。……本当に、異世界、なのかも」
「奇妙……そっか、奇妙に映るんだ。あたしにとってはなんてことない、当たり前の光景なんだけど……なんだか新鮮だね」
その女の人は、わたしのことをキラキラとした瞳で見つめた。
「あたしはライザリン・シュタウト。ライザって呼んでね」
その瞳は、まるで、好奇心に満ち溢れた小さな子供のようにも思えた。
初対面で正体不明なわたしに対して、まったく敵意とか、疑心とか、そんなものはない。
壁が、まるでない。そんなひとは初めてだ。
そして、まるで、運命の出会いなのかも……なんて、結構な自惚れをしてしまうくらいには、素敵な人だと思った。
「わたしはユイカ。中平唯花です。よろしくお願いします、ライザさん」
「うん! よろしく、ユイカ!」
ライザさんは、わたしの手を取って、ぎゅっと握手をした。
きれいなのに力強くて、わたしより一回り大きな手に包み込まれて……。ちょっと、どきっとした。
「なんだか、新しい冒険の予感がする……!」
ライザさんは窓の外、クーケン島と呼ばれていた島を眺めた。
空の青、海の青、そして石と緑の混じる不思議な島。
平凡未満だったわたしの人生を大きく変える、ライザさんとの大冒険の幕が、今ここに上がった。